第二十二話
翌日の午前八時。警視庁では田中冨喜子が投身自殺を図った事件の裏付け捜査が進められた。
捜査を担当する捜査一課三係の一室の机に現場から発見された遺書らしき文章が書かれた紙が置かれている。
その紙を手にした合田が唸る。
『私たちはスケープゴートに殺された。これは私なりの復讐。田中冨喜子』
そのように書かれた紙。先日の筆跡鑑定で文字は田中冨喜子の物ということが判明したが、合田にはその意味が分からない。
「私たち」
合田が呟くと大野と沖矢が当庁してきた。
「おはようございます。合田警部。何か捜査に進展はありましたか」
大野が聞くと合田が首を横に振る。
「昨日あの時間帯に地下道を通過した人物の供述は正しいということは裏付け捜査で分かった。地下道田中冨喜子に関しては全く進展していない。昨日田中冨喜子は自殺だと断定されてから何も新事実が判明していない。田中冨喜子は自殺として処理されるだろう。だが戸谷信助に関しては別だ。戸谷と新聞記者の北川律は付き合っているらしい」
「それは本当ですか」
「間違いない。メールや電話で戸谷と北川は連絡を取り合っていた。昨晩戸谷の携帯に北川からのメールが届いた。このことを戸谷本人に問い詰めたら認めた。ここからが本題だ。北川は戸谷に一昨日奇妙なメールを送っていることが分かった」
合田は大野たちに一枚の紙を渡す。それには北川が戸谷に送ったメールの文面が印刷されていた。
『明日午前十一時。新宿の地下道』
「このメールは削除されていた物。北条がメールを復元したら出て来た。犯行依頼のように見えないか」
「それは結果往来なのだよ。もしかしたらデートの待ち合わせ場所なのかもしれない」
「それは違う」
合田が沖矢の意見をバッサリと否定して、机の上に幾つもの紙を並べた。それには北川と戸谷のメールの文面が書いてある。
『明日の午前九時。暇だよね。だったら遊園地に行こう。駅の北口で待っているから』
『一週間後一緒にカラオケに行きたい。現地集合でね』
そのメールの文面と先程のメールの文面は明らかに違う。
「気になるだろう。なぜ一昨日送られたメールは簡易的な物だったのか。さらに言えば戸谷は北川から送信されたメールを一度も削除していない。一昨日のメール以外は。それも気になって戸谷に問い詰めたが彼は答えなかった。とりあえず木原と神津に頼んで北川本人にも話を聞きに行ってもらう」
合田の話に大野は不満そうな顔を浮かべる。
「大丈夫ですか。木原と神津はこの前北川律を怒らせて話を聞けなかったじゃないですか。あの二人に話を聞かせに行っても大丈夫なのでしょうか」
大野が心配そうに合田に尋ねると合田は笑ってみせた。
「大丈夫だ。あの二人なら何とかする。お前らには早速だが東京地方裁判所に行き田中冨喜子について聞いてこい。俺は五年前の事件の調書を改めて読む。一連の事件には五年前の殺人事件が関わっているようだからな」
その直後北条がノートパソコンを抱えて合田の前に姿を現す。それに加わるように木原と神津も捜査一課の部屋の顔を出し、北条の周りに集まる。
「合田警部。戸谷のノートパソコンを解析した結果驚愕の事実が判明しました。戸谷には余罪があるようですよ」
北条がノートパソコンを机の上に置くと木原と神津が捜査一課の部屋の顔を出し、北条の周りに集まる。