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スケープゴート  作者: 山本正純
推理編
21/36

第二十一話

 それから五分後警察庁の官房室長室のドアを一人の男がノックした。その男は白髪交じりな髪型に黒いスーツを着た男だった。

 その男の名前は警視庁の八嶋祐樹公安部長。八嶋が官房室長室のドアを開けると部屋に置かれた豪華なソファーに一人の髪の長い女が座っているのが見えた。

 その女と向かい合う形でオールバックの髪型をした高身長な男が座っている。

 

 八嶋が敬礼して髪が長い女の隣の席に座る。そして八嶋はソファーの前に置かれた机にボイスレコーダーを置いた。

「まさか浅野房栄公安調査庁長官までお呼びとは驚きましたよ。倉崎和仁官房室長」

 八嶋が隣の席に座る浅野房栄の顔を見ると彼と対面している倉崎和仁が腕を組んだ。

「こういう話は公安調査庁にもリークした方がいいと思ってな。近くで食事をしていた彼女を呼び出した。それで話というのは何かね」

 倉崎和仁が八嶋に尋ねると彼は机の上に置かれたボイスレコーダーのスイッチを押した。


『東京クラウドホテルの屋上から田中さんという人が転落死したというニュースを聞いたら突然頭が痛くなって。それで気を失ったら思い出したの』

『東京クラウドホテルは僕と君が初めてであった場所です。まさかそのことを思い出したのですか』

『違う。殺風景な部屋でラグエルっていう男性に拳銃を渡される。その男性は私のことをラジエルって呼んでいた。拳銃や暗殺計画というように物騒な事をラグエルは言っていました』

 

 そのボイスレコーダーから流れたのは大野と西村桜子という偽名で彼と暮らすラジエルの会話だった。

 八嶋は一度ボイスレコーダーのスイッチを切る。そして二人に話しかけた。

「この音声は大野警部補の自宅に仕掛けた盗聴器で拾った物です。お聞きのようにラジエルはラグエルについて言及しました。おそらく記憶が戻るのも時間の問題でしょう」

「なるほど。それで記憶が戻ったらどうするつもりかしら」

 浅野房栄が八嶋の顔を見ながら尋ねると八嶋が淡々と答える。

「簡単ですよ。逮捕して組織に関する情報を聞き出す。それで組織を潰す」

「簡単ではない。一筋縄ではいかぬ連中が多いからな。ラグエルは変装が得意で素顔も分からない。公安が未だにマークしているウリエルも厄介な相手だ。ラジエル一人を確保したところであの連中を全員逮捕するのは難しい。命を引換にしなければあいつらを捕まえられないだろう。仮に無傷で逮捕したとしても証拠がないから不起訴処分になる。それでも簡単といえるのか」

 倉崎和仁が睨み付けるように八嶋の顔を見ると八嶋の額から汗が落ちた。

「いずれにしろ彼女の記憶が戻れば組織の全容を掴める。それだけで満足よ。そんなことより岸野が獄中死したそうじゃない。そして裁判官の郷里忠吾が亡くなって田中冨喜子も投身自殺を図った」

 浅野が倉崎たちの顔を見ると倉崎は腕を組むのを止め、手を膝の上に置く。

「あの五年前の事件絡みか。田中が自殺したという事実に関する報告は受けていないが、ここからが面白くなる」

 倉崎が白い歯を見せながら不敵な笑みを浮かべる。こうして権力者たちの長い夜が始める。


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