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スケープゴート  作者: 山本正純
事件編
10/36

第十話 

 弁護士事務所内にある応接スペースの椅子に座った菅野の正面に木原と神津が座る。

 木原は早速郷里忠吾の写真を机の上に置き菅野に見せた。

「先程郷里忠吾の遺体が発見されました。犯人は郷里忠吾を恨んでいる人物だと思うのですが、誰か心当たりはありませんか。おそらくスケープゴートという言葉が犯人特定の鍵になると思うのですが」


 スケープゴートと聞き菅野は両手を叩く。

「スケープゴート。それが何なのかを知りたくて私を訪ねて来たということですね。どこまで知っていますか」

 菅野の問いかけに神津は郷里が関わった裁判のリストを机の上に置きながら答えた。

「裁判官の郷里忠吾と田中冨喜子が関わっている何かということしか知らない。このリストには郷里忠吾と田中冨喜子が裁判官として審判を下した事件が全て掲載されている。その事件の弁護士と検事は決まって菅野弁護士と瀬戸内検事だった。だから菅野弁護士なら何かを知っていると思って聞きに来たということだ」

 神津の説明を聞き菅野は納得する。

「なるほど。スケープゴートの語源はご存じですか。語源は旧約聖書。人々の罪を背負って野に放たれる山羊が由来となっています。これ以上のことは言えません。証拠がないことは言わないことにしているので」

「単純に考えて、このリストに記された裁判のいくつかは冤罪だったということか」

 神津がリストに手を触れながら菅野に尋ねる。だが菅野は頬を緩ませ意味深な笑みを見せる。

「それはどうでしょうか。これ以上のことはお話できません」

「それでは今日の午前十時から十一時頃どこで何をやっていましたか」

 木原からの質問を聞き菅野は腕を組む。

「アリバイですか。午前十時なら東都新聞社の新聞記者の北川律さんと会っていましたよ。五年前の殺人事件の被疑者が獄中死しましてね。その被疑者の遺族は東都新聞社に勤めています。残念ながら彼女と新聞社の近くにある公園で話した後のアリバイはありません。因みにその殺人事件の裁判はこのリストに載っているんですよ」

 菅野が机に設置されたペン立てから赤色のマーカーを取り出し、リストに掲載された問題の裁判の欄に横線を引く。

「ありがとうございます」

 木原が礼を述べると菅野は赤色のマーカーをペン立てに刺す。

「もういいですか。そろそろ次の裁判の依頼人がやってくる時間ですので」

 菅野の一言を聞き二人は立ち上がる。

「そうですか。それは失礼しました。それではお暇します」

 木原と神津が頭を下げ弁護士事務所のドアから出ていく。


 ドアが閉まった瞬間菅野のスマートフォンにメールが届く。そのメールを読んだ菅野が白い歯を見せると応接スペースの傍で一連のやり取りを聞いていた柳楽が菅野に尋ねる。

「なぜあそこまであの刑事たちをサポートするのですか。身内を売ることになるのに」

 その予想外な質問を聞き菅野は鼻で笑う。

「怪物退治をやらないか」

 菅野の口から出た意外な言葉を聞き、柳楽は首を傾げる。

「それはどういう意味ですか」

 柳楽が聞き返すと菅野は人差し指を立てる。

「警察庁の倉崎官房室長の指示ですから。秘密ですよ」

 

 その頃木原は弁護士事務所の駐車場に停車し自動車の中で合田警部に電話する。

「木原です。北川律の職場が分かりました。北川律は東都新聞社に勤めています。それと柳楽新太郎の職場は菅野弁護士事務所でした。柳楽本人に聴取したら東都デパートに手帳を買いに行ったと答えましたよ。五年前の被疑者は昨日獄中死したそうです」

『分かった。俺は戸谷の現住所に向かう。北川律の聴取は任せるからな』

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