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オーギュスト14世の優雅なる日常  作者: RYO太郎
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一章  キング・イズ・マーダー その④


「誰だ、マッサーロか?」

 

 僕が扉越しに声を投げると、一瞬よりは長い沈黙のあと押し殺した声が返ってきた。


「私にございます、陛下。エフェミアです」

 

 その声に、たちまち僕の心臓が烈しく脈を打った。嬉々としてすぐさま扉を開ける。

 

 ほどなく僕の前にあらわれたのは藍色の女官服を着た、白すぎるほど白い白皙の肌をした女性である。

 

 城勤めの女官の一人で、名をエフェミアという。年齢は僕より三つ上の二十三歳である。

 

 黒曜石を思わせる黒い瞳と濡れたような黒髪が印象的な女性で、ややあごがしゃくれているがかけねなしの美人である。

 

 ともかく男であれば、微笑みかけられたら一瞬で虜になってしまうことまちがいなしで、とくに年増で浪費家で酒と博打と若いイケメンに目がないセイウチみたいな身体をした女房にうんざりしている男――つまり僕のような男ならなおさらであろう。

 

 かくして彼女に惹かれた僕は国王という地位と権力を存分に利用し、彼女を自分の愛人にすることに成功したのである。


 ただし最終的に彼女を口説きおとした要因は、僕個人の男性としての魅力に尽きるということだけは強く言っておきたい。

 

 部屋に入ってきたエフェミアを抱き寄せて、僕は優しくキスをした。

 

 すると、恥ずかしそうにエフェミアは頬を赤く染めてうつむいた。


 この初々しさがたまらないのだ。


 酔っぱらったときか、ヒステリーを起こしたときくらいしか顔を赤くさせないエリーゼとは、とても同じ女性とは思えない。やはりあれはトドと同種の生き物なのだ。


「それで陛下、例の件はお済みになられましたので?」

 

 おずおずとした声で訊ねてきたエフェミアに、僕はうなずいてみせた。


「うん、そのことなんだが、じつはちょっと困ったことになってね」


「困ったこと、でございますか?」

 

 僕は無言でうなずくと、彼女の肩を抱きながらとりあえず寝所に連れていった。そして、カーテンを開けて寝台の中を見せる。

 

 全裸で寝台に横たわるエリーゼの死体を見て、エフェミアは一瞬、息をのみ、顔を青白くさせたが、見た目ほど動揺していないのはわかった。

 

 それも当然だろう。なにしろ王妃殺害計画は、僕とエフェミアの二人で考えたことなのだから。


 その理由はむろん、酒とギャンブルとイケメンに狂うビッチ王妃を殺して、その後、適当な時期をみはからってこの美しく清楚な女官と再婚するためだ。

 

 当初、この話を持ちかけたときエフェミアは、


「はやまった真似はいけません!」

 

 と、王妃の殺害を決意した僕をいさめようとしたが、


「君と一緒になるためだよ、エフェミア!」

 

 と、粘り強く説得を続けた結果、最後には同意し、協力してくれることになった。

 

 エフェミアにしてみればもちろん、王妃の座が魅力であったことはあるだろうが、それよりなにより僕個人の男性としての魅力が彼女を翻意させたということは、さらに強く付け加えておきたい。


「とりあえず計画の第一段階はこのとおり終わった。あとは今夜のうちに第二段階に着手しようと思っていたんだが……」


「私のほうは予定どおり、相手として選んだ近衛隊の騎士を、睡眠薬を使ってその者の寝所に寝かせておりますが」


「そうか……」

 

 端的に応じると、僕はまたしても深い思案の淵に沈んだ。

 

 王妃殺害計画の第二段階。


 それはエリーゼの近衛隊の中から誰か一人を適当に選び、エリーゼと「偽装心中」をはからせるというものだ。

 

 エリーゼが自らの近衛隊のイケメン騎士たちにイレこんでいることは、城の人間ならば誰もが知っていること。


 それを利用し、許されない愛に悩んだ王妃が愛人の騎士と心中をはかった、というのが僕たちが考えた殺害計画の全容である。

 

 ま、あのエリーゼが「許されない愛」のために心中するようなタマじゃないってことも知られているが、そこはそれ、死人に口なし。


 適当な遺書をでっちあげて、あとは二人の死体を発見させれば、心中を疑問に思う者がいたとしてもその声が大きくなることはないはずだ。

 

 エリーゼの心中相手に選ばれた騎士には気の毒だが、ここはひとつウォダー王家とオ・ワーリ王国の未来のため。そして、なにより国王たる僕の幸福のために犠牲になると思えば、名誉ある王国騎士として本望であろう。

 

 あとは悲劇の夫を演じ、王妃に裏切られたにもかかわらず、その死にうちひしがれる僕に国民の同情心が集まったところをみはかり、愛するエフェミアと再婚する――。

 

 うむ、どこからみても破綻のハの字もない完璧な王妃殺害&再婚計画――のはずだったのだが、ミノー国王夫妻の予期せぬ来訪によって、今、すべての計画が水の泡になる危機に直面していた。


 ま、もともと泡みたいなもんだろうと言われれば、返す言葉がないが。


「そうですか、ミノー国王が……」

 

 事情を知って、エフェミアも驚いたようである。


「すまない。もうすこし予が王妃の行動に目を光らせていれば、こんな事態になることもなかったと思う」


「いいえ、陛下の責任ではありませんわ。陛下に内密でそのようなお話を勝手にお決めになられた王妃様がいけないのです」


「ありがとう。そう言ってくれて嬉しいよ」


 僕はエフェミアを抱き寄せて優しくキスをした。


 ああ、この幸福感……。やはり僕はこの娘と結ばれるべきなのだ。


 なにしろキスひとつで、これほどの感動と安らぎをあたえてくれるのだから。

 

 エリーゼとのキスなど、たとえ儀式の席で手の甲にするだけでも僕にとっては感動するどころか鳥肌ものだったが。


「でも、本当にまずいことになった。ミノー国王夫妻が来たらどうにも言い訳ができない。いくらなんでも親を呼びよせて、しかも舞踏会まで計画していた人間がその前に愛人と心中しましたなんて話、誰が聞いたって怪しむよ」


「それでは、陛下はいかがされるおつもりなのですか?」


「それなんだよ。さっきから考えているんだが、どうにも思いつかない。そもそもこんな事態になるなんてぜんぜん想定していなかったからね」


「しかし、このままでは陛下も私も身の破滅ですわ」


「わかってる。でも……」


「お待ちください、私もなんとか考えてみます」

 

 そう言うとエフェミアは沈黙し、端麗にととのったあごに指をあてて考えこんだ。

 

 僕はその姿にすっかり感服していた。

 

 一見、ガラス細工のように繊細で弱々しく見える彼女が、身の破滅につながりかねない緊急事態に直面してもたいして狼狽もせず、それどころか、必死に打開策を見出そうとしている姿に。


 こんな強さが彼女にあったとはと、僕は心底から驚かずにはいられなかった。


「そうだわ!」

 

 ふいにエフェミアが声をあげた。なにやら思いついたらしい。


「なにか名案でも思いついたのかい?」


「はい、陛下。」

 

 というエフェミアの表情と声は、興奮をおさえきれないようだった。


「どんな方法?」


「陛下は黒狼団のことはお聞きになられましたか?」


「黒狼団? ああ、頭目のなんとやらいう盗賊が、わが国に逃げこんできたという話だろ」


「はい。その盗賊団の頭目を利用するというのはいかがでしょうか」


「利用する? どうやって?」


「このようにでございます」

 

 エフェミアは微笑を浮かべ、僕の耳元でささやいた。

 

 やがて話を終えたエフェミアが僕の顔を見つめた。


「いかがでございましょう?」


「なるほど。たしかにそれは名案だな。よし、そうしよう」

 

 エフェミアの提案に僕はすぐに同意し、さっそく行動にでた。

 

 まずは王妃の死体を、この寝所から別の場所に移動させなきゃならない。


 なにしろこのトド女には、当面の間「生きたまま」行方を消してもらわなければならないのだから。


「どこに隠されるのですか?」


「とりあえず奥のワイン倉庫に隠そう。あそこなら鍵を持っている予と王妃以外は入れないからね」

 

 ということで死体の隠し場所は決まったのだが、問題は、今やただの脂肪と肉の塊と化したエリーゼを、どうやって奥の倉庫にまで運ぶかだ。

 

 筋骨たくましい男なら抱えあげて運ぶこともできようが、肉体労働とは無縁な細身の僕がそんな真似をすりゃ、抱えあげた瞬間にも両肩の関節がはずれること疑いなしである。

 

 愛しいエフェミアの前でみっともないが、ここはやはり安全策をとってひきずっていくことにしよう。

 

 僕は寝台にあがるとエリーゼの足を両脇に抱え、その上をズルズルとひっぱった。

 

 それにしても重い、重すぎる。


 死体ということもあるのかもしれないが、すこし引きずるだけでも腰や足にずしりと負荷がかかる。

 

 おまけに足は、立派に育った大根だってここまで太くはならないだろうと思うくらい、とにかく太くてごつい。


 しかもこの肌触りは……うげっ、すね毛まで生えているじゃねぇか!? 

 

 まったく、これで一国の王妃だっていうんだからあきれるよ、ほんと。


 昨今、庶民の娘だってムダ毛の手入れくらいしているだろうに、このロイヤルビッチときたらスネ毛ボーボーなんだから……。

 

 やがて寝台の端にまでひっぱっていくと、エリーゼの身体はその重みで寝台からずり落ち、ドシンという異音があがった。


 床が陥没したんじゃないかと、一瞬、肝を冷やしたほどだ。


「陛下、音をたてないようにしてくださいまし。気づかれたら事でございます」


「う、うん。わかっている」

 

 僕はひとつ大きく息を吐くと、あらためてエリーゼのごつい両足を脇に抱え、今度は床の上をひきずっていった。

 

 寝台の場所からワイン倉庫まではたいした距離じゃないのだが、なにぶん力仕事とは無縁の人生を歩んできたので、僕の体力はすでに八割がた失われていた。

 

 腕は痺れるし、腰は痛い。肩は抜けそうだし、心臓は止まりそうだ。


 まったくこのトド女め、死んでからも亭主にこんなしんどい思いをさせるのだから、よほど性根が悪いと見える。

 

 それでも気力体力を総動員して、なんとか倉庫内にエリーゼの死体を運びこんだ僕は、しっかりと扉を施錠し、肩で息をしながらエフェミアのもとに戻った。

 

 寝台の前でエフェミアは、水の入ったコップを持って僕を待っていてくれた。

 

 こういう気配りができるところが彼女の魅力なのである。


「ご苦労にございました、陛下。これをどうぞ」


「ああ、ありがとう」

 

 僕はコップの水をごくごくと飲んだ。

 

 うん、美味い。やはりひと仕事終えた後の一杯は、たんなる水でも格別である。


「それにしても、陛下。あのワイン倉庫ですが、王妃様のご遺体が発見される恐れはないのでしょうか?」


「ああ、心配ないよ。倉庫の鍵は僕とエリーゼしか持っていないし、そもそもエリーゼの死体が隠されているなんてこと、誰も想像すらしないだろうしね」

 

 僕の言葉にエフェミアは得心したようにうなずき、


「それでは陛下。お疲れのところ申しわけございませんが……」


「うん、わかっている。すぐに脅迫状を書くとするよ」

 

 僕は空になったコップをエフェミアに渡すと、そのまま寝所の隅にある黒檀造りの机に向かい、抽斗の中から一枚の紙とペンを取り出した。


 そして、紙の上をすらすらとペンを走らせようとしたのだが、書き連ねるべき文章がとっさに思いつかない。


「ええと、どんな風に書けばいいのかな?」


「王妃様を(かどわ)かした相手は、凶悪残忍な盗賊団の頭目でございます。粗野で卑劣で、かつ汚い字体の脅迫文でなければ、手紙を見る者に不信と疑念を持たれることになりましょう」


「うむ、たしかに」

 

 エフェミアの指摘に僕は納得したが、粗野で卑劣な脅迫文と言われても、やはりどのように書いていいのかわからない。


 やっぱり僕のように育ちの良い特権階級の人間の頭は、たとえ想像でもその種の語彙は思いつかないようにできているのだ。

 

 いや、そんな呑気なことは言っていられないんだ。


 これから書き記す文章の出来しだいで、僕たちの今後の人生が変わってしまうのだから。

 

 とにかく僕は思いつくかぎりの語彙を文字にして、紙の上にペンを走らせた。


「これでどうだろう、エフェミア?」

 

 僕が書いた一文を、エフェミアはしばし黙して見ていたが、


「すこし表現が丁寧すぎるような感じもいたしますが、でも、よろしかろうと思います」


「そうか、よし」


 エフェミアに合格点をもらえばもう怖いものはない。さっそく次の行動に移ろう。


「よし、じゃあ、エフェミア。予定どおり、侍従官を一人連れてきてくれ」


「かしこまりました。それで、どの侍従官をお召しになられますか?」

 

 そう訊ねられた僕は、明快そのものといった口調で応えた。


「マッサーロだ」



    †        



「マッサーロにございます、陛下! お召しにより参上いたしました!」

 

 あいかわらずの張りきり声が、厚いオーク材造りの扉越しにとどろいてきた。

 

 元気なのはけっこうだが、すこしは時間帯を考えろと僕は怒鳴りつけたい衝動に駆られたが、おそらくはもう寝ていたはずのマッサーロをたたき起こして呼びつけたのはほかならぬ僕なので、ここはぐっと堪えることにした。

 

 扉の前まで行って僕はふと心づき、できるだけとり乱した態を装うために髪の毛をグシャグシャとかきまわした。そして、近くにあった鏡を覗きこむ。

 

 うむ、上出来だ。さて、ここからが演技のしどころだぞ。


「マッサーロか。よく来てくれた、さあ、入ってくれ」

 

 僕は悲痛な表情で(むろん演技だ)扉を開けて、マッサーロを寝所に入れた。


「それで陛下。緊急の用事とは何事でございましょうか。朝食のメニューでなにかご要望があるとか?」

 

 そんなことで呼ぶわけないだろ! 僕は心の中で怒鳴った。


「そんなことではない。とにかくこれを見てくれ」

 

 そう言って僕がマッサーロに手渡したのは、先ほど書きあげたばかりの脅迫状である。


「はっ、拝見させていただきます」

 

 マッサーロはうやうやしく手紙を手に取ると、文面に視線を落とした。


「ええと……『王妃の身は預かった。死なせたくなければ身代金を用意して待っていろ。黒狼団頭目ジアドス』ですか。なるほど……」

 

 マッサーロは重々しくうなずき、


「それで、これは何でございましょうか?」 

 

 予想外の反応に僕はよろめきそうになった。まったく、鈍い奴だな。


「見てのとおり、これは脅迫状だ」


「なるほど、たしかに脅迫しておりますな」

 

 と、マッサーロが淡々とうなずく。

 

 その軽い反応に僕はまたしてもよろめきそうになった。こいつ、ふざけているのか?


「わからないのか、王妃がさらわれたのだ。それも極悪非道な盗賊にだ!」


「そうですか、王妃様がさらわれたのでございますか。それは大変で……」

 

 言いさして口を閉じたマッサーロは、たちまちギョッと目を大きく開き、


「な、なんですと! 王妃様がさらわれたですと!?」

 

 ようやく事の重大さに気づいたらしく、マッサーロは両目と口で三つの(オー)の字を面上に形つくった。まったく、どこまで鈍いんだ、こいつは。


「し、しかし、陛下。い、いったい、いつ、どこで王妃様が……」


「それに関しては彼女が証言してくれる」

 

 そう僕が言うと、エフェミアが僕たちのもとに歩を進めてきた。


「私は女官のエフェミアと申します」

 

 というエフェミアの声と表情は、絵に描いたような憔悴の態である。

 

 彼女の演技力に僕はたいしたもんだと内心で感心した。僕も負けていられん。


「エフェミア。そなたが知っていることを彼に教えてやってくれ」


「はい、陛下。あれは今夜半過ぎのことでございます。王妃様が突然、夜の散策をされたいと申されましたので、ちょうど居合わせた私がお供をいたしました。夜中ではありましたが、なにぶん敷地内の散策にございましたので、近衛は呼ばずに女官一人でよいと」


「そ、それで……?」


「あれはちょうど北側の楼門の下を歩いていたときのことでございました。王妃様がのどが乾いたとおっしゃられましたので、私が水を取りに城の中に入り、そして戻ってくるとそこに王妃様の姿はなく、かわりに片方の靴と走り書きされた紙が一枚、おかれてありました。それがその脅迫状にございます」

 

 そこまで言って、エフェミアはすすり泣きだした。こいつは役者顔負けの演技だ!


「以上が、私の知っているすべての事情にございます――ああ、私がもうすこしはやく戻っていれば、こんなことにはならなかったかもしれません!」

 

 そう言うなり今度は、床にしゃがみこんで声をあげて泣きだした。

 

 これぞまさに迫真の熱演。いいぞ、エフェミア!  

 

 それまで血の気をなくした顔で沈黙を守っていたマッサーロが、ようやく口を開いた。


「そ、それで陛下はどうされるおつもりで? この脅迫状には身代金を用意しろと汚い字で書かれてありますが」

 

 汚い字で悪かったな。それはわざと汚く書いたんだよ!


「むろん用意する。愛する王妃のためなら金など惜しくはない!」

 

 僕は胸を張って言いきった。うむ、今の台詞はなかなかキマっていたぞ。

 

 しかし、いくら芝居とはいえ「愛する」という表現をあのトド女につけることに、僕はすさまじい抵抗感をおぼえたが、今はそんなこと言っていられない。

 

 せっかくエフェミアが迫真の演技で場を盛りあげて(?)くれているのだ。主演男優たる僕がそれに続かなくてどうする!


「ご立派にございます、陛下!」

 

 僕の言葉にマッサーロはいたく感動したらしく、両目を輝かせた。この単細胞め!


「そこでお前には、今すぐ憲兵隊の屯所に向かい、彼らに事情を説明してきてもらいたいのだ。予はこれから城に詰めるすべての人間を呼び集め、王妃誘拐を公表する」


「ははっ、かしこまりました!」

 

 一礼するなりマッサーロは、文字どおり寝所から飛びだしていった。それまで床で泣きくずれていたエフェミアがすっと立ちあがったのは、直後のことである。


「おみごとでしたわ、陛下」


「うん。君もなかなかのもんだったよ、エフェミア」

 

 これは偽らざる本心である。まさかエフェミアにこれほどの演技の才能があるとは、今宵にいたるまでまるで気づかなかった。

 

 今度の一件が無事終息したあかつきには、彼女を新人女優として王立歌劇団にでも推薦しようかしら? あれだけの演技力、女官職にとどめておくにはもったいない。 

 

 そのエフェミアが微笑する。


「はい。私たちの未来がかかっているのですから、どんなことでもいといませんわ」


 そうだ、僕たちの未来がかかっているのだ。そしてウォダー王家の名誉も。

 

 エリーゼなんぞに、あんなロイヤルビッチのためにすべてを失ってたまるか!

 

 僕はあらためて計画の成功を強く誓ったのだった。

 





   

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