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命の覚悟

そこはまさしく寒村。眼前まで領土を広げた敵に怯え、静かに貧しく生きている。

「懐かしい光景だな、どこもここも変わらんな」

「え、なにが?

「俺が育った村もこんな感じだった、まぁ、俺のいた村の方がもっと殺伐だったがな」

「こっちだよ、ほらあそこあの屋根の上、十字架があるのが僕たちの家だよ」

「、、、、お前たち教会に住んでいるのか?」

「そうじゃないよ、元教会だよ。神父さんとかはとっくの前に逃げてるよ。

安かったからミヒャエル兄ちゃんが買ったんだよ。あ、ノエルお姉ちゃん」

ロイズは真継に預けていた籠を奪い取るように受け取ると、急に走りだし、

心配そうな顔をし、二人を見つけると安心と不安が入り混じった表情の女性に近づいていく。

「あなた達!どこに行っていたの!どれだけ心配したと思ってるの」

「そんな事より見てよ!ヘレン姉ちゃんはどこ?ほら、こんなに育ってたんだ!ヘレン姉ちゃんが薬が足りないって言ってたけど、これだけあれば薬作れるのよね!」

「あなたたちこれをどこで?」

「決まってるじゃん、いつもの所だよ!」

『危険な所にも自分は行けるんだ。』ノエルは自慢げに語るアルノーの頬を叩き、

続いてロイズの頬も叩いた。二人は何で叩かれているのか理解できない。

「あなた達!あそこには、行っちゃだめだって言ったでしょ!いい、あそこはもう私たちが入っていい場所じゃないの!もし、ケレスの軍人さんに見つかったら何をされるのか!」

「そんなの怖くない!それにあそこは僕たちの国だ!あの場所だってあいつらが好きにしていい場所なんかじゃない!ノエル姉ちゃんもあそこはノエル姉ちゃんにとって思い出の場所だって大切な場所だって言ってたじゃないか!それなのにいいのかよ!」

「そういうこと言ってるんじゃないでしょ!私は、」

「もういい!ノエル姉ちゃんのいい訳なんて聞きたくない、ヘレン姉ちゃんはどこ!」

「あー、待て待て、まだ話が終わってないだろ。お前怒られてるんだぞ、分かってんのか」

真継はノエルを無視して家の入ろうとするアルノーの襟首を掴む

「分かってるよ!」

「行くなって言われてなんだろ?だったら行くな。もし行くなら、本当に死ぬ覚悟をしていけ。だいたいお前見つかってただろ」

「なんだよ兄ちゃんまで、そんなの最初からそんなものできてるに決まってるだろ!」

「そうか、だったらよかった。どうせ俺がいなかったら殺されてた命だ。

お前みたいなのがいるとここに暮らしているみんなに迷惑がかかる。

今後俺がいない時に周りに迷惑をかけなくていいように、ここで殺してやるよ」

真継は平坦な口調でそう言い流れるように禍々しく輝く黄金の刀を鞘から解放する。

「兄ちゃん、、、、」

それが冗談ではない、アルノーでも、そう、本能で感じられる威圧感を真継は持っている。

全く問題ではない、自分が子供であることも、人を殺すという事も、知り合いになったことも、彼の事に好意を抱いている事も、全て、全く、全然、彼には関係ない。

ただ殺す。当たり前のように、そうできる人間だ。

アルノーはそう理解できた時、4人の軍人に囲まれた時の様に抵抗する事も出来なかった。

こうして自分に殺意が向けられて分かる。万に一つも、どんな奇跡が起きようとも殺されることは変わるわけがない、逃げられるわけない。死ぬただ死ぬ。

もう何をしても無駄なのだ。真継が手にした刀を振り上げ、最高位に達し、後は振り下ろすだけの状態で、動きを止めた時、動けないアルノーの前に、真継の視界を遮るように人影が割って入る。曇天でも輝く黄金の刀の絶望の光をさえぎる。よく知った後姿。

「お願いします!何でもします!だからこの子たちだけは助けてください!」

それはノエルだ。ノエルも真継が今まで出会ったどんな強者よりも強く。

どんな危険な人間よりも、危険であることも、

狂気を正気だとしているような真継の恐ろしさも、アルノー同様に理解できていた。

だから、最初から自分が助かるとは欠片も思っていない。

でも、それでも、彼女は動けた。恐怖で動けない選択肢もできたであろう。

何の躊躇いもなく真継はアルノーを殺せるだが、同時に大して殺す理由もない。

だからここでアルノーを見捨てれば彼女は助かるそう言う確信はあった。

でも、彼女は勇気を振り絞り、アルノーを庇った。

全身が勝手に震え、柄にもなく、恐怖で涙が出てきそうだ、それでも、迷いも後悔もない。

いつも一生懸命で声の大きなノエルだったが、ここまで必死な声で、何度も何度も、懇願する彼女をアルノーは見た事がない。

「ノエル姉ちゃん!どいて、兄ちゃん。ノエル姉ちゃんは関係ないだから、、」

「関係ない?お前の身内だろ。だったら関係者だ。むしろ、俺にしてみれば関係あるか関係ないかなんてそっちの事情が関係ない。俺の眼前で俺の邪魔をしたそれで十分だ」

振り上げられた刀が振り下ろされる。そう思ったが、真継はゆっくりと刀を鞘に納める。

「分かったか?もう、こんな心配かけようなんて思うな。

お前たちにはここまでお前たちを心配してくれる人がいる。

そんな人の思いを無視して、犠牲出来る程、人間腐ってはないだろ」

「ごめんなさい、ごめんなさい」

アルノーは泣きながら何度もノエルと真継に謝った。


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