街道にて①
真継は3週間前からラディア山脈伝いに歩いてきていた。
本来ラディア山脈は非常に険しい連峰で、人が歩いてこれるものではないが、人里に出るたびに問題を起こしていた真継は仕方なしに、このルートでフロッカスを目指していた。
フロッカスは本来トラブルがなければ、真継が船でたどり着く予定だった国。
予定より5か月遅れての元フロッカスの国境近郊への到着だ。
このまま気にせず、目的地に向かう事も考えられるがおそらく地元の子供たちだろう。
真継は他に道を聞く相手もいないし、子供たちが逃げた方に行けば人がいると思い、手に二人が忘れていった籠を持ち追いかける。
全力で走っていけばすぐに追いつけるが、見かけで化け物扱いされているのに、木々をなぎ倒し、獣のよりもはやい速度で追いかけるような事をすれば、話どころではないと、のんびり二人の後を追って行った。
そして街道に出て500mもしない場所で軍人に捕まった二人の姿を目撃する。
その身の紋章こそケレス帝国のものであるが、彼らはケレスの人間ではない。
ケレスは直接自ら手を下すことはせず、かつての同盟国であるフロッカスを使い、アラビスへの侵攻を行っていた。
そして子供たちを捕まえた彼らもまた元フロッカスの軍人だ。
「離せ、離せよ」
「暴れるなよ。お前達アラビスのガキ共だろう、こんな所で何をしている?
子供と言えど、不法入国を見逃すわけにはいかないな」
「違う!ここは元々俺たちの土地だ!」
「ほう、」
武器を持った軍人に囲まれながらも彼らに啖呵を切ったアルノーに真継は感心する。
「そ、そうだ!ここは僕たちがずっと大切にしてきた場所だ!
力に屈してあなた達みたいに諦めていい場所でもない!」
普段おとなしいロイズもまた、アルノーに同調するかのように勇気を振り絞る。
「このガキが!俺たちがどんな思いで、、、人の気も知らずに!!!それにここは既にお前らの国じゃないんだよ!ここは俺たちの国なんだよ!!」
侮辱された事を軍人が ロイズに向けて拳を上げると、アルノーが素早く、他の軍人の鞘を奪い男の股の間を思いっきりかち上げ、悶絶させる。
「ロイズに手を出すな!!俺が相手だ!!」
「ははは、よく言ったなチビちゃん。自分より大きな敵に友を守るため、国を守るために見事だ。気に入ったぞ。最近ここで国取があったのか?」
「誰だ貴様!」
突然口を挟みにあらわれた真継に噛み付くが、その見慣れぬ服装、そしてその姿に驚く。
「その反応、子たちと同じだな。この格好も髪も異国の人間だからだ。そう驚くな」
「な、何者だ?」
「俺は黒漆真継。鬼退治に祖国を離れここまでやってきた。訳あって陸路でここまでやってきた。まぁ、ここであったのも何かの縁だ。
その子らは別に何もしていない。この薬草を取りに来ただけだ。どうだ穏便に見逃す方がお前らの良心も傷つかんで済むぞ。
それに子供に向って人の気も知らずになどと恥ずかしげもなく、子供に大人都合を理解しろだとは酷な話だ」
「馬鹿を言うな!俺たちは選ばれたケレス名誉市民、ケレスに仇なす者はたとえ何人たりとも許すわけにはいかん、祖国は失われても俺たちは軍人だ。軍規に従うのみだ」
「軍規に従う?嘘をつけ、お前ら、アルコールと紫煙の匂いがしている。それにそっちの男、わずかだが、香水の匂いがするそれも女の使う香水だ。昨晩就いた匂いでもあるまい。
お前らの国の軍人の規律は大したものだな。
俺の国では物見中にかような事をすればすぐに打ち首だぞ。
、、、、、そうか、だが、不穏分子を許すわけにはいかないか、だったら」
真継は一考した後背中に背負った鎧箱を地面に下す。ゆっくり下したにもかかわらず、箱は地面にめり込む。そして黄金の下駄も飛ばすように脱ぎ捨てると、それもまた地面にめり込む。
「あー、明日は雨だわ、、、、さて、俺はお前らの言うケレスの王を狩りに来た不穏分子だ。どうする?軍規に従うなら、まずは俺を何とかすべきじゃないのか」
真継は軍人相手に、着物以外身に着けず、素手で手招きする。