お別れ
機人を覆う光が消えていく異形の姿が失われ、壊れかけの機人の姿が戻ってくる。
「真継様!!」
機人の停止を確認するとあやめが駆け寄ってくる。
「あやめ、やったぞ!!」
真継は感極まってあやめに抱き着く。
予想外の出来事にあやめはまさしく天にも昇る気持ちだ。
何とか平静を取り戻したあやめは機能停止した機人に近づく。その時だ、不意に先ほどの衝撃で壊れたのか、胴の中心部が開く。そこはどのような形であれ、ユーリエがいる場所。
「!!!」
あやめは絶句する。そこは何もない。空っぽのユニット部分。
この機人には誰も乗っていないなのにこの機体には確実にユーリエを感じていた。
だが、機体に触れる事であやめは理解した
ユーリエはこの機体と完全に同化してしまった。
能力を暴走させ、自分の姿をも失った。
「あ、アヤ、メ」
「あやめ!」
完全に機能ていしたはずの機人が突然動きだし、残った手があやめに迫る。
「大丈夫です。真継様、これは私の知っているユーリエ君です」
あやめはその金属の指を取り、自分の頬にあてる。
「馬鹿な人、こんなになってまで、私を求めて」
「ア、ヤ、メ、アヤメ、あやめ」
泣いているかのように聞こえる壊れかけの機械の声、
「人の姿を無くして、心も失って、それで、最後に残ったあなたはそれなのね。
もっと違う出逢いをしていたら、あなたの願う私に、なれていたかもしれないわ。
でも、あの時私の手を握ってくれたのはあなたじゃない。
こんな気持ちは初めてよ。真継様以外の人の気持ちが分かるなんて、
もういたいのもつらいのもいやよね。
本当は戦いたくなんてないのよね、
だからもう殺してあげる。
安心して、あの子たちの面倒くらい私見てあげるから、
先に行って待っていてもう何も怖い事はないからね。
ごめんなさい。私はこういう女なの」
そういって影蜂で何もないはずの空間をまるで何かが見えているように、空を刺す。
だが、それで痛みも余韻もなく、ユーリエという存在は完全に潰えた。
実際にこの機体にウイルスが打ち込まれたわけでもないのに、それで、この機体に残っていたユーリエの気配が完全に消え去った。
あやめは真継に見えないように誤魔化しながら何度もごめんなさいと繰り返し、涙を流した。真継の事以外で涙を流すなんて経験は始めてだ。
ユーリエの力を通じてつながった心、ユーリエは最後まで、自分の事を恨まず、最後まで自分の事を許してくれた。そして笑っていた。
真継と自分だけしかいないと思っていた世界。紛い物だと思っていたユーリエへの思い
思われることの意味。それを全てを失って後悔という形で初めて彼女は理解した。




