ある日森の中、少年は悪魔に出会う
今から20年前。
人の踏み入れてはならない西の果ての海の水平線に突然大きな島が現れた。
自らケレス帝国を称する彼らは、角の生えた10mに迫る巨大な黒い悪魔を従え、空を渡る船で海を渡り圧倒的な力を持って、瞬く間にその支配の範囲を広げていった。
今となってはかつての西のトルティア帝国も、東の宵国もケレスの支配下におかれ
北のヴィエティア連邦もその軍事力と地の利を生かし善戦しているが、支配の範囲を広げたケレス影響下の国家に周囲を囲まれる形となり、戦力を分散せざる得ない状況となっている。
そんな中、ケレス帝国を対岸に構えるカラジウム地域にある小国アラビス王国は未だなお、ケレスに抵抗を続け、自治権を維持していた。
しかし、半年前に同盟国である隣国フロックス公国がケレスに降伏、
さらには1か月前には賢王ヴィエト=アラビスが死亡。
幼い一人娘のアミュネット=アラビスがこの国の王位を継ぐが、その隙を突かれ徐々にではあるが、ケレスに領土を奪われアラビスの消失の日も近いと考えられていた。
そしてここ、ラディア街道は、ラディア山脈を貫く街道で、西部ラディア街道はフロックスが、そして1か月前まではこの東部ラディア街道はアラビスが管理を行っていた。
ラディア山脈は険しい山々からなる天の頂という異名を持つが、山脈の裾野には多くの薬草が育ち、その麓は放牧にも適した、多くの恵みをもたらしてくれる山でもある。
そしてこの山脈の間を縫うように作られたなだらかで情景豊かなラディア街道を両国の商人たちが、安全かつ自由に行き来する事で両国に様々な利益をもたらしていた。
両国をつなぐ街道はここだけではなく、両国の首都と王都からも適度に距離が離れているが、この街道の景色目的で、日程に余裕のある商人や旅人には人気のある街道であった。
しかしこの街道も、ケレスの侵略によりアラビスの所有権は奪われ、今ではケレスの支配下に置かれ、完全に封鎖されていた。
元フロッカスの港に運び入れられる異国の交易品の加工、作物の流通を主産業として発展してきたアラビスであったが、フロッカスの消滅によりこのラディア街道を始め
各国境を閉鎖され、物流の流れを止められた事もまたアラビスの末が長くない大きな要因ともなっていた。元より陸地の国々は遥か昔より、仲は良好とはいえず、フロッカス陥落はるか以前よりケレスの支配下となってしまっている。四方をケレスに囲まれ、領地の少ないアラビスにとって、この物流の停止はまさに死活問題だった。
そんな状況下であるアラビスから、ケレスの監視の目を盗み、街道を通り抜け、二人の少年が通り抜けラディア山脈の麓で、薬草を摘んでいた。
二人とも、すでにここがケレスの支配下であり、見つかれば無事では済まない事は理解していたが、彼らには危険を冒すだけの理由があった。
この険しいラディア山脈を獣とここを熟知した国境警備の兵士以外で越えてくることができないというのが常識であり、街道沿い以外を警戒する者はまずいない。
故に、二人は街道から離れた、慣れ親しんだこの場所で気も緩んで、雑談を始めていた。
「なぁ、知っているかロイズ。黄金郷の話」
「黄金郷なにそれ?」
薬草を摘み終え、日が傾き警備が緩くなるを待っている間に、することがなくなったアルノーが手に入れたばかりの知識を披露したくて、唐突に話を切り出した。
「全部が金でできた国の話さ、昨日の夜、ミヒャエル兄ちゃんの部屋にあった「極東異聞録」って本に書いてあったんだけどさ。ずっと東、こことは逆で東側に海が切れている一番端にあるジパングっていう国の話だよ。
そこにあるミヤコていう町はさ、建物は全部金でできていて、黄金でできたの救世主や聖母様の人間より大きな像があるんだって」
「そんなのどうせ作り話だよ、いいかアルノー金は貴重なんだ。そここそこの石くらいの金を見つけただけでも、僕たちはこんなことしなくて、皆が一生楽して暮らせるだけの価値があるんだ」
「作り場話じゃないよ。だって作者のマリオ=ポールは政府公認の調査船団長なんだぜ」
「それじゃ、そのマリオって人はその黄金をもって帰ってきたの」
「それがさ、その島国はさ、ニンジャって言うすごく強い騎士がカタナソードを持ってて、それで邪魔するんだって!」
「何言ってんだよ。調査船団って言ったらエリート軍が同行するはずだよ。
彼らはあのケレスの黒い悪魔ともやりあえるんだよ。彼らがいて敵わないわけないだろ」
「だからだよ!その国のニンジャは悪魔にも勝つんだって!」
「なんだよそれ、そんなのあるわけ、、、、」
その時だ二人が草むらから聞こえる音に反応する。
おそらく獣の類だ。アルノーは持ってきたお手製の木の剣を構える。
「そりゃ、お前らの神様じゃなくて仏と菩薩の事だ。あれは金箔張っただけで中は銅だ。
それにな、刀を持ってるのは武士だ。忍者は持っている場合でも隠している」
「だ、誰だ?」
「あー心配するな。ただの迷子だ。俺はその極東のジパングから鬼ヶ島、、こっちだとケレス大陸だったかを目指してきたんだが、この山で迷ってな降りてきたはいいがフロッカスに行くにはどう行けばいいか分からんくてな?ん、どうした」
2人は草むらから出てきた黒い上着に金の刺繍。それに金の板状の履物に腰には金の剣。
そして何より、背中には大きな金の棺桶に金のグローブと金の靴がつるされている。
さらには髪も目も黒い。まるで悪魔そのものな雰囲気を醸し出している。
「あ、悪魔!」
「どこだ!、、、って鬼じゃなくて俺かよ。あー、人に会うの久しぶりだから、忘れていた。
いいか、この髪も目も自前だ。人種が違うだけだ。だいたいな、知らない人に、、、っていない、、、、せっかく集めた草も忘れて。これは薬草の類か?よく分からんが、、、」
アルノーとロイズは危険を感じ、全力で真継から逃げ出す。
逃げる事に必死過ぎて二人は今の時間、街道に出る危険性を忘れてしまっていた。