教会にて⑥
一方残されたミヒャエルはサスケと一緒に、軍より拝借してきた紅茶で大人な雰囲気で、食後の余韻を楽しんでいる。
「そういえば、聞きたかったんだが、あやめさんはどういう人なんだ?
なんだかいまいちつかみどころがないというか、接し方を決めかねていてね」
「別にミヒャエルが好きなように接すればいいよ。どっちにしろ、彼女は印象の良し悪しを感じないから。あやめがどういう人間か、
簡単に言えば、真継が世界の全てでその他は背景に過ぎない、そういう子だよ」
「背景って分からない表現の仕方だな。興味がないっていう事かい」
「そうだな、それでいいと思うよ、それを今考えているよりも数百倍タチを悪くした感じ。
前にもいったと思うけど僕たちの国は百年以上もずっと戦争をしている国だった。
殺し殺され、兄弟も親も子も何であれ、すぐに敵になり殺さなければ殺されるそういう世界だった。まぁ、魔王が天下を手中に収めてからは良し悪しはともかく、恐怖の支配の元のある程度秩序があったけどね。
とは言え、敵対すれば一族郎党もれなく殺す世の中の理は変わらなかった。
あやめも瑠璃姫同様そんな中で真継に助けられた。
瑠璃姫は人を愛し、彼に救いを求めず、自分の意思で前に進むことを選んだ。
でもあやめは彼を神仏の如きに心酔し、彼だけが彼女の正義で、彼女の中では絶対的存在なんだ。彼が死ねと言えば彼女は喜んで死ぬし、
もし、真継がそうすれば喜ぶと言えば、彼女は何のためらいもなく、今の今まであれだけ大事にしていたあの子達の命だって奪える。
彼女の世界は真継とそれ以外でしかなく、僕だって、真継がいらないと言えば、すぐにだって僕を殺そうとするよ。彼女の望む理想は、自分と真継しかいない世界さ。
それどころか、真継に殺されるのなら、彼女は本望だよ」
「……」
「そんな彼女を僕は真継から助けだしたいって思ってるんだ。
真継を殺すのは俺だ。真継を殺して俺が真継になり変わる。あやめは俺のものだ」
ミヒャエルは、真継とは違う狂気をサスケに感じていた。
唯一まともだと思ったこの男もまた、狂っている。
どうして殺せば代わりに好きになってくれると思っているのか、
いや、それ以前にあんなに仲がよさそうなのに本気で殺せるなんて言えるのか
「サスケ、君に聞きたい。君はどうしてそんなに簡単に人が殺せるんだ」
「必要があるから、それだけだよ。僕は真継じゃない。余裕なんてない、今日勝てた相手に明日勝てるわけじゃない、必要があれば殺すし、必要があれば生かす。
死は特別なものじゃない。誰にでも、いつでも当たり前にある物だ。死が特別なんじゃない、生が特別なんだ。それが僕たちの国の考え方。いや、当たり前の真理。
人は動物じゃない、食べる以外にも殺せる。同族であれ何であれだ。
動物は食べる以外では積極的に殺したりはしない、子供や縄張りが守れればそれでいい。
でも人は恨みを持つ。人は知恵を持つ、故に殺さなければいけない。そういう事だ。
君は軍師ではないと言ったが、この国の命を左右する立場にある人間だ。
その命を守るために殺す覚悟くらいしておけよ。そうしないと殺されるぞ」
「心配いらないよ。ケレスには交渉が通じないという事は嫌というほど理解している。
明日からの戦い一切の加減もなしだよ」
「それでいい。君にも守りたいものがあるんだろう、だったら迷うな躊躇うな、だ」
翌朝早く、4人はフロッカス、アラビス連合軍に参戦するため、皆に見送られた。
「はいこれ、」
「何これ?」
「無事に帰ってきますようにってアミュレット。
はい、これが真継さんの分と、これがサスケさんと、と、、、、これがあやめさんの分」
「こんなものいらないよ。こんなものなくても戻ってくるし、」
「私たちの分も」
「当たり前だよ、、それに文句言わないの、何もできないけど、こういう事で私は何かしてあげられた気になるんだから、」
「真継、素直に受け取っておきなよ。ありがとノエルさん」
「本当はタリスマンも作ろうと思ったんだけど間に合わなくて」
「十分だよ。僕たちは必ず戻ってくる。
心配しないで、今の件が落ち着いたら、もう少しここにいれるようにするから、」
「気を付けて、、、皆さん!ミヒャエルの事をお願いいたします」
ノエルに合わせ、ヘレンや子供たちが頭を下げる。
「あぁ、心配するな」
「ま、できる限りのことはするよ」
「こう言う時は任せておけっていうもんでしょ、つまらない男ね」
「それじゃ行ってきます」




