ケレスの影①
真継が教会へ向かう中、抵抗軍と合流したミヒャエルたちは大軍を率い、残党狩りを行いながら、フロッカス首都に移動していた。
慌てることなく、着実に、その間に逃げる者を逃がし、かつ余裕を見せ国民を安心させる。その甲斐あってか、半日前までケレスだったこの首都は最大限の喝采をもって彼らを迎え入れられた。
すでに首都にはユーリエの姿はなく、街に放置され壊された機人が横たわっている。
「すごいな、この国は、真継なしで、これだけ機人の撃退に成功するなんて」
「まぁ、その為の道具は渡してたからね」
サスケがいつの間にかミヒャエルの背後に現れ、そのままフロッカス公国の議事堂に入場する。議事堂にも2機人が横たわっている。
動かない機人を前に抵抗軍は記念にとポーズ取ったりふざけたり、今までさんざん苦しめた。機人がこうも無残に、なればすでに恐怖感じない。
そんな中だ。調子に乗った一人が、機人を開くことに成功した。
元々、コンピューターウイルスでロックが外れ人のちからでもそれは可能ではあった。
「おい、来てみろ、こいつ、腹が割れたぞ!」
「よせ!それには近寄るな!」
ガラにもなく、サスケが叫ぶが時すでに遅し、彼らはそれを目撃した。
「バレス、マスターロイヤルガード、」
そこにいたのはこの国で、公王を守護していたロイヤルガードその中でも歴代の中で最も礼を重んじ誇り高いとされたバレスが、見るも無残な姿で機械に繋がれている。
最初のバレスを皮切りにあちらこちらに墜落した機人が暴かれていった。
その多くが機人と繋げられた事により、影蜂の毒により死亡していたが、辛うじて生き延びた者も、既に自分が誰か、自分が人間かすら、分からなくなっていた。
サスケはそうして生き残った彼らを機械のように正確に手早く殺していった。
なぜならサスケはもう彼らが戻れない事を知っている。
時間がたてばたつほど、この恐怖は伝播する。この狂気が広がっていく。
「どういう事だサスケ!これはどういう事なんだ説明しろ」
その日夜遅く、町が寝静まった頃、
全ての機人の停止を確認したサスケに、ミヒャエルが問い詰める
「どうもこうもない、見たままだよ」
「それを説明しろと言っているんだ!!」
「……まずは落ち着いて、俺にキレたところで何にもならないよ。
君がそんなんじゃ、教える事もまともに出来はしない。……よし、それじゃ、講義を始めよう。ケレスが使う機人には大きく分けて三種類存在している。
一つが、ケレス人が直接乗り込む搭乗型。これはもっとも台数が少ない反面性能が高く、
基本的言葉を話しているものは全てこれだと思ってもらっていい。
たぶん君が見ている殆どはこのタイプだ。そして次に遠隔操作型、」
「遠隔操作?」
「まぁ、分かりやすく言うと遠くから操っているタイプ。ただこれは距離の限界があるし、どうしても状況を把握しずらく、主に偵察タイプや物量が必要な場合に使われる。これは場所によってはかなり多いけど、この国ではほとんど見かけていない。
おそらくここが地理的に遠隔の命令が届きにくいんだと思う。
そして最後が、コンピューター制御型。コンピューターというのはケレスの技術で
機械というものが人の代わりに計算したり、人工知能が自分で考え判断したりする」
「?」
「まぁ、心はないけど、物が自分で勝手に動く、とでも思ってくれればいいよ。
ここらへんの伝承で言うとゴーレムを想像してもらえればいい。
死というリスクなしで完全に壊れるまで動く機人。壊れても新しい作り同じプログラムを組めばいい。とはいえこれにも問題がある。自分で勝手に動くといっても、あくまで状況から判断し、あらかじめ決められた選択肢から適切な行動を選択する。
だから突発的な事態に弱く、その弱点を見きられてしまえば一網打尽にできる。
その結果、ケレスが作り出したのがこのコンピューター制御型に僕たち人間をパーツとして取り込んだ生体ユニット型だ。
僕たち人間の中で、高い戦闘技術を持つ者を捕縛し、説得や、人質による服従なんて面倒なことはしない、薬物や発狂するレベルの洗脳で心を壊し、機械に直接つなぐ、次第に感覚を無くし、機械の命令を補助するだけの存在になる。
そうなってしまえば元に戻る事はないし、もし、機人から外そうものならその時点で彼らは死ぬ。あぁやって外見はまだ人の形はしているけど、体の中も頭以外が機械、命が維持できるのは機人があってこそ、だから見るなと言ったんですよ」
「なんであんなことを!」
「簡単な事ですよ。そうする事で戦闘能力が上がり、効率的に作戦遂行もでき、基礎プログラムも随時更新され共有化される。要はそっちの方が都合がいいから、それだけです」
「それだけって、」
「ケレスにとって僕たちは自分たちと同類とは思っていない。全員がそうじゃないなんて甘い事考えるな。そういったのは元ケレスの人間さ。
強い人間はそのまま優秀な兵士として利用できる。本当にそれだけです」
「だが、それならなんで、なんであんな兵士でもない女性まで!!」
これがミヒャエルをここまで激昂させる理由だ。