馬車にて
一方真継はすぐさまミヒャエルの用意した馬車に乗り、ヘレンの待つ教会へと搬送されていた。
その道中、あやめの悲痛な叫びが響き続けるが、途中、平原の中間地点で駆けつけた軍医による治療を終え、
無事を保証されるとやっと落ち着きを取り戻した。
パニック状態で髪も乱れ、涙と鼻水でぐちゃぐちゃだったあやめは馬車の端で身なりを整える。
その後ろ姿をやることがなく横になったままの真継は、ジッと見つめる。
「ところであやめさ、その服、少し薄着過ぎない?」
「申し訳ありません。お嫌でしたでしょうか」
ユーリエ趣味の服飾を改めて見直す。今までは真継がいなかったので周りの目など気にする必要がなかったため、言われるがままのものを着ていただけだ。
「そうだな、あまり肌を見せるのはな、目のやり場に困る」
「ではそこらの兵士から服を奪ってきますのでしばらくお待ちを
「あーそこまでしなくていいよ。それにしてもここまで大変だったらろう」
「そりゃもっ、」
「いいえ!こうして真継様にお会い出来ただけで、労など忘れました」
あやめはサスケの口をふさぐ。真継はあやめの頭を撫でると奇声を上げる。
「も、申し訳ありません、こうして触れていただいたことで感極まって、」
「とりあえず、帰ったら久しぶりに3人で、ゆっくり飯でも食おうか」
あやめはかつてないほどの殺気を込めてサスケを睨みつける
「あー、ごめん。俺まだやることあるからちょっと出てくるわ。食事は二人で先にしてて」
サスケは真継の制止も聞かずに馬車から消えた。
「……泣くなよ。寂しかったのか?」
無言の馬車の中で、しばらくすると必死に声をこらえるあやめの声が聞こえ始める。
「申し訳ありません。真継様が出ていかれる事は納得したはずだったんですけど、やっぱり心配になって。それに、やはりこうしてお顔を見ることが出来ると、嬉しくてつい、」
「何度も言うが、俺にあまり固執するな。俺はあやめの期待に応えられないし、あやめを幸せにすることもできない」
「いいえ!私は真継様がいらっしゃるだけで、同じ空気を吸えるだけでそれ以上に幸せはありません。もし、私が邪魔だというのなら、いつでも処分ください。
できれば真継様の刃で、それで私は満足です」
「あまりそういうことを言ってくれるな、助けた甲斐がない。」
その言葉でさらにあやめの感情はかき乱される。
今の状況では何を言ってもダメかと真継は黙ってあやめが平静になるまで馬車の外を眺める。そうしているうちに日は暮れていく。
「あ!サスケ!姫さんから写真とか預かってきているとか言ってたのに、まだもらってない!」
「あ、それなら私が常に肌身離さず持っております」
あやめは、どんな時も肌身離さず持っていた小袋を取り出すと、真継に写真を渡す。
そこには優しい顔で、自分の子供を見つめる瑠璃姫の姿が映っている。
見た目はさほど変わっていないのに、別人を見ているように感じる。
「あと、こちらもお預かりしております。」
袋から、別の子箱を取り出す、それはケレスの科学力で作られた映像を記録するためのカラクリ。あやめは手順を思い出しながら、撮影された動画を馬車の幌に映し出す。
そこに映し出されているのは、瑠璃姫を中心としてよく見知った者たちが次々に映し出される。映像ではこちらに向いて何かを言っているようだが、再生される映像に音はない。
その様子を真継はただ嬉しそうに見つめる。
「も、申し訳ありません。音声が本来なら入っているはずなんですが、」
「いや、音がなくても十分わかるよ。そうなんだな、それがお前の幸せなんだな。誰かの為に、何かの為に、その手がお前を必要としてくれることがそんなに嬉しいのなら、俺はもう何も言うまい。俺はただその子の為にも、この世界の厄災を断とう」
「真継様……」
「なんだ、そんな顔をして」
「いえ、何かどこか遠くに行ってしまいそうな気がして、真継様、私も、国を出る時に、決めました。どれだけの時間がかかろうとも、どこまで行こうとも私は真継様を追いかけます。もしそこが地獄であったとしても私は真継様のお傍に、」
「心配するな、死のうなんて思ってないさ。
国を出て、一人になって色々考える事はあったし、
それに姫さんに帰るって約束したからな。皆で帰ろう。
そうだな、全部終わって、俺の武が本当に必要なくなって、死んだような毎日を送るのは御免こうむるが、ただ、少なくともお前や姫様が悲しむのなら、自分を処分しようなんてことは考えないさ。ま、もしそうなったら、その時考えよう」
真継は教会にたどり着くと、ヘレンに散々文句を言われながら治療を受け、そのまま死んだように、子供の様に眠っていた。
横に人がいても、起きないほど深い眠り、そしてそれは約半日続いた。
あれだけの怪我だ、普通であれば死んでいても、数日目を覚まさなくてもおかしくはない。それでも真継にとってはとて長い夜だ。
その日真継は夢を見た。どんな夢は本人も覚えていない。
夢の中でも、彼は戦っているのだろうか、それとも誰もが思い描く当たり前の幸せでも見ていたのか、眠る彼の口元はその日笑っていた。




