底なしの闘争
『、、、そげん大事な事は先にいわないかんやろうが!なんしよっとか!』
『あぁ、切れたら、言葉元に戻るんですね。もうすっかり忘れているものだと思ってましたよ。というか、大事なことも何も、あなた自分で約束してたでしょうか忘れてたんですか。』
『それは……そうやけど、でも普通それは最初にいわないけんやろうが、』
『うるさいですね、とりあえず、文句は後から聞きますし、あと、写真と動画も預かってますから、ちゃっちゃと終わらせてください。』
『おう、まかしときい』
真継は手足の具足を外し、上着を脱ぐと、拳をぶつけ、精神統一する。
大量の出血が止まり、震えていた体が震えることをやめ、大声で咆哮を上げる。
何かが変わったわけではないただそれだけのことだ。あたりの喧騒が消えたわけではないが、ユーリエはその瞬間に静寂を感じ、この空間を真継が支配する。
目からは狂気が消え、身に纏う気配は穏やかそのものだ。
「ユーリエ。悪いけど、薬効きすぎたみたい」
ユーリエはそんな事はお構いなく、また空間を跳躍し、死角より襲いかかるが、真継は難なくそれを受け止め、まるで細長い飴細工を折るように、刀を折る。
「お前その力に目覚めて間もないだろう」
真継は拳ではなく、掌でユーリエに触れようとするが、ユーリエはそれを見切り、回避、したつもりだった。
だが、真継の掌間違いなく、ユーリエになでるように触れ、ただそれだkではその場に崩れ落ちた。
呼吸が出来ない、全身が言う事を聞かない、何をした、何をされた。
「それはお前がたどり着いた力でも、奪い取った力でもない与えられた力だ。
弱き者は力を持てば力に飲まれる。
刀を持ち、鎧を身に着け、馬に乗り強くなった気になる
お前のその強さはお前自身のものになっていない。
これが真なる武、うつろい失せる、儚く、脆く、お前はその力におぼれるべきではなかった、お前の心が遥かに及ばない、心なき武は武にあらず、
故にそれがお前の限界だ」
真継の剛ではなく柔による武。真継自身、それは好まず、そして彼もまた極めに至らぬ武の形、故にいつだってできるものではない。
ただこの時の真継はまるで彼ではないかのように、
彼自身が心にのまれていた、誰かの為に、ただそれだけ彼の心を支配する。
闘争の先にあるものが確かに見えている。だからだ、それは死ぬのではなく生きる覚悟だ。
ユーリエは瞬間移動で距離をとるが、なぜか、想定よりも真継から距離をとることができない。
真継は慌てることなく、動くことなく、緩やかに呼吸を整えながら、ユーリえを待つ。ユーリエは体力の回復を待ち、サスケの恐怖に自分の恐怖を重ね、さらなる恐怖を従え、真継に向かう。だが、
「う、そ、だろ、何でこんなの」
ユーリエの全てが、何もかもが通用しない、何故勝てないのか、何故一方的なのかも理解できない。でも、だからと言って死ぬわけにはいかない。負ける訳にはいかない。
僕が負ければ今の生活が出来なくなる。皆を路頭に迷わす事になる。
僕が死ぬのは別にいい、でもそれだけは嫌だ、彼女たちを泣かせられる!!!!
ユーリエの必死の思いがこもった拳、それは真継の顔面を直撃し、吹き飛ばす。
当てられた?いや違う、わざとあたりに来た。
吹き飛ばされた真継は、仰向けになりながら、徐々に笑いだし、その笑いが次第に大きくなる。そして先程までの静寂の雰囲気は影を潜め、今まで以上の狂気があたりに満ち満ちてくる。
「はははは、いいね、それがお前の拳か、実にいい、」
「なんなんだよこいつ、イカれてんのか!」
「当たり前だ、そんな事は百も承知、最初からわかっている。
さぁ、続きだ。お前が引くか、お前が死ぬか二つに一つだ」
最初から自分の敗北の選択肢などない。真継はさらに戦闘能力を上げる
底なしの化け物、今この瞬間も確実に強くなっている。
支配できない恐怖、それがユーリエの心を塗りつぶしていく。
守らないければならないものがある、欲しいものがある
でも、何なんだこの目の前にいる生き物は、
僕がどうなろうと関係ない、何を強く願おうと関係ない。
こいつはその思いもすべて蹂躙し、それ以上に化け物になるだけだ。
そんな状況下でユーリエはふと背後に目をやる、それは真継の姿に目を奪われる自分を折って来たあやめの姿だ。
巻き込んでしまう!そう思ったユーリエは真継に背を向け、あやめの元に走る。
「あやめ、逃げよう!僕たちじゃあの化けものには勝てない、ケレスがどうなろうが知った事じゃない。僕は皆が無事なら、それで、、、、」
「さわらないで」
あやめはユーリエの手を払いのける。