序章③ ダイダラボッチVS海坊主
「これでよかとか?」
「あぁ、問題ない。お前はさっさといけ、お前の仕事は終わり、ここからは俺らの仕事だ」
「まだなんかあるとや」
真継は狂楽がさした指の先を見つめる。すると遥か遠方の海の中光る何かが近寄ってくる
「ほう天狗の次は海坊主か」
「違う、大型の機人だ。安芸成、索敵!」
「既にレーダーにも、エコーにも引っかかってるよ。百メートル級。向こうでうちらの作ったギアの最大タイプよりも5倍は大きいよ。あんな馬鹿みたいな質量の物海の上に上がれるわけないだろ。こんな所じゃ、あんなの自壊するよ。しかもあれ、完全制御型みたいだね。
さっき馬鹿サダが命令権を持つ司令機壊したから、あれたぶんもう止まらないよ。
にしてもあのデザイン、あれ、俺のゴーレムタイプのパクリだよ。僕が出デザインしてるのの改悪だけど、元がいいから強そうだよ。どうしようか」
「あー、よかよか、ちょっと走ってて、ちかっぱ力込めてなぐってきちゃるけん」
「馬鹿が、海の上を走るな、物理法則に敬意を示せ。
それが無理なら、せめてせっかく作った迅飛脚をつかえ。
それに、あれを切れば爆発でせっかくの海が駄目になる。見ろ、この動力炉と搭載兵器」
真継に見えるように空中に解析結果を表示する
「いっちょん分からん」
「これは動く武器庫だね。なるほど、だから海から出られなくてもいいのか、でもだったら人型にするなって話だよね。どうする。あれ使う?」
「試す相手にはちょうど大きさだな、真継あれは俺たちに任せろ。お前の役目はそこまでだ」
「なんでか!こっちのが大物やろうが」
「お前の因果さっきの奴だ。あれはこの国に迫る、この国を人を、幸せを奪わんとする侵略者だ。ならば今この場であいつをお前が勝って何になる。
お館様なくとも我らありと、見せつけねばならん。
この国を出て行くお前は大人しく、出向して、船の上からでも見ていろ」
「あ、一応、煎餅と茶だけは置いてあげてたから。それでも食べながらみてなよ」
「はぁ!飯は、」
「ご心配なく、それでしたら私がたくさん用意してますから、
献立も入れてますから、偏らずちゃんと食べてね。」
「いいか真継、貴様にはそれなりに世話になったが、俺はお前が嫌いだ。
なんで瑠璃はお前の飯を作る時は俺の時とは違ってうれしそうなんだよ。
今回もお前の為にとお勤めをほっぽりだしてまで」
「そりゃ、お前が気を使うけんたい。うまいもんはうまい言うてやればよかやないか、姫さんは人が物食べるの見るの好きとぞ、お前ら夫婦なんやけん、遠慮するのも大概しとけよ。でも、あれか、じゃああん中には姫さんの飯ばあるとか」
真継は戦えない事は残念そうにしながらも、目の前につられた文字通り餌につられ、狂楽の言葉に従い、静かに近づく敵との戦いを邪魔しないように距離を開けて船出する。
岸辺に残った者も瑠璃姫たち善意の見送り組は早々に引き揚げ。
第六天魔六狂工筆頭絡繰造子狂楽率いる絡繰造子一派が悠然と待ち構える。
「大型の機人を作れるのがお前らだけだと思うなよ。それになんだその速度は、それでは話にならん。我らの方がが大きくなくともより軽量で、より強度が高く、より早く、そして何より、より強い。戦うための技術は常に戦争の中で急速に発展進化する。
我らが貴様らの知る我等のままであるはずがなかろう。
それに比べお前たちは圧倒的な軍事力に資金。
俺たちの後任が育たなかったように見える。
見せてやるよ。これが俺たちが、あの化物を殺すために磨き続けた技術の力だ」
「おーなんね、あれすごかー、鳥みたいに空飛びようばい、はやかねー、それになんね、形変わって!!おースゴかーー!くっついた!!俺もあれがよかったっちゃが、
あげなもんあるなら、俺に戦わせんか!壊されるのが嫌でかくしとったとか、こすかねー!
バリっ!ザラメの煎餅か!あいつおれがあまいのすかんのしっとって入れよったね。それにこのお茶もなんか、意地が悪か、新茶なくてわざわざ古か分の番茶ば、いれとう!」
真継は文句を言いながら、その戦いの様子を観戦する。
なお、この様子を見ていた旅の話家は、この戦いを海坊主とダイダラボッチの大喧嘩として語り継ぎ、この戦いで、崩れた入江は後に新名所としてこの国の人たちを楽しませることになる。
こうして東の果ての島国から、桃色の船に乗ってどんぶらこどんぶらこと一人の男が遥か西を目指し、旅立った。途中途中立ち寄った異国で問題を起こし、伝説を作りながら、西国の小国にたどり着いたのはその1年後の事だった。