平和の使者
真継は、渾身の力を込め、敵本陣の天幕を、その前方にある防御壁も、木々もお構いなしに切り裂く。といよりも、地面ごと吹き飛ばすと言った方が正しいだろう。
突然の襲撃、敵の指導者どころか、護衛の3機も含め、皆機人から降りており、
電源の切れた機人は力なく倒れこむ。真継は吹き飛んだ人間の中から一番偉そうな服装をしている男に近づくいていく。真継が近づく事で近くにいる女性が叫ぶが、真継は、殺意で気を失わせ、大将首の男の刀を喉元につきつける。
「何をしているさっさと乗れ、大将なんだ、死ぬにしても戦って死ね」
「それじゃ、真継そっちは任せるよ。悪いけどサスケさん、
僕の護衛を頼みます、巻き込み事故で死にたくはない。
さてそれではケレスの犬諸君、僕は武を好まない、
僕は平和『的』な人間さ、さ、交渉を始めようか」
「どこの世界に猛獣と毒蛇をちらつかせ、平和を語る奴がいるんですか?
それは極道か悪魔のやる事ですよ」
交渉は順調、目の前で壊されていく、圧倒的な力を持ったケレスの機人。
それはフロッカスの人間にとって恐怖の象徴であり、力そのものだ。
それをさらに圧倒的な暴力で壊していく『これ』は何だ。
悪魔を殺せるこれは何だ、決して目の前いにいるミヒャエルは平和の使徒には見えはしない。後ろで嬉々として力を振るうあれを救世主とは思えない。
故に、交渉は順調、『言葉による交渉』『説得による和平』『平和的な提案』ただそれが、圧倒的な暴力のすぐそばで行われているだけ。
これは対等な交渉だ。一人の若造と、たった今、この瞬間に、旧ケレス、現新フロッカスの軍部の最高責任者に『なってしまった』男との対等の交渉だ。
そして程なく白旗が上がる。
後方から押し寄せる青い旗がこの戦場にたどり着くよりも早く、その白旗はこの戦場に上がった。誰もが思わぬ事態。
百戦錬磨の戦術家の開戦までの予想は、このような事態ではなかった。
たったひとりの武がこの結果を招いた。
彼の体が人間であるかどうか、彼の精神が正常であるかどうか
そんなことが問題なのではない。たったひとりの人間の武が、全てを台無しした
それが、彼が化け物である由縁なのだ。
白旗が戦場を駆け巡り、事実が伝わり、失望する者、歓喜する者、祖国の奪還を神に感謝する者。さまざまな人間のさまざまな声が響く中、真継はようやくまともに腰を下ろした。流石にこの規模の戦闘は祖国を離れて初めてであり、
これほどの機人を相手にしたのもまた初めて、
「どうしました?柄にもなくへばりましたか?」
「ははは、流石にな、全然体動かねぇ、体超痛ぇ」
興奮が解けた真継は戦闘の余韻に浸りながら、子供のように笑う。
「なぁ、サスケ、悪いけど、何か飲むものないか、全然動けない」
「それなら俺が取ってくるよ、」
ミヒャエルは、護衛のものと一緒に、真継が吹き飛ばした天幕の残骸から飲み水を探す。
「いやーでも、ホント、久しぶりにテンションあがりまくったな……」
真継は動かないと言っていた体を急に起こし、立ち上り、
戦場を見つめ、こちらに近づいてくるそれを警戒する。