決戦!ニルギス平原
それから5日後、ケレスとアラビスの戦場に変化が訪れた。
今まで防戦一方だったアラビス軍が奇襲ではあるが、攻勢に出たのだ。
各地のケレス軍の拠点への襲撃。大規模な戦闘にはならないものの、それでもそれは確実に実力を持った騎士たちを撃破し、時に機人にまで破壊していった。
その首謀者はもちろん真継。
アラビス軍は今まで通り、防戦に戦力を集中させ、真継一人、自由気ままに各軍への奇襲を行う。そうする事で徐々にケレス軍の戦力を奪って行った。
アラビス軍は拠点の奪還は行わずに、ただ真継を野放しにするだけ、そうする事で戦力を温存し、軍の再編を行っていた。
このまま長期戦になれば、徐々に戦力を削られ、士気を削がれケレス軍にとって不利。
ケレス軍は1週間で各地の戦力を集中させ、最初に真継が現れたニルギス平原に再度集結していた。彼らの目的は真継という神出鬼没の不確定要素に対応する事が難しい以上、これまでの生ぬるいやり方ではなく一気に総力戦で、アラビスの王都に攻め入り、王宮を占拠する事が目的とした。
ニルギス平原は両国の首都と王都が一番近い平原で何より見通しがよく、地形が平坦であるため、奇策を準備する事も、地の利を生かすことも難しい。
ケレス軍勢は残存旧フロッカス軍の9割、そして軍以外の市民、学生を含む6000人。
そしてこの国に駐留する機人の80体ほとんどをここに集中させていた。
対するアラビス軍は、この突然のケレスの総力戦に対応しきれず、ここだけではなく各地に戦力を分散させたままだ。
いくら真継が暴れようが、ケレス軍は、前回と違い広い範囲での布陣。
これだけの戦力を一人で対応できるはずもなく、アラビス軍は3万の軍に現行の部隊と、
王都より向かっている首都防衛軍300のみで対応せねばならず、戦力の差は圧倒的だ。
「壮観だな、あれだけの鬼を見るのは初めてだ。それにあの兵士、民間人も交じっているが中々決死の顔つきだな」
「おそらく、家族が人質にとられているんだろう。
それにあの感じ呪術か何かか、普通じゃない。
真継、これがお前の望んだ戦場だが、これだけの軍勢、お前一人で勝てるか?」
「勝てる。一応何人か強いのがいるがな」
「では、これだけの軍勢をお前一人でここの防衛ラインを維持できるか?」
「無理だな。数が多すぎる、時間があれば全滅させるのも可能だが、これだけ広範囲で手練れを含む状況では難しいな。それに今度の相手は素人じゃない、俺一人に構うような戦術はとらんだろ、ならば余計にやりにくい」
「そうか、正直この戦力だ、こっちの戦術家の見立てでは王都からの救援も、お前も戦力として換算して、こちらのこの本陣が落とされる、またはこの本陣を無視してアラビス領土に侵入されるまでおよそ3時間とみている」
「これも負け戦だと?」
「あぁ、だから、僕たちは今まで同様、防衛線を張らせてもらう。それでできる限り時間を稼ぐ、そのための塹壕や補給ルートの確保はしている。そして攻撃の起点はあいも変わらず真継お前だ。お前にはその魔法の靴がある機動力は十分だ」
「だったらこれを使ってさっさと俺が攻め込んで大将首を取ればいいだけの話だろ、」
「今回はそれじゃ止まらないさ、それに見てみろ、あの本陣守りは強固だし何よりほら、ダミーも含め少なくとも5か所。全部潰すには時間がかかり過ぎる」
「じゃあ俺は片っ端から攻め込んでくるやつを片づければいいんだな」
「そうだ、だが、特にお前には機人のみに対応してもらう。あれはお前でなければどうしようもない、各隊長には激しく発光する火薬を渡してある。それが光った場所が今機人に押されている場所だ。お前にはそこから優先的に機人の破壊をお願いしたい。
こちらの見立てでは防戦一方。真継がその機動力を生かし、短時間で機人を片づけてくれるという前提の元であれば6時間は持ちこたえられると踏んでいる。そうなれば日も暮れる」
「馬鹿を言うな夜になれば夜眼の効く鬼が有利になる流石の俺でも暗闇の中これだけの戦場を把握は出来んぞ」
「そうだろう。でも、うちの軍師はそれが一番効率的と判断しているぞ」
「知らん奴の事など信用できるか、お前はどう思う?」
「僕?僕は戦闘のプロじゃない、どうなるかなんて分からないさ、戦争の事は、
僕はここで君の活躍を見せてもらって危なくなったらいち早く逃げかえるよ」
「お前な、、、」
「僕は戦争屋じゃない。僕は政務官。政が仕事、僕の仕事は交渉で自国を有利に持っていくことだ。そうだな。この戦場で僕の出番があるとすれば戦いが終わった後、負けるにしろ勝つにしろ、戦後の処理に関しての交渉だ」
「でも負けるんだろ?」
「だろうな。流石にここから戦術的撤退は出来ないから頑張るとは思うが、だからって勝てるわけじゃない。それはプロじゃない僕だってそう考える」
「ふざけるな、勝気で挑まず勝てるか!」
「そりゃ真継はそのつもりでやってもらうさ。そして僕も、負ける気なんかさらさらないさ。
いいか、戦いは博打じゃない。運ではなく、ため込んだ知識と、機転の利く頭、そして素早い情報伝達、そして何より、事前準備が必要だ。故に僕の戦場はここじゃない。それだけの事」
「、、、結局、俺はどうすればいい?」
「俺を信じろ、そしてその武を見せつけろ。後はこっちの仕事だ」
ケレス軍が全軍に開戦の鬨を上げる。
理由は違えど、彼らは皆必死に突撃を始める。