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序章② 泰平の夜明け 旅立ちの日

鬼が島で鬼退治を、

東の果ての島国の100年を超える戦乱を、彼は不条理な程圧倒的な力で終結させた。

彼はその力で全ての人々の心に恐怖と闘う事の無意味さ、人の無力さを教えた。

太平の夜明けより1年。彼こと、黒漆真継くろうるしさだつぐは、この平和で、幸せと希望にあふれた、退屈なこの国を出、さくらの色の鋼鉄製のカラクリ船に、異国で通じるとは思えない「喧嘩上等」文字の帆を掲げ、今日この時、新月の誰も気づかぬ闇の夜、西の果ての鬼が島を目指し旅立とうとしていた。

「ほんじゃ、行ってくるばい」

「あぁ、さっさと行け。お前の顔なんざ、見たくはない」

奇抜の格好をした集団の中でも、特別目を引く異形のナリをした第六天魔六狂工が一人、織部凶太彦おりべまがたひこは悪態をつき、まるでハエを追い払うかのように、手を動かす。

「本来であれば親方様を殺した貴様なんぞに、協力しとうないが、我らに慈悲を下さった瑠璃姫様からの頼みとあっちゃ聞かんわけにもいかんきのう」

みやこ姉やんからの伝言。その太刀は、お前の為に作ったものではない、お前を切る為に作ったものだ。お前のものじゃない以上乱暴に扱うな、だとの事だ。あと死ね、だそうだ」

「しゃーしかー、そげんなんべんも言わんでよかけん。大事に扱う言うとったのに信用なかな」

「当たり前だ。誰が貴様の事なんざ信用するか、それに、この船も暴れて壊すなよ。

それは瑠璃姫さまからのご依頼の特注品。城が2,3建つ金をかけてるんだ。

どんな嵐にでも耐えられるようには作ってあるが、お前が壊す事は想定していないからな」

「皆さん、本当に何から何までお時間のない中、このように立派な品の数々。恨みもありましょう、さぞご迷惑なお願いだったでしょう。ここまでの尽力心より感謝申し上げます」

真継に変わり、瑠璃姫は深々と頭を下げる。

「瑠璃ちゃんが頭下げる事なかとよ、私ら真継は嫌いやけど、瑠璃ちゃんの事は大好きやけん。瑠璃ちゃんの頼みは聞いてあげたいんよ。こんなん大変でも何でもなかとよ」

「それにわしらは瑠璃姫様がおらなんだ。首ばはねられ、晒し者にされてもなんば文句ば言えん事ばかりしとうからのう」

「そうたい、姫さんが気にせんでよかけんね。これくらい当たり前たい。姫さんの役に立つよう、これからは、俺ば殺す事ばっかば考えんと、この国をまもって、人の役に立つものつくらないかんけんな。ちゃんとわかっとるとか」

「お前は喋るな。イラつく」

「ところで、姫さん、土産はなんがよかか?鬼の大将首か、それとも山ほどの金銀財宝か?」

「いいえ、真継が無事に帰ってくればそれで十分。後は、欲を言えば、沢山の土産話を聞かせてくださいね。その頃にはこのきっとお腹の子も、大きくなっていると思います。

その子の為にも見たことも聞いたこともない、たくさんの土産話を期待しています」

「、、、あぁ、もちろん。わかっとるたい。それより、姫さんもせっかく太平の世になったちゃき、その子や、国民の幸せだけじゃなくて、ちゃんと自分の幸せも考えないかんけん。

おい、猿わかってるか、姫さん泣かしてみぃ、おいが駆け付けてくらしたるけんのう」

「分かっている、お前にいわれるまでもない。天下も瑠璃も俺に任せろ。

お前が戻ってくる頃には、ここはお前に心地の悪い。喧嘩も、盗みもない国になってるし、瑠璃もお前の顔なんざ、思い出させないくらい、幸せにしたるわ」

「おう、そのいきたい」

「後はそん時までにお前の嫁子一人でも探しておいてやる。

国中探せばお前のようなガサツで、獣のような男でも、世話を焼いてくれる菩薩のような人一人くらい見つかるだろう」

「いや、よかよか、そげん気いつかわんでよかばい。俺は一人が好いとうし、性に合っとうけん。

一人で喧嘩ば好き勝手やって、勝手にのたれ死ぬが一番よかとばい」

「だったら今すぐ死ねよ」

「きさんも、武人の端くれなら、殺すくらい言わんか、情けなかとぞ。

狂楽たちがカラクリを山んごと作ってこの国を守る言うたちゃ、武人がいらんごとなるちゃないとぞ。心ない人形だけじゃ何にもならん。

きさんのような男がいるがいるとぞ、それをなんか、俺ば殺す気構えもなか、情けなかぁ。

そんなんじゃ鬼の一匹に二匹、狩れんぞ!」

「真継何度言わせるあれは鬼ではない、あれは機人。人の形をしたカラクリだ」

「角ば生やして、でかか図体しろりゃ、そら鬼でよかようもん。そげんこつが気になるちゃ、気の小さかー、そげん事ば、気にするけん。皆と仲用出来んちゃなかか?」

「人間関係で、お前にだけは言われたくない」

「なんイライラいしようか、小魚食わんか、」

「、、、久しぶりに聞くが、お前の言葉は訛りが強すぎる。深い極まりない」

「私ば、何も知らんで、真継にこの国の言葉、教わったちゃけん。うつったたとばい、もう、今更抜けんけんどこ行っても目立つとよ。すかん、変な癖がついたっちゃき」

「そっちの方があいらしかぞ」

「な、なんばいいようとか、この馬鹿たれが」

「お前、自分の国の言葉もむちゃくちゃなのに、向こうに行って大丈夫なのか?」

「それは問題ない。金田兄さんに作ってもらった学習装置で、そのまま書き込んでもらった。俺が意図する事をそのまま外国に変換するからな。ほらこの通り、お前らの世界の言葉も問題なしだ」

「、、、あれ使ったのか。まぁ、お前の場合、頭の空きが多そうだからな」

「真継、そろそろいけ、俺も瑠璃も、これ以上遅くなると皆に気付かれる」

「あぁ、ほんじゃ、行ってくるけん、体に気つけいよ」

「えぇ、真継、どこに行こうとあなたの帰る場所はここです。だから必ず帰ってきてくださいね」

瑠璃は小指を差し出す。

真継は、めんどくさそうにしながら指を差し出し、約束をする。

「さて、それじゃ行く前に雲に隠れている天狗でも狩っていこうか」

そう言って真継は空を見上げる。

だが、そこには誰もいない、いや薄雲の後ろに僅かに人の形をした何かがいる。

雲が晴れると、新月とは言え、星明かりでその黒い全身がはっきりと見える。

それは羽も動かさず、宙に仁王立ちし、浮き、赤い目を輝かせる。

「よくぞ我に気付いた。この化け物が、」

「ほう、何かと思えば、このあいだの烏天狗か、まだ天狗の残党がおったか。

しかも、人の言葉ば、喋るちゃ、珍しか」

「烏天狗じゃない。あれは飛行型の機人、あの形状ガーゴイルの発展系か、」

「、、、、ロッシュ=バレス、こちらに来て早々いなくなったと思えば、この裏切者が、」

真継の見送りに来たわりにはその輪には参加せず、はるか後方の岩の上で紫煙を潜らせた男は、やる気なさそうに、届くはずもない煙を空に向けて吐きかける。

「その物言い、ケレスの人間か、その形状、今までの人形とは違い、やはり搭乗型か」

「そうだ。第14遠征軍極東侵攻軍司令官カルティア=イーノスだ。

先日は油断し、その化け物に不覚を取ったが今日はそうもいかん」

「ほう、仕返しに来たか!そりゃよかった!」

真継は嬉しそうに口にする。

「やっぱ、今までのも迷い込んだわけじゃなく、ケレス軍が直接送り込んでたわけだ」

「ふん、既に我らケレスは冥国まで支配下に置き、既にこの世界の半分は我らが手中ぞ」

「そんなのだいぶ前から知ってるから、でも流石、お館様、見事な情報収取力だね」

「最近は見た事もない新型がちらほらいたからそうだろうとは思っていたが、」

「それをはるか前に感じ取り、対応策をこうしていた。やはりお館様は違うな。しかし、お館様がなくなって1年。機人の襲来が増えたかと思えば、やっぱりお館様の事にビビって手出しできなかったんだ」

「違うな、やろうと思えばいつでもやれた、ただ、あの魔王にはまだ手を出すな。

そういう指令があっただけだ。だが、その魔王も死に、直接俺が出向いたまでだ。

そもそも原始人が魔王を称して何になるか、その魔王をただの人間に殺されたそうじゃないか」

「僕はその指示を出した人は有能だと思うな。ただの機人に頼り切っただけの人間に、お館さまが倒せるわけないじゃん。近寄る事もできやしないよ」

「まったく何を言うかと思えば、いくら元が優秀であっても朱に交われば朱に染まる。猿に接しすぎて猿に退化し、物事のまともな判断さえもできなくなったか」

「よくしゃべる大将首たい。言っとくが魔王のが、お前さんより数千倍ば強かぞ」

「減らず口を、前回は油断していただけだ。貴様らが俺たちの技術を使うとは思っていなかっただけだ。過去の者とは言えバレス一派が原始人に協力しているとは思わなかっただけだ。

その油断がなければ、私が完璧に組んだキリングプログラムでの機人が敗れるわけがない」

この空に浮かぶカルティア指揮する飛行機人部隊は先日真継たちを始めとする『ただの人間たちに』、その部隊のことごとくを落とされ、羽をもがれ、徹底的に敗北した。

「完璧、ねぇ、聞いたあの程度の行動ルーチンで完璧だって。逆にすごいよね、あんなのでそんな自信持てるなんて」

「まぁ、馬鹿は自分の無能に気づけないからこそバカなんだよ」

「あんな単調な動きしてればプログラム見なくても分かるっての、そもそも、あれじゃ、あの機体の特性を生かしきれてない、無駄が多すぎる、その上、特性を殺す。出鱈目に組んでもあぁはならんだろ」

「おい、さっきからなんか馬鹿にされよるが、他のもんはこいつらの頭にやられたのかも知れんが、俺は違うちゃき、お前は俺に普通に殴られただけたい」

「あ、それから君、言いそびれたけど、僕たちもう昔の名前捨ててるから、御屋形様から僕は絡繰造子安芸成、先生は絡繰造子狂楽と、新しい名前もらってるからそっちでヨロ」

「ふん、我らに憶して、こんな世界の端まで逃げた者が、偉そうに名を変えようとなんだ?

こんな辺境で不衛生な有機物の服を着て、隠れ住み、ただの負け犬が、貴様らの時代遅れの技術でも、ここなら食うには困らないか?」

「ふ、ふふふふ、、全く、どこの馬鹿か知らんが、何も知らずに語ると恥をかくぞ」

「事実を言ったまでだ」

「ならば見るか我らが逃げたかどうか、我らが時代遅れか、夜桜!

俺たちの格の違いを見せてやれ!一式から百式までどれでもいい起動準備を、一瞬で片をつける。俺らを侮辱する事は、俺らを認めたお館様を侮辱たも同然。その罪、万死でも及ばぬこの世もあの世も含めた最も度し難い罪ぞ!」

「狂楽待たんか、あれをこのあいだ逃したのは俺や、それは俺が相手するのが筋たい」

「貴様はここを出て行くんだ。やるなら、、、」

「言われんでも今度はちゃんと殺すけん、心配するな」

「でも、でも、特式も幻手甲も、それに迅飛脚も全部船の中です」

「心配せんでよか。このあいだやりあった時もなかったっちゃけん。

それにあれは作ってもらったばっかりで使い慣れとらんけん。それを使うのは好かん。

まぁ、京姉の刀はここにあるし、あれは試し斬りにはちょうどよか大きさたい」

「なめるな、化け物。見よ!この強化されたフレームを括目せよ!この我らの、、、、」

空に浮く機体は、突然ものすごい衝撃に襲われ、その翼をへし折られ、爆発を起こす。

「御託はいいからかかってこんか、人のせっかくの別れ際を邪魔しといて、口上邪魔された位で文句ばいえんやろ。お前の話は面白なかぞ」

「あれ?軽量高速機に重装甲こうつけて、ないわーあのセンス。弱くなってんじゃん」

或葉は笑い転げ、手にした端末で写真を撮る

「き、貴様何を」

「だから試し斬りゆうたやろうが、見えんかったか?これで斬っただけたい」

「早すぎて認識できなかっただろう?自動回避も反応できない速度だ。

斬ると言いより、衝撃波が飛んでいくという表現の方が正しいだろう。

音よりも速く振動を伝えるそれも普通の伝達じゃない、その上に重ねて無理やり押し出して衝撃波を加速させて爆発させている。こいつの技術だ。イカれてるだろ

特別でも何でもないただの技術。

遺伝的優勢もなく、先天的特殊能力者でも、ブーステッドでもない。

ただの努力と狂気を超越した圧倒的精神に基づく力だ。

背景のない力。それがこいつが化け物である由縁だ。

散々やりあった俺たちなら術はあるが、初見のお前では躱すことも防ぐことも無理だ」

「っち!」

「やかましかぁ。音何とかならんか!静かにしとったのに周りの人が起きてくるが」

「搭乗型の機人は安全第一だからね。あっちこっちでアラートさ、もう諦めなよ。

その感じもう戦える感じじゃないよ。殺されちゃうよ」

「あ!そうやった。殺さないかんのやった!」

真継はいつもの癖で、刀を収めてしまっていた。

「こうなったら予定外だが、我らが決戦兵器、、、、」

真継は、今度は全力で殺意を込めて刀を振るう。

すると宙に浮く機体は真っ二つ、ではなくはるか後方に吹き飛びながら粉々に砕け、四散する。


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