アラビス本陣③
「見ての通りだ。彼女は手が離せない」
真継は関係ないと、ヘレンを連れ出そうとするが、ヘレンの意志は強く。
彼女は帰らないと言い張り、何と気迫と理屈で真継を追い払った。
「説得失敗かい?」
「あぁ、そのようだな。大した玉だな」
「彼女は一生懸命になると周りが見えなくなるだけさ。でも説得は失敗。それじゃ僕と話そうか、」
「断る。俺はお前に興味がない。終わるまで寝ておく」
「そうか、だが、俺と話をするだけで君はここから早く離れられるんだけどね」
「どういう事だ?」
「さっき僕の早馬を貸して、ここから一番近い町の医師を連れてくるように指示した。
ヘレンには変わりの医者を連れてきたと言えば、おとなしく引き下がる。もし関係ないというのなら、その人は帰ってもらう。それでヘレンの選択肢はなくなる。
彼女は医師志望でも医者ではないからね。治療を受ける方も本当の医者のほうがいいと考える。
それにもし君が僕の話も聞かないのなら、僕がそうやって代役を手配する義理はないし、君自身で手配させるにしても、君にはその術がなく、さっきみたいに将軍たちに脅しにかけるにしても、それは時間の浪費だ。賢い選択じゃない。」
「、、、いいだろう。何が聞きたい?」
「それじゃ、、と言いたいところだけど、ケレスの悪魔を討伐できるほどの実力。
君は本物の百戦錬磨の戦いのプロだよな」
「あぁ、百ではなく、少なくとも万」
「だったら余計な言葉巧みに君を騙そうとしても、そうはいかない程度に頭は回るはずだ。」
「頭が回るかどうか別にして、匂いで分かる」
「匂い?」
「そいつが言っている事が嘘か本当か、本心か上辺か、そして今お前が俺を試し、見定め。値踏みしようとしたり、俺を、、、」
「そう、君を利用したい。そしてそれは出来ると思っている」
「、、、変わってるなお前、」
「そんな事では君は怒らないそういう確信があるからだよ。そして君は嘘をつく人間が嫌いだ」
「人間観察は得意か?」
「それはもう、」
「手の内を見せる方が有効、それは正解。俺は人の嫌がる事が大好きだ。
つまりは期待に背くことが大好きだ」
「だが、同時に、必死で誠実な人間を無下にするような事も君の流儀に反する」
「、、、大した洞察眼だ。恐れずに、話すだけでも大した度胸なのに俺を利用しようなどと」
「僕は君が直接戦っている様を見ていないからね。もちろん結果だけ見ても、君という『力』は危険なのだろうけども、圧倒的過ぎで僕はそれを実感できない。
そして僕はその『力』が欲しい。
で、君を利用できるかどうか判断するための情報収集。本題だけど、君の目的は?」
「鬼退治、、、ケレス帝国で、ケレスの鬼の大将首を取る事が目的だ」
「ここまではどうやって?」
「途中までは船で、途中からは陸路で」
「この戦争に介入したのは不確定要素の様だけど本当はどこに?」
「フロッカスという国だ。そこは俺の国との交流があった。とりあえず、姫さんが主がそこを訪ねて行けと、ほら、その為の親書だ」
「中身は?」
「断る、お前に見せるもんじゃない」
「そりゃたしかに、あぁちなみに、さっき君が戦ってた相手、あれフロッカスの人だから」
「なんだと!あいつらケレスの軍隊だろうが!」
「フロッカスは半年前にケレスの侵攻を受けて今はケレスの一部だ」
「しまったのんびり陸路で来てたら、国が滅んでたのか」
「フロッカスについたらどうするつもりだったんだい?」
「姫さんからの頼みで、フロッカスが危機に瀕しているから守るように言われていた。
後はフロッカスの造船技術は大したものだと聞いている。だから鬼ヶ島じゃなかった、、ケレスにわたるための船を用立ててもらうつもりだった」
「なるほど、確かにあの海峡を渡るにはフロッカスの船が一番だろうね。で、どうするつもりだい?」
「お前らの大賞首を取りに行くから船を作ってくれと言っても無理だろうな」
「そりゃね、何なら彼らの空飛ぶ船を奪えば?」
「あれは嫌いだ!あんな鉄の塊が空を飛ぶ事自体が理解できない。あれは好かん」
「なら、泳いで行く?」
「泳ぐくらいなら海の上を走っていくが、いかんせん地図で見る限り距離がな」
「君はそんな事もできるのかよ。化け物か」
「単なる技術だ。その気になれば誰にでも出来る」
さっき、抵抗軍と言っていた人、あれもまず間違いなく、元フロッカスの人間だ。
あの髭の感じと言い物言いと言いボスっぽかった。
彼が斬ったのがケレスの人間なのだろう。だんだんそんな気がしてきた。
それを『貴様らのような卑怯者に』と言ったという事は、彼らに協力し、ケレスを追い出して、お礼に船をもらってもそれは自分の非を認めるような行いだ。それは気に入らない。
「、、、さて、どうやら君の様子から利害は一致すると判断させてもらうよ。
という訳で黒漆真継君。僕に利用される気はないかい?
僕はフロッカスのケレス軍を追い出したい。
そうする事でさしあたってのこの国の脅威はのぞけるし、何より僕の評価もあがる
そして僕なら船を用意できるどうだい?」




