反逆軍
あれほど騒がしかった戦場はまるで開戦前のように静まり返り、ただ、この一人の男に注目が集まる。
ありない事が起こったのだ、初めて奇跡を目の当たりにする者たちばかりだ、ただの一人の人間が悪魔を淘汰した。それは想像もしない事態。だから何もできない。
「どうするまだやるか?」
真継は残ったケレス軍に尋ねる、指揮官を失ったケレス軍。彼らは元フロッカスの軍人。
この目の前のあまりに強大する敵に対して、何が出来るというのだ。
目の前にいる男は、自分たちの軍でもかなわない悪魔、その上位種ともいうべき、キマイラを、しかも4機をいとも簡単に殺してしまうほどの男だ。何が出来よう、何になろう。
「そうかならばこれで終いだ。大人しく帰れ、敗北をかみしめ、そして必ず、俺に復讐しに来い。俺は黒漆真継。いつでも復讐者は歓迎だ」
真継は先に跳ね飛ばした搭乗型のキメイラの首を拾うと、今度はアラビス本陣へと向かう。
「危うく目的を忘れるところだった。確かヘレンという人を探さないといけなかったんだ」
戦争が終わったこの状況では急ぐ必要もない。真継は死の匂いに満ちた、この戦場の残り香を楽しみながらのらりくらりと歩いていく。
「止まれ」
アラビス軍に向かう真継に背後からケレス軍残党が声をかける。
彼らはアラビス軍の捕虜を拘束し、その喉元に刃を突きつけている。
「、、、なんだ?」
「貴様、おとなしくしろ。こいつらがどうなってもいいのか」
捕虜たちはいずれもまだ成人前と思われる真継とさほど年齢の変わらない新兵たちだ。
「しらん、誰だそいつは」
「貴様、アラビス軍の癖に、知らないのか!こいつはアラビス宰相の三男リヴァルだ」
「俺は別にアラビス軍じゃない。目的は人探しだ。宰相の息子かなんか何ざ知るか」
「う、裏切り者だ。親衛隊の中にケレス軍に僕を売ったものがいる!
それで僕は罠にはめられて。こうしてケレスの人間に拘束された」
「なんだただのマヌケか、お前も人の上に立つ者なら人の善悪、腹の中の一物くらい見抜けるようになっておくべきだったな。高い授業料になったな」
「ま、待て、助けてくれないのか?」
「俺は貴様のような人間は好かん。匂いで分かる下種の匂いだ。勝手に殺されろ」
「なっ、、、」
「とは言え、他の者はその馬鹿を守るために負傷したと見える。他の奴には同情はするぞ」
真継はキメイラの首を投げ置くと、刀を抜き、彼らに近寄る。
「何をしている!武器を捨てろ、こいつらがどうなってもいいのか!」
「そいつらとて若かろうが、初陣だろうが、武器を取った時点で一端の武人だ。
殺し殺されで飯を食っているやつらだ、無理強いだとか、そこまでの覚悟がなかったなどは知った事ではない。武器を取り、敵に対峙した時点で、自らその命の賭場に上がった。ここで殺されるのはやむなしだ」
「だったらお前は何を!」
「決まっている。人質を取り俺を脅そうとした貴様らが気に入らん。
智を尽くし、謀略を巡らせ、狡猾に、卑劣に、毒を盛り、甘言を吐き、短刀を隠し、隙をつくり、俺を殺そうとするものは敵に値するが、人質を取って俺御せると思う馬鹿は気に入らん。
よって加減はなし皆殺しだ。もちろん貴様らだけではない、その身につけた紋章。それを追って貴様らの親も、貴様らの子も、妻も、恋人も、友も、全て皆殺し、根絶やしだ。
お前らも安心して死ね。ここで出会ったも何かの縁、敵は取ってやる」
真継は一切の効く耳を持たずただ近寄っていく、迷いなどない、脅しでもない。
「わ、分かった。こいつらを開放するだから、、」
「だからなんだ?と言いたいところだが、俺は今日は鬼が狩れて機嫌がいい。
そうか分かった、縁者は見逃そう」
「まて、そうじゃない、私たちを私を見逃せと、、」
「ケジメをつけらにゃならんと言っているんだ。男だろ覚悟を決めて向かって来い。
殺されるのは仕方がないが一矢報いる気概を見せろ。死にざまにまで恥をかくつもりか」
その真継の言葉に、逃げようとする指揮官。
だが、背を向けた瞬間、真継が斬るよりも早く彼は彼の部下によって切り殺された。
「何故、殺した?」
「何、逃げたところで、逃げ切れるわけではない。
敵前逃亡は死罪、上官であれそれは例外ではない。あんたのお蔭で理由が出来た感謝する。
それにあんたはここで背を向ければ。俺たちの家族も皆殺しにするつもりだったんだろ」
「ようやく、話の分かる奴がいたか。さぁ、殺されにかかって来い」
「、、、断る。殺すなら、殺せ。悪いが俺たちは人間だ、死ぬとわかっていて武器を取ろうとは思わないさ、死ぬ最後くらい武器を捨てて、家族を思い出しながら死にたいさ」
そういって、中年の男前な男は部下にアラビスの人間の拘束を緩めるように指示し、秘蔵の煙草を部下にも渡す。部下の中にはタバコなど吸ったこともないものもいたが、上官は、酒と女はここに来る前に経験させてやっただろう、死ぬならこれまで経験してからだと、半ば強引に吸わせる。真継は見慣れぬこの国の煙草がまるで自らの線香のように思えたのか、珍しく大人しく吸い終わるまで待っている。
「全く、最低な人生だったな。
平和に暮らしたかっただけなのに、祖国は侵略され、財産は奪われ、家族を守るためにこうして、こんな場所に、上司にも恵まれず、色々裏工作とか頑張って、何とか逆転を狙っていたんだが、最後はこんな化け物に出会って殺されるんだ」
「諦めるのか?命も、家族も」
「なに、家族は守るさ」
そういって男は自らの腕を切り、服に描かれた家紋を血で染める。
「これで俺はどこの誰でもない。さぁ、お前たちも」
部下たちも彼にならうように自らの腕を切ろうとする、もちろん恐怖もあるだが、この人がいる。
「やめんか!下らぬ真似をするな!」
「くだらなくなどないさ。これが俺たちの戦いだ。あんたには理解できないだろうがな」
真継は刀を鞘に納め、無駄になった殺意を開放するかのように大声を上げる。
皆そのまるで幼い日に聞かされた想像上の魔獣の如き咆哮にビビりあがり挙動を止める
「、、、つまらん。興をそがれた。お前たちは武人ではない。命を捨てる覚悟はあっても、命を懸ける覚悟はない。貴様らを殺しても俺は不快な思いをするだけだ。
その命見逃そう。だが、一つ忠告しておく、本気で大切なものを守りたいのなら戦う事をあきらめるな。黙せば奪われ、逃げれば狩られるぞ。
鬼どもを甘く見るな。鬼に従えばそれで良しなどとはならん。
その躊躇いなく命捨てる覚悟があるなら、貴様らにはまだやる事があるはずだ。その為にもその人質、お前たちにくれてやる。力を持たぬ貴様らがそれをどう使いどう立ち回るか
だが、次に戦場であうことあれば、覚悟をしろ、再び戦場に立つという事はいかな理由でも俺は見逃さん。二度目はない、いいな」
「諦めなんていないさ。ただ、俺たちはあんたとは違う。俺たちには俺たちの戦い方がある。
あんたも覚えていてくれ、この青いリボンは俺たちの国の象徴する色だ。
これは俺たちの反抗の証。ケレスに占領されてそれど、終わりじゃない。
これをつけたものは俺たちの仲間だ」
「だったら何だ?敵として俺の眼前に武器を持ちたつのならば、
俺は手心を加えるつもりなどない。
敵に敗北し下ったフリを見せ、その実腹に反逆の意志を持ち、敵に見逃がせなどと
どうあっても生き残る、その心意気はよし、されど俺には通用しない」
「できれば、君の敵にはなりたくないな。私の名はシュバルツ。反抗軍の幹部だ」
「知るか、聞いていない」
「私たちの国を取り戻すために力を貸してくれないか!その力ケレスの悪魔に対抗できる唯一の力だ。礼なら何でも、それに私たちにできる事ならどんなことでも、、」
「しつこいぞ、俺は貴様ら負け犬の卑怯者に、施される恩赦もなければ、できる事などもあり得ない。消えろ、」
真継はケレス軍の旗の下にフロッカスの国旗の青のリボンを結んだ彼らを見逃した。
負けれど、奪われ、従えど、それでもなお、彼らは、、、