開戦!
人々が争う声が聞こえる、真継は森の切れ目を前方に確認すると大きく飛び上がり、まるで天から舞い降りるか如きに、眼下に戦火の平原を望む崖の舳先に着地した。
現在、劣性であるアラビスが戦線を押され、まさしく自分の足元で激しく戦いが繰り広げられている。
響き渡る怒号、耳に響く悲鳴、金属がぶつかる音、地鳴りの如き足音。全ての音が戦いだ
「久しぶりの戦の匂い。それにこの感じ、いるな。鬼だ」
真継はまるで悪魔の様に声に出して笑う。
そして、なんとか自分の高まる感情と闘争心を抑え込む。
そして、戦場を隅から隅まで見渡し、確認できる限りの状況を把握すると、真継は刀を抜き、今まで抑え込んでいた感情を開放するかのように切っ先天に向けて抜刀する。
すると貫かれたように雲に穴が開き、曇天の空、真継の所にだけ光が降り注ぐ。
真継はその光に刀をかざし、その黄金の輝きを戦場に見せつけた。
「両軍の者ども、この戦場にいる武士よ、すべからく聞け、貴様らには一切の恨みなどないが、一飯の恩義の為、この場にいる全てを排除させてもらう。
戦う意志がある者は俺を殺せ。臆する者は武器を捨てされ、
殺すつもりがないが、されど結果死ぬとも限らぬ。
今この時を持って貴様らの敵は俺ただ一人だ。さぁ、戦いだ。知略を巡らせ、悪意を示せ」
真継は足元に斬撃を振るい。自らの足場を崖から巨大な落石に代え戦地に降り立った。
皆があっけにとられる中、刀をしまうと、土煙の中から、現れた真継は問答無用に、手当たり次第に、その武を振るう。彼の移動の速度で、風が流れ、漂うはずの土煙は、彼を追うように流れて行く。その姿はまるで戦場に降りた龍の如き、真継という最強の牙を持った土煙の龍が我が物顔で、戦場をかけていく。
敵と味方の区別もついていない真継を前に、アラビス軍が幸運だった事は、劣勢に立たされ、既に戦意を失いかけていた事により、兵士たちは、この突然現れた相手に戦う事は出来なかった。そしてすぐに上層部もこの不測の事態に撤退命令を出した事だ。
その事により、真継はこの突然現れた化け物を排除するために注力したケレス軍に向けて進行を開始した。真継の強さは圧倒的。
兵士たちが皆感じているのはケレス軍侵略の折とは別種の恐怖。
数でも、技術でもなく、未知への恐怖でもなく、目の前にいる人間の『力』に対する恐怖だ。
そして対峙して分かる、この男の狂気。誰も彼もが彼を恐れ、怯えることしかできない。
だが、時間がたつにつれ、指揮系統を取り戻してきたケレス軍は陣形を取り、この化け物に対応しようとする。
そして彼らもまた、ただ上の命令に従う事しかできない。
「だ、大丈夫かよ。いくら上層部の命令とは言え、あんなのものそうすりゃいいんだよ。
「お、俺は、死なないぞ、この戦いが終わったら結婚するってキャスと約束したんだ」
「俺もだ。来月には子供が生まれるんだ。子供の顔を見るまで死ねるかよ」
「俺だって、やっと親父に認められたんだ。ケレス軍に下っても、生き延びて絶対に将軍になるって。そういう希望をこの絶望中でやっと見つけたんだ」
「アンナに帰ったら腹いっぱいステーキ食わせてやるって言われたんだ。それを食わずに死ねるかよ」
「行くぞみんな!、俺達下町ドラゴンバスターズの力見せてやろうぜ」
「残念、そいつは全部死亡フラグだ」
フロッカスで生まれた親友4人の前に現れた真継。ただの一撃、それだけで4人まとめて今までの努力も覚悟も無に帰る。
「お前ら、、、いくらなんでも弱すぎだ。おとなしく引いてろ」
真継は彼らのあまりの弱さに思わず我に返り、まさかのこの状況下で相手を気遣う異常事態。真継は復讐目的ではなく、武人として、男とすらみなせず、彼らを見逃した。
「お、俺もう、戦うの嫌だ」
「俺もだ、あんなのかなうわけないだろ」
「父さん、やっぱり俺、おとなしく下級役人になるよ」
「アンナには勇敢に戦ったって」
「あぁ、もちろんだ、だって俺たちは、、、」
その時だ、彼らの10mほど先で猛威を振るう真継がそれなりの強敵と対峙し、その攻撃の衝撃波が彼らを地面事吹き飛ばし、彼らは気を失う事となった。
真継は既に興味はすでに彼らにはなく、巻き込まれ、不恰好に吹き飛ばされているなどつゆ知らず、目の前にいる、彼の拳を受け止めた男に注がれていた。