竜守の姫君
「とうとう追い詰めたぞ!」
「ここで葬り去ってくれる!」
「覚悟っ!」
魔術師1、剣士1、勇者1。
魔術師は先端に緑の丸い宝玉が浮かぶ金色の杖を目の高さに掲げ、剣士は装飾の少ない幅広で長大な両手剣を軽々と構え、その二人から一歩前に出た形で、勇者が勇者装備と思しき剣と盾をこれでもかと見せつけながら広いダンスホールの壁際にまで追い込んだ黒い子竜を睨みつけている、と。
状況を確認して、すぐに勇者のもとに駆け寄り進路を塞いだ。
「どうかおやめください勇者様!」
「姫!?ここは危険です!あちらで隠れていてください!」
そんな勇者が示した場所など見向きもせず、なんとか攻撃をやめてもらえないかと大きく両手を広げてなおも立ちふさがる。
「いいえ、隠れてなどいられません、あなたは勘違いをなさっています!」
「わたしは何も勘違いなどしていません!さあ、そこをどいてください!!」
ここで涙の一粒でも流せたら勇者は攻撃をやめてくれるだろうか?
・・・たぶん無理、よね。
正義感か打算かはわからないけど、一晩泊めてやった恩も忘れて家主に剣を向けているのだもの。
そもそも勇者一行は魔王を倒すために旅をしている途中、偶然、たまたま、ほんの気まぐれでこの小さな古城に立ち寄っただけだ。
住んでる側にとってそれはとてもはた迷惑なことで、しっしと追い払うべき相手である。
よって、昨日ここに泊まると言い出されたときも、日暮れには十分間に合う距離に立派な町と宿があると丁寧に教えて追い払ったつもりが、逆にしつこく食い下がった挙句、もしや何かあるのかと勘繰りだして。
かなりイラついたものの、変な噂が立つと困るから仕方なく泊めてやったのに。
翌日にはこの仕打ち・・・クフィも人型だったし、おかしなところは何もなかったはずなんだけど?
いくら考えてもわからなくて、ふぅと溜め息を一つ吐き出すと勇者から距離をとるように数歩さがった。
「・・・なら、仕方ありませんわ。」
両腕を体の正面、肩の高さで真っ直ぐ伸ばすと左手は鞘を握るように空を掴み、右手は剣の柄を握るように空を掴む。
ゆっくりと両腕を左右に離して行くと、ぼんやりと青い輝きを放つ細身の剣が現れた。
「えっ?姫!?」
「ちょっと・・・」
「まさ、か?」
ふわりと水色のドレスを揺らし、勇者一行に対してぴたりと剣先を突きつける。
「わたくしが相手です。」
「口ほどにもありませんわね。」
剣先を鋭く返して鞘に戻しながら、意識を失った三人を見下ろしてふんと鼻を鳴らす。
「・・・ミリー?」
心配げな声に振り返れば、クフィがそわそわと落ち着きの無い様子でこちらを窺っていた。
「もう大丈夫ですわ、悪は滅びましたから。」
剣を消してにこっと微笑むと、とたんにツヤツヤの黒髪をした子供に変身したクフィが突進してくる。
それを両手を広げて抱きとめると、ぎゅっと腰に腕が回った。
「ミ、ミリーぃ!怖かったよぅ!うっ、ううっ、うぇっ・・・!」
「ふふっ、クフィは泣き虫さんですわね?」
その背を落ち着かせるように何度も撫でていると、一度大きく鼻をすすってからクフィが顔を上げた。
そっと見上げてきた瞳はチョコレート色で涙に濡れてキラキラ輝いている。
・・・クフィを泣かせた罪は重くってよ?
「あいつらをこの城から一番遠くに転送した後、特大の雷魔法も数発追加しておきますわ。」
クフィの肩を抱き、ほほほ!と笑って指の一振りで勇者どもを転送してやった。