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通販狂想曲・スタジオは今日も地獄の様相

作者: 苔桃

とんでもない商品ばっかり出てくる、テレビショッピングものを書きたかったので書きました。

通販番組。

それは、読んで字の如く商品の魅力をあますところなく伝え、購入意欲を煽る番組である。

商品の素晴らしさを紹介するために、その性能がどれほどのものかをアピールするために、通販番組というのは存在している。

────だが。

あらゆることに対して、例外がある。

これから語られるのは──紹介する商品のアピールが悉く空回りし続ける、とある通販番組の話である。


とある土曜日の昼下がり。

付けっぱなしにしていたテレビが、見たことの無い番組を映していた。


『今週もやってきました! わくわくショッピングのお時間です! 進行は私、一条和樹と!』

『アシスタントの、私桐谷梨乃がお送りいたします!』


何ということはない、ただの通販番組らしい。

テレビの電源ボタンに手を掛けたところで────。


『お料理をしていると手が足りない、もっと腕があればいいのに──そう思うことってありません?』

『ああ! ありますあります! お料理中って、阿修羅が羨ましくなりますよね!』


おおよそ、通販番組で聞いたことの無いフレーズが飛び出してきた。


『そこで、今回する商品はこちら! 万能副腕!』

『わあ、なんですかこれ! すごーい!』


進行役の男が取り出したのは、一対の──見るからに機械の腕。


『この万能副腕はですねえ、接続した人間の思考を読み取って、したいことをしてくれるんですよ!』

『ええ!? そんなことができるんですか!?』

『しかも見てください! なんとこれ、伸縮自在なんです!』


男の言葉に呼応するかのように、その腕が伸縮をする。

その様子は、控えめに言っても気持ち悪い。


『すごーい! これなら、料理中にあちこち移動しなくて済みますね!』

『それでは実際、この万能副腕を使って野菜炒めを作ってみましょう!』


スタジオに用意されたキッチンに、野菜と調味料が並べられる。

いかに効率良く料理ができるかということを、実演するらしい。


『それでは、万能副腕セットオン!』


機械の腕が、男の両脇に接続された。

その腕は確かに自動で動き、手の開閉を行っている。

どういう理屈かはさっぱり不明だが、性能に関して男の言葉に嘘は無いようだった。


『それではまず、野菜を切っていきましょう!』


男の腕と機械の腕がそれぞれ包丁を握り野菜を切る──はずだった。

少なくとも、誰もがそうなると思っていただろう。


『えっ』

「えっ」


だが、男が野菜を切り始めた瞬間。

機械の腕は包丁を置き、その腕を伸ばして雑誌を手に取り開き始めた。

男の目線の高さに雑誌を広げ、その様相は誰がどう見ても妨害そのものだ。

男の視界は開かれた雑誌に遮られ、困惑の声が上がっている。


『ちょっ、えっ!? 何!? ちょっ、邪魔! 邪魔だって!』


男の混乱をまるっきり無視して、万能副腕は呑気に雑誌をめくっている。

女性アシスタントも何が起こっているのか把握できていないようで、呆然とその光景を見つめている。


『桐谷さん! ちょっと、これ外して! 外────』


ブツッという音と共に、画面が切り替わる。


『映像が乱れておりますので、しばらくお待ちください』


表示されるメッセージと、一面のお花畑。

何だこの通販番組。

出てきた商品も実演も、何もかもが通常の通販では有り得ない。

今の通販番組について、インターネットで調べると実況していたサイトがすぐに見つかった。


『いつもの』

『待ってました』

『この番組はこうでなくっちゃ』


どうやら珍しいことではないらしい。

そうしているうちに、テレビの画面が切り替わる。

スタジオのセットと万能副腕は跡形もなく消えており、完全になかったことにされたようだ。


『最近、困ってることってありませんか?』

『そうですねえ……最近、寝付きが悪くて……』


しれっと続けているのが凄い。

その辺はやはり、プロということだろうか。


『そこで、今回する商品はこちら! 安眠ヘッドホン!』

『わあ、なんですかこれ! すごーい! 素敵なヘッドホンですね!』


取り出されたのは、どう見てもただのヘッドホンだ。


『このヘッドホンはですねえ、装着した人の脳波を読み取って、その脳にとって癒し効果のある音声を流しながら安眠に誘ってくれるんですよ~!』

『すごーい! これなら、ぐっすり眠れるんですね!』

『それでは実際、使ってみましょう!』


用意されたベッドに、ヘッドホンをつけた男が潜り込む。

今回、男の聞いている音声は番組にも流れるらしい。

そして、流れ始める音声────。


『…………』

「…………」


番組が凍りつく。

恐らくスタジオも、そして番組を見ているお茶の間も完全に凍りついていただろう。

流れている音声が、女性の艶めいた声。

つまり、まあ──そういうことだ。

当然のように、音声が途切れ画面が切り替わる。


『映像が乱れておりますので、しばらくお待ちください』


表示されるメッセージと、一面のお花畑。

実況していたサイトも、大いに盛り上がっている。

どう考えてもアウトなのだが、まだこの番組は続くのだろうか。


『ペットって、いいですよねえ!』

『本当にいいですね! 私も犬を飼ってるんですけど──』


続いた。

本当に、何事もなかったのように続いた。


『でもペットは実際に飼うと、お世話が本当に大変ですよねえ……』

『そうなんですよねえ、そんなところもかわいいんですけど……』


それでも、どこか気まずさを感じさせる空気の中。


『そこで、今回紹介する商品がこちら! ペット型ロボット、"ポチ"!!』


登場したのは、ダックスフントを機械化し、頭部をモノアイにしたような機械犬。

歩く度に金属音をガシャガシャと鳴らしていて、お世辞にもかわいい外見とは言いがたい。


『このポチはなんと、完全自立型! 音声に反応して、その通りの行動を取ってくれるんです!』

『こんなにもかわいくて素敵なのに、そんな機能まで! すごーい!』


女性アシスタントが、目を輝かせている。

さすがに今回は、まともな代物なのだろうか。


『それでは、実際に試してみましょう!ポチ、おいで~!』


男が満面の笑みで、両腕を広げている。

あの機械犬が歩いていって、その懐に飛び込むのだろう。

誰もが、そう思っていたはずだ。


『えっ』

「えっ」


おそらく、この番組を見ていた全員が同じリアクションをしたに違いない。

呼び掛けられたポチが取った行動は、歩行ではなく────。


「────」


変形だった。

ポチは手足を収納し、ロケットエンジンを吹き上げて──男に向かって一直線に突っ込んでいった。


「おぶぉッ!!」


ポチが男の鳩尾にめり込む。

男が口から血を吐き散らかしながら、スタジオのセットに叩きつけられた。


『映像が乱れておりますので、しばらくお待ちください』


三度目のお花畑である。

実況サイトも熱く燃え上がっていて、テンションが最高潮になっていた。

さすがに進行役の男性が可哀想になってきているのだが、まだ続くのだろうか。

いや、続けられるのだろうか。

前の二つとは違って、今度は物理的なダメージだ。

しかもあの勢いで機械犬が急所に突撃したわけだから、この後出てこれなくても不思議ではない。


『続いての商品はこちら! 万能回復薬です!』


続いた。

だが、映像が切り替わったあの後も明らかに何かあったらしい。

男の皮膚のあちこちに深々と引っ掻き傷が刻まれていて、血が滲んでいる。

女性アシスタントも、かなり困惑していた。

たぶん、この番組を見ている視聴者たちも、同じ気持ちでいることだろう。


『この回復薬の効能は凄いですよ! 飲めばどんな傷もたちどころに全回復! 元気ハツラツになれますから! 私が実際に飲んで、その効力をお見せしましょう!』


男が手にした瓶を一気に煽った。

何が起こるのだろう。

少なくとも、ロクな事にはならなそうだが。


『おっ……おおおっ……!!』


男の言葉通り、深々と刻まれた爪痕の数々が淡い緑色の光に包まれて消えていく。

ここまでで終わるのなら、普通に魅力的な商品だ。

どんな傷も直せるという触れ込み通りなら、医者が真っ青になることだろう。


『うっ……おおっ……おおお───ッ!!』


勿論、それで終わってくれないのがこの番組に出てくる所以。

傷が全て塞がった後には、男の全身が緑色の光に包まれ、その筋肉が膨れ上がり続けている。

腕が、足が、胸部が、筋肉を伴い肥大化していく。

勿論衣服はとっくに弾け飛んでおり、男は既に全裸になっていた。


『ハァ……ハァ……す、素晴らしいパワーだ! 今の私なら鉄板を叩き割れるぞ! フハハハハ!』


脳味噌が筋肉に支配されたのか、男が全裸で高笑いを始める。

顔を背けている女性アシスタントと、高笑いする筋肉。

文字通りの地獄絵図である。


『映像が乱れておりますので、しばらくお待ちください』


当然である。

だが、今回はやたらその時間が長い。

流石に公共の放送で全裸はまずかったのか、それとも予期せぬ効能を発揮して、解決方法が見つかっていないのだろうか。


『えー、諸事情により、ここから先は私、森山誠治が進行を勤めさせていただきます』

『よろしくお願いしまーす』


解決方法は見つからなかったらしく、別の男が進行役に納まった。

それにしても、ほぼ動じていない女性アシスタントが地味に凄いと思うが、この番組は毎回こんな感じなんだろうか。

実況サイトは相変わらず盛り上がっている。


『飲むだけでおれもマッチョになれるのか』

『傷を治せてマッチョになれるなんて、買うしかねえ!』


等と、あの回復薬が気に入った反応も散見された。


『本日、最後の商品がこちら! 風の精霊の力が込められた掃除機、パワーサイクロンVです!』

『わあ、すごーい! 普通の掃除機と、何が違うんです?』

『なんとこの掃除機はですねえ、通常紙パックに当たる部分が、風の精霊が巻き起こす風のホールが渦巻いていて、あらゆるゴミを吸い取り、消し去ってくれるんですよ~! しかも、直接掛けている部分以外にもこの風のホールは反応してゴミを吸い取っていくので、かけているだけでどんどん部屋が綺麗になっていく優れものなんです!』


成程、性能だけ聞けば確かに素晴らしい掃除機だ。

だが、この番組で登場する商品である。

もはや信用など一欠片もなく、どんな欠点が飛び出すのかという不安しかない。

実況サイトも同じ感想を抱いているらしい。


『やばそう』

『やめとけ』

『嫌な予感しかしない』


というコメントで溢れかえっていた。


『それではまず、こちらのVTRからご覧ください』


画面が切り替わり、映し出されたのはゴミと埃にまみれ、ガラクタがそこらかしこに転がっている、所謂汚部屋と呼ばれる場所だった。


『ここまで散らかってしまった部屋、片付けるのって大変ですよねえ~!』


主婦とおぼしき人物が、部屋の惨状に頭を抱えるジェスチャーをしている。

確かに、ここまでの部屋になってしまったら、片付けは相当骨が折れるだろう。


『でも大丈夫! この最新型掃除機、パワーサイクロンVがあれば、そんなお悩みも一発解決!』


主婦が得意気な顔で、掃除機を取り出してきた。

パワーサイクロンVを起動させると、埃が、ゴミが吸い込まれていき、その部屋は元々の様相を取り戻していっている。

だが、それだとガラクタはどうにもならないのでは。

そんな疑問を払拭するかのように、ガラクタが持ち上がり吸い込み口に当たる。


「これは……」


その触れ続けているガラクタが、どんどん小さくなっていく。

そうして問題なく吸い込めるサイズになった後、ごく普通に吸い込まれていった。


『このパワーサイクロンVのポイントはここ!風の魔法で吸引したものは、ヘッドに当たると縮小魔法がかかり続け、自動的に吸い込めるサイズにまで小さくできるんです!』


それなら確かにどんな部屋でも綺麗にはできる。

一応は尤もらしい説得力を伴って、掃除は続けられていった。


『ご覧ください!あのどうしようもない程に散らかっていたお部屋が、まるで別物と呼べるほどに綺麗になりました!』


物一つ、埃一粒さえ残さず完全に綺麗になった部屋。

VTRに出ている主婦も、得意気な笑みを浮かべている。

これは今までの中では、一番正当でまともな商品ではないだろうか。


『それでは、このパワーサイクロンVを使って、このスタジオも綺麗に掃除しましょう!』

『どれくらい綺麗になるのか、楽しみです!』


男がパワーサイクロンVをかけ始める。

特に今のところ、問題らしい問題は起こっていない。

だが。


…………ガタッ


惨劇を予感させる、小さな音がした。

進行役とアシスタントは気付いていないのだろうか。

背景のスタジオにある様々なセットが、微かに浮き始めていることに。


『あっ』

『これはやばい』

『南無三』


おそらく、気付いた時には手遅れだっただろう。

スタジオは完全に崩壊し、文字通りにその全てを呑み込むその直前。


『映像が乱れております。本日、全ての商品を紹介したため、わくわくショッピングは現時刻を以て本日の放送を終了します。来週もまた見てくださいね。本日の商品で、気になるものがあったかたはこちらにお電話を! お待ちしております』


と、最後の花畑と共にそんなメッセージが表示された。

電話をする人なんているんだろうか。

そんなことを考えながらテレビの電源を切る。


「…………確かに、面白い番組だなあれは」


とりあえず来週も見てみたい。

そんな事を、思っていた。

トンチキテレビショッピングの空気がきちんと書けていたか不安です。結構トンチキに書いたので、そのトンチキ具合が伝わってほしいなと

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