表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/25

7、火山のゴーレム

 今日はいよいよゴーレムの討伐作戦の日だ。


 拠点の出口に戦士団が整列している。

 200人位はいるだろうか。

 中央前方には団長が立っている。


 そして、メイス部隊をテオが、トライデント部隊をジクロが、救護隊をカルバが、偵察隊をニトロがそれぞれ率いている。


 団長が戦士たちを見て叫ぶ。


「本日の討伐作戦は今までとは異なるものとなる! 巫女リファの力をもって雨を降らせ、ゴーレムたちを一斉に叩く! 本作戦が成功すれば我々はゴーレム撲滅へ大きく前進することができるであろう! いざ出撃!」


「おおぉぉぉぉぉ!!!」


 戦士たちが羽ばたいていく。

 その後ろ姿は勇ましくもあり、神々しくもあった。


 私はというと⋯⋯

 担架のようなものに乗せられて4人がかりで運ばれることになっている。

 飛べない怪我人と同等の扱いだ。



―—ふわっ

 身体が宙に浮かぶ感覚がした。

 担架を持った4人が飛び立った。

 

 空を飛んでる!!


 地面がどんどん遠ざかっていく。

 それはなんだか心もとないような、でもワクワクするような不思議な感覚だった。


「どう〜? リファ〜! 初めて空を飛ぶ感覚は〜!」


 隣を飛んでいるカルバが叫ぶ。


「ふわふわして夢みたい!」


 私は叫んだ。


 カルバも担架を持ってくれている4人も優しく笑う。

 しばしの間、夢中になって空を楽しんだ。

 カルバや救護隊の戦士たちが声をかけてくれるので、作戦への緊張もほぐれてきた。


 そして、予定の地点に達したので自分の役目を果たす。

 私は、西を向くと祈りを始めた。


 火山に向かって飛ぶ戦士団一行の頭上は、後ろから迫る暗い雲に覆われる。


―—ザーザー

 雨が降り出してきた。

 ゴーレムを弱らせるために、強めの雨だ。



―—ピーーーー

 前方から笛の音が聞こえてくる。

 団長からの有効な降雨量の合図だ。



―—ピッピッピッピッ

 今度は偵察隊からの合図のようだ。



 偵察隊は戦士の中でも飛行速度と高度、視力が優れている者が選ばれる。

 戦場の様子を広く見渡し、迅速に合図を送る必要がある。


 そのまましばらく飛んで行き火山に近づくと地面を覆い尽くす無数の巨岩が見えてきた。


「リファ。あれよ」


 カルバが指を指す。


「あれがゴーレム⋯⋯」


 おびただしい数のゴーレムがいる。

 その姿は巨大な岩石が複数集まって頭や胴体、手足を形作っているように見える。

 まるで人の形をしているが、やはり大きな岩の塊だ。


 ⋯⋯あんなのをどうやって倒すの?

 その体はとても硬そうで、人間の力で壊せるとは到底思えない。


 今までは、雨の日に出撃したくてもこの地域はそもそも雨の日が少なく、運よく雨が降っても途中で止んだり弱まったりすることもよくあったらしい。


 雨が弱まるとゴーレムは投石をしてくる。

 投石による怪我や墜落などで大勢が命を落としてきたそうだ。


 雨が連続で降る日があっても戦士たちの体力や怪我による戦力不足などで、出撃を見送る日もあったとか。

 討伐頻度の低さからか一向に数が減らせず、かろうじて居住区に近づかれることを阻止できている状態なのだそうだ。


 目的は火山活動を止めさせるためにゴーレムを根絶やしにすること⋯⋯


 そして、これ以降の私の役目は雨を弱らせないことだ。


「総員配置につけ! 出撃せよ!」


 団長の掛け声とともに戦闘が始まる。


—―トライデント部隊は三叉の(やり)を武器にしている。


 ジクロはゴーレムの周りを素早く飛び回る。

 ジクロを殴ろうとするゴーレムの背後に回り込み、頭部と胴体の隙間にトライデントを差し込んだ。


―—ゴォォォォ

 ゴーレムの頭が取れて転がり落ち、やがて本体も地面に倒れる。

 辺りに泥のしぶきが飛び散る。


 身体が軽いことを活かした、小回りを効かせた戦い方なのだろう。

 それにしても自分よりもずっと大きなゴーレムを倒すなんて…


―—メイス部隊は大きい金づちのような棍棒(こんぼう)を使う。


 テオは上空まで急上昇した後に、羽根を閉じて横回転しながら急降下すると、ゴーレムの頭部にメイスを打ち付けた。


—―ゴォォォォ

 頭部の岩は砕け散り、ゴーレムはうめき声を上げて倒れた。

 

 重力による加速力と、回転の遠心力をうまく武器に乗せているようだ。


 そしてまたテオは急上昇し、華麗な身のこなしで次々と倒していく。



—―ピーッピーッ

 ニトロ率いる偵察隊は遥か上空から戦況を観察し、笛で合図を送る。



「メイス部隊に負傷者発生。1班、救護に向かって」


 カルバが指示を出す。


「はっ!」

 

 すぐに4人一組の救護班が負傷した戦士の元に向かう。


 救護隊の戦士は戦闘には参加せずに、救護を専属で行っている。

 中には医者と同等の知識と技術を持つものもいる。

 負傷者や物資の搬送も担当しているため、体力も必要である。


 激しい戦況の中、それぞれが役目を果たし連携が取れている。


―—それからしばらく経つと戦士団に疲れが見え始めてくる。

 対してゴーレムはまだまだ数え切れないほどいる。


 しかし、ゴーレムの動きはだいぶ弱まりほとんど丸まっているだけの個体も増えてきた。


―—ピーピーピーピー

 団長からの退却の合図だ。


 それぞれが戦闘を離脱し、退却の準備をする。


 何やら戦士たちは倒れたゴーレムの額を砕いて何かを取りだした。


「あれは何をしているの?」


 カルバに尋ねる。


「あぁ、あれは戦利品の回収だよ。ゴーレムの額の宝石。持ち帰れば街の貴族に高く売れる。たくさん倒した戦士は取り分が多いからね。家族の治療費や生活費を目的に討伐に参加している人は多い」

「そうなんだ」


 とっさに抱いた感情はかわいそう―—だった。

 正直、ゴーレムという生き物を直接見ても、何を考えているのか何が目的なのかよく分からない。


 ただ、無抵抗に殺されて、奪われた宝石は人間の貴族を飾り立てるのに使われる⋯⋯


 殺されたゴーレムの死体はあちこちに転がっている。


 私が読んだ本にはゴーレムは誰かが作った泥人形で、魂を吹き込むことで誕生すると書かれていた。


 また、宝石には魔法の力を宿すものがあるという記載もあったが関係あるのだろうか。


 ゴーレムは誰かが作っているのか、それとも自然に発生するのか⋯⋯

 

 よくわからないが、なんだか後味が悪くなってしまったことだけは確かだ。


 しばらくして戦士たちは再び列を成す。

 拠点への帰り道、担架に乗っているのは行きと同様に私だけだった。


 一人の死者・重傷者も出さずに作戦は終了した。

 これはゴーレムと戦士団の争いの百年の歴史で初めての快挙だった。


 戦士たちはかつてない勝利をおさめたことで喜びに満ち溢れていたが、私は複雑な心境だった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ