5、恵みの雨
―—戦士団の拠点に来てから数日後、私は先日の戦士団の面々と共に、拠点の屋上に来ていた。
私の天を操る力を見せてほしいとのことだった。
屋上からは周囲の様子がよく見えた。
街は空を飛ぶ人間たちの生活の場ということもあってか、家や店が積み木のようにかなりの高さまで組み合わさって建っている。
ただ、この戦士団の拠点よりも高い建物はなさそうだ。
振り返ると例の火山が見える。
地面はすり鉢状に徐々に遠くなるほど低くなっていき、一番低い辺りに火山があった。
かなり高低差があるのと距離があるからか、火山は想像よりもずっと低く小さく見える。
360°見渡す限り空には雲一つない。
風もほとんど吹いていない。
「ゴーレムたちは雨で身体が濡れると活動が弱まります。そのことが判明してからは我々が作戦を決行するのは雨天のみになりました。天候を操ることができれば、作戦の実行回数や成功確率が向上することでしょう。リファ様には今ここで、雨を降らしていただけたらと思います」
団長が言う。
「わかりました。少し時間はかかります」
団長から離れた場所には補佐官のレバと戦士のテオ、ジクロ、カルバ、ニトロが立っている。
私の力が本物か見定めるために。
そして私が失敗すれば、この人たちにこの場で処刑されるのだろうか⋯⋯
「では始めます。祈りを捧げますのでお静かにお願いします」
私は振り返り、街の方を向き直した。
こちらが西の方角だからだ。
石で作られた床に両膝をつき、両手を胸の前で組む。
そして目を閉じて祈りを捧げる。
「生贄は使わねぇのか?」
「そうみたいだね」
戦士たちが何やらヒソヒソ話している声が聞こえる気がする。
―—集中しよう。
祈りを始めると風が吹き始めた。
空がいつもの何倍もの速度で流れていくように見える。
戦士たちもその変化に気づいたのか固唾をのんで見守っている。
西の山の方から暗い色の雲がだんだんと集まって流れてくる。
さっきまで晴れていた街が雲に覆われて暗くなってくる。
―—ポツポツ
雨が降ってきた。
―—教会——
「雨だ! 雨が降ってきたぞ!」
教徒たちが叫ぶ。
「やはりリファ様のお力は本物だ! さぁ皆で祈りを捧げよう!」
ウルソは教徒たちと共に祈りを捧げた——
街を覆っていた雨雲は拠点の上を通過し、火山の方へ流れていく。
戦士たちの身体にも雨の雫が降り注いだ。
「雨だ⋯⋯」
「本当に降ってきた」
「すごいぞ! これで奴らを倒すことができる!」
戦士たちが口々に言う。
—―成功だ
私は目を開けて、戦士たちの方へ向き直った。
「え。何か?」
突然、戦士たちが私の目の前に次々に跪いた。
「リファ様。先日のご無礼をお許しください。」
団長が言う。
「力は本物だった。疑ったこと、武器を向けたこと、申し訳なかった。」
ジクロが続けて言う。
「リファ様。あなたの力があればゴーレムたちから人々を救うことができる。勝手ばかり申し上げますが我々に力をお貸しください。」
団長が頭を下げながら言った。
本音を言えば、本当にその通り。
勝手だなと思った。
でもこの人たちは今までにたくさんのものを失って来たのだと思うと複雑な心境だった。
何度もすがっては裏切られ、信じては裏切られて来たのだろう。
ある意味で自分の境遇とも似たものを感じた。
まぁ、あまりこの人たちに感情移入しすぎるのは、己の身を滅ぼすことになるから良くないのだけれど。
でも自分がこの人たちを救えるなら力になりたいと思えた。
「わかりました。協力します。ただし、私の身の安全だけは必ず保障してください。あと⋯⋯様付けはもう良いです。」
跪く団長に手を差し出した。
私は、戦士たちと順番に握手を交わした。