4、戦士団
―—翌日、私はウルソに連れられて戦士団の団長室に来ていた。
ここで戦士たちと顔合わせするようだ。
部屋に入ると6人の人間が立っている。
⋯⋯本当に全員羽根が生えているんだ。
どうやら羽根の色と髪の毛の色は同じになるらしい。
「こちらは巫女のリファ様だ。天を操る力をお持ちだ。昨日の召喚の儀式は成功した!」
ウルソは胸を張って言った。
「リファ様。私は戦士団 団長のロキです。今後ともどうぞよろしくお願いいたします」
ロキは頭を下げた。
ロキは長身でガタイの良い男性だ。
明るい茶色の髪の毛を後ろにかき上げたような髪型をしている。
顎には何かで擦ったような古傷がある。
ここにいる戦士団の人間の中では、一回り以上年長者のように見える。
「こちらにいる者たちをご紹介します」
団長は立っている戦士たちを順番に紹介してくれる。
「戦士団 副団長 テオ。メイスの使い手です」
テオは軽く頭を下げた。
銀髪に藍色の瞳の長身な男性。
彫刻のような顔からは感情が読めない。
メイス——金づちを大きくしたような武器を背負っている。
「同じく戦士団 副団長 ジクロ。トライデントの使い手です」
ジクロはこちらを睨んでいる。
黒髪に赤色の瞳、他の男性の戦士たちに比べると身長が低い。
整った顔をしているが、目つきが鋭い。
トライデント——三叉の槍のようなものを手に持っている。
「戦士団 救護隊 隊長 カルバ」
カルバは柔らかく微笑みながら頭を下げた。
水色の髪に水色の瞳、髪は羽根の付け根くらいまで伸ばしている。
色気のある華奢な女性だ。
「戦士団 偵察隊 隊長 ニトロ」
ニトロは歯を見せながら笑った。
赤茶色の髪は短く、立っている。
爽やかな長身男性だ。
この世界に来てから初めて明るい笑顔を向けられて少し心が和らぐ。
「最後に、私の補佐官を務めております。レバです」
緑の髪は肩にかかるくらいの長さである。
聡明そうな女性だ。
「以上です」
団長の紹介が終わる。
これからこの人たちと一緒にゴーレムを倒すのか⋯⋯
そう考えているとジクロが発言する。
「団長、巫女様とやらに色々と言いたいことがあるのですが」
ジクロは間髪入れずに話始める。
「巫女様だかリファ様だかなんだか知らないが、レイン教の女神様とは姿がずいぶん違うようだが」
確かに昨日礼拝堂で見た女神の絵は、背中に羽根が生えており、美しい金色の髪の毛は膝下位までの長さがあった。
それに対して私は、茶色の髪の毛で長さは肩くらいまでしかなく、もちろん羽根はない。
「今まで預言者だとか魔術師だとか名乗ってたヤツのせいで何人の仲間が死んだ? 嘘つきの人殺しを何人処刑してきた? 偽物が現れるたびにどれだけ戦士団は教会に金を払ってきた?」
ジクロは続ける。
「今度怪しいヤツが現れたら拘束して戦士団に明け渡すと約束したはずだが、なぜこいつは拘束されていない?」
ジクロに睨まれたウルソは目を逸らすだけだ。
何それ⋯⋯
昨日ウルソは巫女は今まで現れなかったと言っていた。
けれども、偽物はたくさん居た…ということか。
そして、その偽物の力を信じた結果、死者が出ていると⋯⋯
「でも、召喚成功ということはいきなり目の前に現れたということだろ? そんな奇跡が起きたってことは本物なんじゃないか?」
ニトロが言う。
「召喚の儀式とやらも怪しいが、そうか⋯⋯そうだったな。生贄の命と引き換えがお前だったな」
—―シャリン
ジクロは私の首元にトライデントを向けた。
「もし偽物だったらどうなるかわかってんだろうな」
「おい!」
ウルソがジクロを止めようと叫ぶが身体は動かないようだ。
―—どうしてこんなことに⋯⋯返答によっては殺される。
「私には力がある。私を傷つけるようならあなたの家を落雷で燃やす」
「残念だが俺に家はない」
「じゃあ仕方ない。この建物にする」
「雷を落とす前にお前の首を落としてやる」
「私を殺せば天罰が下る」
ジクロとの睨み合いが続く——
「そこまでだ。ジクロ」
団長が制止する。
「今までたくさんの仲間や部下を失ったお前の気持ちは理解できるがさすがにやり過ぎだ。リファ様。申し訳ございません。ここはどうか寛大なご容赦を⋯⋯」
団長が頭を下げる。
ジクロがトライデントをおろした。
―—助かった。
ジクロ。この男は危険だ。
もしかしたら他の戦士たちも表に出さないだけで、同じような考えかもしれない。
私は牽制のために言う。
「あなたたちは何か勘違いしているようだが、私がこの国を救う必要なんてない。すぐにでもこの国を燃やしつくして、どこか別の場所で生きていくことだってできる」
戦士たちは私の発言を聞いているが、何を考えているかは読み取れない。
「今後は何人たりとも私を傷つけないよう徹底してもらう。うっかり街の子供が石でも投げてきたら⋯⋯おふざけでは済まない天罰が下る」
私はジクロを睨みながら言う。
―—私は2つ嘘をついた。
1つ、私の身に何か起きても天罰がくだることはないだろう。
2つ、神が私に与えた役目を放棄して逃げることはできない―
「巫女様には護衛をつけるつもりです。主にテオが担当いたします」
団長がテオに視線を送りながら話す。
「ではレバ。リファ様をお部屋にご案内しろ」
「はい。承知いたしました。リファ様。こちらです」
私はレバの案内で部屋を出た。
顔合わせは最悪な空気で終わってしまった。
―—バタン。
リファが退室し、団長室のドアが閉まった。
その瞬間、戦士たちの緊張状態が解ける。
「ジクロ。このような役回りをさせてすまなかった」
団長は額の汗を拭いながら言った。
「いえ。結局は動揺させることもできず、偽物と自白させることはできませんでした」
ジクロは悔しそうに髪をかき上げながら言う。
「あ〜怖かった」
カルバは腰が抜けたように座り込む。
「さすがにやり過ぎじゃないか? 本当に雷を落とされたらどうするつもりだったんだ? それにあんなにかわいい子なのに⋯⋯なんかかわいそうだった!」
ニトロが言う。
「仕方ねぇだろ。偽物に機密情報を知られたり、作戦をぐちゃぐちゃにされたりするのはもうごめんだ」
ジクロが言い返した。
「テオはどう見る?」
団長がたずねる。
「俺は⋯⋯本物な気がしました…」
テオが静かに答える。
「どうしてそう思った?」
「なんとなく⋯⋯です」
「おいおい。しっかりしてくれよ」
ジクロはため息をついた。
「天を操る力と言っていた。それを目の前でやってもらったらはっきりする」
「そりゃテオの言うとおりだが、雨を降らすのにもさらに生贄がいるとか言い出すんだろ?」
「それは俺にはわからない」
「確かに自分たちの目で見てみないことには信じられない。作戦の前にそのような場を用意しよう。テオ。まずは彼女の護衛を頼んだぞ」
「はい。承知いたしました」
その後も夜遅くまで戦士たちの会議は続いた——