3、スピロノ王国
私はウルソに連れられ、教会の地下から地上にある礼拝堂に移動した。
礼拝堂は100人以上は余裕で着席できそうな広さだ。
高い天井には女神の絵が描かれている。
「この国のことを説明させていただきます」
ウルソはこの国を上から描いた絵を見せながら話し始める。
内容はこうだ―—
この国——スピロノ王国は大昔、大きな火山の噴火によってできた山の山頂が窪んだ土地——いわゆるカルデラにある。
カルデラの窪んだ土地の中央に問題となる火山がある。
人々は火山から離れた西側の土地を利用し、扇状に王国を築いて暮らしているという。
そして、スピロノ王国のさらに西には広大な森と山が広がりその先には海がある。
ここは、スピロノ王国の首都セミドであり、戦士団はゴーレムを迎え撃つため、東に拠点を構えている。
しかし実際は、ゴーレムが居住区まで侵入してくることは過去にはなく、討伐作戦の際には火山周辺に出向いているという。
今、私がいる場所はレイン教の最も大きい教会だそうだ。
レイン教の由来は人々が雨は神の恵みだと考えていることに由来する。
雨は、当然作物や飲水など生活に必要であることに加え、ゴーレムの活動を弱める効果や灰の飛散量が減ることで灰病患者の咳の発作が軽減される効果がある。
1日2回、8時と16時にこの礼拝堂に集まって祈りを捧げている。
―—おおかたウルソの説明が終わったようだ。
雨を降らせることで、ゴーレムの活動を弱らせたり、灰病患者の症状が軽減させられるなら、私の天を操る力は役に立つかも知れない。
「状況はわかった。今度は私から色々と聞きたいことがあるんだけど」
「はい。何なりと」
「まず、その背中の⋯⋯羽根は何?」
明るいところに出てからようやく気づいた。
ウルソの背中には鳥のような羽根が生えているのだ。
「⋯⋯? これはおっしゃる通り羽根でございます。この世界の人間はみな生まれたときから羽根が生えておりますが⋯⋯そういえばリファ様は羽根が無いお姿なのですね」
驚いた。この世界の人間はこの姿が普通らしい。
「この世界に鳥は居ないの?」
「鳥⋯⋯でございますか⋯⋯」
ウルソの反応が悪いため紙に絵を書いてみせる。
「鳥というのは見たことがございません」
「⋯⋯そう」
この世界に鳥はいないみたいだ。
「あと、さっきも言ったけど私は神じゃない。神を名乗ることは神を冒涜することになる。私は天を操る力があるとは言ったけど、正確には神に与えられたお役目を果たすため、力を与えられているにすぎない。これは間違えないでほしい」
「承知いたしました。教徒たちにも伝えておきます」
ウルソは言った。
「最後にもう1つ教えてほしい。今までに巫女でもなんでもいいんだけど、この世界を救う存在は現れなかったの?」
「はい。召喚に成功したのも今回が初めてでございます」
「そう⋯⋯」
おかしいな。いつの時代にも、どんな場所にも巫女は存在するはず。
全ての生きとし生けるものにとって救いになるとは限らないけど、その時代や世界を救う存在が現れるはず⋯⋯
まだ覚醒していないから?
それとも隠れているのか。
そもそも存在しないから私がここに呼び出されたのか⋯⋯
「わかった。ありがとう」
「いえいえ。とんでもないことでございます」
ウルソは頭を下げながら言う。
そして私たちは礼拝堂を出た。
「リファ様は明日には戦士団の拠点に移動していただきます」
ウルソは言う。
どうやらこれからは戦士たちと共闘する流れのようだ。
「本日はこちらでお休みください。このように粗末な部屋しかご用意できずに大変心苦しいのですが⋯⋯」
ウルソの案内で小部屋に通される。
「お世話係がつきますので、何なりとお申し付けください。それでは失礼いたします」
「あ。ごめん言い忘れてた」
私の呼びかけで、ウルソが足を止める。
「あなたが持ってる教典。同じもの私にもくれない?」
私はウルソが大事そうに抱えている本を指差して言う。
「もちろんでございます。すぐに準備いたします」
ウルソが退室し、足音が遠ざかっていく。
念のためベッドや備え付けの家具、窓など色々触ってみる。
⋯⋯ひとまず危険な仕掛けはなさそうだ。
「はぁ。疲れた⋯⋯」
私はベッドに倒れ込む。
さすがに少し休もう。
私はうつ伏せのまま、目を閉じた。
―教会内 別室―
「直ちに戦士団長に伝達せよ。巫女様の召喚に成功したと」
ウルソは教徒の1人に指示する。
「承知いたしました」
教徒はウルソに頭を下げる。
「あとこれを」
ウルソは教徒に紙を手渡した。
「これは⋯⋯?」
「今回の召喚で出た損害だ。こちらは巫女様の召喚に多大な犠牲を払っている。ただで戦士団に渡すというわけにはいかないであろう。金銭が用意できないなら巫女様は渡せないとそう伝えよ」
「⋯⋯承知いたしました」
教徒は戦士団長の元へ出発した。