20、誓い
ジクロとクラリスの結婚式が終わって数日後、私はテオと街外れにある丘に来ていた。
二人で芝生の上に並んで座る。
街並みがよく見渡せる。
「ここは夕日がきれいに見えるらしい。ニトロに教えてもらった」
「お昼でもこれだけいい景色なんだもん、夕方が楽しみだね」
私たちは微笑みあった。
「リファはこの前の結婚式、どう思った?」
思い出されるのは、美しく着飾った二人の姿。
厳かな雰囲気の式。
笑顔の花嫁と祝福してくれる仲間たち⋯⋯
「とても素敵だった!」
「リファもああいうのに憧れるの?」
「どうだろう。あんまり自分のことは想像つかないかも⋯⋯」
「そう。でもきっとドレスも似合うよ。俺には想像できる」
テオはまるで宝物でも見ているような目で私を見つめる。
「テオの正装もきっとかっこいいよ」
戦士団の婚礼時の正装⋯⋯
紺色と金色が印象的なあの服は、テオの銀髪と藍色の瞳によく合いそうだ。
「それと、じっとしてて⋯⋯」
私はテオの前髪にそっと手を伸ばし、髪の毛の束をすくっておでこが見えるようにする。
「ほら。かっこいい」
前髪を上げることで彫刻のようにきれいな顔立ちが強調される。
それになんだか目元がキリッとして見えて⋯⋯男らしくて⋯⋯知的で⋯⋯あと、爽やかというか⋯⋯
テオの顔に見とれてしまう。
「もう。他所でこんなことしてないよね」
テオは前髪を手でくしゃくしゃっとして戻してしまった。
「あぁ⋯⋯」
似合っていたのに。
いつものようにあれこれ話をしていたが、その後沈黙が流れる。
暫くして、テオは真剣な表情でこちらを向いて言った。
「リファ、聞いて」
「はい」
私はいつもと違う雰囲気のテオに向き直ってまっすぐに見つめる。
「⋯⋯俺は初めて会った時から君に、特別な何かを感じたんだ。息苦しくて暗い世界にいた俺を、君は光みたいに明るく照らしてくれた」
一呼吸おいて、テオは続ける。
「俺の痛みも苦しみも、君は理解してくれた。何度救われたか、わからない。君だって自分の中に痛みや苦しみを抱えていたのに、俺のことを支えてくれた。」
テオは私の右手の上に自分の手を重ねた。
「今度は俺が、君を支えたい、理解したい、守りたい。きっと二人一緒ならいつだって前を向いて生きていける。俺は、君の笑顔を一番近くで見ていたい。ずっと、いつまでも。⋯⋯もし君も同じ気持ちでいてくれるなら嬉しい」
テオはそう言うとゆっくりと手を伸ばし、私の前髪を優しくかき分けた。
顔が近づき⋯⋯私のおでこに自分のおでこをくっつけた。
―—コツン
しばらくしておでこが離れる。
「⋯⋯⋯⋯」
「⋯⋯⋯⋯」
「えっと⋯⋯」
私はとっさに言葉が出なかった。
テオの言葉が嬉しすぎて。
テオは私とずっと一緒に居たいって、そう思ってくれてたんだ。
一気に鼓動が速くなり、身体が熱くなるのを感じる。
あぁ何か反応しないと⋯⋯
何か言わないと⋯⋯
「もう。こんな時まで意地悪しないでよ。緊張で、心臓がおかしくなりそうなんだ。意味は⋯⋯わかるでしょ?」
テオは真っ赤な顔をして、少し涙目になりながら言う。
わかっている。
男女が額を合わせるのはこの世界での求愛・永遠の愛の誓いの儀式―—
私の答えも決まっている。
私はテオの前髪をよけて、テオのおでこに自分のおでこをコツンと合わせる。
ゆっくりと離してテオの顔を見ると⋯⋯
テオは笑顔だった。
初めて見るテオの満面の笑み。
いつの間にか辺りは夕日に照らされて、オレンジ色の光に包まれる。
テオが⋯⋯景色が⋯⋯目に映るもの全てがきらきらと眩しい。
夢の世界にいるみたい。
「私、テオが好き。ずっと好きだった。これからも好き」
私はやっとのことで言葉にした。
「ありがとう。俺も君のことが好きだよ。ずっと一緒にいよう」
そう言うとテオは私の身体を抱きしめてくれた。
その腕は力強くて、あったかくて、守られているみたいで安心した。
ずっとこのままがいいな⋯⋯
私は目を閉じてテオに身体を預けた。
この世界に来たばかりの頃、私はこの世界の人たちと心を通わせてはいけない、信じてはいけないと思っていた。
でもそれは違った。
私はこの世界で自分を理解し、愛してくれる人を見つけることができたんだ。
奇跡みたいだ⋯⋯
暫くして身体が離れた後⋯⋯
二人で夕日を見る。
私はテオの肩に頭を乗せた。
テオは私の肩を抱き寄せて、私の頭に頬を寄せた。
私たちは沈む夕日を眺めながら、ずっと寄り添っていた。




