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2、召喚

―—気がつくと私は暗い場所に居た。



「いったい何が起こったの」


 辺りを見渡しても状況が理解できない。

 確か外でパンテと鳥を見ていたはず⋯⋯


 だんだんと周りの様子が見えてきた。

 暗い部屋に無数の火が灯ったろうそく。

 何者かが(ひざまず)いて呪文かなにかを唱えている。


——たくさんいる。囲まれているようだ。


「あぁ! なんと! 女神様だ!!! 召喚は成功だ!我々の祈りは神に通じたのだ!」


 聖職者と思われる男が叫ぶ。


「あぁ! 救いの女神様!」


 周りにいた人たちが口々に叫ぶ。


「救いの女神様。ようこそスピロノ王国へ。我々はレイン教。私は司祭のウルソでございます」


 聖職者の男はウルソと名乗った。


「この世界を、私たちを、災いからお救いください」


 ウルソは両腕を伸ばし、土下座をしている。


―—どうやら私は巫女としてこの場に召喚されたらしい。

 このような場面を本で読んだことがある。

 まさかこんなに突然に自分の順番が回ってくるとは。


 周りを見渡すと教徒たちもまた同じように頭を下げている。


 彼らの目的は何なのか。私は何をしたらいいのか。帰る方法はあるのか?とにかくまずは生き延びないと⋯⋯

 

 頭の中を思考が駆け巡る。


 召喚されて帰って来た巫女は見たことがない。

 どんな危険なことが起こるのかは想像がつかない。


「顔をあげて」

「おぉ!」


 私の一言で全員がこちらを見つめる。

 ウルソと教徒たちの息を飲む音がきこえてくる。


 すがるような目をした者。

 期待と喜びに目を輝かせる者。


「私は女神ではない。巫女だ。神の力を借り、民を救う者。私には天を(あやつ)る力がある。」


 一番避けなければならないのは、役立たずだと思われることだろう。


「あぁ! ありがとうございます。ありがとうございます」


 ウルソは頭を床に擦り付けている。


「どうか、我々の望みを叶えては頂けませんでしょうか⋯⋯」


 ウルソは震える声で言った。


 敵意は感じられない。


「何を望むの?」

「はっ⋯⋯この国の外には火山がありまして、火山から飛来する灰によって国民が肺の病気…灰病を発症しています」


 ウルソは説明を続ける。


「また、火山に生息しているゴーレムがおりまして、どうやら奴らが火山の活動を活発にしているようなのです。奴らを討伐(とうばつ)するために戦士団が結成されておりますが、未だ根絶にはほど遠く、死傷する戦士が後を絶ちません。」


 人体に有害な火山灰⋯⋯

 その発生原因であるゴーレムを倒したいけれど、難航しているということか。


「ゴーレムの身体は硬い巨岩で出来ており、並大抵の攻撃は効きません。それに加え、無数のゴーレムが投石を仕掛けてくるため、大変危険なのです」


 ウルソの説明で大体の事情はわかった。 


「⋯⋯では。私にそのゴーレムを何とかしろと?」

「はい! その通りでございます。ご理解頂けたこと、幸いでございます⋯⋯」


 私は戦士たちがゴーレムを倒すのを手伝えばいいのだろうか。

 自分の力をどのように使えばいいのかまでは、まだわからないけど⋯⋯


 きっとここに、他の巫女⋯⋯パンテでもビフィでもロペラでも他の誰でもなく、私が呼ばれたのには理由があるはず。

 そして、この役目を果たさないことには、どうにもならないのだろう。


「あの⋯⋯我々は何を差し出せばよろしいのでしょうか? どんなことでもいたします。生贄(いけにえ)になりたいと願う者も大勢おります。やはり若い者⋯⋯子供がよろしいでしょうか? それとも⋯⋯男がよろしいのでしょうか?」


 ウルソはこちらの様子を伺っている。


「は⋯⋯?」

 

 今、なんて言った?生贄?

 そうか。願いの代償(だいしょう)に生贄が必要というのはこの世界でも常識とされているのか。


 昔、母から聞いたことがある。

 マキサ村の住人も最初は雨を降らす儀式には生贄が必要だと思い込んでいたらしい。

 実際にはそんな必要はないと母が説明すると、放心状態になる者、泣き叫ぶ者、反応は様々で、どうやら母が来るまでにすでに何人も捧げてきたようだったと。


 それに、前に本でも読んだことがある。

悪魔というものを召喚する儀式にも生贄が必要と記されていた。


「私は人は食わない。」

「なんと⋯⋯そうなのですか。」


 ウルソが狼狽(うろた)えながら言う。


「そんな! 女神様は血肉を必要とされているのでは!? ならばどうして私の息子は生贄にならなくてはいけなかったの⋯⋯あぁ〜!」


 1人の教徒が泣き叫びながら床に崩れ落ちた。


「無礼者が! 生贄は儀式に必要な犠牲だったのだ!」


 ウルソが叱責(しっせき)する。


「あぁ⋯⋯なんてことだ」

「もうあの子は帰ってこないのに⋯⋯」


 次々に教徒たちが(なげ)


 私が生贄を望んだわけじゃない。必要ないのに。

 私はここに呼び出されただけで、すでに人の命を犠牲(ぎせい)にしているなんて⋯⋯


「⋯⋯とにかく今後は必要ない。何も差し出さなくていい。私に危害を加えなければそれで良い。」


 私は教徒たちを見渡し、そう伝えるのが精一杯だった。


「私は自分の役目を果たす」


 私が立ち上がり、祭壇を降りていくと、ウルソが私を部屋の出口へと誘導する。


 すでに償いきれない罪と責任を背負ってしまった。

 生贄を捧げるほど追い詰められているこの人たちを救わなければならない。


 ドアをくぐり、廊下に出ようとするとき、後ろからたくさんの人の泣く声が聞こえてきた。

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