19、覚醒
ジクロとクラリスの結婚式は戦士団の講堂で執り行われた。
ジクロは紺色の生地に金色の装飾が施された戦士団の正装を着用し、前髪を上げている。
クラリスは純白のドレスに生花でできた冠をかぶっている。
貴族の生まれのクラリスだが、あまり宝石を好まないそうだ。
ドレスの装飾も宝石ではなく繊細な刺繍だという。
幸せそうに笑うクラリスは、以前に見た絵画の女神様のようだった。
私は二人を見届ける戦士たちとともに参列している。
また、運命的な二人の馴れ初めを題材に絵本を作りたいという絵本作家や、新聞記者まで来ている。
そして⋯⋯祭壇に登ってきたのは、懐かしい顔…司祭のウルソだ。
私が初めて戦士団に連れてこられた日、ウルソはジクロに睨まれて震え上がっていたが、今はいったいどんな気持ちで祈りを捧げているのだろうか。
式の準備中、ウルソは私に気を遣ったのか、祈りを捧げる役目が自分でいいのかとお伺いを立ててきた。
婚礼の流れはよくわからないし、今までの慣わし通りに行うほうが良いだろうと私は答えたのだった。
誓いの儀式が始まると二人は額を寄せ合った。
儀式が終わり、二人の額が離れると拍手が起こる。
「まさかジクロが一番乗りとはなー」
「人生ってほんとわからないもんだよね〜。まぁ朝帰りしたときからこうなるとは思ってたけどね〜」
ニトロとカルバが小声で言う。
「じゃあ次は二人の番だね⋯⋯」
と言いかけたところでテオに口を塞がれる。
「こういうのには段取りがあるから。きっとニトロはちゃんと考えてる」
テオが小声で言う。
私がうんうんとうなづくと、テオは離してくれた。
幸せそうに笑うクラリスと真剣な表情のジクロが祭壇から出口の方へ歩いて来た。
「ジクロさんおめでとうございます!」
「副団長!」
「おめでとうございます!」
戦士たちが次々声をかける。
「あぁ、ありがとう」
ジクロは戦士たちの声に応えながら歩く。
その半歩後ろを歩くクラリスは幸せそうに微笑んでいる。
二人が私たちの前に来た。
「ジクロおめでとう」
「あぁ」
「ジクロのやつ、澄ました顔してカッコつけちゃって〜」
カルバが言う。
二人の結婚式は滞りなく進み、無事に二人は夫婦となった―—
※ ※ ※
―—ある日
ジクロさんとの結婚式を終えた私は拠点内の廊下を歩いていた。
私は、拠点内にある一室に移住してきていた。
戦士たちが家族と一緒に暮らすための広めの部屋だ。
ジクロさんの計らいで、お店も開店時間を短縮して続けられることになった。
ジクロさんは副団長室に泊まる日もあったが、私たちの部屋にも時間を作って帰ってきてくれていた。
「クラリスさん、こんにちは!」
一人の戦士が深々と頭を下げて挨拶をする。
ジクロさんの部下だろうか。
「こんにちは」
私は笑顔で答えた。
ジクロさんの妻になれたのだと実感できて幸せだ。
子どもの頃から悲惨な人生だった。
それがようやく報われたようだ。
廊下を進み続けると、どこからか声が聞こえてくる。
「たすけて⋯⋯」
「いやっ!」
私は耳を塞いだ。
私は子どもの頃から不思議な力がある。
宝石からうめき声のようなものが聞こえてくるのだ。
この力こそが私の人生が悲惨だった理由の一つだ。
子供の頃、家には大量の宝石があった。
宝石からうめき声がすると親に相談したら遊びか何かと勘違いされた。
周囲の人間にはこの声が聞こえないと知ってからは力を隠している。
もちろんジクロさんにも話していない。
「ここから⋯⋯だして⋯⋯」
だけどこんなにはっきりと聞こえたのは初めてだった。
私は声のする方向へ歩いていき、ある部屋の前で立ち止まった。
「たすけて⋯⋯」
ここは…研究室。
勝手にドアを開けて中に入る。
するとそこには宝石⋯⋯ではなく子どもの頭くらいの岩のかけらがあった。
「たすけて⋯⋯」
「どうしたの?」
私は岩に話しかける。
「ことば⋯⋯わかる?⋯⋯みこ?」
「私は巫女様じゃないわ」
「ことば⋯⋯わかるは⋯⋯みこ」
「何?」
「われらの⋯⋯みこ」
私があなたたちの巫女ですって?
この気持ち悪い力が巫女の力だっていうの?
「ひのやまの⋯⋯かみに⋯⋯あって⋯⋯」
それからクラリスと岩は誰にも気づかれず、密会を続けたのだった。




