12、運命
2回目の討伐作戦が終わって数日が経ったある日、私はこの国の地図を広げていた。
そして、海に行ったことがあるというテオとジクロが、私の質問に答えてくれると言う。
「山で体力訓練をした時に近くまで行ったことはあるが、わざわざ行くような場所じゃねえな」
ジクロが言うとテオも同意して静かにうなづく。
「そうなの? きれいじゃなかった?」
「きれいかもしれないけど、子どもの頃から危ないから近づいちゃだめって言われてきたから⋯⋯ちょっと怖い」
テオが言う。
「それはその⋯⋯誰も帰ってこないから?」
「そう。自分の羽根で海を渡ることに憧れるのは、男なら一度は通る道。でも実際は無謀で危険なこと」
今度はテオの発言にジクロがうなづいていた。
「海まで移動するのに何日かかるの?」
「俺たちなら往復で半日もかからなかったが、お前がトコトコ歩いてくっていうんなら分かんねえな。野営がいるんじゃねえか」
ジクロが言った。
「なるほど。海とか山には誰か住んでる?」
「多くないと思うけど人は住んでいる。それぞれ塩造りとか、獣狩りとかの仕事がある。あと、山には無宗教の人たちの集落があるらしい」
「あぁ。それは俺も聞いたことがある。レイン教に入らなかった連中が人目を忍んで暮らしてるって話だ」
無宗教者の集落⋯⋯
「二人はレイン教徒なの?」
「戦士団も国民も皆レイン教に入っている。信仰の深さや活動の熱量には個人差があるだろうがな」
ジクロの言葉にテオもうなづく。
「ありがとう。色々わかって助かったよ」
その後、私はもう一度本屋さんに行きたくなったのでジクロについて来てもらうことになった。
―—ジクロは不眠症⋯⋯先日のテオの話を思い出す。
副団長たちは二人とも無理しすぎだ。
隣を歩くジクロの顔をいつもより注意深く観察する。
目つきが悪く見えるのは睡眠不足の影響もあるのかもしれない⋯⋯
「おい。さっきからじろじろ見てんじゃねえよ」
「ごめんなさい」
ふと花屋さんに目が留まる。
⋯⋯そうだ
私はジクロに頼んで花屋さんに寄ってもらった。
そして一つの鉢植えを選ぶ。
「ジクロ、匂いかいでみて」
「あ?」
「いいから」
私の圧に負けてジクロが花に顔を近づける。
「まあ、いいんじゃないか」
「だったらこれあげる」
私はお店の人にお金を払う。
余計なお世話かもしれないが、なんだか放っておけなかった。
「なんだよ急に、花なんていらねえよ。女じゃねえんだぞ」
「お花に性別は関係ない。これを枕元に置いて」
「は?」
「この花の香りをかぐとよく寝れる。お世話は私がするから。いいでしょ?」
少し強引に言う。
「あ? あぁ、そういうことならまあ⋯⋯」
ジクロはしぶしぶ受け取ったのだった。
拠点に帰ってくると、ジクロは用事を思い出したと言い、再び街に出かけていった。
——用事を済ませたジクロは拠点に帰ろうとしていた。
すると叫び声が聞こえてきた。
「危ない! 傾いてるぞ!」
声の方を見ると、2〜3階の高さにある看板の支柱が倒れそうになっている。
男たちが支えて固定しようとしているようだが支えきれずに倒れていく。
支柱の先には、買い物かばんを持った若い女性が立っていた。
「いやぁー!!」
ジクロは女性の元に向かうと、抱きかかえて飛んだ。
「ありがとうございます。助かりました⋯⋯」
女性は泣きながらお礼を言う。
「おーい! お嬢さん大丈夫かーい? あんた、助かったよ。ん? ジクロ副団長? ジクロ副団長が助けてくれたぞ!」
ジクロを指差しながら男が叫ぶ。
「ジクロさんとおっしゃるんですね。本当にありがとうございました!」
女性はジクロの手を握りながら言う。
「あぁ、怪我がないならいい。おいお前らあまり騒ぐな。」
ジクロは騒いでいる街の人たちを制止し、立ち去ろうとする。
「待ってジクロさん。私⋯⋯そう! ここでお店をやっているんです。お礼がしたいのでぜひ来てください!」
「いや礼など必要ない⋯⋯」
「命がけで助けていただいたんです。お願いします! ね?」
女性はすがるように言う。
「わかった。そのうち仲間を連れて行く。」
「はい! お待ちしております!」
ジクロは拠点に帰って行った。
「あぁ⋯⋯運命みたい。」
女性はうっとりとした顔でジクロの後ろ姿を見つめながらつぶやいた。
ジクロが英雄になった話は、瞬く間に街の人や戦士団に広まるのだった——




