◆◆絆
まさか生徒会長の日向がヤンキー女の京子とかいう奴と関係があるなんて予想外だった。だいたい京子なんてかわいらしい名前付けてるなよ。もはや凶子でいいだろ。
当の日向本人は先ほどの動揺も気のせいだったのかと思うほど普段通りに授業を受けている様に見える。が俺の目は誤魔化せない。時おり書いてる途中にペンが止まるのは考え事をしているからだろ。
「平津、この問題解いてみろ」
「わかりませーん!」
恥も外聞もなく元気に答える姪菜。なぜか生徒と先生にまで睨まれる俺。ち、ちがうんすよ。本当はそういう幼児プレイとかしてるわけじゃないんです。ただ単にそいつ精神幼児化してるんですって。
「分からないなら仕方ないな。じゃあ、清水お前代わりに解いてみろ!」
「分かりません」
「そうか。廊下に立ってろ」
「俺に対して当たり強くない?」
そしてまさかの冗談ではなく本当に廊下に立たされた。くそ、あの年増教師少し胸が大きいからってやりすぎだろ。
廊下ですることもないので俺は目の前の窓から見える景色を眺める。綺麗だ。雲1つない澄んだ青空に心が癒される。姪菜が見上げていたのも気持ちが分かるかも知れない。
青といえば、青髪の日向の事が頭に浮かんだ。あいつが狼狽する姿なんて学園で見た記憶はなかったと思う。二人にいったいなにがあったのだろうか。
いや、考えるのは辞めよう。『知らなかった方が幸せ 』なんてざらにあるのだから。
◇◇◇
「で? 誰が年増だって? あ?」
「いや声に出してないこと質問するのやめてくださいよ。ってか職員室呼び出したのってそれだけですか?」
職員室だとか他の先生の目があるだとかそんな事はお構い無しに俺の胸ぐらを掴む早月先生。絶対この人昔不良だったろ。ヤンキーは母校に帰れよ。いや真面目に帰ってくんないかな。
もはや日常とかした先生の呼び出し。来る俺もどうかと思うが毎度毎度パワハラする早月先生もどうかと思う。本当のところ逃げてもよかったのだが今回は少しばかり用もあった。俺は不穏な空気を変える為に話題を変える。
「そういえば、先生。京子っていう名前の女って知ってますか? なんかかなりのヤンキーらしいんですけど。つーかクラスメートなんですけど」
そのヤンキー女は授業中、幸いずっと寝ていた。なので事が起こることはなかったのだが。あの、問題解けなかった俺より廊下立たせる奴がいるんじゃないですかね?
「歳内のことか?なら知っているぞ。当たり前だろ」
歳内京子っていうのか。名前どうこうはいいがそれよりもっと気になることがある。
「その歳内っていうのが先程揉め事起こしてたんですが。しかも授業中に居眠りしてたのに何で先生は何も言わないんですか?」
そう言った直後、先生はパッと俺の胸ぐらから手を離して苦い表情をした後に溜め息を付きながらドサッと椅子に座った。
「そう言われれば私は教師失格なのだが・・・。あいつには少しばかり事情があってな」
「事情って・・・先生ならしっかり指導しないと駄目でしょ。なんで俺だけなんすか? 好きなの?」
「最後の言葉をもう一度言ったらへし折るからな」
「どこの部位をですか!?」
おっかなびっくり、少し後ずさる俺を後目に先生は神妙な表情を作る。どうやら事態は意外と重いらしい。
「清水には特別に教えるが、歳内は去年まで成績がとても優秀だったんだ。日向と争えるぐらいのな」
「本当ですか!?」
俺にコクリと首を振る先生。あの歳内が日向と張り合える程の成績優秀者だったなんて意外だ。しかもそんな記憶が全く残っていない。つくづく外見っていうのは大事だな。外見が変われば過去の記憶すらも変わってしまう。
「それに部活でもテニス部主将を任せられていたんだ。それぐらい人望があったんだがな」
テニス部と聞いて俺は日向が思い浮かんだ。確かあいつもテニス部だった。今現在は退部をしてしまったらしいが。
「任せられていたってことはもう部に所属はしてないんですね。日向と同時期に辞めたってことですか」
「ああ、日向も優秀だったから当然顧問は止めたんだがな。二人の決意は代わらなかったみたいだ」
「それも偶然じゃないんですよね」
むしろ偶然だったら驚きだ。そうするとテニス部で二人には何かあったと考えるのが普通だ。
「何があったんですか?」
「詳しくは知らないが、どうやら歳内が怪我をしたらしくてな。顧問がそう話していたよ。日向に関しては『学業に集中したい』と語ったらしい」
「・・・歳内の怪我に日向が関わっていたっぽいですね。それで二人の関係にヒビが入ったと」
なんとなく話が見えてきた気がする。ただそれだけで二人の関係に傷が入るのだろうか。確か日向は歳内を幼馴染だといっていた。部活でも学業でも良きライバルだったと予想する二人がそんなことでか?
「そんなことではないぞ。清水。歳内は大会に向けて張り切っていたからな。それがオジャンになったんだ。非行に走ってもしょうがない」
そうなのだろうか。あまり友達という関係に触れたことがない俺にはよく分からない。何十年にも及ぶ関係が一瞬で終わるということが。