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◆◆幼なじみ

俺達が教室に戻ると日向が次の授業の準備をしているのが目に入った。


「ほら、あの子だよ! 私知らせてくる」

「やめとけ。話したってなにも変わらない。それにまだ何も日向には起こってないんだろ?」

「そうだけど・・・」


日向の見つけるや否や駆け出そうとする姪菜の肩を掴み静止させる。やだ、めっちゃ女の子の体って柔らかい。


そんなことはおいといて、もしかしたら心配するようなことではないのかも知れない。このまま何も起きず俺達の取り越し苦労だったなんて結果に終わる可能性もあるわけだ。けれど。


「でも、起こってからじゃ遅いよ」


姪菜が上目遣いで俺を強く見つめる。そうなのだ。起こってからでは何もかもが遅い。それが本当に難しいところなんだ。っていうかなんで俺は精神年齢七歳のこいつに諭されてんのかね。同レベルってことか。


「だけどその日向のことが嫌いな奴に何かを言っても意味がないだろ? むしろ焚き付けて虐めに発展する危険性だってある。それを考えたら俺達に出来ることなんてなにもねぇぞ」

「でも、でも可哀想だよ」


俯いて俺の袖を握る姪菜はか細く言った。そりゃ俺だって事が起こる前になんとかしたいさ。ただ席が隣ってだけで、たまに会話する仲なんだ。情が無いわけではない。


「ちょ、ちょっとそこでいちゃつかれても困るんだけど」


横から申し訳なさそうな声で話しかけられた。誰であろう日向だった。いつからそこにいたのだろう。そう考えると鼓動が早くなった。


「何て言ったらいいのか分からないけど、とりあえず教室の前でいちゃつくのはやめた方がいいんじゃないかな? さっきからクラスメートの視線が清水君一点集中してるし」


気まずそうに視線を横に向けて日向は髪の毛先を弄ぶ。こういう女の子の仕草はとてもかわいいものがあると俺は思う。だが見惚れている余裕などなかった。


「なんであの二人いきなり仲良くなってんの?」

「清水が姪菜ちゃんの弱み握ってるってマジかよ。キモくね?」

「つーかあの幼児っぽい姪菜ちゃんなんなの? 別人じゃん」

「清水が彼女にそういう行為を強いてるんだって。キモすぎ」

「マジかよ!? ああいう趣味だったの清水。キモくね?」

「つーかキモくね?」


よくよく聞いてれば延々と俺に対する妬み恨みやっかみが教室内で飛び交っていたらしい。それを見かねた日向が俺達に教えにきたって流れだ。オイ、最後には人格批判にまで変わってたぞ。最終的には俺がキモいって事じゃねーか。


「ってな訳だからあんまり皆の前では控えた方がいいと思うよ。それと私、ちょっと出たいからどいてくれる?」

「あ、あぁ」


愛想笑いする日向の指示に従い俺は道を開ける。側を離れる日向。そこで俺の頭に電流が走った。もうすぐ授業が始まるっていうのに日向はどこにいこうとしてる? しかもあっちの方向は。


「おい日向ちょっと待ってくれ!」

「え? な、なに!?」


俺に引き留められることを予期していなかったのな青く艶やかなポニーテールを翻して日向が振り向く。俺は慌てて日向の元に駆け出す。姪菜はポケーと俺達の動向を見つめていた。


「まさかトイレか?」

「え? べ、別になんでもいいでしょ」

「その返し方はトイレだよな?」

「なんなのよ。っていうかだとしたらなんなのよ」


若干顔をひきつらせて諦めたように見つめる日向に俺は更に近づく。日向が一歩下がる。


「だとしたらそれはダメだ」

「はぁ!? 言ってる意味が分からないんだけど」


俺は日向に一歩近づく。日向が一歩下がる。もう少しで壁にぶつかるがそんな事はお構い無しだ。今行ったら間違いなく鉢合わせになってしまう。


「とにかくダメなんだよ。困ったことになっちまう。絶対にダメなんだ!」


息も荒々しく俺は日向との距離を詰める。日向は顔を恐怖で固まらせ一歩下がる。壁に背中がぶつかる。今通りすがりに「キモっ」って言ったやつ。俺のブラックリストに載ったからな。覚悟しろよ。


「ちょ、ちょっとなんか清水君怖いよ。落ち着いてよ。結局なんなの? ちゃんと話そ?」


「俺は、俺は日向にトイレに行ってほしくないんだよ!」


そして壁ドン。間違いなく至上最低に気持ち悪い壁ドンだったことは間違いないだろう。


日向は俺の意味不明な気迫に怖じ気づき崩れ落ちる。勝った。これで最悪な事態は免れたことだろう。俺のあだ名がこの後『変態』から『性犯罪者』にランクアップしたことを知った時は引きこもりそうになったわけだが。


けれど、そうではなかった。やはり運命は変えられないらしい。現実的に考えれば日向が廊下に出てしまった時点で運命は避けられない事が判明していたのだ。


俺達のクラスは四組。つまりトイレから一番距離が近い。そうすると必然的にトイレから戻る生徒は自然と四組の側を通りすぎなければいけない。どういう事になるかだいたい想像はできる。


「邪魔なんだけど?」


氷のように冷たい声が廊下に響いた。周りで俺たちの動向を固唾と見物していた生徒達が教室へと戻りだした。授業が始まるからではない。この女が現れたからだと俺は直感的に感じた。


校則無視上等とばかりに着崩れた制服に髪。お前も姪菜と同じハーフかよとばかりに染まった金髪。けれど姪菜の自然な金髪とは違う。お世辞にも綺麗とはいえない雑な染め方だ。そして社会に反抗したような不機嫌な表情。


体感してすぐに分かった。こいつが日向を揶揄していた首謀者であることを。俺は自然と日向を庇う形を取る。後ろにいる為表情は分からないが空気感では怯えていることが分かる。


だけど俺は違和感を感じとる。ヤンキー女の顔立ちは綺麗で整っているのにわざと汚ならしくどうしてつくろっているのか。『わざと?』とどうして俺が感じたのかは今は分からない。


「つーか公衆の面前でなにしてんの? お前キモくね? 犯罪者?」


会話の節々からバカにしたような嘲りでヤンキー女は俺を見据える。最近の女子高生ってすげーな。初対面での第一声が「キモくね?」だぜ。俺別に見せ物じゃないんだが。


「犯罪者じゃねーよ。公衆の面前? はっ。陰で愚痴ぐち言ってる奴よりは堂々としててマシじゃねーの?」

「はあ? なにがいいたいわけ?」


ヤンキー女の喧嘩売りますみたいな口調にイラついた俺は陰湿にジャブを放つ。


「別に」

「男のくせに言えないのかよ。つまんないやつ。あんたと話してても生産性一切ないね。時間の無駄だった」

「ちょ、ちょっとやめてよ恭子! 喧嘩はやめてよ」


ヒートアップしてきた俺たちの間に割って入る日向。さすが生徒会長というか正義感満載というのか。俺は呆気に取られて怒りが収まってしまった。っていうか聞いたか? ヤンキー女から生産性とかいう言葉が飛び出した。死んでもあの女から生産性とか言われたくねー!


「誰かと思ったら生徒会長様か。はいはい偉い偉い。そうやってあんたは優等生気取ってればいいのよね・・・そういう所本当に嫌い」


日向の存在に今さら気づいたとばかりに目を見開きヤンキー女は日向を見下す。一通り日向を罵った後に舌打ち混じりに俺の肩にぶつかり教室に入っていった。え、同じクラスかよ。ほげええええ。


「え、お前あいつと知り合いなのか?」


会話を聞く限り二人はどちらも存在を認知していた様子だった。日向の場合は「恭子」と下の名前でよんでいたし。


「私の幼馴染なんだ。ちょっと前まで仲良かったのになんでああなっちゃったんだろうね」


幼馴染。俺はそんな関係だったとは想定外で口を開けなかった。寂しそうに日向は俺から離れる。もう俺は日向を止める意味がなくなってしまった。


後ろを振り向くと、大事態になってしまったことも知らずに窓の景色を興味深げに見つめる姪菜の姿があった。

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