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◆◆好きな相手

キイキイと無機質な音を立てて扉が開いた。中は真っ暗で窓から差し込む月の光だけが部屋を照らしていた。


「電気ぐらいつけろよな」


そうは言ったが、俺は電気を付けずにそのまま部屋へと入る。姪菜は俺のベッドで横たわって身動ぎ一つしない。だが、間違いなく寝ていないと確信できる。


この状態はいわゆる『拗ねている』という奴だ。幼女モードの姪菜にその言葉は適切だろう。通常時だったら俺の部屋めちゃめちゃに荒らされそうだったけど。


ベッドの空いているスペースに腰を落として嘆息し姪菜に声をかけた。


「めんどくさいよな。人間関係って」

「・・・・・・」

「友達同士だって、こいつのここが嫌いだなんて腐るほどあると思うぞ。友達いたことないから分かんないけどな」

「・・・・・・」

「誰しも隠し事なんてあるんだよ。だけどそれは対象の相手を信頼してないから隠しているって事じゃなくて信頼しているからこそ話せないんだよ」


その相手に隠し事をしているという後ろめたさや罪悪感。その気持ちは相手の事を想っているからくるものなのではないだろうか。本当に嫌いな奴には隠し事なんてしない。そもそも自分の事など話す事すらないのだから。隠し事なんて出来ないのである。


「・・・ばか、けーた」

「そうだな。俺はバカだよ。だからぼっちやってんだよ。言っとくけどな別に姪菜のことが嫌いだから隠したんじゃないぞ」


姪菜は起き上がり、俺をジト目で見た後にポツリと呟いた。そんな月明かりに照らされた彼女の神秘的な容姿に動揺してしまって余計な一言を言ってしまった。


誤魔化そうとしたが、そこを逃す姪菜ではない。彼女はいくつになっても相手の透きを見つけたらすかさず突く人間だ。俺に四つん這い状態で近づいてくる姪菜に俺は後ずさる。


「嫌いじゃなかったらなんなの?」

「その、つまり、その対極ってことだ」

「ちゃんと言ってよ」


更に接近する姪菜に俺はまた後ろに下がろうとするが壁にぶち当たってしまった。おい、年頃の男女がベッドではしたないだろ。やめなさい。


「・・・好きってことだよ。いやでもお前のことは好きだけど平津姪菜の事はぶっちゃけ嫌いだ」


それは俺が珍しく語った本音だった。姪菜は俺の発言を理解出来なかったのか難しい表情で首を傾げていた。まあ無理だろうな。


俺が好きなのは幼少期の平津姪菜。つまり今の状態の姪菜に子供の頃から恋をしていた。そして女子校生の平津姪菜。通常モードだが、その高飛車な態度と相手が俺を嫌悪することから俺も未だに嫌われてだったりする。発言まとめると俺ただの危ない奴じゃん。


「とりあえずけーたは私のこと好きってこと」

「ああ、『お前のことは好きだよ』」

「えへへー! やったー!」


抱きついてこようとする姪菜に俺は歯向かうことも出来ず見事ホールドされてしまった。まあ感触は悪くないから良しとしよう。


「じゃあ、許してあげるー!」

「本当に単純だなお前は」


そのまま単純のまま育ってくれればどんなに良かったことか。


「あっ、もう1つ言い忘れてた。隠し事はしないって決めたから言うけど、俺、明日の休み女の子とネタ探しのデートしてきます」


当然引っ張たかれましたよ、はい。


◇◇◇


「ごめーん。待ったー?」

「30分は待ったぞ」


犬の銅像が置かれた駅前で俺達は待ち合わせをしていた。千葉はトテトテと走りながらやってきた。


黒のVネックニットにクリーム色のスカートを履いた彼女はまさに今時の女子高生といった感想だ。まあ似合っているので別にいいか。


「いやー、清水君が時間にキッチリ者だとは思ってなかったよー。30分遅刻してなに食わぬ顔で現れそうだなーって考えちゃったの! ごめん!」

「え? なんで時間通りにきた俺が駄目人間みたいに言われてるの? なんかおかしくね?」

「そんなことよりこれ見てよ!」


遅刻をそんなことより扱いされてしまった俺は怒る気になれず、千葉がバッグから出した紙を拝見した。その正体は新聞紙で見出しだけが書かれていた


「イケメン優等生、御園一馬みその かずまは本当に優等生なのか! なんだこりゃ。」


見出しを棒読みで読んだ俺は千葉に顔を向けた。何故か千葉はどや顔で目をキラキラさせながら俺に笑顔を見せる。なんなんだ、訳が分からん。


「良いネタ思いついちゃってね。 ほら御園一馬ってイケメン同級生いるじゃない。運動神経抜群で頭脳明晰で優しいっていう神にでも選ばれたような生徒」

「あーいたようないなかったような。悪い。そんな真剣に生徒のこと見てねーから答えられない」

「えー! 清水君知らないって同じクラスだよ!? っていうかあたしのこと知らなかったし、普段どんだけ周り見てないの!」


目を丸くして両手をパタパタと左右に広げて必死に抗議する千葉に俺は困り顔で頭を掻く。知らないものは知らないのだから仕方ない。周りは敵だと思ってるし。


「そんな御園君が今日女の子達とここで遊ぶという情報をキャッチしたんだ」

「だから、ここで待ち合わせたのか。・・・なんだよ。千葉は御園って男のこと好きなのか?」

「え? なんでよ」


千葉は困惑した様子で俺の問いにワンテンポ遅れ気味にそう答えた。


「簡単だろ。そんな出来た人間なら好意を持たない理由がない。そして好きな人が異性と遊ぶなんて聞いたら気が気じゃない。だからネタ切れという体で御園一馬をビックアップしたって俺は思ったけど?」

「ち、違うよ! わたしは御園君のこと別に好きじゃないよ! それにわたしはもうす、好きな人いるし」


珍しく言葉に力を込めて千葉が反論してきた。この反応は図星というわけじゃなく本当に違うのだろう。彼女は何故か恥ずかしそうに肩まで伸びてカールした毛先を弄り頬を朱色に染めていた。


「ふーん。まぁ別にいいけど」

「あー! 酷い。探っといてどうでもいいとか! それならお返しに聞くけど清水君は好きな人い、いるのかな?」

「いるっちゃいるし、いないっちゃいない」

「なにそれ?」

「わりと複雑なんだよ」


俺はそうため息を付きながら、その御園とかいう男の姿を千葉と一緒に待つことにした。


ちなみに姪菜は「変なことしないなら許す」と俺の頬を10発平手打ちしてから涙目でそう約束を求めてきた。10発殴られてまだ許されないのかよ・・・。


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