◆◆平津姪菜
文章拙いところがありますがよろしくお願いします
家から飛び出した。なんてことはない。ただの遅刻だ。
「澪のやろう、なんで起こしてくれないんだよ」
息を切らし、学園を目指しながら我が妹の清水澪に呪詛を呟く。その妹は既に家をあとにしたようだ。家族は出勤で俺を暖かく迎えてくれたのは愛犬めいちゃんだけ。
「急げ急げ!今度遅刻したらあの鉄仮面先生なにを言うか分かったもんじゃない」
信号が青に変わるやすぐに走り、ようやく学園にたどり着く。家が近くて助かるぜ。家が近いという理由で頑張って受験勉強したかいがあったぜ。マジで。
なんか目的と手段がおかしい気がするけど、とにかく間に合った。校門前、始業時間5分前。走れば教室に間に合いそうだ。
「ざまみろ鉄仮面! 貴様の思惑通りにはいかんのじゃい!」
階段をかけあがり得意気に叫んだ俺を不審がる生徒達を気にする筈がない。それぐらい気分が高揚していた。
だからだろう。注意力が鈍くなって降りてきた奴にぶつかってしまったのは。
「ぐえ!」
「きゃあっ!」
お互いに頭をゴチンとぶつけ一瞬気が飛びそうになるが踏ん張り体勢を立て直す。ついでに落ちそうになっていた奴も手を掴み体勢を立て直させた。
「悪い悪い。だい、じょ・・・う」
平津姪菜。俺の幼なじみであり犬猿の仲。彼女の不幸が俺の幸福であり、俺の不幸が彼女の幸福であるというばかりの関係なのだが。さてどうしたものかね。
「くまやろう・・・!」
「なんて?」
なぜだ。ものすごい悪口を言われたみたいで悔しい。猫やろうとでも返してやろうか。意味が分からんが。
姪菜は、涙を浮かべた目で俺を睨み付ける。怒りで金髪が横に激しく揺れる。ちなみにスーパーなんとか人でもなんでもなく彼女の髪色は生まれつきだ。
父親がドイツ人でハーフなのだ。更にハーフって奴は顔面偏差値が異常に高い。怒っているそんな顔もなにかの美術館の作品になってしまうであろう美しさを持っている。
「なんだよ。睨み付けて。さっさとお仲間の元に行ったらどうだ? 俺なんかと喧嘩してる時間がもったいないぞ」
「言われなくたってそうするわよ」
キッと俺を一睨みすると、姪菜は肩を怒らせ階段を上がっていってしまった。上に行くのに何であいつ階段かけ降りてきたんだ?
そんな事を疑問に思っていたらチャイムが鳴ってしまった。やれやれ鉄仮面先生の思惑はうち砕けなかったようだ。余裕ぶっているが制服の下は汗で濡れまくっていた。
◇◇◇
「遅刻とはいい度胸だな。清水」
足を組み偉そうに俺を見下すのは担任教師の、早月陽子先生だ。
「今回はちゃんと理由があるんです。決して寝坊ではありません」
「御託はいい。遅刻した事実には変わらない」
生徒指導室は、あるいみ俺の第二の居住地となっていた。思えば毎日呼び出されている気がする。別に悪いことをしている覚えはないのだが。
「いやいや、聞いてくださいよ。質問です」
「なんですか。黙りなさい」
あんたボカロ好きなのかよ。って遊んでる場合じゃない。この人と話すといつもこんな調子になってしまう。っていうか絶対この人俺の事好きだろ。このやろう。
「いやちゃんと学校には時間通り着いたんですよ。ただ、階段を登ってる最中にクラスの奴とぶつかりまして」
「誰のことだ。ちゃんと証明するなら停学にはしないでやろう」
え?遅刻ってそんな罪重いんですか?罪深いんですか?
「あいつですよ。平津とぶつかってその分遅れちゃったんですよ」
「平津・・・そういえば、鬼の形相で教室に戻ってきたな。私が忘れ物を取らせにいったのに手ぶらだったのは大別遺憾だったが」
やっぱりあんたの思惑か。この生き遅れ教師が。
俺の言動と平津の雰囲気に思うところがあったのか早月先生は顎に手を当て神妙な顔を始めた。俺はその間に姪菜の事を考える。
平津姪菜は良いとこのお嬢様だ。ただ彼女の要望なのか現在は近くのマンションで一人暮らしをしているらしい。金髪碧眼美少女でこれまで幾度となく男子に告白されたらしいが全て振っている。
彼女が仲良くしている生徒達は真面目でおよそ彼女とは比較にならないほど地味な印象を受けるが成績は上位。それにあやかってなのか平津も成績はトップクラスだ。
だけど、なんで。あいつは。
「そうだな。では明日平津と一緒に指導室に来い。ちゃんと状況説明すれば許してやろう」
「ええええ・・・」
あいつを連れてくるとか絶対無理だろ。ひのきのぼうで魔王退治してこいってレベルの無茶ぶりだぞ。
しかし無理ですとは言えるわけもなく俺は「分かりました」というしかなかった。
◇◇◇
家に帰ると愛犬が迎えてくれた。こいつは幼少から一緒だったのでもうなつきかたが半端ない。いつも布団で一緒に寝ているほどの仲の良さだ。
俺に飛び付き餌の催促を始めたので、更にフードを盛り付け近くに置く。けれど彼女は何故か餌を食べない。
それどころか、玄関の方に向かって走り出してしまった。
「お、おいどうしたんだよ」
慌てて向かうと、尻尾を振りながらドアを見つめる愛犬俺もつられてそちらを見るとなにかが動いていた。
ど、泥棒? いやいや、泥棒ならこんな時間帯に玄関から正直に入ってこないだろ。
そろそろと音を立てずに向かい覗き穴を見る。そこにいたのは。
平津姪菜だった。困ったようにキョロキョロと周りを見てどこか緊張している様子だ。
体が一気に寒気だった。ま、まさか朝の仕返し!?
俺は震える手で鍵を開ける。ずっとそこにいられても困る。妹や家族に何を言われるか分かったもんじゃない。カチャリと開きギイイと無機質な音を立てて扉が開く。
姪菜と目が合う。俺、苦笑い。彼女目を輝かせる。え? 輝かせる?
そんな思考が遮断され、姪菜にのしかかられる。
「けーた、あーそぼー!」
「はあ!?」
なにが何だか分からず俺は手で顔を覆い深いため息をつくことしかできなかった。