第9話 嘘つき
その一言には衝撃を覚えた。皆口々にこう言う。「そんな足音は聴いてない。」と。確かに、意識してないならあり得る。だが、ここまで全員揃って聴いていないと言いきっているのだ。ハッキリ言ってあり得ない。1人くらい気がついているはずだ。だが………これが現実だ。誰も知らない。誰も見てない。犯人は………砂島しか知らない。当の本人は姿を消した。正直、生きているかどうかも解らない。
結局………犯人は見つからず有耶無耶になった。各自解散となったが、嫌な雰囲気だけが漂っていた。そうして俺はまた薄暗い天井を眺める。
「駄目だ。寝よう。」
何を考えているのか。教え子が行方不明と言うのに、何もせずただふて寝に走る。だが、考えたところで何もできやしないのだ。犯人はいずれボロが出るだろう。砂島はきっと………生きているだろう。期待をするしか無いのだ。
意識も落ちかけた頃、ノックが響いた。
「あー。誰だ?」
「私です。お話があって………。」
聞こえてきたのは新井 美愛の声だった。疲れきっていた俺は眼鏡も取らず、其方へと向かうのだった。
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朝、その広間はやけに騒がしかった。喧騒にやられ、僕もそちらへと向かう。
目を疑った。いや、信じたくなど無い。昨日の今日でこんなこと………凄惨と言う言葉が正に似合っている。本当に………本当に酷い。広間の奥に飾られた天に向かい手を伸ばす聖女のレリーフ。そこに見せつけるように磔られた2人の死体………1人は僕達のクラスの担任。そしてもう1人………新井 美愛であった。2人とも胸部にナイフを突き立てられていた。両足は縛られ、先生の左手、そして新井さんの右手は杭でレリーフに打ち付けられていた。
惨たらしいの一言に尽きる。そして………次第に吐き気が襲いかかる。あれだけの喧騒がやけに遠くに聞こえ、視界がぐらつく。思考などままならず、僕は………そのまま意識を失った。
「………すけ………りょう…け!…亮介!!」
僕の名前を叫ぶ声。あぁ、颯人だな。意識がしっかりとして来る。僕は………どれほど眠って居たのだろうか?
「亮介!!」
「あぁ………起きてる。」
「良かった………!」
「ごめんね。心配かけた。それよりも、今どういう状況?」
「………最悪だよ。誰が何のためにこんなことをしたのか解ったもんじゃない。向こう側も、いよいよ俺達を疑いにかかってる。」
「そう………だよね。」
「先生が………生きてたらな。」
先生に与えられた魔法………惑わずの魔法。それは特定の条件下で何者にも騙されず、欺かれなくなる魔法であった。先生なら………きっと真実にたどり着けたんじゃ無いだろうか?残された僕たち………37人はどうすればいいのだろうか。