第7話 吸血鬼の夫
息を飲んだ。俺の目の前に立っていたのは、先ほどまでの禍々しいオーラを放つような存在ではなくブラックダイヤモンドのように妖艶で………美しい彼女の姿だった。
黒く長く………艶やかな髪。紅い宝石のような眼。スラッと伸びた華奢な体躯。嗚呼………俺、この人に見とれてるんだな。
「ほらほら、いつまでもイチャつくんじゃありません。」
「なんだ、クロ。羨ましいのか?」
「羨ましくなんて無いです!イアじゃないんだから。」
「なっ!?我の恋を愚弄するか!?」
「少なくとも、600年前の恋愛を引きずるようなメンヘラじゃ無いですからね。」
「な!?」
と、言い争いをする2人。そもそもとしてこの2人、どういう関係なのだろうか?さっぱり解らない。
「あ、あの………。」
「「何!!」」
「い、いや、ふと2人はどういう関係なのか気になって。」
「そう言えばまだ言ってなかったね。この人は………いや、この吸血鬼は私のお義母さん。」
「我からしたらクロは義理の娘だな。」
なんかとんでもない関係性が明らかになったんですけど!?
「ど、どういうことです?」
「まぁ、急に言われても解らないよね。もともと話すつもりだったから、今話そうか。」
そうして、クロは語り出した。
「600年前………とある吸血鬼は目を覚まし、破壊の限りを尽くそうとした。それをたった1人で止めたのが、シンヤと言う人間の男だったの。」
「シンヤ………それが支配の魔法の先代?」
「いいや、違う。支配の魔法を持って産まれたのは我とシンヤの子供、ユウタだ。」
「あぁ。あ?あぁあ!?」
なるほど?つまりクロは………。
「そのユウタと結婚したのが私と言うわけ。」
「あ、あぁ。」
なるほど、急展開過ぎて解らん。そもそもとして今の話じゃイアさんはその恋を引きずっているわけであって俺を好きになる要素など1つもない。
「あの………ふとした疑問なのですが、どうして俺がイアさんの夫になるんでしょう?今の話を聞く限りじゃ全く読めてこなくて………。」
「あぁ、簡単な話さ。イアは依存先がほしいんだよ。」
「へ?」
「クロ!勝手に喋るんじゃない!我にも威厳と言うものがな………。」
「メンヘラ吸血鬼………黙りなさい。」
「………はい。」
えぇ………ガチメンヘラじゃん。その為に俺連れてこられたって言うわけ?
「まぁ、他にもあるんだけどね。君をここに連れてきた理由。やっぱりその支配の魔法………君が使うのは掌握の魔法かな。どうしてもこのダンジョンにはそれが必要不可欠なんだよ。」
「は、はあ。」
「大丈夫さ、向こうは向こうで………巧くやっていけるはず。」
「あいつらこの事考えてるの………解るんですか?」
「長年生きてたらね。大丈夫、真相はきっと解る。私には、見えてるから。」
そう、いじける吸血鬼を余所目に俺達の会話は進むのだった。