第5話 初戦闘
次の瞬間、紫色の焔を纏ったそれは一気に俺との距離を詰めてくる。だが不思議と目で追うことができる。手加減か?いいや、考えている暇などさらさら無い。気がつけばその大剣の横薙ぎが俺に迫っていた。
「っ!!」
身をのけぞらせなんとか間一髪で回避する。その勢いのまま後方に下がり一度距離をとる………さて、俺はこんな器用な動きはできないはずだぞ?
「自らの体を支配したか………戦闘センスをそれで補う辺りあいつと似ているな。だが、その程度では、我は止まらんぞ………?」
なるほど………無意識的にできていると言うことならば、勝ち目はあるか。またその閃光は俺に襲いかかる。次はどう来る?解らない………そもそも、これじゃあ勝てない。いくら自分を支配したところで引き出されるのは潜在能力だけ。ならば………やつに枷をつけてしまうのが手っ取り早いわけだ。
姿が一瞬だけ確認できる。その構えは刺突のそれ。好機を逃すな見えたならイメージしろ………その腕に………。
「くっ………!?」
駄目だ………また既の所で躱す。やっぱりこれは素人の俺にはできやしないのではないだろうか。
「どうした?避けてばかりでは勝てないぞ?」
「そんなの………解ってるよ。」
至近距離からその声が聞こえる。もっと根本的なことなのかもしれない。だが、思考の時間が惜しい。今は………動け俺。次はまた横薙ぎ!今度は下がれ!
「これを見切るのは相当だぞ?たとえその力があろうとも。」
「そりゃあどうも。」
そんな会話をしながら考える。支配………いや、自分を支配したところで引き出されるのは潜在能力だけだとさっき結論を出したはずだ。だが今の動きは………どう足掻いても俺のフィジカルを越えている。冷静に、その場から一気に5m近く後方に飛べるなんてのは人の技ではないだろう?だが………現に俺はできていた。さも俺の思考を体現するかのように。
「その力………ただの支配とは違うようだな。人のなせる技ではないのは我でも解る。」
考えろ………もっと根本的な………自分の行動を思考が完全に掌握したような………そう言うことか?そう言うことなのか?
「こっちも解んないことだらけでね………。」
「なら学べばいい。生きていたらな。」
三度目………本当にそうなら俺の力と言うのは縛り付けるようなそれではない。見せてみろ………俺に、この力とはなんなのか。
「完全掌握………。」
そう呟いた。とたんにイアからあの禍々しいオーラが消え去り、その一撃を避けたところでイアは静止する。振り下ろされた大剣、それを半身で躱したところからピクリとも動かない。
「………何をした?」
「ただ………その力を掌握した。」
その一言を返す。
「掌握………だと?」
「力を持っているのは君自身だけど、それをコントロールしているのは俺だ。いま、そう言う状況下にした。」
「はっ………アハハハハ!!とんだ化け物だなぁ、貴様?とどのつまり我は貴様を切ることはできぬと?」
「あぁ………解ってるんだろ?その剣が嫌に重くて自分じゃ動かせないってことくらい。」
「あぁ、そのとおりさ!なんならこの甲冑さえ重いと感じてしまっている………その力は、我の積年の恨みすらも握り込んだと言うわけなのだな?」
「俺の解釈だとそう言うことだ。」
支配の魔法………いや違う。これは掌握の魔法だ。だからこそだろう。あの瞬間突発的な力が出て後方に下がることができた。それは俺が力の前借りをしていたせい。要は火事場の馬鹿力と言うのを常に発生させていたのだ。だので………今俺は一歩も動けないほど足が震えている。
「はあ………ならどうやっても我の敗けだ。認めよう、アキト。我の伴侶となることを。」
なぁぁぁあああぁああ!!!そうだったぁぁああぁあ!!!