第3話 黒騎士
支配の魔法………俺の思っている以上に凄まじい力だったらしい。尤も、それを俺が扱えるのかどうかは別として。
「大丈夫だよ。あれを拘束さえしてくれればそれでいいから。」
ダンジョンの最下層へと続く長い螺旋階段を下る。おおよそ底は見えないほどである。かろうじてクロが持つ石のほのかな光が辺りを照らしているので足元くらいなら見ることができる。さて、それにしてもクロはああ言っているが本当に大丈夫なのだろうか?
「………そもそも、この下にはいったい何がいるんだよ?」
「あぁ、その説明のほうが先だね。ここの下には何がいるのか………ダンジョンに幽閉されているんだから、そりゃあとんでもないものだよ。力にしたら地上の魔王をも凌ぐくらいかな。」
「ま、待ってとんだ化け物じゃないか!?」
「大丈夫、君の力は軽くあれを500年は縛り付けることができるから。たとえ扱う人がどれだけ素人であろうともね。」
「そこまで言うなら………。」
「鎖をイメージするんだよ。あれをずっと縛り付ける鎖を。」
「な、なるほど。やってみる。」
「………うーん。にしてもあれも難儀なやつだよ。」
「………どういう存在なんだ?」
「私も先代から聞いた話だ。あれは………今から約700年前の話。吸血鬼ってしってるかい?」
「あ、あぁ。」
「このダンジョンに幽閉されているのは吸血鬼………この世界に最後に残った吸血鬼だよ。その昔、とある吸血鬼がいた。ちょうど吸血鬼狩りが盛んな時期だ。その吸血鬼も生き残るのに必死だった。人の歳にして17歳程だった彼女は、逃げ込んだ館の中のなかで見つけた甲冑の中に隠れた。それから数年が経ち、彼女以外の吸血鬼は淘汰された。残った彼女の怨念は募り続け………圧倒的な力、満たされることのない乾きと共に彼女は目を覚ました。それが600年前の話。」
「成る程………。」
「それでまあ、なんやかんやで君の先代があれを封印したのが500年前だ。先代が生きていれば、多分もっと封印は長く続いたんだろうけどな………。」
「まぁ、人にも限界値はあるからな。」
「………そうだね。」
ぽつりと、含みを残してクロはそう呟いた。未だに続く長い階段。終わりがないようにも思える。だが、数分経ってその吹き抜けた風に気がつく。
「うん、もう底が近いみたいだね。」
「今の………。」
「気圧された?圧倒的な魔力量。地上に解き放てば数日で世界の全てをねじ伏せるほどの力量。先代はあれをその見た目から黒騎士としか呼ばなかったけど………私からしたらあれは厄災そのものだよ。」
ゾクゾクと、本能的な恐怖が襲いかかる。本当に、俺はこれと対峙するのか?まだ姿も見えないが、解る。これは………おおよそ人間が束になったところで歩みを止めることさえできない存在だと。
「さあ、あと半分くらいだ。いくよ?」
「あと半分………。」
これまで数時間ほど下ってきた気がするが………まだそんなものだったのかと落胆する。と言うかこのダンジョン………どれ程深いのだろうか………。