第1話 出来損ない
5年後に来る大厄災だ?この世界の未来だ?そんなもの、死にゆく俺からしたら微塵も関係のない話だった。刺された腹部が異常に痛む。本当に………ふざけんなよ。何が異世界召喚だ………何が勇者だ………クラスメートから妬まれ、刺され………何が支配の魔法だよ………何が最強だよ。っていうか………なんであいつは俺を刺したんだ?リスクしかないこのタイミングで。嗚呼どうだっていい。意識がもうろうとしてきた。用意された自室がぼやけていく。どうにも先は長く無いらしい。
俺に宿ったのは支配の魔法だとか言ったな………俺自身の死期を支配できなくで何が支配だよ。ふざけんなよ………。
「ふざ………けんなよ………。」
結局、人生と言うのはその人の人間性で決まるらしい。ろくに人と関わりを持ってこなかった俺が何か突飛な力を手にしたとたんにこれだ。結局、俺には何もなかった………まぁ、そうだよな。出来損ないの俺にはそんな資格、与えられている訳がないもんな。嗚呼………クソがよ………。不意に、聞き覚えのない少女の声を聞いたのだけは確かだ。窓が割れような音もした。誰かが侵入したのだろうか?まぁ、どうでもいいけど。
「っ………!手遅れだったか?」
そんな声であった。
恐らく、俺が再び目を覚ましたこの事象と言うのは奇跡にも等しいだろう。俺の目に飛び込んできたのは、今まで俺が住んでいた世界でも俺が殺されたあの部屋でもない。薄暗い洞窟の最深部のような場所。召喚の次は転生ってか?
「生憎と、君は死んじゃいないよ。生きてる。」
そんな、あのとき聞こえた声が再び聞こえる。と、言うか心の声を読まないでくれるとありがたいんだが。そうして、起き上がろうとしてそいつに止められた。
「まだ寝てな。傷口が開くよ。」
そうして、ようやくその者の姿を目にとらえることができた。短く白い髪、ボロボロになった布切れをまとい手足には枷がついている。罪人だろうか?いや、そうだとしてなぜ俺はつれてこられた?思考を巡らせているところで、腹部に痛みが走る。
「っ!?」
「だから言ったじゃないか。君に施してあるのは応急処置だ。完全に治った訳じゃない。」
「な、なるほどな………。」
寝転がったまま、その少女に向かい話す。洞窟の中の開けた場所。その中心にある石の台に俺は寝かされていたようだ。腹を擦り出血自体は止まっていることを確認する。それと同時に妙な圧迫感の正体も判明した。
「包帯………君が巻いてくれたのか?」
「まぁ、そうだな。私がやった。君に死なれちゃ困るからね。」
「ありがとう………えっと、名前は?」
「あぁ、クロでいい。」
「了解………。」
そこで少しの間沈黙が流れた。正直、まだ意識がはっきりとしているわけではない。上手いこと頭も回っていないのだ。そうして、ようやくその問いにたどり着く。
「どうして俺を助けたんだ?」
「さっきも言ったとおりさ。私は、君に死なれたら困るからさ。正確には、君の持つその支配の魔法が消えたら困るからだけどね………。」
まぁ、そりゃあそうだ。見ず知らずの人をあそこまでして助けるならばそれなりにリターンを求めるだろう。あの場面じゃただ通りすがっただけなんてあり得ない。そうして再度確認するのだ。支配の魔法とはなんなのかを。