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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

神の代行者―神剣使いの此岸から彼岸の先の幸福―

作者: 金指 龍希
掲載日:2022/03/15

 あちらこちらで戦いの気配がする。

 黒い炎と魔獣。

 友人の紹介で知り合った護衛は足止めされてここにはいない。

 私の前で親戚の男性が私を守って悪漢に殴られて倒れている。


「ヒャハ、弱いねー。おらぁ!」


「グッ……、諦めない、俺は水希を守るんだ……」


「修也さん……」


 私はいつまで、悲嘆に暮れているのだろうか?見ているだけなのか?


 何のために神剣を継承したのだろうか……?


 手に持った神剣は虹色に輝き、私に覚悟を問いかける。


 ――お前は転生して、神剣を握って何をしたいのか?と――


 私はまだ、答えに迷っている……。




 どうしてこうなったのか、それには理由がある。


 私は前世の記憶がある。

 亡くなる前の年齢は16歳だった。

 前世の私は病弱だった。

 学校に通ったことはない。常に病院と家を行き来していた。

 同世代の子が元気に学校に通っているのを見て羨ましくも思った。丈夫な体に産んでくれなかった。両親につらくて心無い言葉をぶつけたこともある。両親は「ごめんなさい……」というと、母は私を抱きしめた。

 両親のことを考えることもせずに心無い言葉をぶつけたのを後悔した。


 だから、命ある限り精一杯生きよう。


 そう思っていたある日、医者からもう匙を投げられて自宅で最期を迎えることになった。

 家にいるのはつらかったので近所にある神社に日々生きていることを感謝しに参拝することを日課にした。


 「精霊神社」


 何を祀っているかわからない神社だと、近所でも言われている。

 私が年始の病院でお守りとして両親から渡されたのはこの神社のお守りの勾玉だ。

 今では首飾りにしていつも肌身離さず身に着けている。

 境内に入ると不思議と気持ちが楽になる。

神社は神を祀っているので、もしかしたら神に見られているかもと思っています。


 神社に参拝するのが一か月経った頃、境内の空気が変わったような気がします。今までは空気が淀んでいたのですが、だんだんと澄んでいったのです。神社は鳥居から先は神域とも言われています。この空気がそうなのでしょうか?

この神社は管理する人以外は年末年始と祭り以外では人は滅多に来ない。掃除も最低限である。


 気のせいだろうか……?


 ある日。体調が悪かったが、両親に神社に行くと告げて向かった。

 いつものように参拝したところで急に体が動かなくなった。

とっさに私は勾玉を握りしめた。なぜかそうする必要があると思った。社の前でうずくまって薄れていく意識の中。

最後に女性を見た気がした。

 

「ふむ、この子は私の神社に通っていたな」


 この神社の神である女性は眼下の境内で倒れる少女の姿を見て不憫に思っていた。

 自分ができることはなかったからだ。


「ふむ、あいつに魂の転生を頼むか」

 そう呟くと、

「いわれなくとも、もう来ておるわ」


 女性の前に東洋の龍が現れた。

 そして、姿が瞬時に女性へと変わる。服はなぜかブレザーの学生服である。


「私も大概服はこの時代に合わせるが、お主はなぜにお嬢様学校の制服をいつも着ている?」

「原初よ。人間観察が足りんぞ。我の系列神社にはよく学生がくる。人生の岐路である受験に合格するために願掛けをするのだ。願いを聴くときに相手を見ると他力本願なものもおるがな」


 ブレザーの女性は原初と呼んだ女性を見た。

 原初の精霊。

 精霊神社の神にしてこの世のあらゆる元素の元とされる神である。


「はぁ、まあいい。それで頼みがあるのだが」

 原初は視線を社の前で倒れた少女に向ける。

「ふむ、この娘の魂はもう隔離しておる」

「なら、転生をさせてくれぬか?この娘は毎日、私のもとに日々の感謝を告げていた。病気を治してほしいとは願わなかった。どこか悟っていたのだろう。自分の寿命が短いことを。私は何もできん。なら飲み友達であり。全国に信者が多いお主に頼むのが、適切だと思ってな」


 原初は自分の無力を嘆いた。

 神の強さは人間の信仰に左右される。

 日本の神は生まれては消えを繰り返している。

かつて信仰されて栄えた神社でも、信仰がなくなると朽ち果てる。

同時に祀られていた神も信仰の消滅とともに消滅する。

まだ、原初の神の精霊神社はかろうじて信仰が残っている。それゆえに姿が保っていられる。

保っていられる程度で力は無いに等しい。

ゆえにこのブレザーの龍神に頼むことにしたのだ。


「われの信者ではないのだがの。お主にはよくしてもらっておる。本来なら八百万の神の会議にかけるのだが、われの権限で転生をさせよう。大昔の借りをここで返せるしな」


 龍神はそう言うと、原初に笑いかけた。

「感謝する」

「原初よ。消えるでないぞ。われはこれ以上友人を失いたくない」

 龍神は悲しげな顔で原初に告げた。


「この科学技術が普及したこの時代は神の奇跡とみなされた現象を解き明かし、神はいないと否定する風潮が生まれた。同時に信仰心は薄れていき、ついには神は忘れ去られていった」


「ああ、この五十年でどれだけ友人がこの世を去ったか」


 龍神は目を伏せると、

「われはまだ信仰があるが、社が少ない神はこのままいくと消滅するだろうな」


「そうだな。さて、あの娘には良き人生を送ってほしいので調整を頼む」


「任せろ。世界は一つではない。お主も力がないとは言っているが、そうでもないだろ?」


「こちらでは、力がないだけだ」


「せめて、われらの力が及ぶところに転生させて、見守るとしよう」

 こうして二柱の神の会議は終わった。




 深夜に高校生くらいの男性が歩いて自宅への道を歩いている。

「やれやれ、現状だと隠れて付き合うのは大変だな」

 男性、須佐恭也が年単位の時間をかけて女性を徐々に口説いているのだ。

現状だと、

「あいつ、気があるのは間違いないのだがなぁ。やはり障害になるのはアレかぁ……」

 恭也は女性がどうしても乗り越えないといけない壁を思い浮かべた。

「ま、きっかけがあれば大丈夫だろ」

 恭也の短い言葉は夜空に吸い込まれていくかに思えた。


「そうかなぁ?」


 後ろから声がかかると、慌てて振り返った

(こいつ、全く気配がなかった。それにあの頭はなんだ?)

 声をかけた男は黒いコートを羽織った馬の顔をした被り物をしていたのだ。

「なんだ?お前は?」

「おれか?俺はただの配達人さ。お前にプレゼントを渡しに来た」

 そう言って馬面男は黒く長細い包みを投げて渡した。

「っ……。受け取らねぇよ」

 すぐに恭也は投げ返した。

 差出人も怪しく、どんなものかわからないのもあった。


「クーリングオフは受け付けてねぇぜ。こいつを使えばお前の悩みは解消するぜ?」


 再度投げられる黒い包みと言葉に受け取った恭也は一瞬、迷ってしまった。

「お前は、品行方正を求める両親、学校が嫌なんだろ?彼女に捨てられるのが怖いんだろ?そして、神剣が嫌いなんだろ?」

 言葉を失うとはこのことか。

 恭也が思っていたことだった。

 負の感情が上がってくる。それを必死に抑えようとしても、

「そいつを使って楽になっちまえよ」

 悪魔のような囁きが心を黒く染めていく。

 それでも、恭也には女性の笑顔が唐突に思い浮かんだ。


「おっかしいな?まだ、心が堕ちねぇ。まぁ、いいや。そいつを持っていれば完全に落ちるだろうなぁ」

「くっ、俺は、こいつを使わない!」

 恭也は馬面男に宣言したが、

「ヒャハァ!そいつはどうだかな?まぁ、せいぜい抗うといいぜ」

 そう言って馬面男は夜闇に消えていった。


「俺は……」


 黒い包みを見て、どうすればいいかわからなかった。

 押し付けられた贈り物はパンドラの箱だったのか、それは後になって恭也が知ることになる。




 私の前世の記憶が戻ったのはある出来事があったからだ。

 転生したのは魔法のある日本だった。

 意味が分からないと思う。

 でも事実だ。

 普通に魔法が存在して、それが暮らしに浸透している。

 武器を持つのも許されている。

 武器を持っているのは「魔獣」がいるからだ。


日常で歩ていて唐突に魔獣が出現して襲ってくるのは魔力が原因だといわれている。

研究しているが、まだ魔獣の出現の理由などは判明していない。


 それでも科学技術も発達している。

 ガス、水道、電気などは普通にある。

 ビルなどの高層な建物も存在する。


 決定的に違うのは銃が存在しない。


 これは魔獣が存在し、人間同士の世界大戦でも武器としては剣と魔法が主役だった。

 飛び道具でも弓や投げナイフがあるが魔法と組み合わせるのが主流だ。

 なぜ、発達しなかったのか?

 それはわからない。


 この世界の人が不要と思ったのか、魔法があるからと発達させようとしたのを潰したのか。

 いろいろ考えられるが、どれも正解のように思ってしまう。

 個人的にはあんな物騒なものがなくて安心している。

 あったらもっと悲惨な歴史になっていたはずだ。


 魔法のある日本だが、不自由はしない。前世と同じくらいの文化水準。銃はないが魔獣が襲ってくる。それでも、専門の討滅士がいるので倒している。

 治安はいいほうだ。武器はあるが倫理観は徹底的に学ばされるので、街中で突然、決闘なんて騒ぎもない。

 魔法も単純な攻撃魔法しか使えない。

 というか発想が貧困な気がする。

 魔法の属性は六属性。

 火、水、風、地、闇、光。

 そして、全ての属性が使える虹。

 魔法を複数属性使うことはできるが全部は珍しいとされている。

 これだけ情報があるといろいろできそうだが、教科書で確認した魔法は少ない。

 例えば火の魔法はファイアーボールしかない。

 今まで魔獣を倒していたので工夫してそうだが、魔獣に強い存在がいる。


 その強い存在、精霊である。


 精霊は人と契約することができる。

 どうやって契約する精霊を見つけるか?

 実は精霊はどこにでもいる。

 草木に宿るし、物にも宿る。魔力を固めて創造することもできる。

 ただ、物に宿った精霊は物が古ければ古いほど力が強いとされている。

 私が転生したのは歴史ある古い神社である。

 その神社には神剣がある。


 神剣「原虹」


 いつからあるのか詳しい歴史はわからない。伝承が少ないからだ。

 この神剣には精霊が宿っているとされている。

 継承者以外は神剣には触れない。

 神剣を盗もうとした盗賊が神剣に触れたら盗賊が業火に包まれて骨も残らず消えたという逸話もある。

 歴代の継承者は神剣の精霊とともに魔獣を退治してきた。

 この神社のある名古屋市で大規模な魔獣討伐記録のほとんどは神剣の継承者が関わっている。


 ゆえに神社の名前は原虹神社。


 神剣の名前からとってそのまま神社名にしている。

 神社がある名古屋市一帯に影響力を持っている家なので、ある意味資産家であり権力者でもある。

 当主は歴代男性である。

 神剣の継承者も歴代は男性だと神剣の精霊が断言している。

 そう、私はその歴史ある家、須佐家に産まれた。


 私の今世の名前は須佐水希。


 優しい両親、優しい兄に見守られながら大きな病もすることなく育った。

 家も神剣も兄が継ぐので、長女の私はのびのびと好きなことをさせてもらっている。

 でも、まさか神剣を継承するとは思っていなかった。




 ある日、

『おいーーー』

 夢で呼びかける声がする。


 朝、起き上がると夢での声をすぐに思い出す。起きると大抵の夢は忘れているものである。

「不思議な夢だったなぁ……」

 そう呟くと、身支度を整える。

 リビングに入ると、

「おはよう。水希」

 そう声をかけたのは父である須佐浩三。

 父は須佐家の当主。

 私にとっては時に厳しくもあり、娘に甘いときもある理想を体現したような父である。

 父は魔獣の討伐を依頼されることがある。一度遠目に見たが魔獣を一刀両断する姿はかっこいいの一言に尽きる。


「おはよう。水希ちゃん」

 母である須佐彩奈はいつも温和な笑みを浮かべて私に声をかける。

 母は父に惚れて押しかけた剛の者である。今でこそ穏やかではあるが、父と結婚するときは相当のすったもんだがあった。

 父と母の結婚に反対したのは前当主で、須佐の分家でもない縁もない女性が次期当主である父と結婚するのは認めないと言って無理難題を突き付けた。


 その条件は神社の隣にある道場の門下生と師範を全員倒すこと。

 父はその条件は女性には厳しすぎると前当主に抗議したが母は静かに告げた。

「その条件をお受けします。私が道場の方を全員倒したら結婚を認めてください」

 前当主は鼻で笑って、

「いいだろう。倒せたらな」

 この時、母の顔は戦に臨む前の感情の読めない穏やかな表情だったという。

 次の日に道場には全関係者が集められた。

 中には魔獣を倒す凄腕の討滅士がいた。

 試合は乱戦を想定した一人対多数であったという。

 前当主はそこまでして認めたくなかったのだろう。私からすれば心が狭いとしか思わない。


 母は木刀一つで門下生を薙ぎ払うと、

「弱い、まとめてかかってこいや!!」

 と叫んだという。

 一人、また一人と倒れていく門下生に相対した道場の関係者は母の気迫に恐れをなしていたそうです。

 道場関係者を母は全員倒した。

 病院には門下生と師範がこの日大量に救急搬送された。

 対応した救急医が悲鳴を上げて、須佐家に苦情を入れたという。それはそうだろう、一般診療にまで支障が出たのだから。

 その戦闘を見ていた前当主は顔を青くして最後は父と母の結婚を認めた。

 のちにこの時のことを当時の門下生である人は「夜叉」が降臨したと語っている。

 恋は人を強くするというが、夜叉にもするらしい。


「お、今日は早いな水希」

 食卓には兄である須佐恭也もすでに席についていた。

 兄は次期当主として勉強しながら併設された道場で鍛錬している。

 兄は二歳年上の十八歳だ。

 私も通っている有名な進学校で魔法や学問が高水準でないと受験できないと言われている。

 兄は進学校での成績はトップで生徒会への参加を求められたが断っている。理由は家の手伝いをするのと道場の師範をしているからだ。

 普段から兄は社の周りを掃除している。

 それは次期当主の務めで神剣を祀っているので神剣の精霊に感謝を日々の掃除で表しているのだ。

 兄は高身長で顔がいいので、女子から声がかかることが多い。バレンタインの日にはチョコを段ボールで家に運んでいる姿を見たことがある。そのチョコは賞味期限が心配なので、家族と道場のみんなで食べたのはよかったのか悪かったのか……。


「おはようございます」

 そんな美形家族に産まれた私は友達からかわいいと言われたりするが、実感はない。

 日本人の標準である黒目、黒髪、身長は百五十でスレンダーな体。

 とてもではないが美人とは言えない。

 髪は腰まであるロングヘアにしている。本当は肩口まで切りそろえたいが、母が髪を切ろうとすると凄みのある笑顔で、ダメと言う。

 髪の長さは自由になるまでダメだろう。

 学校での成績は上の方だ。兄と同じ学校に入りたいから頑張って勉強した。その勉強にも友達が付き合ってくれた。その友達も同じ学校を受験して合格している。


「さて、早く食べてお勤めをするか、二人はこれから学校だろ?」

 父はそういうと食べ始めた。

 パンとスープにサラダという神社に住んでいるから日本食とは限らない。むしろ洋食が多い。

「今日は帰ったら道場に行くよ」

 兄がそう答えると、

「あら、道場のみんなによろしく言っておいてね」

 母が笑顔でそう言うと、隣で父が震えていた。

「はは……。伝えとくよ」

 兄が苦笑すると、

「水希。道場に来るか?」

 兄の問いかけに、食べるのを止めて考える。

「うん、高校生になると魔闘技大会もすごい戦いになるし」

 学校行事に学年ごとに魔闘技大会の代表選抜というのがある。

 代表選抜は成績に反映される。それに将来の仕事に役に立つこともあるので必死になる。

 私は中学の時に毎年大会の代表に選ばれている。


「よし、学校が終わったら迎えに行くから教室で待っていてくれ」

「兄さん。教室ではなくて校門で待っていてください。私たちの学年のフロアに来るとまた囲まれますよ」

「そうだった……。仕方ないな。校門で待っているよ」

 兄妹の会話を両親はにこやかに見ていた。








 最後の授業が終わると今日は終わったと感じる。

 部活に入ってないので、帰るだけである。

「お疲れさん」

 そう声をかけてきたのは幼馴染の男子だ。

「お疲れ様、輝夜君」

 彼の名前は綿月輝夜。

 黒目黒髪の日本人とは違って、彼は銀の髪に紫の瞳をしている。身長は百六十で筋肉質ではなく一見鍛えているとは思えない細さで女子には隠れて人気があります。

 彼は京都から引っ越してきたのだが、私との出会いは道場に彼が通い始めたからだ。

 私が九歳の時の話だ。

 それからというもの彼とともに鍛錬をしている。試合をすると必ず私が負ける。

 彼が魔法を使っているのを私は見たことがない。

 いや、だれも見たことがない。

 学校の授業で魔法を使うことがあるのだが、いつも見学をしている。

 道場に通っているから体術と剣術は扱えるので、だれも何も言わない。

 日本人にはない特徴もあって不思議な雰囲気を醸し出している。

 クラスの女子たちが密かに女装させたいと思っている。実際に女子に混ざっても不思議じゃない容姿だから。


 ただ、口を開くと、

「俺としては、これからが本番だな」

 そう、俺様口調である。

「まさか、授業中に寝たの?」

 私は一瞬思ったことを口にした。

「寝るわけないだろ。授業をさぼったらそれだけ後にツケを払うことになるからな」

「そうだね」

 輝夜の言葉に私は苦笑した。

 彼は真面目なのだ。

 学年トップの成績で努力を欠かさないのだ。

 一度、どうしてそんなに頑張るのかと訊ねた。

 後悔したくないから、魔法が使えないのもあるけど、無意味に人生を過ごしたくない。

 そう答えてくれた。

 彼の言葉にはなぜか重みがあるように感じた。私はその彼に感化されたのか、勉強も武道も頑張っている。


「今日は道場だろ?」

「うん。校門に兄さんがいるから合流しましょう」

「それなら急ぐか。お前の兄さん、囲まれているぞ。女子に」

「結局どこ行っても囲まれるのか……」

 私たちは校門まで急いで向かった。




 校門には人だかりができていた。女子の黄色い声が聞こえる。

 私はその光景にため息をつくと、

「お、来たな」

「ようやくか」

 人だかりの中心には二人いる。

 兄と分家の男子である円条修也さんだ。

 修也さんと兄は歳も同じということもあり道場でも切磋琢磨する中だ。

 私は道場で師範代に教えてもらっていたが、私が中学生になってからは修也さんが私と輝夜君の指導をしている。

 そういえば何かにつけて修也さんは私をかまうのだ。去年の魔闘技大会で、優勝したとき頭を撫でてもらった。

 その時は顔が赤くなったものだ。

「水希さん。道場に行きましょうか」

 修也さんに言われて、

「行きましょうか」

 私は周りの視線に恐怖しながら答えた。

 どうも、私は修也さんと恋人ではないかと噂されている。

 違うというのに……。

 前を歩ている輝夜くんと兄さんが話しています。

 少し距離があるので聞こえにくいのですが、断片的に聞こえます。

「恭也さん、お疲れ様です」

「輝夜君もお疲れ様」

「それにしてもあの二人、もう付き合えばいいのに」

「修也がアプローチしているが、決め手に欠けるな」

「水希が、好意があるのを頭から否定していると……」

「まぁ、水希と付き合うならまずは俺を倒さないといけないがな」

「いい笑顔で何言っているんですか……。恭也さんを倒せるのは彩奈さんくらいですよ」


 輝夜君があきれたような顔をしてこちらを少し見ました。

 何を話しているのでしょう。

 私の隣では修也さんが上機嫌な顔で歩いています。

 どうしよう。

 話題が思い浮かばない。

 こうして、上機嫌な修也さんと話題が思い浮かばずどうすればいいかと困り、うつむき加減な私は道場にたどり着くまで、このままだった。




 道場ではいつものように気合の入った声が響いている。

 それは外にも聞こえてくるくらいだ。

 道場には壁に木刀が置いてある。そして、中には真剣も置いてある。

 魔獣が近くに出現することがあるので、すぐに対応できるように真剣が置いてあるのだ。

 私たちは更衣室で道着に着替えると、すぐに鍛錬を始めた。


 鍛錬をしていると、

『おい、きこえているか?』

 頭に不思議な声が聞こえてきた。


 ふと鍛錬を止めてあたりをキョロキョロと見ていると、

「水希さん、どうしたのかな?」

 心配した三人がこちらを見ていた。

 代表して修也さんが声をかけたようだ。

「うーん……。なんか頭に声が聞こえてきて」

「野良精霊の声か?」

 輝夜くんが木刀をいつでも振るえるようにしながら尋ねてきた。

「それはまずいな。主を持たない野良精霊は人に危害を加えることがある」

 兄さんが道場にいる人に注意促した。

「それにしても野良精霊がいるとはな・・・」

 修也さんが、そういって横に立った。


 精霊はどこにでも宿る。

 そして、精霊は契約するときは条件として試練を課すことがある。

 そのうちの1つに戦闘を仕掛けることがある。

 主と認めるための戦いとはいえ命懸けである。


「もし呼びかけが、戦闘を望むなら、まずいな……」

 修也さんが木刀を構えている。

「水希、もう呼びかけはないか?」

「ないです……」

「父さんに相談するか」

 兄はそう言って警戒を解いた。

「僕たちも行っていいかな?」

 修也さんと輝夜くんが、心配そうにしているので、

「いいですよ」

 私は震える声で答えた。

 それを聞いた修也さんは、肩に手を置いて、

「大丈夫ですよ。僕がいますから」

 なぜか、その言葉に私は安心した。




 午後の六時になっていたので家には両親が待っていた。

 修也さんと輝夜くんが急遽来たのだが、母はすぐに人数分の夕食を用意してくれた。

「不思議な声か……」

 夕食後のひと時にみんなにここ最近の不思議な声について説明した。

「あなた……。もしかして……」

 母は不安そうな顔をして父に尋ねた。心当たりがあるようだ。

「精霊しかないな。問題はこの神社の敷地でしか聞こえないことだ」


 父は腕を組んで考えている。

 少しの沈黙。

 それは短いようで長い一時だった。

 その沈黙を破ったのは輝夜くんだった。

「この神社には神剣がありますね?」

 輝夜くんの質問に父ははっとして、

「そうか……。綿月くん、確かに神剣がある。神剣の精霊「原虹」の呼びかけか」

「あなた。原虹の継承は男性しかできないはずでは?」

「ああ、だからこそ私はその可能性を頭から否定していた。歴史的にも原虹を継承しているのは男性だ」

 母の問いかけに父はあり得ないと言う。

 その言葉に輝夜くんが答えた。

「神剣についてはまだ解明されてないことが多いです。継承条件なんて精霊が気に入ったというのが有力なくらいですから」

 どうして、輝夜くんは神剣について知っているのだろうか?

 最後の方は呆れたように言ったのも気になります。


「そんな理由で神剣を継承することがあるのかい?」

 兄さんが驚いた顔をして言った。

「神剣使いは意外と数がいますからね。暇なときに調べたことがあります。その中にありました。精霊が気に入ったので継承したと」

「案外、この神社の原虹もそうなのかな」

 父はため息を吐いた。

 私が思っていた神剣の継承条件とかけ離れたイメージを持ってしまう。

 精霊が気まぐれだなんて。

「神剣はまだ社にありますよね?」

 修也さんが尋ねた。

「社にある。いや、社から動かせない。下手に動かすと命がないからね」

 父の言葉に私たちは驚いた。

「命がない。それはどういうことですか?」

「昔、社に盗賊が入ってね。原虹に触った瞬間に……」

 みんなの顔が一瞬こわばる。


「盗賊が燃えた。それも骨も残らず灰になった」


 父は静かに言った。

「先代の当主の時にあった。私が子供のころだな。実際に灰を見ている。それで私は神剣が怖くなったな」

「それは誰でも怖いですよ」

 輝夜くんはここにいる誰もが怖がっているのに平然としていた。

「だからこそ、私は継承できなかったのだろうな。どちらにしても確認する必要がある」




 私たちは禁足地に足を踏み入れた。

 原虹神社には神剣を祀る社がある。

 そこは禁足地とされていて、掃除する人以外は立ち入り禁止とされている。

 私は入ったことがない。

 小学生の時に興味本位で入ろうとしたが、その時は修也さんと輝夜くんに見つかり。やめた。

 そのあと両親にすごく怒られたのは苦い思い出だ。


 その敷地の社の目の前にたどり着いた。

「たどり着いたが、水希。覚悟はいいか?」

 父の問いかけに、

「怖いけど、行きます」

 私は覚悟を決めて社の扉を開いた。

 社の中は少し埃っぽい。

 父が懐中電灯を照らすと、

「これが神剣……」

 私は目の前の埃もかぶらず。輝く刀が鎮座していた。


『よく来たな』


 刀身が突然輝くと私の頭にあの声が響いた。

 輝きが収まるとそこには浴衣を着た美大夫がいた。

『よう!これでようやく継承できる!』

 精霊『原虹』は快活な顔をして私に言った。

「あなたが精霊?」

『ああ、そうだ。と、周りが俺の声が聞こえないのは不便だな』

 そう言って原虹は手を払うと。

『これで聞こえるはずだ』

 私はみんなを見ると、精霊の声が聞こえたのか改めて原虹に注目していた。

『ここは埃っぽくていかん。水希よ。俺を、神剣を持ってくれ。外で話をする』

「それなら原虹様。道場で話をしましょう。そこなら、人払いをすれば落ち着いて話せます」

『ふむ、人払いがされているならどこでもいい』

 私は恐る恐る神剣を持つと、

『大丈夫だ。なぜおまえなのか、その理由を説明する』

 原虹はそう言って隣に立った。

 私たちは社を後にした。

 外に出ると社には月の光が差していた。




 道場には夜の稽古をする人がいるのですが、今日は無理を言って帰ってもらった。

 最後の人が挨拶して帰っていくと、道場は静けさに包まれた。

 みんなが好きな場所を見つけるとその位置に座ったり壁にもたれかかったりしている。

 不思議なのは兄が更衣室から布に包まれたものを持っている。

 気にはなりつつも不思議とその包みから意識を外した。

 そして、話が始まった。


『さてと、俺がこいつを、水希を知っているのは産まれた時からだ』

 原虹は私を見て言った。

「産まれた時から」

 母はそう言って私を見た。

『そうだ。こいつの魂は転生している。つまり、今は二度目の人生だ』

「私、そんな記憶ないです……」

 物心ついてからの記憶しかない。

 原虹に言われてもまったく実感がない。

『記憶がないだろうな。どれ、記憶を呼び覚ますか、あの方達は俺にこの役を押し付けるとはな』

 原虹はそう言って私の頭に手を置いた。

 勾玉の首飾りが光とともに付けられると、頭に知らない記憶が出てくる。

 それは……。

 

 病気で亡くなった私の記憶。


 崩れるように倒れる私を、支えてくれたのは修也さんだ。

「水希さん!」

 修也さんが叫ぶ声が聞こえる。

『あわてんな。記憶が一度に戻ってきただけだ。ちょっと混乱するだろうな』

 原虹の言葉にみんなが安心する。

「修也さん、大丈夫。知らない記憶があるのは驚きだけど、動けないほどじゃないです」

 私がそう言うと、修也さんが立ち上がらせてくれた。

『前世の記憶については後でゆっくり整理しな。まずは、なぜ知っていたか?それは水希が龍神様による転生だからだ。そして、産まれた時からその気配があるんだ』

 その言葉に私たちは驚いた。

 そして、龍神とはいったいどんな存在なのか気になりました。

「龍神様……。まさか、神というのですか?」

 父が神妙な顔をして原虹に質問しました。


『そうだ。この世界とは別の世界だが、繋がっている。神は存在する。だが、滅多に姿を見せないし、力を貸すこともない。この世界では俺達精霊は神の末端でもある。ま、ようは下っ端だな』


 神が存在して、精霊はその部下的な立場にあるとの説明に動揺した。

『水希の前世の世界では魔法は存在しない。でも、神は存在する。おそらく、水希が亡くなったときに神が転生をさせると決めたのだろう。こちらの世界とは関わりが深い神が龍神様に転生させるように頼んだのだと思う。その方の気配もするからな。つまり、水希は二柱の神の加護がある』

「神に愛されし子……」

 母はそう呟いた。

「すごいな。水希は」

 兄はそう呟くと持っているものを握りしめた。

 輝夜くんは無言で原虹を見ている。

 修也さんは私の肩に手を置いて。難しい顔をしている。


『そうだな。確かに神に愛されている。だからこそ。俺は水希の成長を見守っていた。俺ら神剣を使うのに年齢制限はねぇ。本音を言えば早いところ継承させたかったが、継承させると余計なことまで背負い込むことになるからな。だが、もう水希も十六歳だ。思い切って呼びかけることにした』


 原虹の言葉には私に対する愛情がある。

 私は本当に恵まれている。

 前の人生の時のことが、想いがよみがえる。

 それは両親に愛されたということと、病のない人生を歩みたいという強い想い。

 今の人生は人にも、ましてや神にも見守られている。

 だからこそ、今の人生を全うしたい。


『俺は水希を気に入っているが、神剣の継承は無理やりでもさせることができる。だが、それをやるのはまぁ、まともな精霊ではない。だからこそ、水希。選べ、神剣を継承するか否かを』


 突然突き付けられた選択。

 人生とはいつも唐突に難題が用意される。

 前世の人生では病でどうにもならなった。選択肢なんてなかった。

 今世では、ある程度の人生の選択はしていた。それでも。こんな大きな選択はしなかった。

 私はどうするか。

 前世の記憶が訴えかける。

 前世の両親に苦労させて恩返しもせずに若くして亡くなった後悔と今世の安穏とした人生。

 前世の自分は不幸だったかもしれない。

 今世は前世に比べれば恵まれている。

 何も選択せずに家を兄に任せて私は好き勝手していいのか?

 嫌だ。そんな人生。

 前世は何もできなかった。病院と家の行き来で自分の足でいろいろなところに足を運んでいない。

 恋人だってできなかった。友人さえいなかった。

 私は世界を知らなかった。

 前世の後悔を持って、私は前に進もう。

 たとえ、つらくても。

 たとえ、傷ついても。

 私はそれでも選びたい。

 選んだ結果で後悔しても、何も選択しない選べない人生よりはいいと思う。

 この選択は私を変えるだろう。

 ならば、答えは決まっている。


「継承します!」


『よく言った!!』


 私は神剣を握りしめた。

 神剣から光が、虹色の光が道場を埋め尽くした。

 光が収まると神剣が刀に変化していた。

『神剣は持ち主の心の形。思った姿に変化する。神剣は折れることはない。手放しても持ち主に戻ってくる。体と同化するからな。普段から手に持つこともない』

 原虹は神剣についての説明をした。

「出し入れ自由なんですね。すごいです」

 私は神剣の姿を消そうとしたが、消せなかった。

『継承したばかりだからな。これから先は神剣の能力の把握に使い方の鍛錬をするしかない。鞘をイメージするがよい。刀身をそのままにして持ち歩くのもよくはないだろう』

 鞘をイメージ……。

 刀を収めるというイメージをしたら。

 白い鞘がすぐに出てきた。

「鞘だね。何もないところから出てくるのは、不思議な感じだ」

 修也さんが、鞘を見た。

『これで、神剣の継承は終わりだ。後は水希の鍛錬次第だ』

 継承の話は終わった。

 神剣の精霊に気に入られて。

 神剣の使い手になってしまった。


「水希」

 父は私の名を呼んだ。

「私たちの家系では決まりごとがある。今、原虹様がいる。原虹様、立ち合いをしてもらいます」

 父は原虹にお願いをした。

『相分かった』

「神剣「原虹」を継承した者は問答無用で当主となる。つまり次期当主は水希。お前だ」

 私は驚き、みんなを見た。

 父の言葉に母は悲しそうな表情をした。

 修也さんは驚いた表情をして、すぐに兄を見た。

 輝夜くんは目を伏せて腕を組んでいる。

 兄を見たら顔面蒼白で私を見ていた。

 私は兄の努力を知っている。

 小さい頃から、当主になるために父から神社の管理や魔獣討伐、様々な勉強をしていた。

 それが私の神剣の継承で一気にすべてを否定された。

 その心情は私には推し量れない。

「兄さん……」

 私の言葉に兄は答えなかった。

「恭也、すまなかった。恭也には次期当主として成長してほしくて厳しく接したこともある。次期当主にはならないが……」

 父の言葉を遮るように、


 黒い光が道場を包んだ。


「うぉぉぉぉぉ!!」


 唸るような叫びが黒い光が兄のいた場所からする。

 まだ、兄の姿が見えない。

『水希!神剣を持て!!他の戦える奴は武器を持て!!』

 原虹の焦るような言葉に私はとっさに神剣を鞘から抜いて構えた。

 父と母、修也さんは壁にある真剣を急いで取りに行った。

 輝夜くんは武器を取りに行ってない。

 何か考えがあるのだろうか、距離は取っているのだけど。

 武器を取りに行った人が距離を取って構えていると、黒い光が収まった。


 そこには黒い神剣を持った狂気の目をした兄がいた。


「死ねぇぇぇ!!水希ぃぃぃ!!!」


 切りかかってきた兄に咄嗟に動けなくて固まっていると、

 ガキィン!と音がして私の前に修也さんが兄の神剣を受け止めていた。

「何やっていやがる!お前の妹だろう!!」

「だからこそだよ!!当主になるために勉強した。すべてを捧げた!それを否定されたんだ!!」

 修也さんの言葉に兄が怒鳴り声で返す。


『あの神剣。模造品だな。どこで手に入れたかわからんが、暴走しているのはあの模造品の影響だ。神剣を壊せ!そうすれば正気に戻る!!』

 原虹は皆に指示を出した。


「原虹様、壊すのは厳しいのでは……」

 母は原虹にそう言って恭也に向けて刀を構えている。

『確かに、模造とはいえ神剣だ。だが、力を消耗させれば脆くなる。とにかく恭也の奴を疲れさせればいい』

「結構、無茶言いますね!!」

 修也さんはそう言って、刀を振って神剣をはじくと兄を蹴り飛ばした。


『無茶でもやるしかない。とはいえ、神剣を継承したばかりでは、一般人に毛が生えた程度だ。暴走状態の奴相手では厳しいか……』

 原虹はそう呟くと、兄を見据えた。

「来るぞっ!!」

 父が叫ぶと、兄が神剣を刀にして大きく振りかぶって私に切りかかっていた。

「水希さん!!」

 修也さんが叫ぶが私の神剣の防御が間に合わない。

 父と母の叫びが聞こえる。

 兄の神剣がスローモーションに見える。

 止められないと思い目を閉じたとき、


「罪を罰せよ!神剣「紫月姫(しつきひめ)」!!」


 知らない女性の声がした。

 衝撃が来ないことと知らない声。

 目を恐る恐る開けると。

 そこには腰まである銀の髪をした女の子がいた。


「俺が迷ったばかりに。遅くなった。すまんな水希」


 鈴を転がすような綺麗な声で、俺様口調だった。

「も、もしかして……」

「もしかしなくても、綿月輝夜だよ。恭也さん、ちょっと動けなくなってもらうよ」

 輝夜くんは神剣をそのままに、

「氷獄」

 そう呟くと、兄さんの神剣から全身が凍っていった。


「さて、これで少しは時間が稼げる。三十分は効果が続くだろう。それまで色々と決めないとな」

 輝夜くんはこちらに振り返った。

 服装は白のカッターシャツに紺のひざ丈のプリーツスカート、シャツの第一ボタンを外して紺のネクタイを緩くしている。

 手には刀身が紫色の刀がある。反りがない直刀。鍔の部分には飾りがついている。

 あれが神剣「紫月姫(しつきひめ)」なんだろう。


『ようやく。わらわの出番か』


 輝夜くんの隣に現れたのは着物の若い女性だった。歳は十代の後半に見える。ただ、その着物は、上はブラウス風で下はスカートに見える。

「相変わらずの改造着物だな。アニメと漫画の読みすぎじゃないか?」

『いいじゃろう。そなたの記憶から創ったのだ。それより、原虹。情けないのぅ。強制的に継承者を動かすこともできたじゃろ』

 輝夜くんの言葉に反論したと思ったら、原虹に話しかけた。

 どうやらこの二柱の精霊は知り合いのようだ。


『それは俺の主義に反する。それより、紫月姫。お前、今まで完璧に気配を消していたな。全く気がつかなかったぞ』

『主義に反するだなんて格好をつけるな。継承者を失いたくないなら時に主義をへし折ってでも助けるのが我ら精霊じゃろ?』

 原虹はやれやれとため息を吐いている。

 それに対して紫月姫は呆れた顔をして問いかけている。

『継承者が成長しないぞ。それは』

『使い手の成長は本人次第じゃ。まぁ、わらわは小童が気に入っているがの』

 紫月姫は輝夜の頭に手を当てて乱暴に撫でている。

「気に入ったからって、俺を女にすることはないだろう!!」

『わらわは男が嫌いなのじゃ』

 紫月姫の言葉に私達は唖然とした。


『水希。あいつはな。大昔から継承者に迷惑をかけまくることが日常茶飯事の問題児の精霊だ。これほど、性別を変えるまで迷惑をかけるのはなかったがな』

「あり、なの?」

 私は原虹に震える声で確認しました。

『実際にやっちまっている。あいつに気に入られるのは気の毒としかいいようがない』

 原虹は輝夜くんに対して合掌している。


「俺のことはいい。これからどうするかだ」

『そうじゃな。わらわの見立ては原虹と同じこやつの模造神剣は壊すことができる。じゃが、人体を破壊するより難しい』

「俺が今まで継承者と戦った時は消耗させてから引き離した。たしか一週間ぶっ通しで戦ったことがあったな」

 一週間戦ったことがある。

 その言葉に人と神剣を引き離すことの難しさを思い知る。

「恭也は助かるのか?」

 父の言葉に輝夜くんと紫月姫は頷いた。

「恭也は助かるのね」

 母は安堵した。その表情は嬉しそうで父と私も嬉しくなった。

 このままだと、最悪なことを考えていたからです。

 最悪の可能性である兄の死が回避できる。

「ただし、さっきのことで気が付いていると思うが。俺が戦ってあの模造品を壊すしかない」

『そうじゃな。偽物でも、神剣じゃ。消耗させないと壊すこともできん。最大の理由は神剣使いには神剣使いが相手するしかないのじゃ。つまり、お主らでは足手まといじゃ。神剣を継承したばかりのそこの小娘もな』

 紫月姫の言葉に両親と修也さんががっくりとしている。

 私も無力感に襲われる。

 神剣を継承したことにより兄は次期当主の座まで継ぐことがなくなった。

 それは人生の否定。

 兄に気づかせてあげたい。

 用意された人生ではなくて、選択できる人生もあるのだと。

「私は兄さんを助けたい。兄さんには人生を、生き方を選択してほしい。前世の私のように病で亡くなるしかない人生や、兄さんの次期当主になるしかなかった今までの人生。敷かれたレールじゃない。私は選んだのだから。この手で神剣を継承することを」

 私は思ったことを口にしていた。

 その言葉に両親や修也さん、輝夜くんが驚いた顔をした。

「私達は親として恭也にいつの間にか人生を選択させるのではなくて、人生を用意していたのだな。当主として生きていくしかないと」

「私もそれが息子の幸せになるのだと。いつの間にか狭い価値観に陥っていたのですね。私があなたの嫁になったのも人生の選択だったというのに。それで今は私が幸せなのにね」

 父が悔恨の言葉を口にした後、母が結婚した時の選択を思い出したみたいです。

「俺は恭也を助けたい。分家としても友人としても、水希さんのためにも」

 修也さんが私を見て、そう言った。


「恭也さんを何としてでも助けたいからな。俺がどうなってもな」

『おや。覚悟は決まったのかの?』

 紫月姫は輝夜くんに意地悪そうな顔をして問いかけている。

「散々迷ったけどな。これもいい機会だ。恭也さんにはいままでよくしてもらったから。神剣を使うと女になるのは紫月姫の趣味と言っていい。継承して七年だ。もうそろそろどちらか決めるべきだなと考えていたんだ」

 輝夜くんはそういうと紫月姫を見た。

『わらわとしても嬉しいのぅ。小童をいじれるからの』

 嬉しそうに答えた。

 なんか輝夜くんが気の毒に思えた。


「とりあえず。俺が恭也さんを抑えるから。水希には俺の家に退避してもらう。今日は両親がいないが、妹がいるから家での不自由はないだろう。狙いは水希だから、近くにいると戦闘に巻き込まれる。俺も全力でやらないといけない」

 私に輝夜くんの家に避難するように言われた。

「それなら私達は神社を封鎖する。修也くんはどうする?」

「俺は水希さんの護衛をします。その、心配なので」

「ありがとうございます」

「なら、二人が俺の家に退避だな。それとおじさん、おばさん。神社一帯の封鎖だけど。どちらにしても道場には入れないよ。他の人が入れないように結界を張るから」

 結界という言葉に驚いた。

 まさか空間を仕切るなんてできるとは思わなかったからだ。

『こいつはな。独自の空間、固有世界を持っているんだ。俺達神剣の精霊でもかなり特殊だな』

 今まで黙っていた原虹が教えてくれた。

「妹に連絡する。少し待ってくれ」

 輝夜くんがスマホを取り出して操作すると、

「もしもし、沙月か。悪いな連絡しなくて、神剣関係で今日は帰れない。それと、今から家に二人行く。沙月も知っているぞ。水希と修也さんだ。詳しい事情は二人に聞いてくれ。ああ、無事に帰る。じゃあな」

 輝夜くんは通話を終えると私達を見ると、

「よし、いいな。後は俺がやるから。みんなは出て行ってくれ」

「輝夜くん、兄を頼みます」

 兄を輝夜くんにお願いして両親と修也さん、私は道場を後にした。




『さて、行ったのぅ……』

 紫月姫はそういうと凍った恭也に向き直った。

「ああ、行ったな。恭也さん。俺がこの姿の時に何度も会ったな」

 輝夜はその時のことを思い出した。


「俺のことを、知ったうえで女の子扱いして。初めは嫌だった……」


 術が解け始めた恭也を見て神剣を見る。


「でもな、だんだんそれも嫌でなくなったんだ。家の跡継ぎだから勉強が大変なはずだ。それでも俺が呼んだらすぐ来てくれた。一緒にいるのが楽しかったんだ」


 輝夜の言葉は嬉しそうだった。

 横にいる紫月姫は面白くなさそうだ。


「俺は今の恭也さんを見て。女でいることを選んだ。次期当主の座を外されたことに対する同情じゃない」


 輝夜は術が解けた恭也に対して神剣を構えると、


「これからは隣にいて支える。詰まらねぇ顔してヘタレるならケツを蹴り飛ばしてでも、シャキッとさせてやる。面白いことがあったら一緒に楽しもう」


 輝夜は神剣を正眼に構えると、


「だから、そんな模造神剣を破壊してやる。俺は恭也さんが好きだから!!」


 輝夜の決意の言葉に暴走状態のはずの恭也が震えていた。


『理由はつまらん。だが、わらわも力を貸すぞ!』

「行くよ。相棒!」

『言うではないか、小童!』


 道場が一瞬にして月夜の桜景色に変わった。




 私たちは道場から出るとすぐに行動を始めた。

 家から荷物を纏めると修也さんと輝夜くんの家に向かった。

 前世の記憶からわかったのはこの世界には地下鉄が存在しない。

 それは地下にも魔獣が出現するからだ。

 魔獣除けが開発されてからは地上の鉄道網は一気に普及した。

 それと同時に鉄道に合わせた都市計画をそれぞれの地方都市がしていった。


 私たちは電車に乗って最寄りの駅から移動すると静かな住宅街に輝夜くんの家がある。

 一軒家の前には碧空の瞳と長い青髪をポニーテールにした身長百六十くらいの女の子が立っていた。

 この子が綿月沙月、中学二年生の輝夜くんの妹。

 周囲を警戒してから

「やっと来たわね」

「沙月ちゃん、ありがとう」

「急なことで申し訳ない」

「謝罪もお礼も後、事情を知りたいから二人とも入って」

 沙月ちゃんに促されて家に入った。


 ダイニングの四人掛けのテーブルに私と修也さん、反対側に沙月ちゃんが座った。

「さて、お茶も出したし。何があったか話してね。水希お姉ちゃん、修也さん」

 沙月ちゃんは落ち着いている。この緊急事態に慣れている気がする。

「あたしが慌ててないのが気になる?」

 沙月ちゃんが私の思っていることを口にしてくれた。

「うん」

「そうだね。落ち着いているから」

 修也さんも気になったみたいだ。

「その疑問の答えは、事情を知ってからだね」

「そうだね」

 私は今までの経緯を沙月ちゃんに話した。


 沙月ちゃんは目を閉じている。どうやら話の情報を整理していたみたいだ。

「神剣「原虹」の呼びかけから、前世の記憶に神剣の継承。それから当主の強制的な引継ぎからの恭也さんの暴走……」

 沙月ちゃんは一息つくと、


「輝夜兄さん、やっと気持ちを認めたか。いやー、よかった。これで輝夜兄さんの性別が女になって姉になるわ。よかった、よかった」


 沙月ちゃんは嬉しそうに笑った。

「えっと……、かなりの事態だと思うけど?」

 修也さんは気が抜けたような声で質問した。

「一般的には大事だね。だけど、七年性別を行ったり来たりしてるんだよ。私からすればどちらかはっきりしろと言いたかったね」

「沙月ちゃん、あっけらかんとしているね」

 沙月ちゃんは昔から物事をはっきり言う性格だったのを私は思い出した。

「そりゃそうよ。あたしだもん」

 沙月ちゃんはけらけらと笑っている。


 それからは一息つくと、

「輝夜兄さんは恭也さんのことが好きなんだよね」

 沙月ちゃんの爆弾発言に私は驚き、隣で修也さんが口をあんぐり開けていた。

「その様子だと本当に知らなかったみたいだね」

「知りません」

 輝夜くんの過去を私は知らない。

 尋ねなかったし、輝夜くんは話さなかった。

 その過去になぜ兄さんが関わるのかを知りたい。

「あたしが知っていることを話すよ」

「お願いします」

 私がそう言うと沙月ちゃんは口を開いた。


「輝夜兄さんは、そもそも魔法が産まれた時から使えなかった。それは学校ではいじめの対象になる。小学校の三年生の時に遠足で山に登ることがあってね。その時にいじめグループが輝夜兄さんを、言葉巧みに教師を言い包めてグループに無理やり入れた。山に登ったのはいいけど下山する途中でいじめグループはわざと置き去りにした……」


「ひどいな……」

 修也さんが吐き捨てるように言った。


「そうだね。連中は魔獣が出るのを知っていて置き去りにした。置き去りにされた輝夜兄さんは彷徨って神社を見つけ、社に安置されていた神剣「紫月姫」を継承した。教師たちと捜索隊が探したけど、自力で下山した輝夜兄さんは、黒目黒髪から髪が銀色、瞳が紫になっていた」


 輝夜くんの神剣継承は本当に突然だったみたいだ。

「継承で見た目が変わったのかな?」

 私は思ったことを口にした。

 そこで原虹が私たちの後ろに顕現した。

『ありえる。精霊との結びつきが強いほど姿が変わることがある。水希はまだ契約したばかりだ』

 原虹の言葉に聞き逃せない言葉があった。

「もしかして、沙月さんも?」

 修也さんが疑問を口にしていた。

「うん、あたしも神剣を継承しているよ」

 私たちは言葉をなくした。

 沙月ちゃんが神剣を使っているところを私は見たことがない。

 本当に何も知らなかったのだなと。

『なるほど。だから精霊の気配が上にあるわけだ』

「あたしの精霊に上で警戒してもらっているからね。二人が来たこともそれで知ったんだ。

それで、あなたが原虹さんだね?」

『そうだ。沙月といったか。よろしく頼む』

「こちらこそ、よろしく」

 二人は挨拶を終えると、

「まぁ、あたしの神剣ことは置いといて。輝夜兄さんのことだね」


 お茶を入れなおして一息つくと、

「遠足でのことで、いじめグループを事情聴取した警察は悪質だということで補導した。学校は事態を重く見ていじめグループの親を呼び出して厳重注意した。子のやったこととはいえ、親にも責任がある。でも、最悪だったのはいじめグループと輝夜兄さんを引き離さなかったこと。せめてクラス替えをやっていれば、あの悲劇はなかっただろうね」

 沙月ちゃんは悲しそうな顔をしてうつむいた。

「なにがあったんだ?」

 修也さんが問いかけた。

 沙月ちゃんは顔を上げると沈痛な声で言った。


「結論から言えば、いじめグループが全員、病院送りになった。それも、片腕欠損というこれからの人生に差し支えのある状態になった」


「なっ……」

「そんな……」

 あまりに悲惨な結果に言葉を失った。

『あやつ、暴走したな……』

 何かを察した原虹が呟いた。


「原虹さんは察したか。詳しい経緯を話すね。遠足からのクラスの雰囲気は最悪だったみたい。いじめグループ、まぁあいつらというけど、あいつらがやったことは下手すれば輝夜兄さんの命を失わせることだった。あいつらはクラスから孤立した」


 沙月ちゃんは話を区切ってから続きを話し始めた。


「それでも輝夜兄さんをいじめるのをやめなかった。だんだんエスカレートして身体的ないじめに発展したけど、輝夜兄さんはやり返さずに耐えていた。いつまでたっても音を上げないことに業を煮やしたあいつらは、体育の授業中に流血をするほどの大怪我を負わせた」


 沙月ちゃんはため息を吐くと、

「その大怪我についに激怒した紫月姫は顕現するなり輝夜兄さんの姿を変えて操り、あいつらを一人、また一人と独自の空間で制裁した。紫月姫の制裁が終わった後には片腕を失い出血多量のあいつらと正気に戻った輝夜兄さんが泣き崩れていた」


 行きつくところまで行ってしまったいじめの顛末。

 私たちは何も言えなかった。

 その静寂を破ったのは原虹だった。


『俺達精霊には継承者を守るという気持ちが強い。気に入っているからなおさらだ。それゆえに行き過ぎることがある』


「そうだね。紫月姫はあたしから見ても輝夜兄さんを溺愛していたね。だからこそ、傷ついていくのに我慢できなかった」

 沙月ちゃんの言葉は二人の関係を見ているから出ることだった。


「その後のことだけど。警察が学校に来て後始末した。この事件で輝夜兄さんは神剣を継承しているのが発覚した。そして、神剣の逆鱗に触れたことでの今回の事態。世界中どこでもそうだけど、神剣の継承者は特別扱いされる。この事件で輝夜兄さんの罪は問われなかった」


 神剣についての話は一般にも出ている。

 その中には神剣使いは治外法権的な扱いになることをネットに匿名で問題提起することが多いです。


「いじめていた連中の親が学校での保護者説明会で納得がいかなくて喚き散らしたそうだけど、学校は取り合わなかった。さらに刑事事件にならないならば、民事裁判にしようとしたが神剣使いは法で守られているからね。当然、裁判所は受理しない。そうこうしているうちに街で神剣の機嫌を損ねたと噂になり住んでいられなくなってどこか遠くに引っ越した。中には家族の離散もあったそうよ」


 神剣に対する国の扱いは畏怖から来るのだと思う。それが神剣継承者を法で守るということになっている。

 その神剣の機嫌を損ねるというのは下手をすれば街を丸ごと破壊されることになる。

 神剣の引き起こした事件としては被害が少ないがそれでも加害者のその後の話が悲惨に感じた。


「あたしたちの家族にも何もなかったわけじゃない。輝夜兄さんは学校からは完全に腫物扱いになった。それは妹のあたしも同じだった。気が付けば周りから人がいなくなっていた。この現状に両親は引っ越すことを決めたわ。名古屋のこの家にね」


 学校での扱いが微妙になるのは仕方ないと思う。

 いつ爆発するかわからない危険物。

 対等に接してくれる人などできないと思う。

 どこかおかしくなった環境を打開するなら引っ越すという決断をするのはなかなかできることではない。


「名古屋に来て。輝夜兄さんは自分を鍛えると言って道場に通うことにしたわ。そこで水希お姉ちゃん達に会ってから少し顔色が良くなったわ。あの事件からは紫月姫との関係がぎくしゃくしていたし。操られていたとはいえ、覚悟もなく人を切ったからね」


 武器を持って人に攻撃するにはかなりの覚悟がいる。

 魔獣に攻撃するだけでも手が震えることがあるのです。


「その時の輝夜兄さんには両親もあたしも声をかけにくかったわ。道場に通って表情が良くなっても。どこか陰りがあった。でもそれを決定的に変えることがあったわ」


 道場に来た頃の輝夜くんは今にして思えば思いつめた表情で鍛錬に入れ込んでいた。

 私たちが心配になるくらいに。


「神剣を使うことはたびたびあったわ。そのたびに女の子にされて、戻してくれないから不貞腐れて家を出ていたわ。でも、住んで一年して女の子で外出していた輝夜兄さんが嬉しそうな顔をして帰ってきたの。それからたびたび女の子で外出しては嬉しそうな顔をして帰ってくるというのを目撃したわ」


 沙月ちゃんはその時のことを思い出してか、表情が柔らかくなっています。

 

「あたしは気になって後を追いかけたことがあるの。そうしたら恭也さんと輝夜兄さんがデートしていたわ。それも恋する乙女のような表情でね。対して恭也さんは気が付いてなかったけど。やたらと輝夜兄さんが花嫁修業のようにいろいろ覚えていたからね。その光景を見てすべて納得がいったよ。あたしの隣で紫月姫がハンカチを噛んで悔しそうにしていたけど」


 そういえば兄さんが、突然スマホの呼び出しに応じて出かけていたことがあった。

 今にして思えばそれが輝夜くんの呼び出しだったのだろう。

 帰ってきたときの兄さんはやたらと疲れていたけど。

「恭也の奴、俺にも話さなかったな。俺といた時も急用ができたと言って慌ててどこかに行くことがあったな」

「そういえば輝夜くんの誕生日前に兄さんが女の子の誕生日プレゼントを選ぶのを手伝ってくれと言って手伝ったことがありました」

 もしかしたら、兄さんは輝夜くんを無意識に女の子と認識していたと思います。


「今まで二人のデートが水希お姉ちゃん達に見つからなかったのは驚きだよ。まぁ、輝夜兄さんも呼び出すのは昼間にしていたし。見つからないように行動していたみたいだから」


「今思えば不自然な行動がありました。夜に家から出かけることも。帰ってくるのが夜中の時がありました」

 兄さんが夜に慌てて出かけたことがあることを思い出しました。

 帰ってきたのは夜中で両親が問い詰めたのですが、頑として答えなかったのを覚えています。

 その時のことを沙月ちゃんに話したら。


「あったなー。そんなことが。帰ってきた輝夜兄さんの様子が不安定でね。あたしが急いで呼んだことがあるのよ。恭也さんが着くなり、抱き着いて『過去が追ってきた』って言って大泣きしてた。そして、三人で話をして安心したのか、爆睡したね。次の日はケロッとしてたけど。そっかー。おじさんたちには理由を言わなかったんだ。ごめんね迷惑かけて」

 そう言って、沙月ちゃんが私に頭を下げた。


「いえ、いいんです。輝夜くんのためだったなら。それにしても『過去が追ってきた』とはどういうことですか?」

 沙月ちゃんの言葉で気になったことを尋ねた。

 過去が追ってくるなんて普通の言葉ではない。


「夜中に呼び出したときに、恭也さんがいるからぼかしていたけど、あのいじめグループの一人が復讐に来たみたい。親と一緒にね」


 確かに過去が追ってきたと表現できます。

 神剣の暴走の被害者が復讐のために現れれば動揺もします。


「どうにか撃退したみたいだけど、操られていたとはいえ自分のしたことだから。後悔と贖罪の念に押しつぶされそうになったと思う。家に着くなり崩れ落ちたからね」


 沙月ちゃんは多分かなりの罵声を浴びせられたと言いました。

 輝夜くんは面倒見がよくて優しい性格なので、自分のしたこととはいえ罪悪感がぬぐえなかったと思います。


「それからは、落ち着くまで恭也さんが話しかけていたね。あれでいて輝夜兄さんは恭也さんのことを恋人じゃないって言って友達だと言い切ってたね。ここまで心に踏み込まれて、不安定な時に慰められて、特別な人じゃないなんてありえないでしょ。あたしはあの時、隣で口から砂糖を吐きそうになったわよ」


 最後の言葉に私は兄が途端にチャラ男になった気がした。

 女の子に甘い言葉を言っている兄が想像できない。

 兄のイメージが崩れた気がした。

 うんざりした表情から戻った沙月ちゃんが腕を組んで、

「なんとか落ち着いた輝夜兄さんに戦った相手の親が辛そうだったと聞いて、恭也さんがいるからあえて親を大人にして、『大人をやるのは辛いのかな?』って尋ねたの」


「沙月ちゃん、その回答はなんだったの?」


「水希お姉ちゃん、その回答はね。少し黙ってから、『いいことなんざねぇよ……、痛みが増えていくばかりだ。だから後悔するような生き方をするな』と苦しそうな顔をして答えてくれたよ」


「その理由は詳しく教えてくれたのかな?」

 修也さんは気になったのか尋ねた。


「答えてくれたよ」


『子供の時はあれやこれやと夢や希望に輝いていた。それこそ目に映るものは憧れを持って見ていた。それがだんだん歳が大人に近づくにつれて現実を知っていくんだ。世の中の仕組みや人の汚さ、子供の頃の夢は色あせて、希望は現実を知って持たなくなる。目に映るものは現実を知って裏を見ちまう。大人になると子供の頃の純粋な気持ちなんて無くなっちまう。気が付けば大人になって社会の一員だ。嫌なもんだよ社会の歯車になるなんて。そして、途中で壊れて脱落した歯車は見向きもされない。歯車が壊れても壊れてなくても、働いているうちに子供の頃なんて思い出せなくなる』


「どうにも世の中を斜に構えた意見が飛んできたものだと思ったよ。確かにあたしも神剣を継承してからは大人の社会に片足を突っ込んでいるけど、そこまでは絶望はしてないね」


「それはまたすごい意見だね。まるで大人になったことがあるみたいだ」

「私もそう思います」

 私は漠然と輝夜くんは前世の記憶があるのではないかと思いました。

「輝夜くんは前世の記憶があるのですか?」

「そうだよ。輝夜兄さんは前世の記憶がある。前世で亡くなった年齢は三十三歳。あたしがこの質問をしたときに前世のことをある程度は教えてもらった」

 兄さんは輝夜くんの人生の重要な場面にどれだけ立ち会ったのだろう。

 でも、私も前世の一人分の人生がある。

 まだ記憶の整理はついてないけど、選択できなかったという思いだけはある。

「輝夜くんの前世はどんな人生だったのだろう……?」

 思わず言葉を口にしてしまった。

 修也さんは、いいのかなという顔をして、沙月ちゃんは少し思案した後、覚悟を決めた顔をした。


「水希お姉ちゃんは前世の記憶があったね。ならば気になるか。詳しいことを後で輝夜兄さんに聞いてね。あたしがまとめると」


 人生を選択できるのに努力もせず、怠惰に生きて、専門学校で心を壊して、壊れた心のまま社会人になった。

 あの時こうしていればよかったなんて言い訳にしかならない、過ぎ去った時間なんて巻き戻らない。

 プライベートの友人も振り払っていた。会社では同僚に裏切られたこともあった。

 ある時に医師から働けない体と心だと言われて何もなくなった。

 気が付けば一人だった。

 何も残せず。

 いい人生だったと振り返ることもできなかった。

 自分の人生を後悔した。

 だから絶望して最後に自殺することを選択した。


 人の人生はそれぞれだが、かなり重い。

 今の輝夜くんからは感じられない心の弱さが前世にあるように思う。

「私とは正反対だ……。私は病気で何も選択できずに亡くなった。親に恩を返せないことを後悔したけど、それでも全力で生きた。でも、輝夜くんの前世は自分の手で終わらせたんだね……」

「すべてを失い、絶望し、自殺か……。それは世の中を斜に構えてみるわけだ」

 修也さんは悲しげな表情で呟いた。

『沙月よ。輝夜が前世で亡くなったのはどこか聞いているか?』

 原虹は何か気になることがあるみたいです。

「たしか……。縁切りや呪殺で有名な神社だったそうだよ」

『そうか……。ならば紫月姫に出会える条件を満たすというか下地はあったな。どの神かは知らないが、輝夜を気に入ったのだろう。そして、転生させた。輝夜は不本意だったろうな……』

 原虹の言葉が本当なら相当意地悪な神と言っていいと思う。

「実際に不本意だったと思うよ。転生するわ、魔法が使えないわ、いじめられるわで。紫月姫に出会わなかったらと思うと、ぞっとするね。そうじゃなかったら、今の輝夜兄さんはいないだろうなぁ」

 沙月ちゃんはそういうと一息ついた。

「輝夜兄さんは『後悔しない』と口癖のように言っていたわ。なら今回のことも後悔しないと思うわ。だけど、輝夜兄さんが女の子に固定かぁ。もともと一途だったけど、恋を自覚したから人目も憚らずにいちゃつくバカップルに絶対になるね」

 沙月ちゃんは楽しそうに話しているが、それは兄さんが大丈夫だろうか?

「恭也さんはヘタレな性格してそうだし、大丈夫でしょ。惚れた女の子に振り回されるのも男の幸せよ。それより、もういい時間だからシャワーでも浴びて寝たら?水希お姉ちゃんはあたしの部屋。修也さんはパパの部屋。あたしは警戒を兼ねてこのリビングのソファーで寝るわ」

 みんながそれぞれの行動を始める。

 夜の帳は暗く重かった。




 修也があてがわれた部屋に入ろうとすると、後ろから沙月が声をかけてきた。

「修也さん、ちょいと話があるんだけど。いいかな?」

「いいけど。夜中の一時だぞ。眠くないのか?」

「寝てもあたしの精霊が叩き起こすと思うけど。日付変わったから……。今日は休日だから爆睡しても問題なしだよ」

「沙月さんは輝夜くんを信頼しているんだね」

 沙月の輝夜に対する信頼はどこから来るのだろうと思った。

「裏切ったことはないからね。絶対に帰ってくる。とりあえず。リビングに行こうか」

 リビングの席に着くなり沙月が口を開いた。


「さて、修也さん。水希お姉ちゃんに気持ちを伝えないのかな?」


 その直球な質問に修也はたじろいだ。

「今、それを言うのか?」

「むしろ今じゃなきゃどうするの?」

 沙月が何を言っているんだこいつはといった顔をしている。

「だが……。今では……」

 修也の声は消え入るようだ。


「主家の娘で、分家の自分。そりゃ、思いを伝えられないよね。さらには神剣『原虹』を継承して、手の届かない存在になった。と思っている?」


「…………」


 沙月の問いかけに自分の気持ちが当てられて無言になった。

 修也は何も言えなかった。

 否定も肯定もできない。

 何も言わない修也を見て沙月が大きな溜め息を吐くと、


「アホか!このヘタレが!!」


 沙月の口からドスのきいた声がした。


「尻込みしてみっともないったらありゃしない。タイミング逃して、悩みすぎてカビでも生えるんじゃない?あたしだったら、ケツを蹴り飛ばすわね」


「うっ……」

 あまりの罵倒に呻くしかできなかった。

「確かに水希お姉ちゃんは鈍感だよ。あからさまな修也さんの好意にも気が付かない。でもね。今は前世の記憶が戻ったうえに神剣の継承だよ。不安がないはずがない。さらには次期当主になるなんて、誰かに支えてもらわないと……」

 そこで言葉を区切ってから一息つくと、


「水希お姉ちゃん、間違いなく潰れるよ」


 その言葉に修也はハッとした

「そうだな……。今まで、水希さんは無茶をして寝込んだことがある。自分で抱え込んで、一人で解決しようとして、なかなか周囲に助けを求めることがない。何度も俺が助けたことがある」

「なら、今回も自分で抱えるわね。あんた、何のために付いてきたの?」

 相当お怒りなのか沙月はついに修也さんとは言わずにあんたと言った。

「それは、水希さんが、心配だから……」

「あんたがするのは心配だけなの?」

 沙月は不十分だと言っていると感じた修也は考えたがそれでも答えが出なかった。


「今は模造神剣を持って暴走しているけど、恭也さんの方が女から見て、伴侶にしたいと思うわね。隣にいて、必要な時に言葉をかけて、弱っているときに気持ちを吐き出させて元気づけて、電話一本で駆けつけてくる。輝夜兄さんを恋する乙女にしたんだよ。そりゃ、助けたいと思うわよ」


 沙月の言葉に修也は恭也との差を自覚する。

 なおも言葉を発しない修也に沙月は追い打ちをかける。


「別に恭也さんみたいになれとは言ってないわよ。でもね。水希お姉ちゃんにあんたいままで何やったの?まさかとは思うけど、こうなったらいいなとかああなったらいいなとか思っただけの妄想で終わらせていたの?あんた今高校三年生よね。あたしと同じ中学生男子の妄想恋愛みたいな馬鹿なこと考えてないよね?」


 沙月の最後の言葉は吐き捨てるようだった。

 沙月の周りの男子は妄想が駄々洩れなのだろう。

「ちがう、そんなことは……」

「ちがう?ならば何やってきたの?誕生日にプレゼントは当たり前だよね。休日にでかけたことは?必要な時に声をかけた?」

 修也は誕生日にプレゼントは必ずしていた。そして、同じ学校にいるときは声をかけてきた。ただ、休日にでかけたことはなかった。

「はぁ……。休日に出かけたことがないのは恋人ではないからいいけど。初恋をこじらせた男は大変ね。私から言わせるとさっさと告白しろということね。もたもたしていると変な間男に騙されてかっさらわれるわね。水希お姉ちゃん、男を見る目はどうか知らないけど」

 水希の隣に立つ修也以外の男を想像して、どうして嫌な気持ちになった。

「目に生気が戻ってきたね。あたしが出会ってから二人を見ていたけど、いつあんたが告白するのかと思っていたわ。水希お姉ちゃんは大人しいし、鈍感だから」

 鈍感なのは修也も感じていた。

 アプローチしてもいい人止まりのような感触なのだ。

「そして、今日気が付いたけど、前世の影響で恋については間違いなく頭にないね。病で死んだなんて恋はないと思っていいわ。そして、今世は須佐家の娘よ。このまま恋愛もないとお見合いね。分家のあんたもいいとこのお嬢様とお見合いになるわね。初めから関係を築いていくの、めんどくさいわよ」

 沙月の言葉は今の修也と水希の状態のまま過ごした場合の結末だ。


「それを踏まえたうえで言うわ。さっさと腹括れボケ」


 沙月の言葉は修也を非難するようだった。

 修也は重く受け止めて、積極的に行こうと思った。

「わかっているよ。今まで、一歩を踏み出すのが怖かった。今日見ていて思ったよ。水希さんの隣に俺はいるべきなのか?と。でも、強引にでも隣にいるべきだと思ったよ。輝夜くんの『後悔しない』という言葉がよく分かったよ」

「輝夜兄さんは今回のことで決断したみたいだから、あんたも今まで薄いとはいえ積み上げた時間があるから気持ちを伝えて水希お姉ちゃんを幸せにしなさいよ」

 沙月は不敵な笑みで修也に言った。

「ああ、ありがとう。気持ちが決まったよ。それにしても、中学生の沙月ちゃんに発破を掛けられるとはね」

「恋愛に歳もへったくれもないわよ。特に女の子は恋愛に敏感なの。小学校の時から恋する輝夜兄さんを見ていたしね」

 沙月はそばで恋する人間を見てきたのと、生来の性格から修也におせっかいをしたのだろう。

「輝夜兄さんは恭也さんを掴んで離さなかったけど、あんたら2人は見ててじれったかった。この機会がなかったら間違いなくすれ違ったわね」

「気づかせてもらって感謝だよ。ところで、沙月さんは誰かと付き合っているのかな?」

 修也はこの際だから沙月に気になったことを尋ねた。


「付き合っているわよ。あんたの弟」


「は?」


 衝撃的な回答だった。

 修也には沙月と同じ歳の弟がいる。

「そんな話は聞いてないぞ……」

「そりゃ、言わないように口留めしていたからね。兄差し置いて弟が彼女持ちなんてなかなか言えないでしょ」

「…………」

 部屋に微妙な沈黙が流れる。

「あんたが奥手すぎたのよ」

「面目ない」

 修也が素直に頭を下げた。


 これでこの話は終わったとばかりに他の話題を修也は口にした。

「沙月さん、神剣使いは周りにどれだけいるのかい?」

「あたしの周りだったら知り合いに何人かいるわね。同級生に一人いるし。ちなみにその子、輝夜兄さんに負けず劣らずの前世と今世に不幸を味わった子ね。あたしが中学に入学したときに救った子だから」

 神剣の継承には何かしらの不幸が付いてくるのだろう。

「穏便に継承する人は少ないのかな」

「穏便?ありえないね」

 沙月は頭を振って否定した。

「輝夜兄さんは山で置き去りでの継承。あたしの時も輝夜兄さんの事件に巻き込まれたし、家族旅行で魔獣に両親を殺されている同級生の灯はその時に継承しているわ」

 神剣使いの話題で不幸な話は新聞にもテレビのニュースにもならない。流れるとすれば魔獣の討伐に活躍した時だ。

「神剣使いのことは意図的に伏せられているのか……」

「ええ、国としては魔獣討伐の戦力として数えている。だからそれに伴う被害については目を瞑っているのよ。法律でね」

「神剣使いが犯罪者になったときはどうするんだ?」

 修也の疑問は当然である。神剣使いが全員善人であるわけではない。


「神剣使いが罰するわ。それもかなりの実力者の神剣使いが犯罪者の神剣使いを殺すこともあるわ」


 修也が薄々わかっていたことだったが、殺すこともあるとは思っていなかった。

 そこで修也はある予感がした。

 輝夜が神剣を使うときに口にした言葉が、意味深すぎた。


「まさか……。輝夜くんは……?」

「ご明察。輝夜兄さんは「神剣使いを罰する神剣使い」よ。だから、神剣を使うときの呼びかけが「罪を罰せよ」になるわけ」


「そんな……。輝夜くんは、なぜそんなことを……」

「償い……。とも言っていたわね。変なところで真面目だからね。本当のところは本人しか知らないわ。なかなか尋ねる機会がなかったし」

 神剣使いを罰するとは普通の仕事ではない。ましてや、いつからやっていたかわからないが前世の記憶があっても精神的につらいはずだ。

「神剣を使うときの呼びかけは人それぞれよ。水希お姉ちゃんも自分で決めると思う。呼びかけは神剣に対する考え方か、自分の生き方みたいなのが出るから」

 沙月はそう言って上を見た。

 家の上空には精霊がいるのだろう。

 顔を修也に戻すと沙月はため息を吐いてから。

「告白は度胸を持って早くやることね。ああ、それと今日だけど、応援で灯を呼ぶから。同じ神剣継承者として水希お姉ちゃんとの顔合わせも兼ねているから。あんたも会っておきなさい」

「わかった。では、おやすみなさい」

「ええ、おやすみなさい」


 修也が部屋に入ったのを確認するとリビングのソファーで沙月は寝る準備をする。

 スマホで灯にメールを送ってから毛布をとる。

「やれやれ、ヘタレな男に説教するのも大変だわ……」

 どちらが、年上かわからない説教される高校三年生と説教する中学二年生の対談は終わった。




 初めにシャワーを浴びた私は沙月ちゃんの部屋に入るなり布団に入った。

 輝夜くんの過去を知った私は自分の過去を思い出していた。

 共通するのは『後悔』だろうか……?

 いろいろ考えていると瞼が重くなってきて、いつの間にか眠った。


 ここは白い部屋……?

 私は寝たはずではないかな?

「あなたは、私なのよね?」

 後ろから声を掛けられた。

 その声は……、


「あなたは私……」


 振り向くと前世の私が立っていた。


「ねぇ、あなたは産まれてから今日まで楽しかった?」


「楽しいです。厳しいけど優しい両親がいて、優しい兄がいて、友人がいる。学校も問題ありません」


「そう、私は産まれてから病気だった……。病院に入退院して、学校に行けなかった。窓から見える景色は元気な子供とその楽しそうな笑い声。対する私はベッドの上で療養。あなたと同じ十六年生きたけど違うね」


「そうですね……」


 私は前世の私の言葉に悲しみを感じました。

 もっと生きたかった、人生を謳歌したかった。

 その声が悲痛な色を帯びている。


「あなたは私の後悔からの人生。でも、流されて生きてない?」


「うん。産まれてからの人生は周りに合わせるような生き方だったわ。でも、神剣を継承することを決めたわ。人生での大きな決断よ」


「そうだね。あなたは私の記憶をいらないと思う?」


 前世の私は不安そうに私に問いかけます。

 私の答えは決まっています。


「思わない。あなたは私だから」


 その答えを聞いて前世の私は笑って、


「わたしはあなたの心のひとつ。前世の記憶はあれども、前を向いて歩てほしい」


「ありがとう。前世の自分に誇れるような人生を歩むわ」


 部屋が霞んでいく。夢から覚めるのだろう。


「最後に、あなたしか見てない人がいるよ。あなたを助けて、支えてくれる人。前世のわたしは恋なんてできなかったから。わたしの分まで楽しんでね」


「えっ!?それって!」


 最後に爆弾発言をして前世の私と白い部屋は消えていった。




 朝起きると軽く身支度して、沙月ちゃんの部屋からリビングへ移動する。

「おはようございます」

 私が声をかけると、


「おはようー」

「おはようございます」

 知らない人が二人いました。


 一人は緋色のショートヘアにピンクの瞳の身長百七十くらいの女の子。服装は白のTシャツに黒のホットパンツ、上着に白と黒のストライプのシャツワンピース。ただ、雰囲気が赤を感じさせるのは髪と瞳のせいだろうかなと思います。


 もう一人は灰色の腰まであるストレートロングヘアに銀の瞳。身長は百六十くらいの女の子。服装は黒のブラウスに黒のロングスカートという全体的に黒を思わせる雰囲気を纏っています。


「私より年上だけど、神剣使いとしては新人かー。嬉しいねー。自己紹介がまだだったね。私は香和灯(こうわあかり)。よろしくね」

 緋色の髪の女の子は温和な微笑みを浮かべています。私より年下のようです。

「さて、次は私の番ですね。私は黒瀬静流(くろせしずる)。あなたと同じ学校の二年生よ。神剣使いとしては八年ね。私はサポートが主な役割だから表で戦うことはまずないわ。これからよろしくね」

「静流先輩。あなたが輝夜先輩の次にヤバい戦闘力持っているんですから。それに、静流先輩は戦闘を始めたら狂気を振りまくのでストッパーが必要なのです。それゆえに積極的な戦闘は禁止されているのです」

 灯さんが呆れたような顔をして静流さんにいいます。

静流さんはどこか感情の起伏が薄い気がします。表情も変わらないですし。

「私の名前は須佐水希です。よろしくお願いします」

「だれに対しても丁寧とは聞いていたけど、戦闘向きの性格ではないわね……」

 静流さんがそう評すると、

「私もそう思いますね。雰囲気が柔らかすぎる。危ういですね……」

 灯さんもそう評しました。

「あの……。何か不都合があるのですか?」

 私はお二人の言葉に疑問を覚えました。

「あると言えば、あるわね。非情にならないといけない場面で判断を間違えて仲間を危険に晒すことがあるから」

 静流さんの言葉は手厳しいものでした。

「仕方がないですよ。人の性質は変わらないですから。無理に矯正はできません。優しい雰囲気ですが、場数を踏めば、戦いの心構えが出来ていきますよ」

 灯さんが現実的なことを言ってくれました。

 それよりも気になることがあるのですが……。


 「「あははは……」」


 市松人形みたいな銀の髪と黒い髪の6歳くらいの女の子が走り回っています。

 ただ、その声は楽しそうというよりはなにも感情が読み取れません。

「あのー……。この子達は?」

 ついに気になってお二人に尋ねました。

 その質問に静流さんが、答えてくれました。


「ああ、この子達ね。銀の髪の子が「月白(げっぱく)」、黒い髪の子が「吾亦香(われもこう)」よ。私の神剣の精霊よ。まぁ、元ネタは座敷童ね。神というよりは妖怪よ」


 紹介された神剣の精霊の月白は灯さんに頭を撫でられています。

 吾亦香は私に近寄ってきて、じっとこちらを見ているので恐怖を覚えます。

「頭を撫でてあげて。近寄ったということは悪い人には認定されていないから」

「で、では」

 恐る恐る、頭を撫でると気持ちよさそうな表情に変わった。


「伝承では、発展途上の気に入った屋敷に住み着いて繁栄をさせるのですが、待遇が気に入らなかったら屋敷から去っていくという。

私が継承したのはこの子達。上司である神が遣わせたのです」


 座敷童の一般的な逸話なのですが、まさか精霊になっているとは思っていませんでした。

 それと気になったのは上司である神という存在です。

「上司である神とはいったい?」

「大抵は継承したときに開示される情報なのです。神剣の精霊は神の使いでもあるのです。というわけで、上司は名のある神様となります。問題は日本は神の数が多すぎて伝承を調べないとはっきりしないことがあります」

「私の精霊も上司が有名すぎますね。イザナミが亡くなった原因になった神様ですから。何柱か精霊を現世に送っているうちの一柱ですね」

 今まで黙っていた灯さんが会話に加わりました。


「灯のは有名だけど、私のところは日本妖怪の元締めだけでなく、中国の有名な瑞獣だからね。それも、黄帝に捕まって他の妖怪の情報をまとめてゲロった酒と女が大好きなダメジジイね。こいつのせいなのよね。私の性別が女性になったのは」


 それを聞いた灯さんが驚いて静流さんを見て、

「えっ!?初耳なのですけど」

「言える訳がないわよ。継承条件が性別を女性するだなんて。実際に会ったときにすぐに「この子は女の子の方がいいね。女の子になって成長したら、ボクの元においでよ」だなんて言われたのよ。頭にきたのだけど、人の身で瑞獣、いや神をぶん殴るのは我慢したわ」

 静流さんの表情が般若を連想させます。空気も振動しているような……。

「静流先輩、魔力が漏れて空気が振動しています。抑えてください。それにしても、よくその条件を飲みましたね?」

「会談の途中で、地獄の閻魔王の第一補佐官の方がいらしてジジイをぶん殴って抑えてくれましたから。姿は青年で薬学に詳しいのよ。まぁ、薬学を極めた理由が女なのだけどね」

「とことん、クズな神だね……」

 灯さんは吐き捨てるように言いました。

 私もそんな条件を言われたら断ったかもしれません。


「ちなみにそのジジイ。八大地獄ひとつの衆合地獄の楼閣で三大悪女の1人と火遊びしていたと情報が入って。タレコミしてくれたのは輝夜の紫月姫ね。まぁ、交渉の札には使えないけどね。本人は開き直っているから」

 火遊びの意味が分からないのですが……。

「ああ、水希先輩が分からない顔していますね。火遊びはね。早い話が女遊びです。大抵はぼったくりバーのお持ち帰り版ですね。かなり内容をボカしているけど……」

「そのぼったくり楼閣の女性でも、悪女でね。その悪女は悪女でも、かなりマズい悪女でね。「妲己(だっき)」と言えばわかるかな?」

「「ああ………」」

 灯さんと私は揃って呆れました。

 まさかの中国から渡ってきた金毛九尾の狐とはね……。


「あまりに、女遊びが酷いし、私にも害が及んだからどうしたらいいかと神剣使いの同僚に相談したらね。輝夜の紫月姫があっという間にお仕置きの算段を付けてくれたのよ」

「あの話ですよね。本部の姉御が結果に大爆笑していましたよ」

 静流さんにどんな被害が及んだのか気になるのですが、お仕置きの結果に大爆笑するとはどんなことをしたか気になったので尋ねました。

「あの、どんな経緯だったのですか?」


「簡単に言うとジジイがロリコンだったのよ」


「ロリっ……」

 いくら何でも女児に手を出すとは……。

「うん、呼び出しを受けてね。その前日に相談した訳だけど。その時にジジイの言葉を伝えたら紫月姫がブチ切れてね」

「内容を伺っても……?」


「『静流ちゃんと輝夜ちゃんも一緒に我が家にいらっしゃい』とね」


「あ―……。それは地雷だわ。紫月姫は普段から輝夜先輩を溺愛していますからね」

 とんでもない内容でした。

 まさか、他の神剣継承者も連れて来いとは思わなかったです。


「怒った紫月姫は即座に上司の神のところに出向くと、お仕置きの許可と対策をしてきたわね。紫月姫の上司はすごいですからねぇ……。他の神でも不用意に怒らせません」

「まぁ、間違いなく最恐の存在だよね。同僚達の輝夜先輩へのあだ名は「歩く裁判所」です。それも実刑までしますから。後ろ暗い人は、目を付けられたくないと思いますよ」

 歩く裁判所ということは天にいる神ではないかもしれません。

 日本の伝承で有名な裁判所というと、あれしか思い浮かべません。

「お仕置きの内容だけど、私達はジジイの家に行ったわよ。さすが桃源郷と言ったところね。飲兵衛御用達の養老の滝をまさかこの目で見ることになるとは思わなかったわ。で、その酒を2人でしこたま飲ませてね。ベッドに放り込んだわ。そこから選手交代したわけ」

「交代した人は誰ですか?」

 私の問いに静流さんが少し間を置いて、



「地獄の三途の川で一番有名な「奪衣婆(だつえば)」よ」



「ぶっ!あっははははっ!!」

 灯さんがついに堪えられずに笑い始めました。

「うわぁ……」

 私は何とも言えない気分になりました。


「朝起きたら、隣に奪衣婆がいるのよ。その現場を抑えるために一人いたけど、何ともこの世にあらざる悲鳴が響き渡ったとか。ついでに同衾していた現場写真もあるそうよ。で、何か悪いことしようとするたびに脅しているのよ。流出を仄めかしてね」


「それで、その後はどうなりましたか?」

「継承時の変な条件は白紙になりました。今は無条件で薬学についての情報を貰っています。調査で毒薬が出てくることがあるので成分分析ですね」

 静流さんは疲れた声でその後を伝えてくれましたが、まさか条件を白紙にさせるとは思いませんでした。

「紫月姫の上司達には頭が上がらないみたいよ。何しろ眷属の継承者に手を付けようとしたから、大激怒したみたい」

「あー……、笑った。静流先輩の継承条件は知らなかったけど、奪衣婆同衾事件は知っていたから。ちなみに、静流先輩の精霊達は紫月姫の上司達に協力しているみたいですよ」

 ようやく笑いがおさまった灯さんが、部屋で遊びまわっている子供達のその後を教えてくれました。

 気になることがいくつかありますが、その一つが静流さんが元は男だったということです。


「あのー、静流先輩が元男だったっていうのは本当ですか?」

「ええ、そうよ」

「初めから女性と言われても違和感がないのですが……」

「あら、嬉しいわね」

 静流さんが微笑んだ。それは儚げに見えます。深窓の令嬢と言われても違和感がありません。

「水希先輩。今、静流先輩を深窓の令嬢だなんて思いましたね?」

「え、ええ」

 灯さんが、額に手を当ててため息を吐いています。

 静流さんを見てから口を開きます。

「口を開けばとんでもない毒舌ですよ。無表情で相手を罵倒し実力で再起不能にした中学校の同級生が三十人いますから」

 三十人が再起不能になった。

 問題はどのような手段をもってそのような結果になったのか。

「あの……。どのような手段だったのですか?」

 私は静流さんに尋ねました。


「『監獄』って、知ってる?」


 静流さんの口からでてきたのは『監獄』という通称の高校。


 正式名称は神罰学園名古屋校。


 魔法のある日本は高校も義務教育に含まれる。

 中学から高校に進学する仕組みは前世の日本と変わらない。

 魔法の実力も考慮されるが、魔法を使えなくても学力がある人は上の学校に行ける。

 もちろん推薦入学で高校に入ることがある。

 前世にあったかもしれないが、知らないのは逆推薦。

 ただ、この逆推薦は神罰学園しかしないという不名誉な推薦でもある。


 なぜ不名誉か?。


 それは中学生活で問題があった生徒が選ばれるからだ。

 問題がある生徒が選ばれるのは理由がある。

 この世界の人は大なり小なり魔法が使える。それは人を傷つけるということが簡単にできてしまう。

 もし問題のある生徒が人格破綻者なら無差別に殺人を行う可能性があるからだ。

 神罰学園は性格の矯正を目的としている。

「知っています」

「なら、監獄の教師が軍や警察とある機関の職員とカウンセラーで固められているのは知っている?」

「それは知らないです」

「でしょうね。中学生の監獄への指名推薦は中学時代の素行に基づくのだけど、外でのことは探偵が探っているの。私が素行調査したのは探偵の調査から漏れた人たち。あの三十人の中には生徒会役員だっていたからね」

 生徒会役員は品行方正とイメージがある。

 それが素行不良というのは信じがたい話でした。

「静流先輩。私も関わりましたが生徒会役員の全員が真っ黒というのは、信じがたいですよ。彼らがやったことの内容は割愛しますが、それは酷いものでした」

 灯さんの言葉は重いものでした。

「そうね。被害者が自殺しかけたからね。調査には私の精霊が学校で常に情報を集めていたわ。それ以外は灯や沙月を含めた同僚や監獄の専属探偵が動いてくれたわね。輝夜は紫月姫にあることを頼んでいたわね」

 静流さんは月白の頭を撫でながら思い出すように言いました。


「この話を詳しくする前に、神剣使いは必ず所属しないといけない組織があるのを言わないといけないわね」

「所属しないといけない組織?」

「神剣使いが好き勝手に暴れるといけないし、軍や警察などの国家の思惑に巻き込まれないようにする。または国家が暴走しないようにするための見張りの組織。それが『神剣機関』よ。ちなみに、国の首都は東京だけど、神剣機関は名古屋が本部よ」

「静流先輩などの神剣使いの活動をサポートする組織ですね。役所に勤める公務員より、なんでもできる人が集まった組織ですね。活動資金も独自で賄っていますし、神剣機関の調査結果は何よりも信用されます」

 神剣使いが所属する組織は神剣の世間の認識をうまく使っている気がします。

 確かに神剣使いが好き勝手するのは世間から危険な存在と思われたら神への敬意も無くなってしまいます。

「すごい機関なのですね」

「水希先輩。その分、不正な行いはできないので、高潔な人が多いです。調査結果を審査するのに神剣使いも会議に参加します。人の人生を左右することもあるので、かなり慎重になりますよ。たまに判断に困って会議が踊ることもありますけどね」

 灯さんが最後は苦笑しながらいいました。


「それにしても、神剣機関を知らないだなんて、どれだけ箱入り娘なのかしら」

 静流さんの呆れを含んだ視線を感じます。確かに私は知らないのですが、それは家のことだけで生活が完結していたのです。

「確かに、水希先輩が知らないのはびっくりですね。神剣機関はアウトローな組織ではないので一般の人でも知っていると思います。

どこかで、耳にしても不思議ではないと思いますけど……」

「ま、知らないのは仕方ないわ。これから知ればいいから。話を戻すわね。監獄に送られる生徒の大体は中学二年生の三学期終業式が一つの目安ね。で、素行に問題がある生徒は三年生の生活が始まったときに監獄から招待状が届くというわけ。それでも、三年生の一年間でも気が抜けないけどね」

 静流さんはいったん言葉を区切るとお茶を入れた灯さんからマグカップを受け取ると一口、お茶を飲みました。

 私もマグカップを受け取ると一息入れました。


「輝夜が上司に頼んだことも話さないとね。そもそも、輝夜の精霊の上司は十人の王と十人の王の補佐官。だから合計二十人いるわね。日本は天国、現世、地獄とあるのだけど、紫月姫は地獄の十王がリミッターを設けず神に等しい存在として誕生させた精霊。これは本人からしゃべっていいと言われたから伝えるわね」

「となると……。一番有名なのは「閻魔王」ですか?」

 私は思ったことが間違いないと思って、確認のために尋ねました。

「その通り。で、閻魔王の有名な法廷装備は「浄玻璃鏡」だけど。これは知っているよね?」

 静流さんの問いかけに私は病院で雑多に読んだ本の中に閻魔王の伝承があったと思いました。

「たしか魔鏡で、亡者の生前の行為をのこらず記録し、裁きの場でスクリーンに上映するという機能を持っていると」

「水希さん、正解です。その機能だけど、こちらの世界では生きていても映し出すことができるみたいでね。私が中学に入るときに輝夜が紫月姫に言って使わせてもらうように申請したのよ」

 浄玻璃鏡が生きている人の記録も見ることができるとは思わなかったです。

輝夜くんが紫月姫に申請したということは使わざるを得ない事情があったと思います。

「映し出した人が何したか、すぐわかるのはすごいですね」

 私は思ったことを口にしましたが、静流さんは微妙な表情になりました。


「問題があるわ。物証がないのよ。これはかなり致命的でね。死後の裁判だったら物証もへったくれもないけど、生きているからね」

「ああ、それはわかりますね。静流先輩、輝夜先輩がたまに困った顔をしていたのはそれですね?」

「輝夜くんは記録映像から物証を見つけ出すのが上手いのよ。前世のことは聞いているけど、天職は刑事だと思うわ。それもたたき上げの。それでも困るものもあるのよ。現世で人を裁くには物的証拠は決め手になりますからね」

「裁判ドラマでも、証拠として音声記録と映像記録、犯人の手紙などありますよね」

 私はドラマで裁判のやり取りを見たことがありますが、証拠は確かに決め手になると思いました。


「私の時は調査対象が中学生だったこともあったからまだよかったけど。これが下手に頭のいい大人だったら証拠すら残さないこともあるわ。神剣機関としても困るのよね。記録を残さないといけないから」

「慎重に事を進めているのですね」

「突発事態の時は後から補充調査しているけどね。ちなみに、神剣機関の活動記録は最大で三十年後に公開します。だから神剣使いも恥が残らないよう慎重に活動しながら記録します」

「奪衣婆同衾事件も公開されますよ」

 静流さんの言葉の後に灯さんがとんでもないことをいいました。ものすごく嫌そうな顔をしています。

「一応、神剣に関する記録と神に関する記録があるからね……。残さないわけにはいかないのよ。後の継承者が苦労しないためにもね」

「記録がしっかりしているから、継承者に対するサポートがあるのですね」

「そうよ。ある程度は安心していいわよ」

 静流さんの言葉に安心できました。

 それでも、責任が伴うのもわかりましたので、大変そうではあります。


「さて、話を戻すわね。私が通っていた中学校だけど、調査結果で大混乱。連日連夜の会議で最終的に監獄送りにしたのよ」

「静流先輩も輝夜先輩も疲労困憊だったよね。私も魔獣討伐の専門ですが、プロである討滅士と組んで警戒していました」

「行政、警察、軍、討滅士組合、神剣機関が要注意として私の中学校のことを密かに周知徹底していたわ。しかも生徒の親に悟られないように情報統制も徹底していました。監獄からの逆推薦まではヒヤヒヤものでしたが……」

 ため息を吐いて話を区切りましたが、当時の苦労を思い出したのか顔色が悪そうです。


「少し、話を切り替えます。討滅士の組合に関わりが深い魔獣討伐専門の神剣使いの私は討滅士について話します」

 重たい話だったので、灯さんが話を切り替えてくれました。

「知っていると思いますが、討滅士は中学生になると国から強制的に資格を取らされます。例外は医師からとれないと通告された人、この基準は誤魔化しは不可能です。神剣使いは中学生以下でも必ず資格を取らないといけません。神剣使いの大半は小学生で資格を取っています。神剣の精霊が継承者に現れるのは小学生が多いのですよね」

 私も討滅士に登録しているので最初はおさらいですが、後半の神剣使いの事情は知りませんでした。


「討滅士は個性の強い人が多いです。ですが、チームを組んで山や警備、市街地での魔獣討伐に従事しています。大型魔獣であるランクS以上になるとその地区に複数のチームが集合します」

 討滅士はチームがあります。個人で行動している方もいますが、仕事がチームであるのと個人では圧倒的に前者の方が仕事の幅が広いです。

 そして、大型魔獣はよく出現します。

 公園や学校の校庭などの建物のない場所に出現したりするので、通報を受けた組合が討滅士を出動させます。

「問題は大人数が討伐に動くので個人が好き勝手すると戦線が崩壊するのです。魔法で治療ができるとはいえ流れた血は回復できないので離脱することが多いです」

 灯さんは大型魔獣討伐戦によく参加しているので、話が現実的です。

 私は参加したことがないので、よくわからないところがあります。中型までは刀で倒したことがあるのですが、初めての実戦は言葉にできないくらい、大変でした。


「ゲームと違って死んだら蘇らないからね。前世の子供は驚いたことに死んだら蘇るなんて考えている子がいるみたい。私たちは一度死んでいるとはいえ、そんな不運であり、幸運はそうそうない。死んだらそれまで。亡くなった命は帰ってこない」

 静流さんの話した内容は私も知っています。病院にいたので、生と死を行ったり来たりです。小児科とはいえ重病患者が多いのです。その経験があるので、死んだら生き返るなんて口が裂けても言えません。

 昨日まで隣にいた子が翌日にはいなくなる。それがいつ自分になるか。治ると信じていても、現実が襲ってきます。

 私は前世での記憶がありますが、当時入院していた子達はどうなったのでしょうか・・・?

 気にしても仕方ないことはわかっています。それでも、治ってほしいと思ってしまいます。

「生き残りを考えるなら大型魔獣の討滅指揮者には従った方がいい。ただ、神剣使いは独自で動く権限がある。理由は察していると思うけど、神剣が強すぎる。特に灯は一人で大型魔獣を十体倒したことがあるわ」

「すごい……」

 大型魔獣は出現すると非常態勢が確定します。

 前世の自然災害でも台風に相当します。軍の出動もあるくらいなのです。

 それが十体となると天災級になるわけです。一体で都市が壊滅すると言われてます。


「ちなみに、討伐指揮者の指示に従わないのは中学生が多い。そうなると、戦線の崩壊とか仲間が険悪になったりと面倒ごとが増えるんだよね。静流先輩のところの中学校の生徒もいましたね」

「初めての大型魔獣討伐で緊張から混乱して、失敗はあるけど。意図してなら中学生だと監獄行きね。ああ、今年は監獄行きの人数でもっと大変よね……」

 静流さんは困ったようにため息を吐いた。

 隣の灯さんは悲しそうな顔をして静流さんを見ました。

「静流先輩、あれはどうしようもないですよ。下手すると今決まっている一学校から確定している六十人以上になるかもしれないのですから」

「えっ!六十人!?」

 思わず大きな声が出ました。

 学校ひとつで六十人なんて、全国でも例がないと思います。


「そうよ。全国の神罰学園の記録を調べたわ。そんな人数を出した中学校なんて存在しません。企業が本社を構えることが名古屋に次いで多い東京でもないわね」

「企業ってことは……。ご令嬢やご令息ですか?」

 私の疑問に答えてくれたのは灯さんでした。

「そうです。名古屋にあるお金持ち御用達の学園はひとつしかありません。ただ、あそこはねぇ……」

 灯さんが、静流さんに視線を向けて静流さんは頷くだけです。


「学校の創設からあらゆる介入をさせないで公には嘘の報告をして、名家の人たちがお金や企業の繋がりで圧力をかけて揉み消していたのですから」

 灯さんが、呆れたように事実を伝えてくれました。

 お金持ちの学校ということで将来は企業の重役になる可能性がある人が通います。そのために介入をさせなかったのでしょう。

「それに巻き込まれたというか、渦中にいるのが同僚の神剣使いなのよね。正直、あんな不幸は前世だけで十分よ。あの子、大丈夫かしらね……」

「私の一歳上の中学三年生の女性ですが、前世持ちで、人に期待することを諦めた子ですね。パートナーの男性の方も神剣使いですが、その方が女性を触れれば壊れるガラスのような感じで、優しいのだが、笑顔が儚いと言っていましたね。もしかしたら水希先輩と女性は話が合うかもしれません」

 その話を聞いて一度会ってみたいと思いました。

 いろいろな人の人生に触れてみたいと。

 好奇心もありますが、それ以上に自分が何をするべきか迷っているからです。

 神剣を継承したのはいいのですが、継ぎました、だから他は知りませんとはいかないのです。家を守るなら神剣使いを取り巻く環境も知らないと動きようがないのです。


「神剣機関の本部には神がいるからね。何かあれば出張ってくるでしょ」


「神ですか?」

 この世界には神が本当にいたとは思っていませんでした。

 ですが、静流さんの話から神がこちらに来るのではないかと思います。

「ええ、正真正銘の神よ。コノハナサクヤヒメとイワナガヒメよ。そして、その神剣継承者は女性で年齢は三百以上ね。神剣機関を作り上げた女傑にして不老不死の最強の神剣使い。後は神の代理人というか神剣使いを導く案内人もいるわね。それぞれの支部に必ず1人いて独自のネットワークがあるわ」

 山の神としても有名な二人の神ではないですか……。

 しかも、二人の逸話を知っているなら仲が悪いと思います。

 二人ともニニギノミコトに嫁に出されたのですが、イワナガヒメは醜いということで送り返されたという。姉妹仲がそこで最悪になっても不思議ではないです。

「二人の神の仲の悪さを気にしているのかな?」

 顔に出ていたのでしょう灯さんに言われてしまいました。

「はい」

「水希先輩。姉御が二人の仲を取り持ってくれていますよ。説得はかなり大変だったみたいでね」

 灯さんが、間を置いてから、


「その時にうっかり富士山が噴火したとか……」


「なにがうっかりですか!?被害甚大ではないですか!!」

 思わず叫ぶくらいには大事です。

「過ぎたことだし、今更ね。当時は他の神剣使いが災害復興に駆り出されたみたいよ。その当時から記録はしっかりしていたから。見た時は呆れたものよ」

「あー、私も見ましたね。富士山の噴火からの復興から神剣機関の立ち上げに関わった創立メンバーの人の苦悩がストレートに書かれていました。笑っていいのかわからないけど、半年で髪が白髪になったとか」

 灯さん、それはストレスだと思います。

 組織を一から立ち上げるのはかなりの苦労が伴います。ましてや神剣使いをサポートするのです。想像以上の困難があったと思います。


「神剣機関と言えば、神剣使いを証明する身分証と羽織について話すべきね。灯、お願い」

 静流さんが、灯さんに視線を向けると頷きました。

「これですね」

 灯さんはカードケースに入った名刺みたいな物を取り出した。

「これは魔法技術で作った特殊な身分証です。ファンタジー小説などでよく見るギルド証みたいな物ですね。どうぞ、手に取ってみてください」

 渡されたカードには灯さんの顔写真と所属機関の名前などが書いてあった。

 不思議なのは光沢とカードの複雑な模様。

「不思議な模様ですね。光加減で色が変わるのもすごいです」

「これは絶対に複製不可能です。ひとりひとり作るときの配合が違うのと配合については極秘資料になっているので、偽造したらすぐに成分分析にかけられます。何より、神剣機関の重要施設には偽装したのは入れません」

「すごいですね。前世のことで偽造されないように技術が上がっていましたが、いたちごっこというか本物以上の偽物が出回っていることもありましたから」

 前世のことを思い出したので言葉にしましたが、紙幣を作るのにかなりの技術が必要で作るだけでもかなりのコストになります。

 クーポン券だけでも偽造防止の技術が使われています。

「お返しします」

「はい。これが水希先輩にも渡されます。あとは乱戦でも味方がわかるように羽織が配られます。これは前世の漫画を覚えていた神剣使いの先輩がこちらにも必要だろうと言って提案したのが採用されたのが始まりでした」

 灯さんが羽織を見せてくれました。

 羽裏の色は緋色で、表の背中には八角形の枠の中に刀が八の字に置かれている。

「白い羽織で一人一人デザインが違って羽裏色も違う。ただ、神剣機関名古屋本部のロゴが必ず入れてあるんです。ロゴを見てどこの神剣機関の所属かわかる仕組みになっています」

 神剣機関の本部のロゴは神という字の後ろに桜の意匠がしてあり刀と剣がクロスしてあるそうです。


「神剣使いは中学三年生の時に羽織をもらうわね。例外は魔獣討伐専門の神剣使い。戦闘に駆り出されることも、メディアの露出もあるから。神剣使いだとわかればファンが変なことをすることはないから」

「私達は持っていますね。羽織を所持してないのは輝夜先輩ですね。立場が立場ですから持ちたがらないのはわかりますが……」

「神剣使いの汚れ役ですからね。私たちは気にしなくていいと何度も言っていますが、こればかりわね」

「私たち神剣使いが道を踏み外さなければ、輝夜先輩に役目をさせなくていいですから。常にそれを心がけるしかないですね……」

 微妙な沈黙がこの場を包みます。


 しばらくして、

「さて、この場に入りづらいのはわかるけど、立ち聞きはよくないわよ」

 静流さんが、階段のある方向に目を向けました。

「私たちの気配探知を舐めないでくださいね。悪意があったらそのまま切り伏せていますから」

 灯さんもその方向に目を向けます。

 すると、修也さんが姿を見せました。

「すまない。立ち聞きするつもりはなかった。だが、重要な話だったみたいだから入りづらかった」

「確かに、神剣使いの話ですからね。でも、あなたは関係者ですからね。知っていても問題はないですよ。過去に神剣使いの関係者は一般人のこともありますから。でも、できるなら神剣機関に就職していただけるとこちらとしてもありがたいですね」

 静流さんは、そう言って修也さんを勧誘しました。

 灯さんは私の隣を指さして、

「あなたが円条修也さんですね。こちらに座ってください」

 こちらに来て修也さんは座ると、

「すまない」

「気にしないでください。あなたにはぜひ書いてもらいたい書類があります。絶対とは言いませんが、書いておくといろいろとサポートを受けることができますし、身分の保証があります。なにより、水希先輩の隣に堂々といることができます」

 灯さんはカバンからクリアファイルを出すと中から書類を取り出した。

 それを修也さんの前に一枚ずつ並べます。

「これは神剣機関に所属するための書類です。本当はかなり厳しい一般採用試験があるのですが、例外があります。それは神剣使いの推薦です。神剣使いの推薦は何よりも信用されます。円条修也さんについては過去から素行調査されていますので、記録を見た限りでは問題なしとなっています」

 灯さんは、そう言って書類を指さします。

「こちらは採用にあたっての雇用契約書と隣は神剣機関の案内書。雇用に関しては労働基準法を順守があるのですが、どちらにしても不規則な勤務と緊急での呼び出しがあります」

 灯さんは書類を一つ一つ指さしながら説明を始めます。


「円条さんにはわからないと思いますが、前世ではブラック企業というのがありまして、中身は労働者の使い潰しをするところがあります。それとは違って休暇やメンタルケアなど福利厚生はしっかりしています。まだ、義務教育の学生なので正式の雇用ですが、アルバイトと似たような感じですね。学業を優先してください」


「わかりました。それとこちらの方は?」

 修也さんは、案内資料を指さしました。

「ああ、これを本当は説明したいけどね。ま

だ警戒態勢だから悠長に時間をとれないんだ。申し訳ないね。後日、人事の職員から円条さんに説明するように伝えておくよ」

 灯さんはすまなさそうに頭を下げると、修也さんは恐縮したように頭を上げてくださいと言った。

「円条さん、ありがとうございます。さて、デメリットについてなのですが……」


「ないわね」


 灯さんの言葉に静流さんが答えた。

「いや、静流先輩……。あるでしょ。特別公務員みたいな扱いになります。何より品行方正な行いを求められます。学校の教職員など潜入で他の職業に従事することがあります」

 私と修也さんは潜入という言葉に驚きました。

「潜入は何のために?」

「まぁ、情報収集は当然として。神剣使いのサポートですね。潜入している職員の安全確保などで人件費が掛かりますが、必要なことと割り切っています。私達もそれで助けられています」

「僕も職員になったら潜入することになるのかな……?」

「神剣使いのパートナーは潜入などの裏の業務はしません。ある意味、神剣使いが報道に露出するので、いつも隣にいたら面が割れます。ですので、神剣使いの記録をやることになりますね」

「なるほど、日誌を書くことになるのか」

「その通りです。先ほども言いましたが、公的な記録になりますので主観は排除してくださいね。過去にパートナーの方が延々と惚気話を書いたことがあるので」

 私はある意味見てみたいと思いました。前世では恋をできなかったのと、惚気話を看護師さんから聴いたことがあるのですが、話が分からなかったというか、ピンとこなかったというか。


「あとは……。命の危険ですね。現場に駆り出されることもあるので、覚悟してください」

 灯さんは修也さんの目を見ながら言った。

「悪いわね。神剣使いの関係者って盲打ちのように契約書にサインするから」

「それ、困るんですよね……。だから、契約書を二枚持っているのですよ。一枚目は先走って書く人用に後から説明するために。今回は円条さんが慎重でよかったです」

 静流さんは顎に手を当ててしばらくすると、

「すみません。円条さんと少し話させてもらいます。外に出てもらいます。ついてきてください」

 修也さんは驚いた後に頷いた。

「わかりました」

 二人は家から出ていきました。


「あの……、灯さん。沙月ちゃんはどこに?」

 私は家にいない沙月ちゃんがどこに行ったのか疑問に思いました。

「沙月は神剣の能力で飛行ができるからね。神剣機関の本部に報告に行っているよ。ついでに今回の事態を他の神剣使いに通達しているね」

「通達ですか?」

「ええ、神剣使いが増えたことも通達するのですが、黒い模造神剣の出どころが気になります。それゆえに不測の事態には常に備えているのですよ」

「そうなのですね」

「この件が終わったら本部の姉御に会いに行きましょう」

「どんな人ですか?」

 灯さんのいう本部の姉御とはどんな人なのかと思ったので質問しました。

「姉御の名前は「神来杜唯華(からいとゆいか)」さっきも話したけど神剣機関のトップにして精霊ではなくて神を神剣使いとして継承しているの。ちなみに性格は面倒見がよくて愉快な人かな。だから親しみ込めて姉御と呼んでいる」

 面倒見がいいなら怖くはなさそうです。


「ただ、人がいいだけでは組織のトップは務まらないから怖いところもある。姉御は神と人の仲介人なのです」

「巫女みたいなものですか?」

「巫女と言ってもいろいろ種類があるからね。私たちの前世だと職業としての巫女だし、古代の巫女だと朝廷のかんなぎといって神託を受けて人々に伝えるのと、分類が違うなら口寄せ系、「死人の口となる」という権力とは距離を置いた巫女もいるわね。姉御はこの分類とはまったく違う巫女になるね」

「巫女にはそんなに種類があるのですね。そして、それに当てはまらない」

「巫女の分類についてはざっくりとしか私は知らないけどね。姉御に神が会いに来るからまったく違うと思う。私も神にあったことあるから。静流先輩は天国に女の敵を成敗しに行っているし、輝夜先輩は十王の補佐官に会っているわ。他の神剣使いも神に会ったと報告書に書いているわ。それも神剣使い全員がね」

 なんとなく理解できた気がします。神が会いに来るなら神剣の精霊の状況などの意見交換に来ているのでしょう。

 そして、神剣使いは神に必ずあうことになるのでしょう。原虹を作った神はどんな方なのでしょうか……。

「以上が姉御に関することだね。ちなみに神剣使いを罰する神剣使いは輝夜先輩が役割を担う前は姉御が務めていたわ」

「そうなんですか」

「罰した後は必ず神が詫びに来たみたいだよ。神にとっても現世に迷惑をかける事態は信仰に関わるからね。かなり敏感みたい」

「神様が詫びに来るのですね」

「神と言っても話すとかなり人間臭いよ」

灯さんはそう言って締めくくりました。


「さて、輝夜先輩が対峙している黒い模造神剣はどこの組織が作ったのかは、想像できます。ですが、これが大量生産されたら能力次第では国が壊滅します」

「敵対組織があるのですね」

「ありますよ。神剣使いに慣れなかった人たちの恨みのもとに結成された組織がね。お家騒動より悲惨なことですよ。神剣を祀る家はどこでもあるのですが、水希先輩の須佐家でも継承争いがあったと思いますよ」

 灯さんの言葉に反応して、後ろに原虹が現れました。


『ふむ、あったな。そんなことが』


「初めまして、精霊の原虹さんですね。よろしくお願いします」

 灯さんはそう言って軽く頭を下げました。

『今回のことは神剣を祀る家ではよくあることなのだ。家を継げないとわかると家から消えることもある』

 原虹はそう言うとため息を吐いた。

「やはり、そうですか……」


『お久しぶりですね。原虹さん。またあなたと戦えることを喜ばしく思います』


 灯さんの後ろに緋色の髪と目をした女性が現れた。

『久しいな。緋織姫(ひおりひめ)。息災だったか?』

 緋織姫と呼ばれた女性の精霊は、服装はピンクのワンピースで手足が長くてモデルのようです。目鼻立ちは整っていて、髪はセミロングで外見年齢は十代後半といった感じです。声は柔らかいので安心感があります。

『ええ。私は放浪の旅に出ていましたが、この子の悲しみに呼応して継承するに至りました。私はどこかの家に祀られるのをよしとはしなかったのですから。継承争いはなかったのですが、他の神剣はあったそうですよ。原虹さんは、見ているはずです』

『あったな。家を継ぐことができなくて口論になり、一族から追放された者が。もう、亡くなっているとは思うがな』

「ふむ、子孫が混じっていても不思議ではないですね」

 精霊二柱の会話を聞いて、灯さんが呟きました。

「これ以上、事態が悪化する前に手を打ちたいですねー……」

 灯さんの言葉は部屋に溶けて消えていくようだった。




 綿月家の玄関で二人が隣り合って立っていた。

「さて、面と向かって言うとかなりの圧力になるからやらないけど。沙月に聞いたけど、あなた。ヘタレなんだって?」

「うぐぅ」

 静流の表情は無表情で、何の感情も見て取れない。

 隣の修也は顔色が青くなっている。

「まぁ、ヘタレなのはいいけど。友達以上、恋人未満が続くのは神剣使いにとってはメンタル的には不味いわね」

「それは結論を急いだほうがいいのか?」

「そうね。いるかいないかで神剣使いが暴走するリスクが変わるわね。パートナーがいると無茶はしづらくなるのよ。前世の記憶持ちは一度死んでいるから簡単に命を投げ出す奴が多いのよ。同僚のヒーロー馬鹿がその筆頭ね。輝夜君だって、須佐恭也がいなかったら今頃死んでいるわね。私も同じだけど」

「そうなんですか……」

「早く決めなさいね。でないと……」

 静流はそう言葉を切ると、


「名古屋港に沈めるか、茶臼山に埋めるわよ」


 恐ろしく低い声で、恭也に言った。

「はっ……、はい……」

 あまりの恐怖に頷くしかなかった。


「真面目な話としては、前世の記憶を持っている人は一度死んだことによって人間的にどこか壊れているのよ。そして、神剣の精霊を継承して人生に再起を賭けている人が多い」

 修也は輝夜ことを思い出した。

 前世の人生と今世の人生で前世の反省をもとにした強い想い。

 後悔はしない。

 その言葉の力強さと重みは輝夜が言うからこそである。

「静流さんもですか?」

「そうね。私も前世で死んで今世に賭けているわ。性別が変わるなど紆余曲折があったけど前世よりはまともな人生だと思うわ。前世は「生きた屍」だったからね」

 静流は悲しそうな顔をして空を見上げた。

 修也はそんな静流にかける言葉がなかった。前の人生があるというのは修也にとっては不思議な話である。産まれてからの記憶しかないので比べることもできないし、成功体験や後悔もない。

 だから、わからない。

 修也は下手に言葉をかけることができないのは何が地雷になるかわからないからだ。


「小説のジャンルを丸ごと批判する気はないけど……。異世界転生に関する話に多いのは乙女ゲームの悪役令嬢になっての逆断罪や貴族に転生しての内政なのだけど、下手に中世ヨーロッパの貴族社会に近い世界に転生しなくてよかったなと今は思うわ」

「それは、どうしてですか?」

「現代日本の価値観が生きていく上では邪魔するのよ」

「現代日本の価値観?」

「前世では陰謀などはあったけど、貴族社会ほどのドロドロしたものはなかったわ。女性貴族のお茶会と称した言葉の殴り合いには辟易するわ。それに人をあっさり切り捨てたり陥れたりするのもためらいがあるわ。子孫を残すための愛のない結婚なんて吐き気もするわ。生まれ変わっても同じ性別とは限らない。女性なら間違いなく苦難の人生よ」

 修也は歴史の授業でヨーロッパの歴史を思い出した。貴族社会で王が権力を握る王権制である。その下の階級社会は厳しく身分によっての差別も激しかったと書いてあった。

「男尊女卑もすごいからね。レディファーストって知っている?」

「知っています」

「あれの本当の意味はね。女性を先に行かせて待ち伏せがあったら盾にする意味もあるのよ。要するに身代わりで死ねということよ。他にも女性が不利になる婚約破棄とか、どこまで女性を馬鹿にしているのかしらね」

 修也は言葉を失った。

 女性を盾にしてまで生き残る、愛する人をためらいもなく盾にすることは自分には出来ないと思った。

「嫌な理由が多くある。それを考えると私的にはありがたい転生ね」

「ありがたい転生ですか?」

「ありがたいわよ。成り立ちが違うけど日本に転生したというのはね。前世に近い生活が出来る。中世だとこれがあったら便利なのだけどと思ってもほとんどは家電製品よ。あるわけがない。物流も貧弱で物が手に入りにくい。開き直ればいいのだけど、そこに至るまでが長そうだと思うわよ」

「ああ、確かに。ネットもスマホもないですからね」

「便利に慣れすぎたのもあるわ。でも、人生は一度きりだからこそ常に最善を考えて全力で生きていくのよ。まさかロスタイムどころか初めから人生のやり直しなんて誰が思うのよ」

 静流はそこで言葉を区切った。

 そして、口を開いた。

「前世の記憶があるから今世は後悔しないと再起を賭ける人が多いのよ。ただし、神剣を担いでいるので戦いからは逃れられないわ。水希さんもね。だからこそ、支えてくれるパートナーは必要なのよ」

「前世の価値観があるからですか?」

「それもあるわね。魔獣もいないから刀や槍などの一発で法律違反になる武器なんてゲームでしか見たことがないひとが多いのよ」

 静流はあえて銃刀法とは言わなかった。

 それはこの世界では銃は存在しないからである。

 魔法が発達しているのもあるが、神が銃を作るのを禁じているという話もあるからだ。

「それは、平和な世界ですね。魔獣がいないなんて」

「確かに平和ね。国家間の戦争は悲惨だけど、私が生きていたときの日本は無縁だったわね。貧富の差や人を使い捨てる会社などの心の貧しさはトップクラスだけどね。私もその被害者の一人だけど」

「心の貧しさですか?」

「それについてはいずれ話すわ。ただ、神剣使いの前世は社会的弱者が多いわ。私のパートナーもね」

「静流さんのパートナーはどんな人ですか?」

 どんな人なのか参考にしたかったので修也は尋ねた。

「神剣使いよ。冷静で思慮深く、堅実な人ね。私のことをお嬢なんて言っているわ」

 性格は普通のようだと思った。

 神剣使いということは一緒に戦うことができる。この差が修也にとっては大きく感じた。

「お嬢っていうのが仲間内で定着してしまってね。で、色々あって今の私のあだ名は「二面性令嬢」になったのよ」

「二面性令嬢ですか……」

「なんでも、普段穏やかなのに戦闘時に狂ったように笑いながら戦うからですって」

「それは……、怖いですね……」

修也はかろうじて言葉を発した。

想像するだけで薄ら寒い恐怖を感じるのも無理はない。

「みんなそれを言うのよね。なんでかしら?」

 本気で不思議そうな顔をして言っているのでどう返答したらいいかと無言になってしまった。

 そして、灯が言った言葉を思い出した。静流が積極的に戦うのを禁止されていると。

 その禁止理由が狂ったように笑いながら戦うのが理由だと判明したのだった。


「まぁ、私のことはいいわ。さっき言ったけど。早く腹を括ることね。神剣使いは人生の再起を賭けている。でも、この世界では命を常に賭け続けないといけない。神剣を継承した以上はまともな人生は歩めないわ。だから、あなたが水希さんの心を守りなさい」

「……」

「自分が神剣使いじゃないことを悩んでいるなら私はあなたをアホというわね。好きな人を守るのは何も一緒に戦うことだけじゃないのよ」

「!!」

 修也はハッとした顔をした。

 静流の言葉は自分が考えていたことだったからだ。

「やり方は人それぞれなのだから、自分が思った最善を模索しなさいな。そして、悩むくらいなら行動しなさい。それこそ輝夜くんじゃないけど「後悔しない」ようにね」

 静流の言葉は修也の心に刺さるのだった。




 時間は遡って、一人黒い神剣を握った須佐恭也と対峙する綿月輝夜は激しい戦いをしていた。

「くっそ、めんどくさいぞ!」

『仕方あるまい、「月夜桜の処刑場」の本領を発揮するわけにはいくまいよ』

 輝夜の本気の嫌そうな叫びに精霊「紫月姫」が冷静に反論する。


 輝夜にとってこの戦いの勝利条件が、黒い神剣を壊すことで、恭也を殺すことではないからだ。

 戦っている相手を殺さないようにするのはかなりの技術を必要とする。

 そのために結界として張っている「月夜桜の処刑場」のギミックを全部使えないのである。なぜなら、ギミックを一つでも使っていたら相手を問答無用で殺してしまうからだ。


「八寒桜が使えないのもつらいところだ」

『あの技は処刑用の技だからの。この「月夜桜の処刑場」では技の効果が上がってしまう』

 輝夜と紫月姫は黒い神剣に操られた恭也と戦いながら対策を考えていた。

「だからって、結界を解除すると被害が拡大する。小技を作っとくべきだったな」

『今までが相手に明らかに非があり、裁かれる罪状もはっきりしていたからのう。生きるべき人間は他の神剣使いが相手して対処してくれていたから』

「同僚に恵まれていて、涙がでるぜ!」

 ガキィィィン!!

 黒い神剣と神剣が切り結ぶと派手な音が鳴る。

 月夜の桜吹雪を背景にしての戦闘なので、観客がいたら見とれていたと思われる。

『実際に涙などでんじゃろ』

 紫月姫は呆れたように言った。

「そこまで感情は死んでねぇぞ」

『まぁ、罵倒した後に感謝の言葉を言うじゃろうな。それも照れながら』

「ツンデレじゃねぇんだよ!?」

 この場に同僚の黒瀬静流がいたら即座に頷く言葉だった。

「困ったもんだな。有効打が見つからない。切り結ぶことで神剣を壊すつもりだが、恭也さんを殺すことになるのは、絶対に避けたい」

『わらわも神じゃからの。とはいえ。十王とその補佐官達から「この者は殺すでない」と言われておる』

 紫月姫の声が少し硬い。

 傍若無人という言葉が一番似合う神剣の精霊、いや神だが。上司の神には弱いらしい。


「改めて確認だが、紫月姫の上司は五人目が有名な神「閻魔王」だったね?」

『そうじゃ。正確には神ではなく、仏のたぐいじゃな。日本では仏教の伝来で広く伝わったのじゃ。わらわの上司は二十人おるが、それぞれが個性的じゃ。小童の言う通り五人目の王が有名じゃな』

「日本神話に関係ないからなぁ。日本人にはまとめて神だと思っている人が多いだろうな」

 戦いながら会話しているのは、ある意味慣れているからである。

『本来なら神に纏められるのは、よくないことじゃが……。小童の世界では神のもとは人のことがあるからの。学問の神様のようにな。この世界では上も下も纏めて神だからのぉ……』

「仕方ないよ。日本はいろいろと受け入れているからな。でも、今まで紫月姫が殺してもいいと言ったのは上司の許可があったからか」

『そうじゃ。わらわとて勝手に人の死を決めることはできん。一応、例外が決められておる。小童、お主が危なくなるときじゃ。だから、継承したときにお主を勝手に動かして反撃したのじゃ』

「何年越しの真実だよ……。無駄に悩んだじゃないか……」

 紫月姫の言葉に輝夜が微妙な表情になる。

 小学生の時に継承してからいじめられたときに勝手に操られていじめグループを攻撃したのは、その例外によって起ったことだったのだ。


『おいそれと言えんかったのじゃ。今なら伝えてもいいだろうと、踏ん切りがついたのじゃ』

「踏ん切りがついたねぇ……?何か上司に言われたんじゃないの?」

 輝夜は紫月姫に疑問を投げかける。視線は恭也を捕らえたままで、戦闘を続けている。

『小童が逞しくなったの。お主の言う通りじゃ。上司全員から「綿月輝夜にはやってもらいたいことがある。正確には雇用したい」だそうじゃ』

「雇用したいねぇ……。小野篁おののたかむらになれと?」

『そうじゃろうな。それより踏み込んだ雇用だろうな』

「神剣使いを罰する神剣使いをやっているから人としての寿命が止まって、今の立場そのまま仕事しろと言うことかな?」

『ついでに不死になるそうじゃ』

「本部にいる姉御みたいに不老不死になるというわけか……」

『そうなるのぅ。わらわを継承して、結びつきがこれほど強いのはお主が初めてじゃからな。八寒桜の技を全部使って使用者が無傷なのはお主だけじゃ。歴代継承者は最後の技を使って相打ちになっておる。魔獣や暴走した神剣使い相手とはいえ。使って無傷なのは驚きじゃ』

「あれは、寒いを通り越しているからな。神剣自体が八寒地獄の寒さの段階を完全再現し技として使うことができるから。お前から八寒桜の内容を聞いたときは、自分への罰かと思ったぞ。実際に、転生しているから裁判は受けてないということになるけどな」

『そうじゃな。お主たち転生者は亡者としての裁判は受けておらん。もっと言うならあちらの世界には天国も地獄もないのじゃ』

 紫月姫の最後の言葉に輝夜は一瞬手が止まりそうになった。

 それでも、戦闘中なのですぐに動き始めたが危なかった。一瞬の判断ミスが死につながる戦いで思考を止めるのは自殺行為だ。

「おいおい、じゃあ。死んだ人の魂はどうなってんだよ?」

『何のことはない、消えていくだけじゃ。恨みなどを残した魂は怪奇現象をおこすがの』

「最後のはヤバいんじゃないか?」

『ヤバいのぅ』

「そんな軽く言われても……」

『お主は下手するとそうなるところじゃったんじゃよ。思い出してみよ前世を』

 輝夜は言われて前世の最期を思い出した。

 絶望して呪殺や縁切りで有名な神社での自殺。

 仏教用語での成仏なんて、とてもではないができたものではない。

 あの神社で夜に人を恐怖に陥れるか、精神が擦り切れるまで使い潰した会社を祟るかしていただろう。

 どちらにしても碌な結果ではない。

 そして、苦い顔をして、

「なるほどね。言い訳できんわ」

『それほどの負の感情だからこそ、わらわの上司達に目を付けられて転生したんじゃろうな。人殺しなどの重罪を犯しておらんからこそ選ばれたんじゃ』

「なるほどね。精神は壊れたが、人様に迷惑はかけなかったな。最後の最後で神社には後処理を押し付けたことになるが」

『まぁ、それについては仕方ないの。神社で死んだからこそ上司が気に留めたということもある。さて、この状況をどう切り抜ける?』

「会話しながら考えているが、さっきの氷獄は足止めだから解決にならない。というよりは凍らせるということから恭也さんが死ぬことになる」

『そうなるのぅ。切り離しが分かりやすい解決策になる』

「恭也さんの後ろに精霊が見えるが、これは紫月姫たちのお仲間か?」

 輝夜の視線の先には恭也の後ろにいる黒い男性の精霊が見える。

 黒い精霊の表情はこの世のあらゆる苦痛を表したような顔だった。

『馬鹿を申すでない。あんなのと一緒にされてはたまらん。あれは自然発生した精霊じゃ。それをあの模造品に縛り付けたんじゃろうな』

「余計やりにくくなる情報だな。あの精霊も解放してやりたいが。せめて恭也さんだけでも切り離しが出来ればあの模造品を残してこの空間から蹴りだせるけど」

『ふむ。先ほどのことは覚えているかの?』

「先ほどのことか……?」

『お主の声に反応しておったじゃろう』

「声に反応……。まさか!?」

『かなり業腹じゃが、お主が愛の言葉でも大声でかけてやれば正気になるのではないかの』

 紫月姫の言葉で顔が一気に茹蛸のように赤くなった。こんな時でも正確に神剣を振るうことができる自分が恨めしかったのもある。

「あ、愛の言葉だと……」

 絞りだすような言葉はかなりの動揺を感じ取れる。


『女になると決めたんじゃろ。学校の屋上で大声で愛を叫ぶよりはマシじゃろ。観衆はおらんし。腹括れ。女は度胸じゃ』


 紫月姫の最後通牒のような言葉に反応するのに少し時間がかかった。

「いや、観衆はお前がいるだろうが……」

『本部の神来杜や他の神剣使いの前で公開告白するよりマシじゃろ?ついでに他の神も祝いに来るだろうなぁ』

「ぐっ……!?」

 輝夜の脳裏に本部の姉御に盛大に面白おかしく祝われて、これからの人生で語り継がれるネタにされるのは避けたいと思った。

 同じ不老不死になるなら間違いなく忘れることはできないだろう。

 それに本部には神がよく遊びに来る。遊びに来た神によっては高速インターネット通信もびっくりの速さで情報が他の神に伝播する。

 あそこで公開告白なんて、輝夜にとっては放送事故レベルではない。

「あー!!もう!!わかったよ!!!!」

 輝夜は腹を括ったのか大声を上げて恭也に相対した。

『ついでに思い出も語ってやれ。人間は情が強いからの。呼びかけに応じるじゃろう。あやつは小童のためならどこでもついてくるじゃろうしな』

 紫月姫は呆れたように言った。

 その言葉には羨ましさも含まれているような気がした。

「やるぞ……」


 輝夜は息を吸うと、

「恭也さん、初めて会ったのは俺が名古屋に引っ越してからだよね。その時の印象はただの優男だったよ」

「……」

 輝夜の言葉は落ち着いていて声色が優しかった。

 紫月姫は黙って事態の成り行きを見守っている。もちろんあたりを警戒することを忘れていない。

「俺が神剣を使って女になったときに街中で偶然会ったよな。あの時は紫月姫との関係が少しギクシャクしていた。過去のこともあったから気持ちの整理がつかなかったんだ」

 剣戟は続いている。恭也は黙って神剣を振るっている。

「会ったときに一目で俺だと気が付いたよな。それでいて、俺に対して「一緒に遊ぼう」だなんて言われて思いっ切り振り回したっけ。それまでは年頃の子供らしく遊ぶこともなかったからな」

 輝夜はその時のことを思い出した。自分でも暗い顔をして街を彷徨っていたと思う。恭也はただシンプルに一緒に遊ぼうと声をかけたのだ。

 それまでは遊ぶこともなく神剣のことを考えていた。恭也の言葉によって考えすぎることをやめたのだ。

「遊び終わった後は、待っていてと言ってどこかに行ったな。戻ってきたら手に紫の桜の花のヘアピンをくれたよな。あれ、今でも大切に使っているんだ」

 そう言って、輝夜は髪に手を当てた。そこには年月が経ってメッキが剥げているヘアピンだった。

「前世も含めて、家族以外の人から物を貰うなんてなかったからな。嬉しかったんだ」

 その言葉に恭也の攻撃の手が少し鈍った。

「それからは、性別が女に変わるたびに恭也さんを呼び出しては遊んだなぁ。公園で体動かして、剣術の稽古もやったな。ただ、俺の服を買うのに着せ替え人形にされたのは恥ずかしかったぞ。フリフリの服は似合わん」

 やっていることは男子の遊びであるが、恭也は輝夜を女子として扱っていた。それが一番はっきりしたのが、輝夜の女性服を買うときであった。

 選んだのはスカートなどの女の子を強調するので、ボーイッシュ系ではなかったのだ。文句を言いつつも素直に着るのは本人も悪くはないと思っていたのだろう。

「出会ってから、四年かな。俺が中学一年の時に過去に神剣暴走で片腕を切ったやつとその父親が復讐しに来たんだ。仲間の協力もあって最後は断罪したが、心は死にかけた」

 過去に紫月姫が暴走して片腕を切り落としたいじめの加害者。それでも、因果応報とはいえ、自分の意識がないときにやったことなので結果を受け入れることができなかった。

 意識があって、彼らのその後を考えて断罪する覚悟があったなら復讐しに来ても平然と対応しただろう。

「家に帰った後、部屋に閉じこもっていたら恭也さんが部屋に強引に入ってきたね。そうしたら、無言で抱きしめて頭を撫でてくれた。俺、安心して大泣きしたっけ……」

 最後は命を奪うことになった。彼らの怨嗟の声が頭から離れなかった。

 帰ってきて部屋に閉じこもったのは、誰とも接触したくなかったからだ。何もかもが嫌になっていたのだ。

 そこへ恭也が部屋に強引に入ってきたのだ。

 気が付いたら恭也の胸の中で泣いていた。

「それからだったかな。恭也さんを好きだと自覚したのは」

 そこで輝夜は言葉を区切った。

 息を吸って、


「恭也さん、俺はあなたが好きだ。あなたの言葉に救われて、女の子として自覚したんだ。俺は神剣使いを罰する神剣使いだ。今まではっきり言わなかったのは、自分が幸せになっていいのかと、思ったからだ」


 輝夜は役割として人を断罪することがある。

その人の人生を犠牲にして成り立っている。

 悪人も人である。輝夜も人を断罪するが、人である。ゆえに精神が擦り切れていく。その精神が壊れなかったのは恭也がいたからだ。

「だが、その似非神剣で暴走したときに俺は恭也さんを断罪しなければならないのかと思ったら、つらかった。殺したくなかった。だから、どんなわがままでも今回は恭也さんを助けるために押し通す。共に生きるためにね!」

 まともな神剣使いなら暴走した段階で周りの影響を考えて殺すことを前提に戦うだろう。それを輝夜は恭也を助けるために言葉を投げて意識を戻そうとしている。


「恭也さん、俺と一緒に生きよう!!大好きだから!!!!」


 恭也の攻撃が止まった。

 輝夜は不審に思ったが、警戒して構えた。


「……。ああ、俺も輝夜と一緒に生きたい!」


 恭也はそう言って黒い神剣を地面に捨てた。

 急いで輝夜は黒い神剣を遠くに蹴り飛ばすと、恭也を抱きしめた。

「馬鹿野郎、戻ってくるのが遅いんだよ。恥ずかしかったぞ」

「いや、輝夜の言葉は聞いていた。なんていうか、テレビを見ている感じでな。意思が働かなかった。だから、何とかしようと頑張ってようやく身体の自由を取り戻した」

「よかった……」

「輝夜。告白の返事だが。俺でよければずっと一緒に生きような。死がふたりを分かつまで、な」

「ああ。って結婚式の神父の定番セリフじゃねーか!!」

「これくらいでいいだろ。俺たちは。いろいろ終わったらデートに行こうな」

「ったく。わかったよ。でも、今は黒い神剣を処理するから。恭也さんをこの結界から出す。事情聴取するから外で待ってくれよ」

「わかった。あの神剣について知っていることを全部話すから」


 恭也を結界から外に出すと、輝夜は神剣の力を解放した。

 月夜桜の処刑場のギミックが解放されたのだ。

「やっぱり、神剣自体が独自で動くのか。黒い精霊が神剣を握っているな」

 黒い神剣を握った男性型の精霊が襲い掛かってきたが、輝夜は避けて精霊を切りつけた。

「なるほど。ダメージはあるみたいだな。そろそろ、気温がマイナスになるな。八寒地獄の再現だ。今回は憂さ晴らしに一気に決める」

『お主、告白が恥ずかしかったからといえ、八つ当たりはないじゃろう』

「うっさい!!」

 図星をさされて、輝夜は思いっきり怒鳴った。顔はもちろん赤くなっている。

八寒桜第六桜はちかんざくらだいろくおう青蓮桜花地獄(せいれんおうかじごく)」!!」

 神剣に処刑場の桜と氷雪を纏わせて、敵の目の前で刀を振る。

 桜の花びらや氷雪が敵の体にあたり皮膚がひび割れてめくれ上がり、青い蓮華の花が咲いていく。

 そして、輝夜がもう一回黒い神剣に刀を振るとあまりのマイナス温度と刀の衝撃で折れた。

 精霊は神剣が壊れると同時に消えた。残されたのは根元が折れた柄に桜の花びらと地面に刺さった刀身に咲いた青い蓮華の花であった。


「終わったな」

『そうじゃな。黒い神剣はわらわが持つ。さて、結界の解除をせんとならんな』

「おっと、そうだな」

 輝夜はそう言うと空間を解除した。

 元の道場の景色に戻ると恭也が地面にへたり込んでいた。

「終わったか。輝夜」

「おう。終わったぞ」

「何もない空間からいきなり人が出てくると驚くな」

「あー……。わかる。俺でもびっくりする」

「無事でよかった。黒い神剣は?」

「俺の精霊が持っているよ。紫月姫」

 輝夜が呼びかけると紫月姫が隣に並んだ。

『久しぶりじゃの。小僧』

「お久しぶりです。輝夜のお姉さんだと思ったけど、精霊だったのですね。それも神剣の」

「え?なに、お前ら知り合いだったの?」

 輝夜は二人が初対面ではないのに驚いた。

『なに、小童の邪魔をしようと立ちふさがったりしたからのぅ』

「ええ、輝夜に会いに行ったら必ず邪魔されましたね」

「はぁ!?紫月姫、なにやってんの?」

 輝夜の声がかなり不機嫌をはらんだものになっていく。

「いやー、止められるたびに輝夜の秘蔵写真で手を打っていたな」

『わらわの知らない表情のした輝夜の写真だから、貢物として貰ったのぅ』

「なに、袖の下もらってんだよ!?そして、恭也さんは渡してんだよ!?」

「いやー、ノリで?」

『ノリじゃな』

 二人に真顔で返されたので輝夜は言葉を失った。

 この二人は輝夜のことになると方向性が合致することがある。

 その方向性とは輝夜を愛でることである。

 輝夜は後で写真や画像データを見つけて焼却すると決めたのだった。


「さて、恭也さん。動けそう?」

「無理だな。疲労がすごい。神剣に操られていたときにリミッター外して動いていたみたいだ」

 恭也を見ると会話をしている時以外は息を大きく吸っているのと汗をかいている。

「恭也さん。猫か?俵か?姫か?どれがいい?」

 輝夜の問いかけに一瞬考えた結果、恭也は欲望を答えた。

「姫で!」

「わかった」

 そう言って、輝夜は恭也を「お姫様抱っこ」した。

「って、待て!これは違うだろ!」

 猫は猫掴み。俵は俵担ぎ。姫はお姫様抱っこである。輝夜の問いかけは恭也の担ぎ方だったのだ。

「うるさいなぁ。これを選んだんだろう。文句言うな」

「いや、姫なら輝夜がお姫様の恰好をしてくれると思ったんだよ!」

「誰がするか!?ドレス着るなんてできるか!!」

「いや、輝夜なら似合う」

 抱えられた状態で恭也はキリっとした顔で輝夜に言った。

 顔はかっこいいのだが、言っていることは欲望丸出しである。

「まともな顔でおかしいこと言っているぞ!?」

「輝夜を着飾らせるなら、用意する」

「ダメだこいつ……」

『本部の神来社に教えておこうかの』

「やめろぉ!?姉御だと便乗して大量のドレスが用意される!!」

 一緒になって神来社が輝夜を着せ替え人形にするのが予想出来て、戦慄した。

「ああもう!恭也さんの両親が待っているから行くぞ」

「怒られるだろうな」

 恭也は声を落として、つらそうに言った。

 結果として黒い神剣を手にして暴走したのだから。

「素直に怒られとけ。フォローはする」

「ありがと。その場で両親に輝夜と結婚前提で付き合うと言うよ」

「俺も改めて挨拶する。もしかしたら姉御が立ち会うかもしれないけど」

「姉御?」

「神剣機関の長、名前は神来社唯華(からいとゆいか)。まぁ、俺の直属の上司だ」

「なるほどね。立会人がいるならいいね。後に引くつもりもないし」

「言っとくが俺は恭也さんを逃がさんから」

「俺もだよ」

 二人は笑いあうと、道場を出た。


 外には待っていた恭也の両親が待っていた。

「無事だったか!」

「よかった!」

 二人はほっとした顔をして、輝夜達に駆け寄った。

「父さん、母さん、心配かけてすいません」

「生きて帰ってきたならいいんだ。ところで、なんでお姫様抱っこされているんだ?」

 須佐浩三の言葉に輝夜は慌てて恭也を地面におろした。

「恭也さんは、黒い神剣に操られていたので消耗が激しくて動けなかったのです」

「そうか。逆の立場だろうと思ったんだがなぁ……」

「あなた、いいじゃないですか。恭也、ごめんなさいね。跡取りとして育てたけど、自由に育てなくて」

 須佐彩奈はそう言って、恭也を気遣った。

「いや、いいんだ。いつしか、跡取りという言葉に囚われていたから。輝夜に救われて、跡取り以外の道を見つけたんだ」

「おじさん、おばさん。落ち着いたら話があるので、待っててください。事件の後始末があるので」

「わかった。後始末とは?」

「黒い神剣の出どころの調査と報告書の作成。恭也さんの健康チェックと事情聴取。と言っても不利になることはないです。俺が立ち会いますから」

「わかりました。息子をお願いします」

 浩三はそう言って輝夜に頭を下げた。

 須佐夫妻は後始末のためにこの場を後にした。


 しばらくすると突然、輝夜のスマホが鳴った。

「姉御からだ」

 スピーカー通話を押すと、


『全神剣使いに通達する。山鳴区を中心に大型魔獣を含めてスタンピードが発生した。制限は取っ払う、全力で狩ってやりな!!祭りの始まりだ!!』


 通話が切れると輝夜と紫月姫はため息を吐いた。

「相変わらず、はっちゃけてやがるな。この指示だと静流が暴走すると思うがなぁ」

『だろうな。あやつが神剣を使わないのはよほどのことがない限り抜くなと厳命されているからの』

 二人の会話に疑問を持った恭也が割って入った。

「すまんが、何が起こっているんだ?」

「簡単に言えば、スタンピードが起こった」

「いや、それは分かっている。なぜそれで神剣使いが出動することになるんだ?」

「ああ、そういうことか。全員出動はないよ。担当地区には絶対に一人は残るし。参加できない人もいる」

「制限解除ってのは?」

「全力でやれってことだろうな。普段なら討滅士が倒すから神剣使いが参加することはない。討滅士は護衛や魔獣を倒すことによって生計を立てているからな。月給と討滅による出来高だから、神剣使いがバッティングすることはない。それが初めから神剣使いが全力参加だと……」

 討滅士の仕事を奪うことになるから神剣使いは魔獣討伐にはあまり参加しない。参加しても大型魔獣が複数出現したなど、討滅士の手が足りてない時に補助として入るだけである。

 それが、初めから参加となると事態は思いっきり深刻となる。

「どうしたんだ?」

「イレギュラー。魔獣がかなり強いか、数が多すぎることが予想される。今回は大型魔獣も出現しているから、討滅士は全員に出動がかけられるだろな」

 スタンピードと言われていたので、それが本当だとしても討滅士で手が足りる。

 神剣使いが参加となると普段のスタンピード以上の魔獣の数が予想される。だから、輝夜がイレギュラーという表現をしたのだ。

「なるほど……」

「ま、主要施設は守りが固められるだろうし。山鳴区となると市境になるから、近隣の市の所属の討滅士が動くだろうね」

「あれ?そういえば、輝夜の家は……」

 恭也は輝夜の家が山鳴区にあるのを思い出した。

「ああ、大丈夫だ。神剣使いが守りを固めているからな。何しろ、妹と魔獣討伐専門の灯と戦闘力と狂気なら一番の静流がいるからな」

「いや、でも、水希は」

「神剣を持ったのなら早めに使うことに慣れたほうがいい。実戦は突然にやってくるんだ。やらなきゃ、やられる。自分の命を守るために戦うのは基本だろ?」

 恭也の顔を見て何当たり前のことを言わせているのだと告げた。

「確かにそうだが」

「人間相手にするよりは遥かにマシだ。なぁ、恭也さん。水希を箱入りにして何もできなくするつもりか?」

「いや、そんなつもりはないのだが」

「俺にはそう見えたぞ。大事にしすぎたんだよ。知っているべきことを知らないのはダメだろう。神剣機関のことを知らなかったそうだぞ」

「ウソだろ……」

 神剣機関を知らないと言われて驚愕の顔をした恭也は、思わず呟いた。

「マジだ。静流のメールに書いてあった。神剣使い以前にこの世界で生きていくには不安を覚えるなんて書いてあったぞ」

 電話が終わった後に輝夜はメールをさっと流し読みしていた。その中に黒瀬静流からのメールも含まれていたのだ。

 その内容は水希のことが簡潔に書かれていて、その一文に世間知らずと書かれていたので目に留まったのだ。

「そうか……。両親に伝えとく」

「俺の場合は裏を知りすぎて汚れているが、水希は真っ白だ。できることなら、裏側を見せたくはないけどなぁ……」

 輝夜にとって水希は清楚なんてものではない、浄化されるほどの清楚なのだ。

 神剣機関の同僚はどこか擦れいたり、行き過ぎたところがある。それに染まってしまうのではないかと危惧していた。


「俺は、意図的に水希に教えていなかったことがある。責任を取らないといけないな」

「自惚れんな。責任なんざ取れやしねぇよ」

 輝夜の言葉は鋭く冷たかった。

「え……」

 恭也は絶句し、輝夜の顔を見た。その表情は厳しいものだった。

「「責任を取る」なんて簡単に言えるが、実際は無理だ。他人の人生を肩代わりなんて出来ないからな。水希が自分で知っていくしかないんだよ。俺らはその手助けしかできん」

「そうか、そうだよな」

 輝夜の言葉に納得した恭也は頷いた。

「俺は前世の記憶があるからな。まだ、水希が大人じゃなくてよかった。大人で過ちを犯したら行き着くところまでいってしまう。簡単に考えが変わらないからな」

「輝夜の前世の歳は?」

 恭也は輝夜の前世が気になったが、まずは無難に年齢から尋ねた。

 ほかの事は後から尋ねればいいと思ったのだった。

「三十三だ。ただ、考えが変わったのは恭也さんがいたからだ。だから、感謝している。まぁ、他の神剣使いの連中に触れているのもあるけどな」

 輝夜の脳裏に個性が強い面々が思い浮かんだ。それぞれ過去の記憶を持って、苦しみ、悩み、それでも前に進んでいる。

 輝夜が過去に折り合いをつけて受け入れられたのは恭也の存在があったからこそである。

「水希は変わるだろうか?」

「確実に変わる。いい方向か悪い方向かは本人次第だ。できるだけ支えるつもりだ。というか、修也さんが腹を括ればいいんだけどな」

「ああ、確かに奥手すぎたからなぁ」

 輝夜にとっての恭也であるように、水希にとっての修也であってほしい。そう二人は思った。

「ま、何とかなるだろう。俺はここの守護で動けないしね」

「俺は家に行く。輝夜も行くか?」

「行くに決まっているだろ。恭也さんを一人にはできない」

 二人が須佐家に行こうとしたとき、輝夜のスマホから着信音がした。

「また姉御か」

 スピーカー通話にすると、

『追加情報だ。山鳴区に魔獣を召喚する刀を持った血の付いた馬の被り物をした男が神剣使いと交戦中。位置情報は送った。付近の神剣使いは急行してくれ。敵の生死は問わん!!』

「「…………」」

 二人は通話が切れても無言のままだった。

「おいおい、スタンピードの原因はこいつじゃないよな」

 輝夜はそう言うと山鳴区の方向に目を向けた。

「輝夜」

「なんだ?」

 恭也の真剣な表情に何かを察した輝夜は表情を硬くした。

「俺に黒い神剣を渡したのは馬の被り物をした男だ」

「っ!?」

 すぐに事態が深刻になったのを感じた輝夜はしまったという顔になった。

「恭也さんは陽動に使われたな。俺を動けなくして遠いところでスタンピードさせて破壊活動ってところか。姉御も本部から動けんな。問題は馬面男が黒い神剣を持っているか否かだ」

 犯人が一人かどうかも問題だが、様々な可能性が考えられる。

 ただ輝夜にもわからないのが何をやりたいかということだ。

「目的はなんだ?黒い神剣の実験か?いや、それなら達成しているか。複数犯?それなら他の施設に被害が出ている。他にも考えられるが、考慮する必要はない。残った可能性は愉快犯か」

「輝夜、固定観念である神剣使いが無条件で信用されるは?」

「根底から揺るがされるが、それはない。神が許さないからな。考えられるなら悪神。日本だと二柱か。あいつらにはあちらの平行世界からの転生させるのも神剣の精霊を作るのも権限がない」

「そんな神がいるのか?」

「いる。前世でも今世でも激論になっている神だ。神格が全く分からない。善と悪のどちらかの極端な説があるんだ。ただ、姉御曰くウザいらしい」

「え?その姉御と言われている人は会ったことあると?」

「敵対している。その時は富士山の火口に消えたらしいが、確たる証拠がない。関わっているなら。大変なことになる」

 輝夜はもしもの可能性も考えたが、打てる手は一つしかなかった。

「それより、輝夜。行かなくていいのか?」

「それなんだが……、もう交戦しているなら間に合わん。事態は深刻だが仲間を信じるしかない。だが、手は打っておく」

 輝夜はすぐにスマホで連絡を始めた。

 通話相手に連絡すると、恭也とともに須佐家で被害状況の把握を始めた。




「警報が鳴ったと思ったら、魔獣がわんさか出てきたわね」

 そう言って私の傍にいる静流さんは神剣使いの羽織を着て魔法で私を守っています。

「まだ、雑魚だからいいです。問題は私が神剣を使っていいかどうかです」

「いいんじゃない。間違いなくスタンピードだし。私は使うのを制限されているからサポートに徹する。水希さんは、神剣に慣れなさい」

「はい」

 私は静流さんに言われて鞘から神剣を抜刀しました。

 神剣をよく見ると虹色に光っているのが分かります。

「修也さんは、水希さんを守りなさい。っと、近づいてきたわね。はぁ!」

 修也さんに指示を出すと近づいてきた魔獣に掌底を叩き込みました。

 魔力を纏っていたのか、相手が吹っ飛ぶと同時に消滅して魔石だけ残りました。

 この魔石は、あらゆるエネルギーになります。魔石が倒した人の記録をしているので回収専門の討滅士が拾い分析して、成果を記録するのです。

「わかりました。それにしても静流さんは格闘戦ができるのですね」

「私は神剣を使えないことが多いから、仕方なく覚えたのよ」

「静流先輩、索敵はどうです?」

 灯が会話に割り込んできた。

「魔獣多数、範囲は山鳴区全域。スタンピード確定ね。大型魔獣の反応もある。本部には連絡したわ。灯、神剣を抜きなさい」

 静流の言葉に灯はすぐに反応しました。


「悲しみを燃やせ「緋織姫(ひおりひめ)」!!」


 灯さんの手には刀身が百五十センチはあるかというくらい長い刀が握られていた。

 その刀身は緋色で火を纏いました。

 後に知ったのですが、色にも名前があって「緋褪色(ひざめいろ)」という日本伝統色で鈍い調子の赤系統の色で年月とともに退色した赤を表しますが、緋織姫の場合は悲しみとともに緋色が褪せたのを表しているそうです。

「灯さんの右目から涙が……」

「あの子が神剣を使うとそうなるのよ。戦闘に支障はないわよ」

 目の前で魔獣が炎に焼かれて倒れていきます。

「とりあえず。近くの河川敷に移動するわよ。あそこなら派手に暴れていいわ。大型魔獣もいるからついでに倒しましょう」

 静流さんの言葉に皆は了解の返事をすると移動を始めました。

 私も移動しながら神剣を振るって魔獣を倒しましたが、慣れないので修也さんに手伝ってもらいながらなので時間がかかりました。

「さて、たどり着いたね」

 河川敷には討滅士が集まっていましたが、どうやら様子がおかしいです。

 静流さんが、討滅士のリーダーの人達に話を聞きに行ってます。

「どうしたんでしょう?」

「戦闘音がしているし、大型魔獣がいるのは分かるけど、けが人が多いような気がするね」

「灯さん、あの黒い炎はなんだ?」

 修也さんは大型魔獣の奥に見える黒い炎が上がっている場所を指した。

 そこへ、静流さんが戻ってきた。

「灯、本部に報告したけどあの黒い炎のところに神剣使いがいるわ」

「えっ!?」

 灯さんは驚きの声を上げましたが、私と修也さんも言葉を失いました。

「それと、魔獣を召喚したみたい」

「なっ!?」

 魔獣を召喚するという言葉にさらに衝撃を受けました。

「神剣機関は全く無関係ということを話して、

私達で対処するということを伝えたから、大型魔獣と敵神剣使いを切り離すわよ」

 静流さんが、そう言うと着信音がしました。

「私ね。姉御からか」

 スピーカー通知にすると、

『静流、灯、それと新しい神剣使いの子もいるわね。他の神剣使いには山鳴区に急行するように通達した。で、馬面男が神剣を振り回しているんだって?』

 通話から聞こえてきたのは、はっきりとした快活な女性の声だった。

「姉御、黒い神剣となると輝夜が相手しているのが黒い神剣を持っている気がします」

『なるほど。となると模造神剣となるな。どちらにしても魔獣を召喚しているとなると、無力化しないと事態は好転しない。静流、灯。全力を出していい。生死は問わん』

「いいのですか?」

 静流さんの声は固かった。

『神剣使いの名誉を貶めてくれたんだ。相応の代償は払ってもらう』

 ぞっとするほどの低い声だった。

「わかりました」

『それと、新しく神剣使いになった嬢ちゃん。少し話をしようか』

「はじめまして、須佐水希と申します」

『神来社唯華だ。こちらこそ、よろしくな。神剣使いのデビュー戦としては過去最高の死地になるが。覚悟はあるか?』

 最後の言葉は重たいものだった。

「それは、正直に言ってありません」

『ぶっちゃけたな。今までの子とは違うね。転生した神剣使いになる子は怨念染みた想いがあるんだよね。水希ちゃんにはそれが感じられない。例えるなら真っ白なキャンパスだ。何物にも染まってない。でも気を付けないと染まりやすい。うちらがいい方向に導くしかないか。おい!静流!灯!死なせんじゃないよ!!』

 スマホから怒鳴り声が響いたのですが、心配してくださっているのは感じました。

「「了解!!」」

 静流さんは通話を切ると私達に言った。

「よし、敵と交戦するよ」

 私たちは黒い炎に向かって移動を始めた。




 黒い炎を上げているのは馬の被り物をした男の刀でした。

「ヒャーハッハッハッ!!うぉぉぉれはいくぅぅぅ!!!!」

 そう言って男が次々と魔獣を召喚していました。

「狂人だねぇ……」

「静流先輩、戦うにしても雑魚魔獣が邪魔ですね」

「もっと問題は、水希さんが相手の狂気に飲まれてる」

「仕方ないですよ。修羅場を踏むしかないのですから」

 二人の会話を聞いていたのですが、それよりも馬面の男の狂気で周囲が歪んで見えます。

 男がこちらに気が付いて歩いてきます。

「おやぁ!?神剣使い様じゃないか。俺を殺しに来たのかぁ?」

 声に粘り気を含んだ嫌らしさがあります。

 その男が私に顔を向けました。

「そこの嬢ちゃん。その神剣は「原虹」だな?可哀そうだなぁ、精霊に騙されていいように使われるのはぁ!!」

「水希さん、答える必要はないわ」

 さりげなく、修也さんが私の前に立ってくれました。隣で静流さんが、男と会話を試みようとしています。

「おい!馬面男!名前はなんていう!?」

 灯さんは神剣を構えながら尋ねました。

「俺かぁ?俺は黄泉の穢れから産まれた神、「大禍津日神」だ。よろしくぅ!!」

「はてしなくうぜぇ……」

 灯さんが舌打ちしながらぞんざいな口調になりました。

「灯、元ヤンの素が出ているわよ。気持ちはわかるけど」

 静流さんも嫌そうな顔をしています。

「すみません。ですが、神が相手ですか……」

「今までの事件にこいつが糸を引いていたなら、倒せはしないけど、神界に叩き返すことはできるはず」

「ヒャハッァ!叩き帰す?面白れぇ、やってみやがれぇ!?」

「その前に、その黒い神剣。あなたが作ったの?」

「ああ、そうだ。俺が作って一人に渡した。どうやらまだ戦っているみたいだなぁ。予定では周囲を巻き込んで自爆してもらうつもりだったんだがなぁハッハッハァ!!」

「こいつ、愉快犯だね」

 灯さんが呆れたように言いました。

「おう、愉快だ。俺は人生における不合理さをもたらすからなぁ。誠実に生きる人間が幸福になる?んなわけねぇだろう!!そんな奴に不幸をプレゼントするのが俺だぁ!!」

「とことん、クズね。子供を相手している気分になるわ。いや、下手な子供より力を持っているから質が悪い」

「さっきから、俺を子供と馬鹿にしてんのかぁ?俺の何が悪いってんだぁ?」

「頭が悪い」

 男の質問に静流さんが、ドスの効いた声で答えた。

「んなぁ!?」

「いや、そうでしょ。ガキみたいに遊び感覚で騒動を起こして。存在自体がゴミなのよ」

「ゴミだとぉ!」

「まぁ、いいわ。私も暴れたかったのよ。馬面バカ男、付き合ってもらうわよ。灯!魔獣の排除を!水希さんは自分の身を守って!!」

「了解!」

「はい!」

 修也さんは私の隣で持ってきた刀を構えています。

「ヒャハ、いいぜぇ。遊んでやるよ。抜けよ、神剣をよぉ!!」

 男の煽りに静流さんは男と対峙すると、

「さぁ、壊れるまで遊びましょう!!月白げっぱく!!吾亦香われもこう!!」

 静流さんの左手に白い色と右手に赤黒い色の柳葉刀みたいな神剣が握られました。

「水希さん、静流先輩の神剣はなにを起こすかわかりません。できるだけ身を守ってください」

「わかりました」

 灯さんの言葉に頷くと、

「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 男が吹っ飛んで行った。

 先ほどまで男が立っていた場所には着物を着た老婆が立っていて、こちらに向かってサムズアップするとそこから吹っ飛んで行った男に向かって人間ではありえない速度で走っていった。

「あれは、百キロババアですね。体当たりされたんでしょう」

「静流さんの神剣は怪異を具現化するのですか?」

「そうです。使いやすいように独自解釈した怪異もありますから、何が起こるかわかりません。ついでに神剣は飾りではありません。鬼火を纏って戦います。それも高笑いしながら」

「怖いですね……」

「ですから、静流先輩自体が怪異になるので誰も近寄らないのです」

 灯さんは視線を静流さんに向けてため息を吐きました。

「さて、無限湧きしている魔獣を始末しますよ。よく見れば地面に陣が書いてあるので形を崩します」

「わかりました」

「ガーディアンがいるので、それが手強いと思いますが、初陣には丁度いいでしょう。では、ご武運を」

 そう言って、二つある陣の片方に向かっていきました。

「俺達も行こう」

 私と修也さんは残った陣に向かいました。

『さて、今まで黙っていたが。指南しよう』

「原虹さん、お願いします」

『原虹でいい。神剣の力についてだが、他の神剣と違って多岐にわたる。慣れないうちは属性を一つずつ使うといい。地、水、火、風が分かりやすい。慣れてくると組み合わせるといい。では、火の「虹焔舞踏こうえんぶとう壱の型「焔狼」を使ってみるがいい」

 イメージがすぐに頭に流れてきた。

 私はすぐに神剣に魔力を流して焔を纏わせる。

 その焔は虹色で神剣の先が狼の形になっています。

 すぐにガーディアンの熊型魔獣の攻撃を避けながら叩き込みました。

「グォォォォ!!!」

『よし、一撃で倒したな。余波で地面の陣の形が崩れたな。これでここは大丈夫だろう』

「やった!」

 私は喜びのあまりに声を上げたのですが、


「ところがどっこい!俺がお前を倒すんだよ!」


 驚いて振り向くと馬面男が全身血だらけで立っていました。

「!?」

『ほう、流石。禍神。どうやっても人の営みを妨害するか』

「おうおう!誰かと思えば、精霊神の犬じゃねえか!?」

『犬で結構。精霊とは自然そのもの。俺はその化身だ。お前は悪神そのもの。なぜお前が人の世にいる?』

「くっかかっ!!必要悪だよ。俺は人に不幸を与え、それを肴に楽しんでんだよ。人が右往左往するのは面白れぇ、自らの欲に溺れ、周りを巻き込んで自爆する様はまさに滑稽!!酒がうめぇ!!!!」

『わかってはいたが、外道だな。だから、黒い神剣を水希の兄に渡したのか?』

「ほう!?あの男はそこの女の兄だったか!!騒ぎを起こしてくれればよかったが、面白いことになったなぁ!!」

 今まで黙っていた修也さんが口を開きました。

「黙って聞いていれば好き勝手言いやがって、恭也はお前の面白半分の思い付きで、巻き込まれたのか!?」

「実際に面白かったぜ。あの男は人生の重圧で陰気な空気を纏っていたからな。ちょっと突いてやったらあっさりと黒い神剣を受け取ったぜ。まぁ、完全に狂気に落とすことはなぜかできなかったがな!!」

 狂気に落とすことができなかった。

 それは輝夜君の存在があったからだと思う。

 輝夜君がいなかったら私は兄さんを失っていたと思うと目の前の馬面男が許せなかった。

「さて、さっきの高笑い女を足止め効果が切れるのも時間の問題だ。神剣使いの戦力を削ぐなら、ここでこの女を殺すのが一番だな」

 そう言って馬面男がこちらに迫ってきた。

「やらせるかっ!!」

 修也さんが前に出てかばってくれました。「へっ!!無駄死にだなぁ!!」

 修也さんを殴り飛ばしてこちらに迫ろうとしました。

「おい……、待てよ……」

 修也さんが立ち上がり、馬面男を睨みつけました。

「立ち上がるか、もう一回殴ってやる」

 今度はボディーブローが入り体がくの字に曲がります。

「かはっ!」

「修也さん!!」

「はっはっはっ!!弱い!」

 私の叫びと男の大声が重なります。

 修也さんは立ち上がりましたが、また殴られて地面に倒されるのを繰り返しました。

「しつけぇな。弱いくせに何を必死になる?」

「あきらめない……、俺は……、何度でも立ち上がる。水希を守るためなら……、何度でも!!」

 修也さんはそう言って立ち上がって刀を構えます。

「こいつ……」

 あまりの修也さんの気迫に馬面男が後ずさります。

 私は守られるだけではいけないと思いました。

 修也さんをこれ以上傷つけさせない、私のために何度も殴られて立ち上がって、ボロボロになって。

 私は何をしている。見ているだけなのか?いや、それはダメだ。

 修也さんには生きてほしい。死んでほしくない。私のためにも。

 ん?私のためにも?

 そうか……、私、修也さんが好きなんだ。

 だったら、ここで立ち止まっていられない!!

「修也さん!!」

 私は二人の間に立って馬面男と対峙しました。

「水希……」

「修也さん、こいつを倒します。下がっていてください」

 私は神剣を構えると、馬面男に向かって切りかかりました。

「天狼!!」

 私はとっさに前世の星座のひとつを思い浮かべました。

 虹色の焔が狼の形をして馬面男を飲み込んだ。

「うぉぉぉぉ!こいつは光の属性もあるのか!?焼き焦がされる!?」

 狼が天に向かって昇って行くと、残ったのは黒焦げの男が倒れていた。

「倒した……?」

「くっくっくっ、あーはっはっはっ!!!!死ぬわけねぇだろ!!」

 ゆっくり起き上がったのですが、それでも馬面が変わってない黒焦げの顔で手を広げて高笑いを始めました。

「もう一回」

『待て、水希。これ以上はお前の体が持たん。まだ体に神剣が馴染んでいない。これ以上戦うと倒れるぞ』

「でも!!ここで負けるわけには、死ぬわけにはいかない!!」

「いい覚悟だぁ、俺を殺してみやがれぇ……」

 馬面男はこちらに向かって挑発してきました。

 負けるわけにはいかない。

 呼吸が乱れる、心拍数が上がる、疲労感もある。

 そこへ、


「おい、ちょっといいか?」


 馬面男の後ろに女性がいつの間にか立っていた。

「あん?なんだぁ?」

 馬面男が振り向こうとしたら、

「せーのっ!!」

 地面に足がめり込むほどの大ぶりな拳の振り下ろしが馬面男にあたると、轟音と共に一瞬で消滅しました。

「っ……」

 私はびっくりして言葉が出ませんでした。

「君が須佐水希さんだね?」

「は、はい」

「警戒しなくていいよ。私は神来社唯華。神剣機関のトップだな」

「あなたが……」

「あいつらからどういう話を聞いているか知らんが、「姉御」と言われているな」

「助けてくれてありがとうございます」

「気にすんな。輝夜の奴から急いで加勢しろと言われてな。飛んできた。トップを顎で使うとはあいつも図太くなったもんだ」

 快活な顔で唯華さんは笑い、私と修也さんを見ました。

「間に合ってよかったよ。魔獣の発生源を潰したからスタンピードも収まりそうだし、新人も無事だったし。よかった、よかった」

 私は安心したのか、意識が遠のいてきました。

「お、疲労で意識が途切れそうなのか。少年の方も気絶しているな。病院に連れていくか。コノハ、イワナガ。運ぶの手伝ってくれ」

『仕方ないわね』

『わかったわ』

 その言葉を最後に意識が途切れました。




 あれから、私の日常は一変した。

 病院で目を覚ました私は戦闘の結果を輝夜君から教えてもらった。

 輝夜くんの服装は黒いポロシャツに黒のミニスカートで髪は縛らずに自然にしている。女性になっても身長百六十と変わらず、かっこいいと可愛いが両立していた。

「戦闘の被害は討滅士に負傷者が出たが、幸い死者はいなかった。灯は陣を崩すのに魔獣の自爆特攻で膠着状態になった。応援の神剣使いと連携して陣を崩したな。静流は途中まで馬面男と戦ったが、召喚した魔獣が準神クラスの強さで膠着、こちらも静流のパートナーの神剣使いの参戦で撃滅した」

「そうですか……、二人が無事でよかったです」

「で、肝心の馬面男「大禍津日神」だが。今回は神来杜の姉御がコノハナサクヤの神剣を手甲にして殴り爆散させたが、二週間くらいで肉体を取り戻して暗躍するだろうと予測が出た」

「完全に消滅させることはできないのでしょか?」

「無理だな。相手は神だ。せいぜい封印が関の山だ。それも、かなり弱らせてから厳重に封印するしかない。今、他の神が封印に向けて動いている。今回は地獄を管理する十王も動くことになっている。間違いなく神剣使いも駆り出されるだろうな」

「そうですか……」

「最後に、心配していると思うが修也さんの容体だ」

「無事ですかっ!?」

「無事だ。相手が嬲るために急所を外していたみたいだから骨や内臓にダメージはなかった。全治は回復魔法込みで一週間だ。精神的なダメージもなくて早く水希に会わせろとうるさい。よかったな。水希。その顔だと好きだと自覚したな」

 輝夜くんの最後の言葉に自分の顔が真っ赤になったのを自覚して病院のシーツに顔を埋めました。

「俺は戸籍の性別変更手続きと学校の性別変更などの手続きを済ませてくるよ。神剣使いとして世間に公表だから俺も日常が変わるなぁ。水希も大変だけど、一緒に頑張ろうな」

 そう言って輝夜くんは病室を出ていきました。

 そのあとに担当医がやってきて帰ってもいいと言われて退院手続きをして自宅に帰りました。




 神剣を継承して戦ってから初めて登校した学校では輝夜君が女性になったことで大騒ぎしたけど、神剣によって性別が変わったと判明すると沈静化した。同時に私が神剣使いだと公表されると驚きの声が上がったけど、受け入れられました。

 心配した神剣使いだからと距離をとられることはありませんでした。




 学校の帰りに校門で兄さんと修也さんが待っていました。

 相変わらずモテていますが、今は少し腹が立ちます。

 私達四人は揃って同じ日に学校に復帰だったので、帰りはみんなでカフェに寄ろうとグループチャットで話しました。

 隣を見ると輝夜くんがかなり怖い顔で立っていました。

 その様子に気が付いたのか、二人がこちらに近づいて来ました。

「輝夜、一緒に帰ろうか。お姫様抱っこで」

 いい笑顔で兄さんが、おかしなことを言っている。

「ほう、お姫様抱っこか。また恭也さんをお姫様抱っこしてほしい?」

「逆だろう。今年は輝夜に全力で愛をささやくと決めているんだ」

 兄さんに言われた輝夜くんは顔を真っ赤にすると、兄さんの近くで、

「愛をささやくのは、今年だけ?」

「一生涯で……」

 逆に兄さんが真っ赤な顔になってしまいました。

 この会話で大半の女子生徒が顔を真っ赤にして撃沈しました。

「水希。改めてだけど、俺と結婚前提で付き合ってほしい。あの時、情けない姿を見せたけど、必ず強くなる」

 修也さんが真剣な顔をして私に告げた言葉は、あの戦闘の時に私も思ったことでした。

 私は顔を真っ赤にすると、

「よ、よろしくお願いします……」

 私の返答に修也さんは私を抱きしめました。

 この日二組のカップルが校門前で誕生したと話題になりました。


 私は病気で亡くなって、神様に転生してもらったら、神剣の精霊に気に入られて、恋人までできました。

 これから、神剣を継承したことで大変なことがあると思うけど……、恐れず、前を見て、友人、恋人と共に歩いていこうと思います。


「なぁ、水希。今、幸せか?」

「うん。修也さん、これからも一緒にいようね!」





 最後までお読みいただきありがとうございます。

 

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