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ただ君だけを、守りたいと願う  作者: さぶろう
街外れの一軒家編
3/25

プロローグ そして騎士は魔王となった 後編

「その日ヴォルカスは魔に落ちました」


どうして。

イーラの心は次に語られた物語の言葉に彩を変える。


「それからヴォルカスはあちこちで苦しむ人々を魔の力で救い、あっという間に魔族の仲間をこしらえました」


「すごい!」


イーラの小さな体が布団の中で嬉しそうに身じろぎした。

ランプの灯しがちらりと姿を変える。


「きっとすごい強い騎士様だったんだろうねえ」

「かっこいいね」


エリスへ向かうイーラの眼差しははきらきらに輝き、太陽のそれと化す。

エリスは興奮冷めやらぬイーラの頭を数回撫でて物語の続きを、夜の安息へと向けて語りだす。


「強欲なギルディはヴォルカスにこう持ちかけました」


ーイルミアの信者を魔族に変えよ。

ーさすれば我が貴様らの繁栄はんえいを約束してやろう。


過去の約束。

その行く末は今の歴史が知っている。

従わぬは多勢たぜい無勢ぶぜい

望まない約束、いや脅迫きょうはくともとれるそれを、飲むしかなかった。


「ヴォルカスは仕方なく誘いに乗りイルミアの信者を次々と魔に落としていきました」


望まなかった。

彼は望まなかったのだ。


「そして、多くの者が魔に落ちた頃、ギルディは自分の信者たちにこう言い放ったのです」


ー信者たちよ、イルミアとヴォルカスをめっし、我らが時代を作るのだ!。

ー奪え!己と家族と、その末代まつだいのために。


イーラの瞳が曇る。いつも愛らしく微笑む唇が硬く結ばれる。

物語はそれでも無慈悲に続いてく。


ー愛や慈悲で飯は食えぬ!誰が貴様の明日を決めるのだ。

ーそうだ、紛れもない、貴様自身だ。

ー数多くのものが魔に落ちた。なんと嘆かわしい。

ー彼らはいずれ我々、いや、貴様の血族に刃を向けるであろう。

ー愛はいずれ憎しみにかわる。

ー止めねばならぬ。我らが隣人共りんじんどもが魔に落ち切る前に。


「ギルディの信者たちは皆、手に武器をとり、イルミアの信者とヴォルカスの仲間たちを殺し回りました。多くの仲間を失ったヴォルカスはいきどおります」


許さぬ、ギルディ。私の愛する仲間たちを…。


物語の中の騎士は憤怒ふんどした。それは正に一騎当千いっきとうせん

一人で何千、何万もの敵の兵士を蹴散けちらし。

怒りに任せ、血に濡れ、恐怖にまみれ。

どれほどの人を斬ってきたのか。


「そしてある時、戦いの最中ふと気づいたのです」


私が斬り捨てた者たちは、誰なのだろうか。

誰と共に暮らし、誰のために戦っているのか。


物語の騎士とイーラは考えた。


愛とは。

彼らにとっても愛とは何なのか。

憎しみとは何なのか。


イーラは何もかもわからなくなりそうだった。

すぐにでもその小さな体を物語の中に投じたくなるほどに。


そして、物語の中の騎士は神に問うた。


イルミア様、私には愛がわからなくなりました。

憎しみもわからなくなりました。イルミア様、愛とはなんなのでしょうか。


はたして。

ついに神は答えた。

ただ静かに。


ー私にもわかりません。ただ其方そなたが愛を望むのであれば私は、私の愛を、其方そなたに授けましょう。


「イルミアの加護を受けたヴォルカスは敵を殺すでもなく、それぞれの国の間を真っ二つに割りました。それが今に残る魔海溝まかいこうとなったのです」


エリスは、小さくため息をついた。

隣では物語ではなく、夢の世界と現とを彷徨さまようイーラの姿があった。


「こんな本でも寝れるのね。あなたのママにそっくりね」


本当に。


「それで…ヴォルカスは…どうなっ…たの??」


今は現。


「ヴォルカスは、世界に溢れる争いの気を根こそぎ吸い取って、憎しみと破壊の神になりました。その日、世界に魔王が誕生したのでした」


物語は夢。


「王様になったのね…ヴォルカス…よかった…ね」


イーラは夢の天秤てんびんに重りを置く。

小さな寝息が広がっていく。夢の世界でも、イーラはその好奇の瞳を輝かせるのだろうか。

きっとそうなのだろう。


「おやすみなさい。」


エリスは微笑んだあと、すっと立ち上がり、

コーヒーをれに少女の部屋のドアノブに手をかけた。

読みやすさ改善のため、プロローグを前と後に分けてみました。

1章あたり2000~3000くらいの文字数でさくっと読めて物語も進む、

を心がけてみます。

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