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第1章第6話・粘り憑く『東京襲撃事件・2』


 愛依は先程まで防衛戦に臨んでいたのだから、既に蒼天騎鎧を着ている。


 しかし、未だに愛依への『出撃依頼』は来ていない。


 先に動いたのは円華の方だった。


「私の戦車は工場のどの区画だ!」


「第13区画ですが、行く必要はありませんよ」


 そう愛依が言うと、工場の内部を区分けする大扉の一部が開いた。


 円華の重魔力戦車『粘-二式重魔力戦車』が第13、第8、第3区画を通り抜けて円華の前に止まった。


 中から作業員が1人出てくると、円華は作業員に敬礼した。作業員も思わず敬礼した。


「2輌ある点検比較用兼部品交換用の1輌です! こちらをお使いください!」


「感謝する。工場にある『粘-二式重魔力戦車』は、コレを含めて3輌か?」


「いえ! 円華さんの1輌。点検比較用兼部品交換用の2輌。研究用の2輌。来客試運転用の3輌。展示用の1輌の、計9輌です!」


「それを軍や政府上層部は知っているか!」


「知っています!」


「私の車両と、点検比較用の1輌、そしてこれから私が使う1輌を除いた6輌は、いつでも使えるようにしてくれ」


「了解しました!」


「愛依はもう少しだけ待て。あの列車から出てくる粘魔の数を思えば、貴女に出撃依頼が絶対に来るはず」


「個人的には、いますぐにでも列車を消滅させたいのですが……」


 …………。


「出来るのか!?」


「闇属性に耐性がなければ、ですが」


「ならば私が依頼する! あの列車を消滅させろ!」


「お言葉ですが、海郷三尉にそのような権限は――」


「いま軍上層部は避難誘導の指示と、列車をいますぐ撃ち落とすか、動かしてから撃ち落とすか。動かすのであれば、どうやって動かすかの協議の真っ最中のはずだ! その前に深刻な被害が出る恐れがある! 私も貴女を信じるから、貴女も私を信じて!」


 作業員が円華を止めようとしたが、愛依は掌を向けて静止させた。


「社長に、事後報告の謝罪を伝えて頂きますか?」


 作業員は目を見開き、本社に走ろうとした。


 その前に、工場の一部が爆破した音と、社外放送が鳴り響いた。


「諷上愛依くん! 我が社の工場が損害を受けてしまった! 社長として、あの列車の空中消滅を依頼する!」


「判断が速過ぎる!」


「私を動かす為に、工場を爆破したのでしょう。とはいえ、社長の指示です。消滅させます」


「分かった! 武運を祈る!」


「円華さんも頑張ってください」


 愛依は重戦車に乗る円華の背中を見ず、列車に視線を向けて真上に飛んだ。


 列車と同じ高度に達すると、愛依はプリーツスカートの山折の影に隠した『浮遊剣身』を十六枚全て飛ばした。


 その直後に、本社と工場から愛依へ魔力エネルギーが供給された。


 本社と工場には、『対遠距離攻撃用魔法障壁形成装置』が備わっている。


 機関車型粘魔は黄色なので、雷属性攻撃の使用が予測される。なので、雷属性以外の属性耐性エネルギーを愛依に供給した。


 浮遊剣身は愛依の前方で四掛ける四列の隊列を作った。四本で細い筒に見える様に回転運動し、細く長い筒を完成させた。


 長筒状になると高速回転し、剣身から零れ続ける魔力が、それぞれの筒の中央へ塊になるように集まり始めた。


 その状態になると、愛依は模造刀の切先を塊に向けた。


「音声入力。四四連鬱金香筒ししれんうこんこうとう。発射します」


 塊は前方へ向けて爆発し、そのまま黒・赤・青・緑・橙・茶・白色が入り混じった爆風が放射され続けた。


 爆風は機関車と正面衝突し、直撃した機関車が膨張して爆散。すぐに消滅した。


 爆風は放射され続け、列車の最後尾が消滅すると爆風も消えた。


 この光景を社長室で見ていた龍王臣は、嬉しそうに空を殴った。


「蒼天騎鎧は正解だった! 蒼天騎鎧は正解だった! 蒼天騎鎧は正解だった!!」


 この台詞を連呼していると、数枚の書類を持った秘書がノックもせずに入ってきた。額には汗を流していた。


「失礼します! 社長! 勝守坊ちゃんから緊急のお知らせです!」


「なんだ!」


「あの列車ですが、まだ尽守坊ちゃんが幼い時に描いた『ぼくの考えた最高の武装列車・人馬宮』に酷似しているそうです!」


「何ぃ!?」


 秘書が持っている書類を奪い取ると、確かに列車の形が酷似していた。


 違う所と言えば、人馬宮はレールの上を走っているが、機関車型は空中を走っている。あとは色だけである。


「ということは、アレは尽守くんから剥がれた粘魔ということか……」


 一気に龍王臣から熱が無くなると、秘書は窓を指差して龍王臣の肩を叩いた。


 龍王臣が窓を見ると、次の粘魔が現れていた。


 3つの船体が並列に繋がっている3胴船型水色粘魔で、中央の船体の底から大多数の神閃型粘魔が東京に落下していた。


 間もなく非番の社員が公衆電話を使って会社に電話した。


 内容は、「中央の船体の内部で、最下層の天井兼1つ上の層の床が回転している」こと。


 加えて、「1つ上の層の神閃型10掛ける30機が、最下層から落ちてきている」というものだった。


「つまり、船体の中で神閃型を造るか、召喚するかして、それを忍者屋敷の回転扉みたいな床から落としているわけか!!」


「社長! その書類!!」


 龍王臣がもう一度書類に目を通すと、人馬宮が描かれた紙の他に、『ぼくの考えた最大の戦艦・双魚宮』と書かれた3胴船が描かれていた。


「まさか……。粘魔同士で情報を共有しているのか!?」


 思わず推測を口に出すと、外から愛依の声が届いた。


「社長。もう一度撃ちます。魔力供給の配分を、水属性切断、雷属性供給に変えてください」


「た、頼むぞ愛依くん!」


 次に受話器から勝守の声が届いた。


「社長! ドイツ軍から出向しているパイロット9人が、『魔力重爆撃機・クロムクルアッハ・ボンバー』の出撃要請を出しています! 出しますか!?」


「出さなかったら、ドイツ政府から『駐日ドイツ大使館防衛を阻害した』と言われる可能性がある! 好きにさせてやれ! ただし! 護守くんとキャサリンくんには飛ばすなよ!」


「だ、そうです柳田やなぎださん! 2人を頼みましたよ! 私は蒼天騎鎧を着て、愛依さんの援護をします!」


「こちら柳田。坊ちゃん、社長。了解しました!」


「頼んだぞ皆! この戦いには、会社の命運が掛っている!!」


「音声入力。四四連鬱金香筒。発射します」


「忙しいなあ、もう! 撃てぇい!!」


 愛依は機関車に向けて撃った科学魔法と、同じ科学魔法を用いた。


 一方、3胴船型粘魔は3つの船首に水の塊を召喚し、左右の船首の水の塊を中央の船首の水の塊に供給した。


「なんだアレは!?」


 そう言いながら龍王臣は書類を見つめると、粘魔の状況に酷似した絵と、『三船首水圧砲』という名前が書かれてあった。


「コレかあああ!!」


 四四連鬱金香筒と三船首水圧砲がぶつかり、互角の様相を見せていた。


「マズイマズイマズイ! あんなのが直撃したら、会社の障壁じゃ耐えられんぞ!」


「クロムクルアッハ、背面飛行で3胴船型のほぼ真下に移動!」


「速っ!? さすが本職!」


「クロムクルアッハ、爆弾投下口から、雷魔法サンダーボムを発射! 帰還するそうです!」


 深紅の巨大爆撃機が3胴船から離れると、中央船体の中に入ったサンダーボムが回転床に直撃し、3胴船全体に電解反応を起こした。


 これによって3胴船型の形が歪み、三船首水圧砲の威力が弱まり、それごと四四連鬱金香筒が船体を貫通した。


 中央船体が消滅すると同時に、左右船体も瞬時に消滅した。街に船体の破片が落ちる懸念は杞憂に終わった。


「やったー!! 見たか粘魔よ! これが我が社の実力だぁ!!」


 と龍王臣が喜びを露わにすると、2隻目の3胴船が出現した。


「いい加減にしろ!! スポーツならともかく、こんな野蛮な行為は諦めろ!! そもそも軍は何をしているんだ!!」


 と龍王臣が怒りを露わにすると、2隻目の3胴船の真下から複数の魔力砲が、3胴船に向けて発射された。


 会社まで届く音の大きさから計算して、重魔力戦車と思われた。


 この光景を見て何度も頷いていると、再び受話器が鳴って龍王臣は手に取った。


 相手は面識のある軍関係者で、弾童カンパニーへの協力要請だった。


 具体的には、区内の住民の避難誘導と、神閃型粘魔の討伐支援だった。


 そして、3胴船型は重魔力戦車隊が担当するので、蒼天騎鎧は討伐支援に専念せよとのことだった。


 龍王臣は即座に了承し、それを愛依たちに伝えるべく動いた。


 その頃には2隻目の3胴船が消滅し、3隻目の3胴船が出現していた。


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