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第1章第5話・粘り憑く『東京襲撃事件・1』


 披露式典から1週間後のことである。


 社長に呼び出され、勝守と護守が社長室に入った。


 社長室には社長の龍王臣ただ1人しかおらず、龍王臣に促されて2人はソファーに座った。


 唐突に補足すると、双子の父親の名前は弾道先守(さきもり)という。先守は、房子の死の原因となった新聞記者の上司であった、現在無職の男によって殺害されてしまった。


 警察には聴取で「新聞社内で責任を問われ、『業務上過失致死に見せかけて自殺する』という、極めて卑劣な一手を指した弾道房子が憎かったから」と応えている。勝守が蘇生してから、一週間も経たない日の話である。


「つい先ほど、法務省から通知が届いた」


「法務省……。裁判の再開ですか?」


 勝守が尋ねると、龍王臣は頭を振った。


「粘魔が刑務所を襲撃して、尽守を含む数十人の受刑者たちが飲み込まれたそうだ」


 …………。


 勝守の腰が浮き上がりそうになると、護守は肩を掴んで座らせた。この間無言である。


「刑務所の近くに現れた粘魔が、換気口を通って内部に侵入したらしい。部屋から逃げることができず、魔法も封印されている受刑者たちは為す術もなく……」


「マニュアルは!? 確か……、国際対粘魔宣言! アレで、非戦闘員の地球人を守ることを加盟各国に求めましたよねぇ!?」


「その通りだ。ただし、受刑者や拘留中の者はその限りではない。と言うのも、司法制度や刑罰が各国で違うからだ。もしもそれまで国際宣言で採択してしまうと、主導した国と仲が良くない国は『内政干渉だ!』と訴えて、宣言を発布することが難しくなってしまう。特に、死刑判決を受けた者()刑務所から避難させることに、日本国と中華民国は強烈に拒絶した。日本では賛否両論になるだろうが、中華民国はアヘン戦争で苦しんだ国家だ。政治家だけでなく、国民も『麻薬所持による死刑判決確定者』を刑務所の外に避難させるのは、簡単には許容できない話なんだ。ロシア帝国も、スパイと思われるアメリカ人を刑務所の外に出す事態は看過できないと、声明で発表している」


「兄さんは死刑判決を受けていない! 無期懲役だったはずですよ!?」


「そうだ。ただ、国に任せているということは、どの時期に(・・・・・)議論を始めるのか(・・・・・・・・)も国に任せているということなんだ。この国はそれが遅かったから、マニュアルが未だになかったんだ」


「そんな……」


「葬儀は――」


 そこまで言うと、電話が鳴った。


 社長が受話器と双子を交互に見ると、双子は電話対応を促した。


 社長は首を縦に振って受話器を持った。


「もしもし。……なんだって!?」


 社長の大声に双子が揃って驚くと、社長は慌てた様子でテレビの電源を入れた。


 テレビには、2人の外国人と、その奥のアメリカとイギリスの国旗が映し出されていた。


 2人の内、アメリカの国旗の手前にいる外国人が、たどたどしい日本語で喋っていた。


「との理由から……。我々……。アメリカとイギリスは……。日本国……、政府が……。コトル……、ダンドウへの……。不当な……、裁判と……刑罰を……。非難する……、共同……、声明を……。発表するに……、至りました……。審判を……、受けるべきは……。日本国の……、開発局の……、他に……、ありません……」


 …………。


 …………。


 急転直下だった。


 何がいったいどうなっているのか、3人には全く分からなかったのである……。




 それから更に1週間。


 傀儡丸の開発者が尽守という事実があったからこそ、マスメディアは尽守への責任の追及は当然のことだと断じていた。


 しかし、アメリカとイギリスが共同声明を発表してしまったことで、変わってしまった。


 『開発者がその後の如何なる責任も負う』という考え方を、改めるべきかそうでないかを、議論する必要が生まれてしまったのである。


 マスメディアが採った対応は、『臨機応変』である。


 つまり、『確定した新たな事実が判明するまでは、確定している事実のみ報道する』という方針である。これにより、マスメディアは『自分たちの意見』を封印したのである。


 ただ、弾童一族にとっては注視するものではなかった。


 既に尽守は死んでいるのだから。


 それよりも、財閥会合事件後に頭角を表した新興財閥である、信田義しだぎ家からの依頼に目を向けていた。


 『蒼天騎鎧よりも簡素な装備で、遠距離から一方的に粘魔を攻撃し続けることができる武装外骨格』の開発。


 これが信田義財閥からの依頼である。


 信田義財閥会長の孫娘が、粘魔との戦いに前向きな意欲を表明しているそうなのである。


 しかし、会長や両親は粘魔との直接戦闘には否定的である。


 けれども、粘魔は屋外ならば様々な場所に突如現れる。孫の身を守る為にも、孫自身が戦えるようになる方が良いのでは。


 という結論に至り、蒼天騎鎧を完成させた弾童カンパニーに開発を依頼した。もしも開発に成功すれば財閥が援助するという契約も、マスメディアの前で取り付けた。


 なので、最近の対粘魔防衛戦は愛依1人で行っていた。


 この日は、1匹の巨大な水色の亀型の粘魔が工場の敷地内に入ってきた。


 愛依が浮遊剣身を亀型に向かって飛ばすと、亀型は甲羅の表面を剥がして7枚の六角形型の浮遊盾を展開した。


 ただし、7枚である。浮遊剣身は16枚である。


 9本の剣身が亀型の首に刺さり、亀は口から大量の水を噴射しながら地面に伏した。


 水は闇属性魔法の『スポイル・ホール』で飲み込んで防いだ。亀型は伏した後に消滅した。


 社員から労われるが、愛依は素直には喜べなかった。


 もしも亀型が3匹現れたら、どう対応すべきか。それで頭が一杯だったからである。


「もしも3匹現れたとしたら、闇属性魔法で刃を増やすことはできないのか?」


 そう愛依に投げかけたのは、軍服を着ている円華だった。


「蒼天騎鎧による魔力の強化具合は、大体察している。キミならば、24本を同時に動かすことができると思っている。操作精度に自信は?」


「……分かりません。試したことがないので」


「ならば今すぐ試すと良い。私が標的を持って来る。どこの何が良い?」


「いえ、それより……。円華さんの重魔力戦車を、昨日からここで点検中のはずですが……」


「そうだな。だから明日まで非番だ」


「では……、何故軍服を?」


「それが妙な話でな? 夢に尽守と私が現れたんだ。しかも見たことのない服装でな。しかも私に『妹を守れ』とか、『尽守は殺せ』と言うんだ」


「そうですか」


「疑わないのか?」


「残念ですが、目の前で勝守さんが蘇生された時から、驚けなくなっています」


「そ、そうか……。それは難儀だな……」


「いえ、そうでもありません」


「そうか……」


「……もしかしたら、私を驚かせることができるかもしれません」


「どうやって?」


「『円華さんは尽守さんを殺せますか?』」


 …………。


「殺すも何も、尽守は死んで――」


「では、質問を変えます。『尽守さん型の粘魔が現れたとして、その状態の尽守さんを殺せますか?』」


 …………。


「ごめんなさい……。分からない……」


「私だったら殺します」


「えっ!?」


「尽守さんだけでなく、勝守さんと護守さんは、房子さんの教育の成果で『人に尽くす時にこそ自分の存在を認識できる』人格を有しています。そんな方が、粘魔になってでも生き続けたいと思いますかね?」


「それは……」


「なので、私は殺します。恩を返す意味で、二度と『勝守さん』として復活できないように。全力の魔法で消滅させます」


「…………」


「訓練は私1人で行います。円華さんは、妹さんに会いに行ってください。確か妹さんは、軍学生の身でありながら、『神閃』の32人に選ばれたんですよね?」


「あ、ああ……」


「円華さんが迷い続けていれば、妹さんが殺さなければならない時が来るかもしれませんね」


「!!」


 円華が俯いて固まると、愛依はそれ以上何も言わずに円華に背を向けて去っていった。


「言い過ぎましたかね。……いえ、……軽蔑しましたかね?」


 そう愛依が問いかけると、社員は強く否定し、愛依を支持したのだった。


 で、終わらなかった。


 突然、蒸気機関車の警笛の音が聞こえたのである。


 愛依と円華が音の方を向いた。音は空から聞こえてきた。


 空を見ると、東京上空を、まるで無数の砲門を誇示するかの様な黄色機関車及び客車が、蒸気を出さずに走っていた。


 ただ走っているだけではない。


 扉を開き、そこから神閃型の様々な色の粘魔を次々に下ろしていたのだった。


 これを工場から見ていた勝守は、尽守の部屋へと走っていった。


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