わたしと色々
やっとステータスが出せました!
まぶたを閉じたまま考えると、思わず寝落ちてしまいそうなので、布団をかぶったまま目をパッチリ開いて考えることにした。
これなら思わず飛び出た独り言もある程度カバーできると思う。
気になることがありすぎて、どれから考えようかと迷ってしまうが、やっぱり最初はわたし自身のことにした。
シャンの記憶をたどっていく。
シャン、6歳。女の子。
今は暗くて見えないけれど、母親の髪色から察するに、きっと髪の毛はくすんだ白色。
明日ちゃんと見てみよう。
「葉っぱ」の位置も知りたいしね。
髪の毛は肩の位置よりちょっと長い位の長さで、ふわふわ、つるつるで、すごく触り心地が良い。
髪を一束すくい、指でくるくるしながらまた考える。
この世界は貴族のみがラストネーム(苗字)を持つ。
よってシャンは名前しかないことから、平民であることがわかった。
ラストネームがなければ不便ではないかという意見もあるだろうが、そこら辺も貴族の特権となっていて、ますます身分差制度が強調される。
だからこの世界で例としてご近所の奥様方の井戸端会議が起きたら、
「○○○《ラストネーム》さんのお宅のお子さんははねえ〜、」
でなく、
「○○○《人の名前》さんのお宅のお子さんはねえ〜、」
と、親の名前が出されることになる。
この世界では地球よりももっと大きく、親の影響が子供の人生に影を落とすのかもしれない。
忘れないうちに頭の隅っこにメモしておく。
親の影響大、っと。
その間にシャンの直近の記憶がするりと流れ込んできた。
「んゔっ」
ーー木から落ちてくる、ふわふわフリルの固まり《アンリ》が一瞬で目と鼻の先まで迫り、目の前が完全にアンリで埋め尽くされたと同時に、ものすごい衝撃と電流が頭てっぺんからつま先までビリビリと流れて、暗転。
急な追体験に心の準備ができていなくて、我ながら潰れたカエルのような声が出てしまった。
布団をすっぽりかぶっていたことにより、寝言にも聞こえなくは無い。
結構押し殺しせていたと思う。
ナイスだ、三数分前のわたし!
これがシャンの最後だったんだろう。
……というかこれ完全にアンリのせいじゃん!
アンリが降ってきてわたしが下敷になっちゃたパターンだ!
アンリははしゃぎすぎてだいぶ高いところまで残っていた。
体がひしゃげ無くてほんとによかった。
あの高さから自分の体重と同じ位かそれ以上の塊を受け止めるなんて、ガリガリ6歳の私には酷すぎる。
体がつぶれてもおかしくなかった。
はーーー。
ため息が出た。
本当に命拾いしたんだな、わたし。
いろんな意味で。
シャンが逝っちゃった時点で無事とは言えないけれど。
シャンの来世での幸せを願うばかりだ。
もしかしたらわたしみたいに誰かの中に入っているかもしれない。
次は、家族についてだ。
少しでも周囲の状況を理解していないと、いきなり家族に不審がられてしまう。
わたしは覚えている限りの両親についての記憶を捻り出そうと必死だったが、シャンの記憶はまだ言葉が発達しきっていない幼女の記憶なので、思い返す父親や母親が何を言ってるのかさっぱりわからない。
はっきり言って意味がわからない。
聞き取れないし、理解できない。
これはひどい。
使える語彙が必然的に少ないため、大半が意味不明の言語と化している。
そんな中、幼いシャンから見て確信して言えることは、うちは4人家族。
先程の女性がやはり母親で、双子の弟のシュウがいる。
そして、シャンの父親は鍛冶屋の工房に勤めていること。
ただし、わたし憧れの刀や剣でなく、包丁やハサミなど、仕事道具系の小さめの商品を作ることが多く、大きな仕事はあまり回ってこない。
これは頑張れば剣に触らせてもらえたりするかもしれない。
明日は父にちょっとアタックしてみよう。
まずは様子見だ。
ちなみに記憶の中での父親の髪色は紺色、シュウの髪色は青だった。
母親のくすんだ白色は、失礼だがまだギリギリ白髪…と言い訳できる。
しかし、シュウの青色に関しては、思わず記憶を2度見した。
しかも、染めたような不自然な色でなくて、本当に青。
覚えている限り、シュウや父親がカツラを外したり、カツラがずれたり、したことはない。
父親はともかく、常にカツラをつけて日々を過ごしているショタが弟だと考えるより、ここが地球ではない世界だと考える方が自然である。
シャンの髪色がくすんだ白色だとして、わたしの髪色は平凡などこにでもある黒色だったので、大して気にならない。
でも、母親のように小汚いのはどうにかしたいところだ。
この調子だとわたしも同じように小汚いのだろう。
せめて最低限の清潔感は守りたい。
明日お風呂に入りたい。
まぁ、生活する上でで髪色はたいした問題じゃない。
一番問題なのは、新しく生活する家がものすごく貧しいことである。
少し周りを見れば一目瞭然である。
今私が包まれているふとんだって、余り物の布の切れ端をつなぎ合わせたみたいにボロボロである。
服だってごわごわで、ずっと長い間着ていたのか布が擦り切れていてボロボロだ。
最初は何かの嫌がらせかと思ったが、母親の服もつぎはぎは当たり前で、至るところに修繕の跡があり、弟の服も似たり寄ったりである。
父親の服だけは丈夫そうな素材でできているが、これもまたあちらこちらに修繕した跡がある。
鍛冶屋の仕事上、必要なものらしかった。
さらに、家の前で気づいていたが、この家も一軒家ではない。
集合住宅のようなものだ。
近くに同じような建物がいくつも一定の距離をおいて建てられていたので、団地のようなものかもしれない。
少し耳をすませば、レンガのような石造りの壁に囲まれた天井から、上の階の住民らしき足音が聞こえる。
隣人の話声も聞こえる。
壁も薄いらしい。
「はぁ…」
あまりの環境に思わずため息が出た。
もう少しいいところに生まれさせて欲しかったな。
大金持ち!とかじゃないけど、せめてもう少し生活に苦労していなさそうなところ。
生まれ変わったら貴族?王族?
そんな都合のいい話なんてなかった。
でも、もう生まれ変わった以上仕方ない。
できることから手当たり次第、変えていこう。
次はお待ちかね、地球には絶対なかったもの。頭の葉っぱについて。
これに関しては、母親の寝物語の中に答えはあった。
子供にわかるように表現を噛み砕いたりしていて長いので、予約するとこんな内容だった。
その昔、木の神様が病気にかかった。
世界中の植物は全て枯れ果てた。
それを悲しんだ他の神様たちは、木の神様を治すための薬を一生懸命探した。
しかしいくら探してもその薬は見つからなかった。
花木の神様は苦しみ続けた。
そんな中、作り物の白い花を頭にさした少女がどこからともなくやってきた。
少女は、木の神様に、世界中の人々の涙を集めて作った薬を捧げた。
木の神様は元気になった。
しかし、薬を受け取る時に、木の神様は勢い余って少女ごと薬を飲み込んでしまった。
木の神様は悲しんだ。
そして少女の一族に、薬のお礼と少女への感謝を込めて加護を授けた。
その加護がこの葉っぱだそうだ。
神話みたいなものである。
その葉っぱには「精霊樹」という大層な名前がついているらしい。
その一族は「樹人」と呼ばれ、他の一族・種族を巻き込みながら発展し、今や世界で精霊樹がないものは存在しないらしい。
唯一、吸血鬼という種族だけは樹人にならず暮らしていたらしいが、樹人の他種族とイザコザを起こし数百年前の「聖戦」で滅んだらしい。
若干差はあるだろうが、皆等しく子供はこの寝物語を聞かされて育つ。
わたしやシュウもあのアンリも。
つまりは一般常識である。
また、この葉っぱのおかげで魔法みたいな超現象が起こせるらしい。
記憶の中に、母親が暖炉に薪をくべるとき、指の先から小さな炎が飛び出す瞬間を見ていた記憶があった。
あれは生活魔法と呼ばれるもので、呪文を覚えれば誰でも使えるものだった。
しかし、魔法なんて。
一生関わるはないと思っていた。
まるでゲームの世界みたいだ。
まだ日本にいた頃によく遊んだ。
体が弱くて遊びたい盛りに運動できず、暇だったのだ。
あの「ぼくは悪いスライムじゃないよ」の勇者が魔王倒しに行くRPGとかは特にお気に入りで、とことんやりこんでいた。
剣の愛に目覚めてからは、仮想世界で モンスターをハンティングしまくってたりもした。
高校に入るまで現実の友達はなかなかできなかったが、ゲームの中では友達はたくさんできて、楽しかった。
ラノベとか、そういうアニメも流行っていた。
この世界にも魔物とか、モンスターとかがいるんだろうか。
「ステータス」とかつぶやいちゃったりしたら、他の人には見えないウインドウが開いたりするのかな。
「ステータス」
なんちゃって。
小声でぽそっと呟いてみる。
次の瞬間、パッと何かが目に飛び込んだ。
ーーーーー《ステータス》ーーーーーーーーーーーーーーー
LV.1 シャン 性別 :♀ 年齢 : 6歳 適性 : 闇、土、雷
HP 26/29
MP 74/74
力 25
俊敏 24
器用 48+7
運 37
【称号】
「吸血の真祖」「鍛冶屋の娘」
【固有スキル】
「吸血」「悪食」「真祖の風格」
【スキル】
「威圧LV.1」「夜行性LV.1」「睡眠耐性LV.6」「毒耐性LV.2」「隠密LV.3」「闇魔法の心得」「土魔法の心得」「雷魔法の心得」「生活魔法」「料理LV.2」「編み物LV.4」
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………………………エッ?ごちそうさまです。
名前のくだり、伝われ〜!(念)