滅んだ都市の、誰も知らぬ生存者
前作は書ききれずじまいなので初投稿です。
ロボゲー欲を解消したら陳腐な物しか書けないのです。
「……はぁ……これでできた」
大小様々な形の瓦礫を集め、少年は自身の背丈に届く高さまで瓦礫の山を積み上げた。
魔法も使えず、工具も使えず、純粋な手作業で作られ、しっかりと固定された瓦礫の山は、嵐が来て、地鳴りが起きようと崩れず、人為的に壊そうとしなければ崩れない。
粗野な見た目に反して、パズルのように組み立てられた瓦礫の山。その中央に、積まれた瓦礫と比べて小綺麗な鉄板が打ち付けられている。
「……あ、まだ書いてなかった」
瓦礫の山を一人で積み上げた少年は、色が抜け落ちた、あるいは鉄の皮を溶接したような無表情で、最後の仕上げとして、瓦礫の山の鉄板を石で引っ掻き、記録を残す。
「ここには かぞく も ともだち も いました
いえ も あれば かいしゃ も がっこう だって ありました
みんな きょじん が けしました
ここは だい13すてーしょん だれも いません」
「…………」
鉄板の際まで埋め尽くすまで文字を刻んだ少年は、握っていた石を放り投げ、立ち尽くす。
「とーちゃんはビルに潰されちゃった。
かーちゃんは、しぃといっしょに焼かれちゃった。
にーちゃんはオレを地下室に入れて消えちゃった。
みんな死んじゃって、なんにもないや」
自宅にあった地下シェルターへ避難し、生き延びた少年は同じ生存者を求めて徘徊し、自分以外誰もが死んでいると知り、絶望した。
「オレだけしかこの街にいないんだ。
だからみんなのお墓をたてたんだ。
……だれも、いないから。」
瓦礫だらけの廃都、その自宅だった場所に瓦礫の山でできた記録碑を建て終えた少年は、日が落ちてからもその場に居続け、日が昇る頃にようやく何処かへと歩き出した。
「でも、みんなが生きろって言ってたから、生きなきゃ」
感情の麻痺した少年は、自分で流した涙すら気付かないまま、一人孤独に故郷から立ち去った。
第十三ステーションの救援要請を受けた近隣都市の兵士達が訪れたが、彼らが見たのは廃墟都市となった第十三ステーションと、瓦礫でできた記録碑だった。
――――第十三ステーションは、平和的統治を掲げ、どのような勢力にも加わらない中立地帯であった。
だが、不明勢力の新兵器と思われる「謎の巨人」による強襲。
最小限の自衛用武装を用意するのみだった第十三ステーションは「謎の巨人」に一瞬で抵抗も許されず蹂躙された。
――後に救援要請を受けて近隣都市から駆けつけた兵士達の報告によって残骸となった第十三ステーションの跡地と、瓦礫で造られた記録碑以外に何も発見出来ず、生存者はゼロであると判明。
第十三ステーションは再興すら不可能である【滅亡都市】に認定され、次第に人々の記憶から忘れ去られていった。
――――第十三ステーション滅亡から六年後。
鉱山都市である第十二ステーションは、高エネルギーの塊であるダマトフィール鉱の生産都市として有名だ。
発電や魔術式エンジンの燃料として利用されるダマトフィール鉱を採掘する時は、強い衝撃を与えると大爆発を起こす危険性があるため手作業での採掘が主となる。
手作業での採掘による莫大な人件費を削減するために、第十二ステーション経営部は作業員を雇う手段として、年齢、性別、どの都市所属か、果ては犯罪歴の有無など就業条件の制限を鉱山採掘作業に限定して撤廃することで、他都市と比較してかなり低い賃金での雇用を可能とした。
故に第十二ステーション鉱山地帯は、故あって働くことの難しい者達が集まる無法地帯となっており、人々はその鉱山地帯を「スラム街」と皮肉混じりに揶揄している。
「どーよ兄弟! メシ食える程度にゃ儲けられたかい?」
「……まあ、いいんじゃないか」
――そんな「スラム街」の坑道に、ひたすらにツルハシを振るう【滅亡都市】の生き残りの少年の姿があった。
【滅亡都市】第十三ステーションの生き残りとなった少年は、彷徨の末に第十二ステーションへと辿り着き、年齢も出身も犯罪歴も問わないこの「スラム街」で働き何とか生き続けられた。
時には坑道で生き埋めになりかけ、時には給料を脅し取られ、またある時には身ぐるみ全てを盗まれたり、またある時には手に入れた食料が傷んでいて腹を下しながら過酷な環境の坑道を掘り進んでいったりと、死を間近に感じながらの生活を送った少年は逞しく成長していた。
「『まあ……いいんじゃないか』ねぇ、兄弟は相変わらず何考えているかわっかんねーや」
「……それで、お前は何をしている?」
「いっやぁこれはあの休憩外で休んでいる訳ではなくてですね上層Aルート担当から兄弟への連絡事項がありましてですねそれをすっかり忘れてたなんてこたぁありませんよへへへへヘグベェッ」
「早く要件を話せ」
ツルハシを逆さに持ち、遠心力と坑道掘りで鍛えた筋力を合わせたスイングを振るう少年。
「ヤベエな今の一撃……骨がグチャグチャだぜあれは」
「いや、下層総括は力加減が上手だから怪我を一切させずに内蔵だけにダメージを与えるぞ」
「作業に集中しとけ! 下手すると今度はお前らがアレを喰らうぞ!」
少年の一撃は大柄な男を軽く浮き上がらせ、坑道の壁に叩きつける程の威力で、周囲で一部始終を観察していた作業員達は我が身可愛さに真面目に作業を行うようになる。
「早く吐け、上層部からなにを言われた。坑道の落盤による新規坑道開拓か? はたまた毒ガス発生による避難か? こんななりだが下層総括をやってる。迅速な対応を求められているんだ」
「ウゲェッ……話す、話すから下ろしてくれぇ」
坑道に叩き付けた男の胸ぐらを掴む少年。その表情はいつも無である。
暴力と理性が同居したその小柄な身体が次に何をするかわからない伝令の男は怯えた顔で必死に懇願していた。
六年の月日の間に少年は「スラム街」での地位を確立し、下層という危険な場所ではあるものの、そこの責任者となっていた。
「言うからな! 『上層ルートA担当ガミュから下層総括クラグラに通達、阿呆がマグマイト掘り当てた為下層総括へ判断を委託する』だとよ! 伝えたからさっさと手を離してくれ兄弟グエッ」
少年の馬鹿力で持ち上げられ足が宙に浮き、怯えながら伝言を終え解放を求めた男は、元来た方向へとぶん投げられ、呻き声一つあげて仄暗い坑道の奥へと消えていく。
あの速度であれば、真っ直ぐ下層から中層への分かれ道まで激突するまで飛んでいくだろう。
「聞いたな、全員鉱山から出るぞ。全下層ルートに伝えろ」
『了解しました下層総括!』
少年の号令で周囲の作業員達は一斉に動き出す。
作業員達は年下の少年の指示に従わなければ伝令の男の二の舞いになると分かっているからだ。
「マグマイトが出たのなら、かなり深層に近い……この鉱山を封鎖すべきと提案すべき、か」
以前発生したマグマイト露出による大事故を思い出し冷や汗を流す少年は、背負ったツルハシを引き摺り、他下層ルートを掘っているだろう作業員へ指示を伝える為に走り出す。
彼の名はクラグラ。
元、第十三ステーション所属、【滅亡都市】唯一の生存者。
現、第十二ステーション鉱山下層総括。
通称「鉄面皮の」クラグラである。