【 7 】
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と、そんな事を思い出しながら校門をくぐった僕の横を歩いて行く先輩はどこかうわの空で、さっきの 「 気分によらず、練習はする 」 発言とは裏腹になかなか口を開こうとしない。
夏休みの夕暮れから始まって以来、部活後に欠かす事なく続けて来て半ば習慣になっていた帰り道と、今日は雰囲気が違っていた。
やっぱり、あの急遽決まった新演出に不満があるのか、僕は思いきってその点を質問してみた。 また怒り出すかもしれないという予想もしていたけど、案に相違して、副部長は正しいよ ─── と先輩は言い切った。
「 あれで行くしかない。 そこは納得できてるつもり 」
暦はもう十一月に入っていて、夕暮れというよりむしろ夜に近い暗さの中では表情の細かいところまでは分かりにくいけど、声の調子に少し明るさがあるのは救いだった。
多分、副部長は心配しすぎたのかもしれない。 うん先輩は大丈夫。
「 不満があるとすれば ─── 」
伸びた人差し指が、すうっと僕の鼻先に突き付けられた。
「 君に不満 」
は っ う ?!
「 演出を変えるなら変えるでね、変え方ってもんがあるのよ。 気持ちのいい譲り方って言うか納得するまでの交渉術って言うか、そんな感じで色々あってから最後に落ち着くきれいな結論、みたいな ‥‥‥ わかるでしょ ? 良く考えたら、抵抗してたの私だけだったよね。 ね 」
それは ‥‥‥ はいそうですけど ‥‥‥ 謝るとこなのここ ?
「 あっ腹立ってきた! すごい孤独感あったよ! 役柄として主人公はこういう時ヒロインを救うべきなのに、何なの味方してもくれずに黙あ ー って見てるばっかって! 頼りなくない ?! 不誠実だよ!! 他のみんなはともかく、君と私は当事者なんだからね、キスの ‥‥‥ 」
しまった怒り出した。
「 ‥‥‥ キスシーンの 」
収まった。
先輩は最後の所を言い直してから急に黙ると十秒近く考えて、次はとても小さな声で 「 駅でアイス食べたい 」 と、ヒロイン見捨て罪の僕を許す条件を提示してくれた。