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9話 防御壁での攻防戦。


 探索魔法からの知らせを、ラプソディが話す。


「敵襲だけど、本当に全方位から来たわね。東から20体、西から20体、北から48体、南から52体」


「想定より多くないか? 130体前後のはずだろ。10体も増えている」


 レイがそう言うと、リガロンは肩をすくめた。


「別の、小さな群れが合流したらしいな。ま、デケェ仕事だから、数は多いほうがいいってわけだろ」


「ところで、数にバラつきがあるのは、なぜかしらね?」


 ラプソディが疑問を口にする。

 事前に、レイはポーロ町の地図を、町長より受け取っていた。

 地図を思い浮かべつつ、レイは言った。


「北と南には、町の出入り口があるんだ。一方、東と西にはない。こういうことだろう。リザードマンどもは、エルフ側が反抗した場合に備えたんだ。北と南の出入り口で注意を引き、東と西で防御壁を越えて、背後を突く」


 ラプソディは熱い眼差しを、レイに向ける。


「さすがレイね。鋭い読みだわ」


「君だって、敵の狙いくらい分かっただろ。それより、呑気に会話しているヒマはない。手分けしよう。リガロン、君は西から来る敵を頼む」


 リガロンは、湾刀の柄を握りなおした。


「こうなったら自棄だ。やってやるぜ!」


「おれは、南からの敵を片付ける」


 ラプソディが、困惑した様子で言う。


「レイ。本気なの? 南からの敵が、いちばん多いのよ」


「このパーティのリーダーは、おれだ。いちばん危険な場所に行くのは、当然だ」


「リーダーだからこそ、プライドは捨てて、現実的に判断しないとダメよ。そうでしょ?」


 ラプソディに優しく窘められて、レイは反省した。


「……そうだな。おれは東から来る敵に対処する。南と北は任せていいか?」


「もちろんよ」


 それからラプソディは、親衛隊員であるハニに状況を説明した。


「ラプソディ様、エルフを助けるのですか?」


「これもレイのためなのよ」


「はぁ」


「それと家屋を壊してはダメよ。少しくらいなら、仕方ないけれど。全壊とかは避けてね」


「はぁ……納得いかない点もありますが、これもラプソディ様のためです。不肖ハニ、了解しました!」


 ハニは、北からの敵を迎え撃つことになった。


「北からの敵を片付け終わったら、そこのリザードマンの加勢をしてあげて」


 ハニは、リガロンを見やって、


「……コイツ、敵のリザードマンと、ゴッチャになってしまいそうです」


 リガロンはムッとした様子だ。リガロンが感情を害するのは当然だ。が、ハニの言い分にも一理ある。

 人間と魔族からすると、リザードマンの見分けは難しい。


「印を付けておきましょう」


 ラプソディが、簡単な魔法で、リガロンに印付けを行う。リガロンは嫌そうだったが、拒否はしなかった。

 レイは、改めてパーティ・メンバーを見回した。急ごしらえのパーティだが、これでやるしかない。


「みんな、武運を祈る。では散開!」


 レイはまっすぐ、東へと走った。

 ポーロ町の規模は、真四角で縦横が300メートル程度。

 よって、東側の防御壁の長さも、300メートルとなる。

 この防御壁を観察しながら、レイは呟いた。


「20体のリザードマンが横一列で来られたら、全てをせき止めることは難しい。向こうから、おれ目がけて来てもらうしかないな」


 ルレ村にいたときに、レイは、ラプソディから視界系の魔法をかけてもらっている。いまも効果は継続していた。そのため、夜でもよく見える。

 その視界の中に、1体目のリザードマンが現れた。

 レイの鼻先で、防御壁を乗り越えてくる。


 レイは、必殺技は放たず、普通に斬りつけた。Fランク剣士とはいえ、攻撃力だけなら、Aランクにも引けを取らない。

 一撃で、1体目の息の根を止めた。


 その傍を、2体目、3体目が乗り越えて来る。

 不意打ちを生かすため、レイは続けざまに斬り付けた。


 ここで、ようやく敵側も気づいたようだ。

 防御壁の向こう側に、待ち伏せがあることを。さらに、その待ち伏せは戦士であり、攻撃力だけを取るなら、かなりのものだ、ということも。

 

 ラプソディの探索魔法によると、東から来たリザードマンは20体。

 3体殺したので、残りは17体だ。

 連中が一か所に集まってくれれば、必殺技スキル〈茨道〉を食らわせ、一気に片を付けることも可能だが。


 不意に、リザードマン側が動いた。

 防御壁が、外側から吹き飛ぶ。

 粉塵の中、レイが目を凝らすと、壁に大穴が開いていた。

 石造りの防御壁は、それなりに分厚い。リザードマンの通常攻撃で、破壊できるはずがない。

 

 どうやら、敵の中には、必殺技スキルを使える者がいるらしい。


 必殺技スキルとは、ようはMPを消費して、必殺技を使う能力のことだ。

 一般にMPは、魔法を使用するためのものだ。だが、魔法を使えぬ者でも、MPを所有するタイプがいる。

 その上で、必殺技スキルを会得すれば、レイの〈茨道〉のような必殺技が使用可能だ。

 ちなみに魔導士の中には、魔法とは別に、必殺技を持つ者もいる。

 ラプソディは、このタイプだろうな、とレイは思っている。


 とにもかくにも、防御壁に入り口ができてしまった。

 リザードマン達が、その穴から押し寄せて来る。

 こちら側に来られて、散開されると厄介だ。


「ならば、ここで決める!」


 レイは、必殺技〈茨道〉を発動した。

 通常攻撃よりも、攻撃力が5倍となった斬撃を放つ。

 一気に8体のリザードマンが、胴体から両断された。


 しかし、〈茨道〉を連続して放つことはできない。MP自体は、まだ数発分の余裕がある。ようは必殺技を放つ代償というものだ。

〈茨道〉の場合、放った直後、数秒間は動けなくなる。


(くそ。まとめて17体を倒す、というのはムシが良すぎたか。おれの必殺技に、もう少し威力さえあれば──いや、〈茨道〉でも、連続発動することさえできたなら)


 気づけば、3体のリザードマンが、レイを仕留めるため攻撃を仕掛けようとしていた。

 このリザードマンたちが装備しているのは、戦斧だ。

 それが振り上げられ、レイ目がけて振り下ろされようとしている。


 レイの防御力が高ければ、戦斧の打撃を受けても、致命的なダメージとはならない。

 だが、レイの場合は、防御力はほぼ無い。

 防御力の足しになる鎧を着ていたころもあった。しかし、レイの職業は騎士や闇黒騎士ではない。鎧を装着していると、動きが取られ、攻撃力が下がるのだ。


 よって、いま戦斧を食らえば、死ぬことは間違いない。

 

(すまない。ラプソディ。おれは、こんなところで──)


 閃光が走り、3体のリザードマンの身体が吹き飛んだ。

 3体とも倒れると、痙攣してから、絶命する。


「いまのは──電撃か!」


 ラプソディが、レイの傍に着地する。


「〈ライトニング・ボール〉よ。ブラストのほうが、威力は高いけれど、まわりに被害が出るのよね」


 ラプソディが発射した雷の玉が、3体のリザードマンに直撃したわけだ。

 おかげで、レイは助かった。

 

「ラプソディ。ありがとう」


 ラプソディは、ウインクする。


「気にしないで。旦那さんのピンチに駆け付けるのが、妻というものでしょ?」




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