8話 魔族の助っ人を呼んだ。ボクっ娘だった。さて、決戦だ!
町長の呼びかけで、住人たちは広場に集合した。町長への信頼は厚いようだ。誰一人、町長の指示に逆らうものはいなかった。
エルフ市民たちは、大きな穀物倉庫に避難することになった。
この倉庫には地下があり、隠れるのにもってこいなのだとか。
こうして、ポーロ町からは住人がいなくなった。
残ったのは、レイ、ラプソディ、リガロンだけだ。
3人以上ということで、これもパーティといえる。
「誰が、指揮を執る?」
レイがそう尋ねると、ラプソディが肩を叩いて、
「レイに決まっているでしょう」
「わかった。さっそく、指示を出すぞ、ラプソディ。家屋への被害もできるだけ抑えてくれ」
ラプソディは少し不満そうだ。
「ねぇ、レイ。家屋まで壊さないように気を付けたら、強力な魔法はほとんど放てないわよ。それだと、撃退に時間がかかるわ」
「撃退に成功しても、町民の暮らす場所がなくなっているのでは、意味がない。ラプソディ、可能な限り、加減してくれ」
「レイがそこまで言うのなら、仕方ないわね。いいわ。やってみる」
「リガロン。お前、武器が必要だろ」
リガロンの剣は、ワープ魔法で移動するさい、置いてきてしまったのだ。
「武器なら、出してあげるわ。〈フォーム〉」
ラプソディの生成魔法で、リガロンの前に、湾刀が現れた。柄を握りながらも、リガロンは驚嘆した様子だ。
「生成魔法で、無から刀を作れるFランク魔導士、だと?」
レイは説明した。
「彼女は、特別なんだ」
すかさず、ラプソディが言う。
「レイ。そこは『うちの嫁さんは、特別』でしょ。はい、やり直し」
「……うちの嫁さんは、特別なんだ」
ラプソディが探索魔法を、ポーロ町の周囲に張る。
これでリザードマン達が、どこに何体攻めてきたかも、分かる。
広場で待機しながら、レイは言った。
「できれば、4人欲しいな。そうすれば、東西南北に1人ずつ配置できる」
「そうね。家屋を破壊しちゃいけない、という制約がなければ、あたし一人で瞬殺できるのだけどね」
リガロンが鋭く言う。
「おい。あんたが並みの魔導士でないのは分かったが、敵はそんな甘いものではないぞ」
レイは、内心で苦笑した。
リガロンは、ラプソディの正体を知らない。魔王の娘ということもそうだが、魔族であることさえも知らない。
ラプソディが魔族であることは、極秘中の極秘だからだ。
とにかく、リガロンにとって、ラプソディは『それなりにできる魔導士』ということなのだろう。
(やろうと思えば、ラプソディはリザードマンの群れを、瞬殺できる。それを知っているのは、おれだけか)
これが旦那の特権ということらしい。
ラプソディはリガロンから離れてから、レイを手招きした。リガロンに聞かせたくない話らしい。レイも移動する。
「なんだ?」
「4人目だけど、調達できないこともないわよ」
「え、そうなのか? どうやって?」
「あたしには、親衛隊がいるのだけど」
ラプソディだけで無双できるのに、親衛隊までいるとは。
「その1人が、近くにいるようなの。近くといっても、400キロは離れているけどね。けれど、感知できる距離ではあるの」
「感知できる距離にいると、何かあるのか?」
「召喚できるわ」
レイは考え込んだ。こういうことのようだ。
親衛隊の1人が、感知できる距離内にいる。よって、この場に召喚できる。パーティの4人目として。
「君が魔族であることは、極秘なんだ。親衛隊員からバレるのは、困る」
「あたしが指示すれば、彼女も人間のフリをするわよ」
『彼女』というので、召喚できる親衛隊員は、女性のようだ。
「その『彼女』は、人間で通る姿なのか?」
魔族の容姿は、多様だ。人間と同じ姿形の者から、もっと異形な者まで。
後者の場合、いくら当人が『人間だ』と言い張っても、無理がある。
「容姿のほうは、問題ないわよ。尻尾があるけど、それくらいなら隠せるわ」
「……盛大に戦ってもらっちゃ困るんだ。そこらへんも、君の指示に従ってくれるのか?」
そもそも4人目が必要な理由は、ラプソディが力を抑えて戦わねばならないからだ。
それなのに4人目が暴れ、家屋を破壊してしまっては、意味がない。
ラプソディは、安心させるように言う。
「あたしの命令には、絶対服従よ」
「……」
ラプソディは、魔法の力を加減して、戦わねばならない。それでもリザードマンの群れなど、簡単に倒せるだろう。
ただ、さすがに制約があっては、瞬殺とはいかない。
レイやリガロンも戦うわけだが、とにかく敵の数が多すぎる。倒し損ねたリザードマンが、エルフ住人が隠れている穀物倉庫に辿り着いては、困るのだ。
「わかった。4人目を召喚してくれ」
「そうと決まれば、急がないとね。もうじき、リザードマンたちが襲来してくるでしょうから──〈サモンズ〉!」
呪文詠唱を省略して、召喚魔法が行われる。
召喚系には2種類ある。
召喚獣と呼称されるものを、異界より招くもの。
もう一つが、同じ世界にいる者を、ワープ魔法で呼び出すもの。
今回、行われたのは後者だ。
空間に紫電が走り、1人の少女が虚空より現れる。
金色の髪をツインドリルにし、露出多めの衣服を着ている。
「ハニちゃん、久しぶりね!」
「ラプソディ様!」
ハニと呼ばれた少女は、15歳くらいだ。慎ましい胸をしている。
ラプソディが言ったように、尻尾があった。スカートに穴があり、そこから尻尾が出ている。
ハニはラプソディに抱き着いた。尻尾を振っているのが、小動物っぽい。
一部始終を遠くから眺めていたリガロンが、歩み寄って来た。唖然としている。
「召喚の魔法か?」
「ああ。ラプソディに仲間を呼んでもらったんだ」
ハニを観察してから、リガロンは納得のいかぬ様子で言う。
「あんなのが戦力になるのか? 獣人のようだが」
「……」
尻尾があるのは、魔族だけではない。
というより、獣人のほうがメジャーだ。
リガロンが勘違いしても仕方ない。レイにとっては、都合の良い勘違いだ。
「ラプソディが言うには、とても強いらしいから」
魔王の娘の親衛隊員なのだから、強いことは間違いない。
ハニは抱き着くのをやめて、ラプソディに言った。
「お久しぶりです! 人間ごときと結婚したと聞き、そんなバカなことがあるかと思っていました!」
「ハニちゃん。結婚したのは、本当よ。そこにいる人が、あたしの旦那さん」
「は?」
ハニがレイを見やる。その眼差しは、冷ややかだ。
レイは身の危険を感じた。ここにラプソディがいなければ、勢いで殺されていた可能性は高い。
「……よろしく。おれは、レイだ」
「……ボクは、ハニ」
「……」
ラプソディが空を見上げる。
「あら。探索魔法が、敵襲を確認したわよ」
レイはハッとした。
戦いが始まる。