6話 討伐対象の『はぐれリザードマン』は、仲間外れにされたらしい。追放され経験のあるレイ、共感した。
リザードマンは、盗賊団と同じように、集団で行動する。単体の戦闘力は、並みの盗賊4人分だ。
ゆえに集団であるリザードマンの退治なら、Fランクのデュオが達成できるものではない。
ただし、今回は『はぐれリザードマン』。
集団から、なんらかの理由で離脱した者だ。
1体だけなので、さほど難易度は高くはない。それでも、リザードマンの戦闘力はバカにならない。デュオで挑むのなら、最低でもEランクは必要な敵だ。
そのクエストをレイに回したのは、ローラがレイを高く評価しているからである。
(いずれにせよ、ラプソディの一撃で終わりそうだが)
『はぐれリザードマン』は、ルレ村というところに、出没するそうだ。
被害は、たいしたことはない。たまに家畜を盗む程度。盗賊団〈斬〉とやらの被害のほうが、数百倍ではあった。
それでも、被害が出ていることに変わりはない。
冒険者ギルドに退治の依頼が行き、こうしてレイとラプソディに回されたのだ。
ルレ村は、王都から馬で45分の距離。クエストを受けて、さっそく2人は出発した。
村に到着したところで、まずは村長に挨拶する。村長は、歓迎してくれた。よほどリザードマンが恐ろしかったらしい。
村長によると、『はぐれリザードマン』は、3日に一度の周期で現れるそうだ。
「それで村長さん。次にリザードマンが現れると予測されるのは?」
「ちょうど、今夜になります」
「では、夜まで休ませてもらおうか」
村長は、自分の家で休むよう勧めて来た。しかし、レイは丁重に断った。宿を取ったほうが、気楽に休めるからだ。
宿の部屋に移動したとたん、ラプソディが頬を染めて、服を脱ぎだす。
「レイ。あたしと楽しいことするため、部屋を取ったのね」
レイは慌てて怒鳴った。
「クエスト中だぞ! 服を着ろ!」
夜まで時間を潰してから、レイとラプソディは静かに宿を出た。
レイは両手剣を装備。
ラプソディは、手ぶらだ。盗賊団〈斬〉を殲滅したときもそうだが、ラプソディは杖や魔術書を使わずとも、魔法を使うことができる。
ランクの低い魔導士だと、杖または魔術書の助けが必要だ。Aランクになると、ようやく手ぶらでも魔法を使えるようになる。ただ呪文詠唱は必要だ。
そこいくと、ラプソディは呪文詠唱さえも省略できる。
レイも、呪文詠唱の省略は話に聞いたことがあった。が、実際に見たのは、盗賊団殲滅のときが初めてだった。
家畜小屋の付近で待機する。ここを、『はぐれリザードマン』は狙うだろう。
今夜は月明りがないので、視界は最悪だ。
レイがその点を嘆くと、ラプソディが肩を叩いて、
「〈ウォッチ〉」
とたん、レイの視界は良好となった。まるで昼間のようだ。
「夜でも、よく見える魔法だな。ありがとう」
「人間は、夜目が利かないのよね。気づくのが遅くて、ごめんなさい」
やがて、一体のリザードマンが、夜陰に紛れて現れた。といっても、今のレイにはよく見えるわけだが。
『はぐれリザードマン』は、傷んだ剣を片手に持っている。武装したところで、ラプソディの敵ではないが。
「ラプソディ。あまり大がかりな魔法は使わないでくれよ」
「了解よ──殺していいの?」
「どうかな。家畜を盗んだりはしているが、村人を傷つけてはいないそうだ。生かして捕まえよう」
「レイは優しいのね」
「無用な殺傷は避けること。冒険者として、当然の判断だ」
瞬時に終わった。
ラプソディが選択したのは、〈ファイヤ・ボール〉。
盗賊団に対して使った〈ファイヤ・ブラスト〉の低級版だ。
〈ファイヤ・ブラスト〉は、Bランク以上の魔導士が使える魔法。一方、〈ファイヤ・ボール〉はEランク程度から使える魔法だ。
殺傷力は低いため、直撃したリザードマンも、五体満足で生きていた。ただし、激痛のあまり、のたうち回ったが。
ラプソディが嘆く。
「これ、歯ごたえがなさすぎよ」
レイは駆けていき、両手剣の切っ先を、リザードマンの首に向ける。
「抵抗するな。逮捕する」
リザードマンは観念した様子だ。
「まってくれ。情報提供者になる」
リザードマンも、ヒト型であるため、共通語を流暢に話すことができる。
「情報提供者だって?」
レイは、剣を下した。
「いいだろう。話を聞こう」
「オレは、群れから追放された身だ」
「……そうなのか。辛いな」
不覚にも、レイは共感を覚えた。
レイ自身、魔王城でパーティから追放されたからだ。
「その気持ち分かるぞ。少し、目が潤むよな?」
「いや、オレは潤まねぇが」
共感したからといって、このリザードマンを無条件で解放するつもりはない。だが、情報提供者になるというのなら、解放も考えても良い。
このリザードマンが、村人を傷つけていないのが良かった。さすがに村人を殺傷していたら、簡単に情報提供者にはできなかっただろう。
レイは厳しく言った。
「提供する情報によっては、自由にしてやる。もちろん、二度と村を襲わないことが条件だ」
「承知した」
「名前は?」
「リガロン」
「リガロン。どんな情報を提供してくれるんだ?」
「オレが群れを追放されたのには、訳がある。連中が計画していることに、オレが反対したからだ。オレも、犯罪行為はして来た。だがよ、超えちゃいけない一線というものは、あるだろ?」
「お前のいた群れは、なにを計画していたんだ?」
リガロンが答えた内容は、ショッキングなものだった。
「エルフの町を襲撃することだ。エルフの女子供を誘拐し、他国に売り飛ばすというものだ」
レイは、リガロンの言葉を信じた。
いま、このリザードマンは真実を話している。
「確かに、許されない計画だ。襲撃は、いつ行われるんだ?」
「戌の月の22日目の夜だ」
レイは愕然とした
「冗談だろ。今夜じゃないか」
それから、ラプソディを見やって、
「どうやら、次なるクエストだ。エルフの町を救えるのは、おれたちだけだ」
ラプソディは微笑んだ。
「今度は、リザードマンが集団で来るわけね。少しは、楽しめそうじゃない?」