48話 〈梟の庭〉壊滅戦②~支部をボコる。
クルニアは、人違いで〈梟の庭〉の暗殺者から攻撃を受けた。管理を任されていた豪邸を爆破されたのだ。そこで賠償金を請求することにした。
しかし、だ。相手は、暗殺組織だ。
冒険者ギルドのように、拠点が公表されているはずもない。
レイは尋ねた。
「どうやって、〈梟の庭〉と接触するんだ? 王都を拠点にしているという話だが──王都は、広いぞ」
ラプソディは、クルニアが殺した暗殺者の死体を、指さす。
「彼の記憶を読んだから、支部なら分かるわよ」
「支部?」
「ええ。〈梟の庭〉は8の支部と、1つの本部から成り立っているようね。本部が王都にあるのでしょう。クルニアちゃんの豪邸を爆破した暗殺者は──」
レイが、「ドリト辺境伯の豪邸だ」と訂正を入れる。
「とにかく、この暗殺者が所属していたのは、支部の一つなの。ただ、情報の分断が取られていたみたい。本部のある場所も、〈梟の庭〉を統べるボスのことも、この暗殺者は知らなかったわ」
クルニアが右手を上げる。
すると、どこからともなく戦闘槌が飛んで来た。右手で、戦闘槌の柄を掴む。
「では、姫殿下。この暗殺者のいた支部まで、連れて行っていただけますか?」
「いいわ。行きましょう、みんなで」
ラプソディのワープ魔法で、3人は移動した。
ワープ酔いが治まるのを待ってから、レイは周囲を見回した。
どこにでもある町の広場だ。変哲のない町民が歩き、荷車を引いた行商人などもいる。
「どこかの町だな」
「暗殺者の記憶によると、プルという町みたいね」
「プル町か……あ、思い出した。小さめの宿場町だ。王都から南東20キロの地点にある。こんな小規模な町に、〈梟の庭〉の拠点があるのか?」
「拠点といっても、支部だもの。それに意外性があったほうが、隠れるのには良いでしょ」
「確かに。で、ラプソディ。プル町のどこに支部があるかも、分かっているんだろ?」
プル町にある〈梟の庭〉支部が、いくら偽装していても無意味だ。
ラプソディは、支部に属する暗殺者の記憶を、読んでしまったのだから。
「こっちよ」
ラプソディが、レイとクルニアを連れて行ったのは、町役場の建物だった。
さすがにレイは驚いた。
「町役場が、支部なのか? つまり、偽の町役場ということか?」
「いいえ、町役場としても、本物みたいよ。どうやら、プルという町自体が、〈梟の庭〉支部の隠れ蓑として作られたみたい」
「そんな、バカな。……なら町民たちも、正体は暗殺者なのか?」
「町民の全員ではないわよ。そうね、だいたい3分の1の町民が、何らかの形で〈梟の庭〉に協力しているみたいよ」
レイは唖然とした。
宿場町そのものが、〈梟の庭〉の拠点にされていたとは。
それほどの秘密が、呆気なく明らかになった。
しかも、ラプソディとクルニアは、とくに驚いた様子もない。この程度では、魔族はビックリしないらしい。
レイは気を取り直して、聞いた。
「で、これからの作戦は?」
クルニアが指を鳴らした。
「殴りこむ」
「……はぁ? 話し合いは?」
「省略だ」
クルニアは、町役場のドアを蹴破った。そのまま、役場内に入っていく。
ラプソディが、楽しそうに微笑みながら、続こうとする。
「久しぶりに、やりたい放題できそうね」
レイは慌ててラプソディを止めた。
「やりたい放題しちゃダメだろ」
ラプソディは小首を傾げる。
「どうして? これは冒険者ギルドのクエストではないのよ」
「いや、しかしだな──あ、クルニア!」
レイは町役場の中を見て、愕然とした。
クルニアが職員の胸倉をつかんで、振り回しているではないか。
「貴様らのボスに会わせろ!」
「落ち着け、クルニア! その人が、〈梟の庭〉の一員とは限らないだろ!」
町民たちから通報があったらしく、町勤めの衛兵たちが駆けて来た。
「やめろ、賊ども!」
「賊とは失礼ね」
ラプソディが〈ファイヤ・ボール〉を放つ。
町レベルの衛兵では、〈ファイヤ・ボール〉でさえも防御できない。簡単に吹っ飛んで、伸びた。
「雑魚すぎるわ」
クルニアは、3人目の職員を振り回している。
「貴様らのボスはどこにいる?」
レイは頭を抱えた。
「もうムチャクチャだな。これじゃ本当に賊だぞ。ラプソディ、頼むから軌道修正してくれ」
「いいわ」
ラプソディが左手を高く突き上げる。
目をつむって、軽く首を傾げた。
「現在、プル町内にいるのは、665人。ここから、町民ではない者、つまり旅人などの部外者を排除すると、356人。その上で、ステータス検索をかけましょう。暗殺者なのだから、ステータスから選別できるでしょう」
レイは感嘆した。
ラプソディは今、このプル町にいる全員に、スキャン魔法をかけたのだ。
しかも、ステータス内容から、〈梟の庭〉に属する者を見つけようとしている。
「ふーん。出払っている者もいるから、思ったより少ないわね。64人か。たとえば、あなた」
ラプソディが指さしたのは、カウンターの近くで屈んでいる職員だ。中肉中背で、目立ったところのない男。今も、暴れているクルニアから隠れている様子だ、が。
ラプソディは、微笑みかけた。
「あなた、まずまずの使い手ね。プル町内では一番だわ。もしかして、ここの支部のトップかしらね?」
目立ったところのない男は、怯えた様子だ。
「な、何を仰っているのか分かりかねますが」
「では、死んでもいいわね?」
ラプソディが、〈ファイヤ・ボール〉を発射する。
目立ったところのない男は、片手を振るって、〈ファイヤ・ボール〉を弾いた。
レイは両手剣を引き抜いた。
「なるほど。いくら低級の攻撃魔法とはいえ、〈ファイヤ・ボール〉を素手で弾くとは。タダ者ではないな」
目立ったところのない男は、立ち上がった。雰囲気がガラリと変わる。
「仕方がない。そちらの言う通り、私が支部長を務めている、バレリだ」
会話を聞きつけ、クルニアがやって来る。
「貴様が、支部長か。賠償金を頂こうか」
バレリは迷惑そうに溜息をついた。
「勝手に暴れたあげく、賠償金を要求するとは。これだから、魔族は野蛮だというのだ」
レイはギョッとした。
クルニアが魔族であることを、見抜いているのか。だとしたら、ラプソディのことも?
クルニアは、戦闘槌を突き付ける。
「私の話を聞けば、貴様も申し訳なく思い、すぐに賠償金を用意したくなるだろう」
それからクルニアは、ドリト辺境伯の豪邸が爆破された件を、話した。
すなわち、人違いで、クルニアが攻撃されたことを。
「支部長なのだから、部下の尻拭いをするのは、当然だろう」
バレリは鋭い眼差しだ。
「それで、ヤンはどうなったのか?」
「ヤンだと?」
「ドリト辺境伯の邸宅を爆破した暗殺者だ。彼の名が、ヤンという。私の、弟だ」
レイは内心で呻いた。
あの暗殺者が、支部長の弟だったとは。
それを殺したというのだから、穏やかな話し合いとなるはずがない。
クルニアは通常の調子で答えた。
「私が、殺した。首の骨をへし折って」
バレリから殺気が放たれる。
「……私の弟を、無慈悲に殺したというのか?」
殺気が放たれていることは、クルニアも気づいているはずだが、余裕は崩れない。
「バレリといったか。貴様の弟は、人を暗殺しに来たのだ。ならば、反対に殺される覚悟もあったはずだ。それとも暗殺者とは、最低限の覚悟もない連中なのか?」
バレリは、懐から短剣を抜いた。ククリという短剣だ。
「なるほど。ならば、そちらもあるのだろうな、魔族よ? 殺される覚悟が?」
クルニアはニヤッと笑った。
「貴様ごときに、殺されるはずがあるまい」
「吠え面をかくなよ! 〈爆炎弾〉!」
短剣から、火炎弾が発射される。
その威力は、〈ファイヤ・ブラスト〉レベルだ。必殺技スキルだろう。
クルニアが、無造作に戦闘槌を振るう。簡単に〈爆炎弾〉を吹き飛ばした。
「この程度か?」
バレリが、独特の構えを取る。大がかりな必殺技スキルを放つつもりのようだ。
ラプソディが、レイの腕を取って、引き寄せる。
「ラプソディ?」
「レイの安全が第一よ」
ラプソディが、レイを守るようにして、魔法障壁を張った。
バレリが、短剣を虚空へと突き刺す。
「いくぞ、〈獅子の鬣〉!」
刹那、虚空が裂けた。
裂け目から白い閃光が、周囲へと放たれる。
役場内には逃げ遅れた職員が、何人もいた。白い閃光は、無差別に職員たちを切り裂いていく。
白い閃光は、刃レベルの切れ味のようだ。
複数の白い閃光が暴れ回り、そのうち幾つかは、ラプソディの魔法障壁にぶつかった。
一方、クルニアは突進し出す。
白い閃光を蹴散らしていき、バレリに肉薄。
「もう一度言うが、この程度か?〈破城槌〉!」
バレリの腹部へと、〈破城槌〉発動の戦闘槌を叩きつける。
「ぐあぁぁぁ!」
バレリの身体が吹き飛び、町役場の壁を粉砕して、外まで転がっていった。腹部が粉砕していることからして、絶命したようだ。白い閃光も消える。
クルニアはといえば、無傷だ。白い閃光の刃では、かすり傷一つ負わなかったようだ。
レイは思った。
(クルニアの防御力は、竜人オル並みか、それ以上じゃないか?)
ラプソディは、町役場の外へと視線を向ける。
「あら。この町にいる暗殺者たちが、皆さん、向かって来るわよ」
クルニアが答える。
「迎撃しましょう、姫殿下」
「もちろんよ」
レイは呻いた。
「こんなところで戦争か」




