表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/186

2話 結婚式を挙げ、初夜イベントがある。


「改めて聞くが、君は魔王の娘なのだな」


 レイは、なぜ自分はまだ生かされているのか、と疑問に思う。パーティの居所を吐かせるためだろうか。


(アイツらのために、拷問に耐えるつもりはないが──)


 しかし、パーティにはルーシーがいる。彼女のことは守りたい。

 一方、レイに圧し掛かっている魔王の娘。そこから退いて立ち上がり、興味深そうにレイを見つめる。


「あんた、どうしてこんなところに1人で? さては、パーティに見捨てられたのね」


 レイは顔に出たらしい。


「ふふん。図星なのね。気の毒に」


「同情は必要ない。殺すなら、殺してくれ」


 レイが開き直ってそう言うと、魔王の娘は名乗った。


「あたしの名は、ラプソディ。あんたは?」


「……レイだ。職業は戦士」


「戦士? 強いの?」


「一撃必殺の力はある」


「スキャン魔法で、あんたのステータスを開示してみるわ」


 魔王の娘ともなれば、スキャン魔法など楽勝らしい。呪文詠唱を省略して、発動した。


「ふーん。あんた、攻撃力に偏りすぎ」


「ほかに道はなかった」


 苦々しく答えるレイ。才能があれば、満遍なく数値を上げていただろう。攻撃力だけを特化させることはなく、だ。

 だが、レイには才能がなかった。


 才能によって、経験値の獲得数値が変わる。才能が低ければ、獲得できる経験値も極端に下がるのだ。そうなると、何か一つに絞るしかなかった。防御力よりかは、職業からして攻撃力だろう。

 その結果、魔王城の攻略パーティに選ばれるまでになったのだ。

 Fランクでこれは、快挙だ。

 最後には見捨てられたが。


 レイの考えを読んだかのように、ラプソディは言う。


「あたしは、レイみたいに不器用な人間、嫌いじゃないわよ。というか好き」


 レイは苦笑した。


「君に好かれてもなぁ」


「なぜ?」


 レイは一驚した。


「なぜ、とは、なんだ?」


「人間と魔族で、種族が違うから、好かれても仕方ない?」


「まぁ、その通りだ」


「あたし、そういう考えは好きじゃないわ。ふむ、決めた」


 レイは座ったまま、ラプソディを眺める。ここでラプソディに、不意打ちをする選択肢はある。

 だが、いくら魔王の娘が相手でも、敵意のない者は攻撃できない。


「何を決めたんだ?」


 ラプソディは満面の笑み。

 

「結婚するわよ」


「そうか、おめでとう。魔王の娘が結婚するのだから、相手は魔族の貴族とかか?」


「何を言っているのよ。レイとに決まっているでしょ」


 レイの脳は、しばしフリーズした。


「な、なんでそうなった!」


「簡単に言えば、一目惚れよ」


 レイは、何かの冗談だろう、と思った。

 結婚とは、会って数分でするものではない。ましてや魔王の娘の相手が、Fランク冒険者などということが、あるはずがない。

 しかし、レイはもっと『魔王の娘』という意味を、深く追及するべきだった。つまり、魔族なのだから、人間とは常識が異なるだろう、ということを。


 10分後、レイは魔王の間にいた。

 魔王城の最上階にて、終着点だ。

 通常ならレイのいた地点から、まだ50時間はかかる距離にある。が、そこは魔王の娘だ。ワープ魔法を使って、あっというまに移動だ。


 魔王を眼前とするレイ。

 魔王は、身の丈が5メートルあり、凄まじい魔力を放射している。殺される、とレイは思った。

 ところが魔王は、ラプソディの話を聞き、喜んだ。

 ここのところの思考回路が、レイには理解できない。


「おお。わしの可愛い娘が嫁ぐときが、ついに来たか。めでたいのう」


 レイが唖然としているうちに、結婚式のため祭司が呼ばれた。

 ちなみに、この祭司は邪神官ハーンだ。

 通常なら、魔王へと至るルートの途上にいる。魔王の次に強力な魔族である。言うなれば、中ボス格。

 だが、いまはただの祭司役だ。


 ラプソディの友人たちが招待客として、ワープ魔法で次々と現れる。

 ここにきて、魔王が心配そうに言う。


「ラプソディよ。レイ君にも、結婚式に招待したい人がおるのではないか?」


「そこまでは考えていなかったわ」


 ラプソディは申し訳なさそうに、レイに尋ねる。


「ご両親とか、呼びたいわよね? いま、配下に迎えに行かせるわ」


 レイは慌てて断った。

 レイの両親は、田舎で農場を営んでいる。魔族が来て、『あなたの長男が魔王の娘と結婚しますので、式にご出席ください』と言われたら、卒倒してしまうだろう。


 こうして、結婚式は始まった。

 レイが呆然としているうちに、粛々と式は進んでいく。ついに結婚の誓いを、言うときが来た。教えられた通りに、レイは口にした。こうなれば自棄である。


「世界が滅びようとも、私は妻を愛し続けると誓います」


 祭司が、「では誓いのキスを」と続ける。


「は?」


「キスするのよ、レイ」


 ラプソディにリードされて、レイはキスした。甘い味がする。頭がボーとした。


(これは、何かの、夢に、違いない……)


 その夜。レイは、魔王城の客室にいた。

 一人ベッドで仰向けになりながら、ルーシーは無事だろうか、と考える。

 ルーシーを傷つけぬよう、魔王に頼もうかとさえ思った。だが、冒険者が魔王にお願いするというのは、いかがなものか。たとえ、義理の父であっても、だ。


(……魔王が、義父、かよ)


 扉にノックがあった。

 レイが「どうぞ」と言うと、ラプソディが入って来た。

 一糸も纏わぬ姿で。

 透けるような白い肌、豊かな胸、その先端の桜色。


「うわぁ! ラプソディ、服を、どうした!」


「服なんて、どうせ脱ぐのだから、着て来なかったわ」


「意味が、わからないんだが!」


 気づけば、レイはラプソディに押し倒されていた。圧倒的な敏捷性と力である。レイは抵抗しなかった。この状況で、抵抗できる男子はいまい。


 ラプソディは頬を染めて言う。


「初夜イベントに決まっているでしょ。それとも、レイは、あたしとじゃ嫌?」


「……もちろん、嫌じゃないが」


「実を言うと、あたし、初めてなの」


「……そうなのか」


「レイは?」


「……おれもだ」


「では、手探りで始めましょう。まずは」


 ラプソディが顔を近づけてきて、2人は接吻した。


※※※※


 翌朝。馬に乗ったレイは、魔王城を出立した。我が家に帰るためだ。

 てっきり魔王城で軟禁されるものと思ったが、帰宅を許されたのだ。


(ラプソディとは、さっそく別居ということになるのか。そもそも、おれは本当に、魔王の娘と結婚したのか? いまだに信じられない。昨夜のことは──死ぬまで覚えていることだろう)


 そんなことをレイが考えていると、後ろから馬蹄の音がした。

 振り返ると、騎乗したラプソディが追って来る。


「酷いわよ、レイ。先に出発するなんて」


「……一緒に来るのか? 人間の国に?」


 ラプソディは小首を傾げる。


「当たり前でしょ。あたしたち、夫婦なのよ」


 別居ではなかったらしい。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ